2017年06月25日

ドライブレコーダー




夕食を摂り終えると、夫の省吾さんはそそくさと書斎へ移動していった。
ひとりで読みたい本でもあるのかしら? それとも、パソコンで調べもの?
まさかいやらしいものでも眺めているのかしら?
ちょっと気になったので、そっとドアの陰からのぞいてみたら、パソコンの前に座ってモニターを楽しそうに眺めている。
時折うふふふと気持ち悪い笑い声を漏らして。あ、でも、見るからに楽しそうだけど、鼻の下を伸ばしてはいないみたいだから、ただの面白動画でも観ているだけかしら?
そっとドアを閉じようとしたら、
「えっ! 亜里沙、その男は一体・・・・・・ 手なんかつないで、どういう・・・・・・」
えっと、どういうことかしら? 私たちの娘の亜里沙はさっきお風呂から上がって二階の自室へあがっていったばかりなのだけど・・・・・・
省吾さんはパソコンのモニターに齧りつかんばかりの前のめりな姿勢で顔色を青ざめさせている。
「亜里沙、亜里沙、離れるんだ。そんな、そんなにくっつくんじゃない!」
えっと、これって、もしかして・・・・・・父親が娘の部屋に隠しカメラを設置して眺めているとか? 変態ッ
変な想像をして、身震い。と、とにかく、省吾さんがなにを見て興奮しているのか確かめなくっちゃ。
「亜里沙、亜里沙。ば、バカ。それ以上はダメだ。離れなさいっ! 亜里沙!」
足音を忍ばせて、気づかれないように省吾さんの背後に回って肩越しに画面をのぞいてみると、そこには娘の亜里沙が映っていた。でも、それは決して室内の様子ではなく、屋外の雰囲気。しかも、見覚えがある。そう、これは我が家の前。ガレージから見た景色。たぶん、今から三時間ほど前の夕方。亜里沙が塾から帰ってきたころだろう。
それはガレージにある車に昨日取り付けたばかりのドライブレコーダーが撮影していた映像だった。
亜里沙が同年代の男の子と手をつなぎ、寄り添い、今まさに抱き合わんと・・・・・・
「あら、あの子の相手って武藤さんのところのコウちゃんだったの」
突然、私が声を上げたものだから、省吾さん、目を真ん丸にして私のことを振り返るのだった。


「武藤? 角のか」
「ええ、そこの弟くんの方」
「・・・・・・」
画面の中、亜里沙はコウちゃんとピッタリくっついている。
「亜里沙。ああ。なんてことだ」
省吾さんは大げさに絶望的な悲鳴を上げた。
「もう、大げさね」
「し、しかし、君。亜里沙は、まだ子供なんだぞ」
「もう、あなたったら。あの子だってとっくにお年頃なんだから」
「けどなぁ」
画面の中で、二人は抱き合い、寄り添い合い、そして、お互いを見つめあう。ふと、亜里沙が目を閉じ、くいとあごを上げた。
じりじりとぎこちなく顔と顔が近づき・・・・・・
「だ、だめだ! 亜里沙、そんな。まだ早い!」
ゼロ距離になるにはまだたっぷりと時間が残っているころに、不意に二人が離れた。今のことがなかったかのように装ってさえいる。
すぐに第三の人物が画面の中を通り過ぎていく。
犬のリードをつかんだ近所の梅田さんの奥さん。
『あら、あら、あら・・・・・・』
今この場所でなにが行われようとしていたのか承知していて微笑みを二人に向けて通り過ぎていった。
「あら、あら、あら・・・・・・」
「グッジョブだ。梅田さん」


やがて、梅田さんの奥さんは画面から退場し、再び、画面の中は二人だけになった。
すぐに、さっきのように二人は抱き合い、愛おしそうにお互いを見つめあい、そして、自然と唇が相手を求めるように・・・・・・
「ダメだ。いけない! 離れなさい! そんな、離れろって言ってるだろ!」
省吾さんは必死に画面に呼びかけるのだが、もちろん、その声が画面の中の若い恋人たちに届くはずもなく。
一センチ、一ミリと二人は不器用に距離を縮め。そして、あと数ミリ。
「ぐあぁぁぁ〜〜〜〜!」
見つめている省吾さんは頭を抱えて絶叫しはじめちゃうし。もう、この人ったら、本当にバカなんだから。
私は省吾さんの頬を両手で挟んで、無理やり私の方へ向けた。画面の中では二人の距離はすでにゼロ。そして、私たちの間でも。
「な、なにするんだ」
「あら、私じゃご不満かしら?」
「い、いや、そんなことは、全然」
「そう、なら構わないわよね」
では、お言葉に甘えてもう一度。
画面の方では、顔を真っ赤にして亜里沙たちが初々しくはにかんでいた。
――ふふふ、私たちも初めてのときはああだったのかしら。
チラリと横目で眺めていたのだけど、なぜか別の方角から視線を感じるような。
そちらに目だけを動かしてみると、半開きのドアから、激しく瞬きを繰り返しながら、画面の中と同じ顔の少女が私たちを見つめていた。
「お、お邪魔しました。あとは、お二人でごゆっくり」
錆びついた機械みたいな動作でひっこんでいった。



それからも、省吾さん毎晩のように書斎にこもって発狂しちゃうし、そのたびに私が落ち着かせなきゃいけなくて・・・・・・
「あの子は大きくなったらパパのお嫁さんになるって言っていたのに、なんでこんな男なんかと・・・・・・」
「はいはい。もう、あの子は私たちの娘なのだから、そんなにヘンな男を選んだりはしないわよ」
「し、しかしね」
「それとも、省吾さんは私を選んだことを後悔してるの?」
「えっ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ちょっと、なんでそこで無言になっちゃうのよ」
「だってなぁ、俺、誰かの中から君を選んだってわけじゃないしな」
「・・・・・・?」
「ある日、突然、目の前に女の子が現れて、俺の全部を根こそぎもっていっちゃったからなぁ。誰かを選ぶ以前にその子一人しか見えなくなってた」
もう、真面目な顔してそんなこと言うんだから。バカ。
たぶん、きっと武藤さんのところのコウちゃんも同じなのかもしれないわね。だって、画面の中では、初めて会ったころの省吾さんとそっくりに瞳を輝かしているのだもの。
きっと、亜里沙も幸せになれるわね。
「ぎゃぁ〜〜〜〜! 離れろ! 離れるんだ! それ以上くっつくんじゃない!」
書斎からは今晩も省吾さんの絶叫が響いてきた。
そろそろ私の出番のようね。


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2017年06月18日

初夏の日は遅く暮れ




「お父さん、聞いてください。最近、あの子ったら・・・・・・」
ひさしぶりに我が家に現れたと思ったら、さっそく息子の嫁の珠代さんが孫のことで愚痴り始めた。
「近所の子と一緒になって毎日遅くまで外をほっつき歩いてるんですよ。それなのに、あの人ったら、全然叱ってもくれなくて・・・・・・」



