2017年01月01日

今年最初の人




去年も一昨年も祖母の家に年末から一家で来てた。
毎年、元旦に目が覚めると、番犬のゴローにエサあげるついでにいつもよりも分厚い新聞の束を新聞受けから取り出して、家の中へ運ぶのが私の一年で最初の仕事だった。
そしたら、去年も一昨年も家の前を通りかかる人がいて、その人が私にとって家族以外で一番最初に新年の挨拶を交わす人だった。
同じ人。男の人。たぶん、私よりも一つか二つ年上。祖母の近所に住む人だ。
もし、その人が今年も最初に新年の挨拶を交わす人だったら、それってもしかして・・・・・・
ううん。絶対、それって運命だよね?
私たちは運命の糸でつながっているってことだよね?
なに色かはまだわからないけど、ひょっとしたら赤い色かな?
そんな淡い期待とわくわく感と一緒に、この年末も祖母の家に来た。


去年の紅白の途中でお風呂に入って、コタツでミカンをむきながらゆく年くる年をボーっと眺めて、そして、いつものように家族に『あけましておめでとうございます』って言葉を交わした。
それから、寝室へ移動して寝た。いつもとは違う枕の感触になかなか寝付けなかったけど、気が付いたら朝の光の中でよだれで濡らした痕が枕についていた。
――よく寝た。
伸びを一つして、布団からゴソゴソと抜け出す。
台所からはお母さんたちが用意しているお雑煮の匂いが漂い、コタツのある居間からはテレビのにぎやかな音が聞こえてくる。
着替えて、居間に入って、コタツに足をつっこんで、つけっぱなしのテレビを大した興味もなく眺めていた。
お雑煮を食べ終わって、台所まで食器を運んでいる間に、もうすでに私の心臓はドキドキしている。もうすぐだ。もうすぐ私の運命が決まるのだから。
玄関で深呼吸を一つ。
ドアのすりガラス越しの朝の光がまぶしい。この後、このドアを開けると、そこにはなにが待っているの?
私の運命は?
一度目をとじて、『よしッ!』って気合を入れながら目を開いた。


玄関の外へでると、ゴローが首を上げて、私の方を眺めてくる。キラキラ光る眼をして、私の一挙手一投足を見守る。エサを期待してる。でも、今の私はそんな場合じゃなくて。
鼓動を速めながら、門の方へ歩いて行く。門扉にくくり付けられている青い新聞受けがパンパンに膨らんでいるのが見える。
その門扉に手をかけて、甲高い金属音を立てながら開き、ずっしりとした新聞の束を取り出して、腕に抱え、左右を見回した。
すぐ近くに犬の散歩をしている女の人がいるぐらいで、他には誰の姿も見えない。
「はぁ〜」
盛大にため込んでいた息がこぼれ出てしまった。
運命なんてなかったんだ・・・・・・
そんな都合のいい話なんてないわよね。これが現実よね。
当たり前のことに今さら気が付いて、苦い笑みがこぼれるしかなかった。


元日の新聞を玄関の中へ運び込み、ゴローのエサの袋を抱えてまた玄関の外へもどった。
それから、空っぽのエサ皿を外の水道で洗い、飲み水を入れ替え、新しいエサを皿に盛ってあげる。
ゴローはとっくに皿の前に陣取って、行儀よく座っている。
「うん。いい子だね」
ゴローの頭をなでてあげたら、すこし迷惑そうな顔をしていたけど、それでも、私が『よし』って言うまでエサを食べるのを根気よく我慢していた。
ふと、人声がしたような気がして、エサ皿に顔を突っ込んでいるゴローのそばから離れて門のところから通りに顔をのぞかせる。
いたっ!
通りのすこし離れた場所であの人が犬の散歩をしている女の人と挨拶を交わしている。新年の挨拶。
――ああ、やっぱり運命なんかじゃないんだ。
ちょっと残念なような、ホッとしたような。でも、一年で最初に家族以外で挨拶を交わす人が運命の人だなんて、そんなこと思い込んじゃってたなんて、私ってバカみたい。
考えたら笑っちゃう。乙女チックすぎ。
苦笑しながら、後ずさり、ゴローのそばまで戻ってきた。それから、夢中になってエサをむさぼっているゴローの隣にしゃがんで背中をなでてあげた。