六月になると、日が暮れる時間が遅くなり、七時を過ぎたというのに、まだ駅前は明るい。
車よりも人の方が大勢行き交うロータリーを足早に渡り、自宅のある住宅街へとつづく通りへ足を向ける。
コンビニの前を過ぎ、こじんまりとした商店街の中を歩き、角を曲がって左右に何かの畑を眺めながら進むと、ほどなく点々と明かりがともり始めた家々が見えてくる。私の自宅のある住宅街だ。
ホッと一息をつき、歩を進めると、小さな公園の前を通りがかった。
――パンパンパン。
公園からボールの弾む音が聞こえてくる。どこかの子供が遊んでいるのか?
そちらに目をやると、バスケットのゴールの下で向かい合った二つの影がボールを奪い合っている。不意に、その一つが動いた。ボールをもっている方。
不器用にドリブルをしながら、体の向きを反転させ、さらにもう一度反転。フェイントをかけて抜き去ろうというのだろう。だが、まだまだボールの制御はうまくはなく、ボールはその子供の手を離れ、あさっての方向へコロコロと転がっていくのだった。
ちょうどボールが私の方へ転がってきた。そのボールを追いかけて少年が一人かけてくる。
見覚えある姿。というよりも、
「こらっ、マサル! なにしてんだ、こんな遅い時間まで!」
その少年は私の息子のマサルだった。
「あ、お父さん!」
腕時計を確認する。すでに七時を回っている。子供が外で遊んでいていい時間はとっくに過ぎている。
息子は、ボールを小脇に抱えると、バツの悪そうな表情を浮かべて私の顔を見上げていた。
「帰りなさい。もう子供は家にいなきゃいけない時間だぞ!」
厳しい声でしかると、口ごもりながらも謝罪の言葉を口にした。
「ごめんなさい」


「家の人が心配しているだろう。君も帰りなさい」
息子と一緒に1on1をしていた少年に声をかけると、
「はい、わかりました」
物わかりのいい子なのか、素直に帰り支度を始める。
「じゃ、俊文くん、明日学校でね」
「ああ、学校で」
息子が手をふると、俊文くんも手を振り返してきた。
そうして、息子は私の隣に並んで家路をたどりはじめるのだった。
「だめじゃないか。こんな遅い時間まで。お母さんが心配してるだろう?」
「うん。ごめんなさい」
「友達と一緒に遊ぶのが楽しくて、ついつい時間を忘れるのは仕方ないが、この時期は日が暮れるのが遅いから、まだ明るいうちに切り上げなくちゃだめだぞ」
「分かった」
息子は素直にそう言い、首を縦に振るのだった。
だけど、その翌日。やっぱり帰り道、夕暮れの中自宅へ歩いていると、公園の方からボールをつく音が聞こえてきた。
昨日の今日でまさかとは思ったのだが、やはりそのまさかだった。


うちの息子はバカなんだろうか?
一昨日、きつく叱ったというのに昨日の夕方も妻が探しにいくまで家に帰ってこなかったという。
もっと小さいころには聞き分けがよくて、一度言い聞かせたことは、素直に従ったというのに・・・・・・
どうして、こんな子に育ってしまったのか。
「はぁ〜」
朝、列に並んで電車を待っていると、無意識のうちにため息がでていた。
「あの、もしかして大西さんですか?」
「えっ?」
知らないサラリーマンの男性が話しかけてきている。
「あ、私、川田っていいます。と言っても分かりませんよね。実は、お宅のマサルくんと友達付き合いさせていただいている俊文の父なんです」
俊文と言えば、このところ息子と遅くまで遊んでいる相手のことだ。
「いつもいつも、息子がご迷惑をおかけしているみたいで、もうしわけございません」
私が文句を言い出す前に、その川田氏、深々と頭を下げた。
「ちょ、頭を上げてください。そんな、こんなところで」
「あ、いえ、あ、そうですよね。すみません」
一緒に列に並んでいる人たちの注目の的になっていることに、今さら気が付いた川田氏だった。
はぁ〜 ここの親子はそろいもそろって・・・・・・


ようやくホームにやってきた電車に並んで乗りこみ、会社のある終点まで川田氏の話に耳を傾ける。
最近、奥さんが入院してしまったこと。だからといって自分が早く家に帰れるわけじゃないこと。そのせいで、一人っ子の俊文くんは日が暮れて遅い時間になってもずっと一人でいなきゃいけないこと。
そして、最近、川田家の事情を知ったうちの息子が遅くまで俊文くんに付き合って一緒にいてくれるみたいだってことも。
「本当に、感謝の言葉もないです。マサルくんは優しいお子さんですね。ありがとうございます」
川田氏は別れ際に、何度も振り返ってはそのたびに私に頭を下げるのだった。