「おはようございます」
不意に声をかけられたのでふりかえったら、門扉の上からあの人が顔をのぞかせて私に笑いかけていた。
「あっ、お、おはようございます」
って、違うか。改めて丁寧に言い直す。
「あけまして、おめでとうございます」
「おめでとうございます」
あの人も礼儀正しく返事をしてくれる。そしたら、
「ああ、そういえば、去年も一昨年も君とここでこうやって新年の挨拶したよね」
ああ、覚えていてくれたんだ。ちょっとうれしくなった。それが声にでないように気を付けて返事をした。
「ええ。覚えてますよ」
「そっか。やっぱり。実は、去年も一昨年も、俺、家族以外で一番最初に『あけましておめでとうございます』って言ったの、君なんだよな」
「そ、そうなんですか・・・・・・」
私もそうだったけど、でも、今年はそうじゃないんですよね?
心の中でそう突っ込んでいたら、目をきらめかせて、私に告げるのだった。
「やっぱり、今年も君が最初の人だったね」「えっ?」
「家族以外で新年の挨拶を交わした人」
「・・・・・・」
私がさっき見てたの気が付いてないんだ。
でも、堂々とそんなウソを言うなんて、ちょっと笑ってしまった。ついつい顔がほころんでしまう。
「私もそうです」
私がそう告げたら、とたんにその人も笑顔になった。
「そっか。そうなんだ」
すごくうれしそう。心の底から喜んでいるみたい。だから、もう、さっき見てましたよって言えなくなっちゃった。もともと言うつもりもなかったのだけどね。
「あっ、俺、そこの角曲がった先の今村貴也って言います」
「私は白井紗枝です」
「よろしく」「よろしく」
貴也さんか。嘘つきだけど、笑顔は素敵かもしれない。私の笑顔も気に入ってくれるといいな。だから、精一杯、満面に笑みをたたえた。
ハッ、私って、なんてこと考えてるんだろう。この人は運命の人なんかじゃないはずなのに。


「あっ、しまった。そういや、さっき、俺、そこで佐伯さんと新年の挨拶交わしたんだった」
一通り微笑みを交わしていたら、突然、貴也さん、素っ頓狂な声を上げた。
佐伯さん。そう、さっき犬の散歩をしていた女の人のことだ。
貴也さん、眉根を寄せて、盛んに首をひねる。それから、なにか思いついたのか、両手をポンと合わせた。
「いや、あの人なら大丈夫か。俺のばあちゃんの妹の旦那さんの甥御さんのお嫁さんだし。うん。うん。それって、十分身内だよね? 親戚圏内だよね?」
ひとりウンウンうなずいて、納得しているし。
でも、それは十分、他人だとは思うけど、きっと貴也さんの中では親族のうちなんだろう。
「だから、佐伯さんはノーカンだよね。だから、君が今年も家族以外で最初に新年の挨拶を交わした人でいいんだよね」
真剣な顔でそんな確認を迫ってきたから、耐えきれなくなって、笑い声を上げてしまった。
「うん。きっとそれは親戚に違いないわ。ふふふ」


その後、近所の神社まで初詣でにこれから向かうという貴也さんに手を振って、私は家の中へ引き返した。
貴也さんにとって、私はこの三年間家族以外で最初に新年の挨拶を交わしあった人って位置づけみたい。たぶん、きっと貴也さんにとっての運命の人。そう思っていてくれるといいなって願望も込みだけど。でも、
どうしよう、私、さっき新聞をとりに出たときに、すぐ近くにいた佐伯のおばさんと目が合ってしまって・・・・・・
直後に大声を上げながら、祖母の部屋に飛び込むのだった。
「大変。おばあちゃん、三軒隣の佐伯のおばさんとこの家って親戚関係とかないの?」


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短編・ショートショート 目次(2017)

これは、2017年分の短編・ショートショートの目次ページです。

◎2016年の目次――――短編・ショートショート 目次(2016)
□総合目次――――総合目次

「ウルフボーイ」の提供開始について 2017/03/26 ぴかぴか(新しい)NEWぴかぴか(新しい)
桜シャツ 2017/03/19
だれからもらったの? 2017/03/12
最後のメッセージ 2017/03/05
ファンファーレ 2017/02/26
雛飾り 2017/02/19
カラオケ店 2017/02/12
千鶴の恩返し 2017/02/05
オニを払う 2017/01/29
君に伝える言葉 2017/01/22
ヤスケ 2017/01/15
ホコリをかぶったガラケー 2017/01/08
今年最初の人 2017/01/01


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2016年12月25日

アイ・ハブ・ア・ペン




今年最後の取引先との打ち合わせから帰ってきたら、机の上にメモが置いてあった。
『みんな会議室Bにいます』
たしかにいつもの席には同僚たちの姿は見えない。だから、私も会議室の方へ顔を出してみることにした。