その日の帰り、バケットボールのゴールのある例の公園の前を通りかかると、今日もまたボールをつく音が聞こえてきた。
ふっと息をつく。
進む針路を変え、公園の中へ足を踏み入れる。ベンチにカバンとスーツの上着を置き、ネクタイを緩め、カッターの袖のボタンを外す。
ボールをつくなんて、何十年ぶりだ? 高校のときに体育の授業でやって以来か。
息子たちは突然闖入してきた私のことを唖然とした顔で見上げている。
そんな二つの顔を眺めていたら、勝手に笑みが浮かび、楽しい笑いが口からこぼれた。
「いくぞっ! 二人で止めて見せろっ!」



珠代さんが一通り愚痴をこぼして帰ってから、一週間ほどして今度は電話があった。
孫の壮太をたいそう自慢する内容だった。
壮太が遅くまで遊んでいたのは、弟の出産でお母さんが入院した友達と一緒にいてあげるためだったという。
先日、その友達のお母さんが訪ねてきて、壮太のことをべた褒めしてくれたと、とてもうれしそうに誇らしげに弾む声が受話器の向こうから聞こえてきた。
『本当にやさしいいい子だわ』
珠代さんには見せることはできないが、私の顔にも笑みが広がっていた。
もう息子のマサルとボールを追いかけまわすなんて体力的にできやしないが、それでも、あの日に負けないぐらいのどこまでもほがらかで、楽しい笑い声があふれた。


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2017年06月11日

やさしく大きな人




昇降口で靴を履き替え、玄関ロビーに立ったところで気が付いた。いつの間にか雨が降り出している。
朝はカラッと晴れていて、雲一つない青空が広がっていたというのに、今は薄暗くキラキラの糸がいくつも天地をつないでいる。
「あちゃぁ 降ってきやがった。トオル、傘入れて」
私のすぐそばで同じクラスの山内たちが騒いでいる。あっちも部活が終わって、今帰りなのだろう。
チラリとそちらに視線をやって、吉井くんが今まさに傘を開こうとしているのを確認した。
――そうよね、朝の天気予報では午後から雨の予報がでていたんだもの。
予想してたから、全然ショックじゃなかった。
そもそも仮に吉井くんが傘を忘れてたとしても、私の傘に入れてなんて言ってくるはずもないしね。
自分でもバカみたいって思うような妄想を苦笑しながら引っ込めつつ、カバンの底に忍ばせていた折り畳みを開いた。


「おっ、ちょうどいいところに小野がいるじゃん。小野ちゃん、コンビニまで入れて」
校舎の外へ足を踏み出そうとした私の隣へ強引に入ってきたデカい人は同じクラスの東くん。
戸惑って返事できずにいるうちに、私の手から折り畳みを奪って二人の間に差す。
「えへへへ。相合傘だね」
「ちょっ、ヘンなこと言うのやめてよ。コンビニまでだからね」
チラリと背後に視線を向けたら、吉井くんの傘の下に男子たちが三人肩を寄せ合っていた。
「さすがに、四人は無理っしょ」
私の視線に気が付いたのか、東くんは肩をすくめている。
「そうね」
「コンビニついたら、俺らビニール傘買うからさ」
「うん。わかった」
いつもの大股な歩調ではなく、私の小さな歩幅に合わせるように隣を歩いてく。
教室でもときどき感じるけど、きっと優しくて気の回る人なんだろうな。このユキが夢中になってる人って。
あらためて、そのいかつくて武骨な顔立ちを眺め、そっと微笑んだ。


校門を出て、大通りへ向かって右へ歩いていくと、交差点の角にコンビニがある。
私たち五人は二本の傘を差しながらコンビニの駐車場を横切った。
――ピンポーン
エコーを残しながら入店のチャイムが鳴る。間髪入れず『いらっしゃいませ』
行き帰りにうちの生徒たちが大勢立ち寄るコンビニエンスストア。アルバイトしているのも、うちの生徒なのだろう。校舎の中で何度も見かけたことがある気がするし。
「よっ、倉本」
「ああ、東か。いらっしゃ、い?」
「こいつ、三組の倉本。俺のダチな」
「えっと、もしかして、その子がこないだ言ってた気になるって子か?」
「えっ?」
私のとなりで虚をつかれたような顔をしていた東くん、急激に顔を赤く染めた。
「違う違う。この子はただのクラスメイト。あれは別の子だ」
「ああ、なんだそうか。一緒に入ってきたからカノジョかと思ったぜ」
「ちげぇよ。あの子にはまだコクってもねぇ 急に雨降ってきたから、この子はここまで傘に入れてくれてただけだ」
そうして、ごめんねと小さくささやいてから離れていった。


コンビニに来てもすることがないので、雑誌コーナーでファッション誌をチェック。その間に、東くんたちはそれぞれにビニール傘を手に取ったり、冷凍庫のアイスを物色したりしてた。
雑誌の陰からそれとなく眺めていたら、吉井くんはそんな東くんたちをニコニコ眺めながら、コーヒーを買って隅で飲んでいる。
うん、暖かい人柄がにじみ出ているっていうか、大人って感じ。他のガサツな男子たちとは一味も二味も違う存在感を醸し出している。目が離せない。でも、これ以上見つめてたら、ヘンに思われちゃうかもしれない。
そっと諦めの息を吐き出しながら、開いているページに視線を戻しかけたのだけど、どういうわけか、さっきまで冷凍庫の中を覗いていたはずの東くんと目が合ってしまった。
なぜか目元を綻ばせていた。


「小野ちゃん、そろそろ帰ろうぜ」
東くんがコンビニの入口で私の方に大声をかけてくれる。
男子たちにまじって下校する。なんで私がそんな恥ずかしいことしなきゃいけないのって返事をためらっていたら、大きなガタイを私のところまで運んできて、無理やり私の手首を引っ張ってくるわけで。
「ちょっと、痛いわよ」
「あっ、わりぃ。けど、一緒に帰ろうぜ」
――はぁ〜 もう、強引なんだから。いいわ。そんなに言うなら、一緒に帰ってあげるわ。今回だけ特別よ。
心の中でそうつぶやいてみるのだけど、それでもやっぱりあの吉井くんと一緒に並んで帰れるチャンスだって思ったら、浮き立つような気分を感じないわけもなく。
――仕方ないわね。まったく。
入るときに突っ込んでおいた傘立てに手を伸ばして私の折り畳みを探そうとしたら。
――あれ? ない。
傘立てには一本も傘が残っていなかった。
だれか持って行っちゃったのかしら? でも、私たちが入店してから、だれもお客さんたちは来なかったはず。なのに、なんで?
それに、今、東くんが握っているのって・・・・・・
「行こうぜ。トオル、今度は小野ちゃん入れたってよ」
私たちの返事も聞かずにさっさと背をむけて大股に歩み出す大きな体の人がいた。
女物の小さな折り畳み傘を差して、足元が濡れるのも構わずに鼻歌なんかをハミングしながら先を歩いて行く。
他の男子たちも、私たちに手を振ってから、それぞれに買ったばかりのビニール傘を差して、その後ろをついていく。


「小野さんも、行こう」
すぐそばから優しい声と笑顔が私に向けられていた。そのまぶしいような笑顔を見上げてたら、はにかみながら『ウン』と小さく返事をするしかないわけで。
頬が熱い。吉井くんが近い・・・・・・
小さく小さく口の中でつぶやいていた。
――ありがとう。
だれに、ともなく。


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