――コン、コン
ノックする。すぐに野太い声が返ってきた。係長の声だ。
『どうぞ』
「失礼します」
だが、開けたドアの真向かいに立っていたのは、パンチパーマのかつら、ピカピカひかる金色の派手な服、悪趣味なヒョウ柄マフラー、そして、パッとしない口髭の男だった。
この秋から急に人気が出てきたあの芸人さんにそっくりな格好をしていたのは後輩の高田くんだ。
高田くん、ペンを取り上げると、
――ピピピピピピ・・・・・・
例の音階を次第に下げていくオープニングのメロディーが流れだした。
いつまでも頭にこびりつくような単純なメロディ。一度、耳にすれば即座に覚えてしまえる歌詞。
「あい はぶ あ ぺ〜ん。あい はぶ あん あぽー。うっ。あぽーぺん」
本当にそっくりだ。しかも、すごくノリノリ。そのまま、最後まで歌い切り、満足げな胸の前のポーズまで再現していた。でも、なんで会社でこんなことを?
首をひねって、即座に答えが出た。
「ああ、今晩の一発芸」
「そそ、高田がどうしてもこれやりたいっていうからさ」
ドアのそばにいた係長が満面の笑みで説明してくれる。今日は夕方から会社の忘年会。近くのホテルのホールを借り切り、全社員が集まってパーティをするのだ。そのときに、社長の意向で各部署がそれぞれに隠し芸を披露することになっている。高田くんのこの格好はそのためだ。
で、今は、会議室を借り切っての練習中。
「すごく似てる。似てるぅ」
部屋の奥、オーディオを操作していたみなみちゃんが無邪気に手を叩いて喜んでいる。高田くんもみなみちゃんに褒められて嬉しそうだ。お互いにとろけそうな顔で笑みを交換しあっている。お似合いというかなんというか。
まあ、ぶっちゃけこの二人、付き合っているんだけどね。
「じゃあ、みなみちゃん、もっかい頭から」「はい」
みなみちゃんがオーディオを操作すると、またさっきと同じ出だしのメロディーが流れ始めた。
「あい はぶ あ ぺ〜ん」
けど、その後が違った。
突然、高田くん、自分を指さす。
「あい あむ 高田」
そして、自分の頬にペンをあて、
「うっ。高田ペン」
一瞬、なにが起きたのかって呆気にとられていたのだけど、見ていると、すぐにみなみちゃんに近寄り、ペンを渡す。
「ゆう はぶ あ ぺ〜ん。ゆう あー ・・・・・・」
私同様、あっけに取られていたみなみちゃん、すぐにその意図に気が付いたみたいで、
「み、みなみ」
うんと一つうなずくと、
「みなみペン」
そして、高田くんは自分の指差し「高田ペ〜ン」、隣のみなみちゃんを指さし「みなみペン」
ニヤリと笑うと、頬を寄せた。
「ペン高田みなみペン」
たのしそうに二人で笑い声を上げるのだった。


「これ、忘年会で披露したら、絶対、社長よろこびそう」
「だろ?」
目を輝かせて喜んでいるみなみちゃんの言葉に高田くん得意げだ。
まあ、たしかに社長は喜ぶだろうな。喜んで、自分でもやってみるんだろうな。若い女子社員を捕まえて、無理やり頬を寄せて。あのセクハラおやじなら、絶対やるだろうな。
パンドラの箱を・・・・・・ 心の中でため息を一つついていた。
と、急に高田くん、真剣な顔をして、もう一度音楽をかけるようにみなみちゃんに頼む。
一つ深呼吸。じっとみなみちゃんのことを見つめる。
今までの浮ついた雰囲気ががらりと変わったような。それを合図にしたかのように、係長が私の腕をとって会議室の外へ連れ出した。
「えっ? えっ?」
驚いている間に高田くんとみなみちゃんだけを残して、会議室の扉はしまったのだった。
ドアの向こうから、かすかに音楽が聞こえてきている。そして、高田くんが歌う声も。
――あい あむ 高田。あい らぶ みなみ。
「えっと、係長、これは?」
「ああ、高田に頼まれてたからな。頃合いを見計らって、二人っきりにしてくれって」
「・・・・・・」
パッと見、パーなアホづらペテン師風の男性に告白され、プロポーズされるってどうなんだろう? しかも会社の会議室で。
私だったら、そんなの絶対嫌だな。もっと雰囲気のいい、素敵なレストランで、格好イイ彼氏から。
はぁ〜 でも、私にはそもそもそんな相手いないんだよなぁ
「あいつら、うまくいくといいな」
隣で係長が能天気にそんなことを言っている。
「うん、絶対に無理ね」
「はぁ? そんなことないだろう。あいつらもともと好き合っているんだし」
「だって、あんな格好なんだよ。しかもこんな場所で」「・・・・・・た、たしかに」
二人して、玉砕して出てくるであろう高田くんをどう慰めようかあれこれ思案していたら、しばらくしてドアが開いた。
そこでは、高田くんとみなみちゃん手をつないで幸せそうに寄り添っていた。そして、一歩進み出てきた高田くん、たからかに宣言する。
「俺たち、結婚します!」
そ、そんなバカなっ!
驚いている私の隣で最初からうまくいくと信じていたみたいな顔でウンウンうなずきながら、係長が満足げにしている。
そんな中で再び例の音楽が流れてきた。
高田くん、みなみちゃんの手を取ると、
「あい はぶ あ リ〜ング。ゆー あー みなみ。うっ。みなみリング」
・・・・・・
はぁ〜 なにこれ?


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posted by くまのすけ at 17:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする