2018年03月25日

かわいい子




四月になると新入部員の勧誘が始まる。さすがに今のごちゃごちゃした部室はないだろってので、授業が終わってから部室の片づけをしてた。
部員総出の片づけ。意外と早く終わったのは、さくらが普段から整理整頓を心がけてくれていたからかな。
さくらに感謝だ。
というわけで、部室の片づけが終わって、さくらと一緒に汚れないように荷物を置きっぱなしにしてた教室のドア前まで戻ってきた。
――俺、遠山さんがいいな。いつも気が利いてていい子だよな。
しまったドアの向こう、教室の中で何人かの男子たちが集まっておしゃべりしているようだ。話からすると、クラスの女子でだれが好みか的な内容かな。
思わず、ドアを開けようとした手が止まってしまう。
私の隣でさくらも聞き耳を立ててるみたい。
っていうか、今、さくらのことを気が利いてるいい子って言ってたの宇佐美の声だよね。
さくらも頬を綻ばせて、今にも白い歯をこぼしそう。
はいはい。よかったね。さくらの大好きな宇佐美にいい子って言ってもらえて。
――やっぱ、俺は野上だな。あのクールな感じ、ゾクゾクする。
――ああ、それ分かるわ。俺もあの目で見つめられたら。わお!
――お前らなぁ〜 あははは。
――じゃあ、木戸はどうなんだよ。
――俺? 俺か? 俺は・・・・・・ 堀内かな。
――ああ、ヤエちゃんか。明るくて元気な子だよな。
そのあとも、誰がかわいいだとか、どの子が好みだとか、男子たちが楽しそうに話をしていたのだけど・・・・・・
ちょっと、ちょっと、大事な子を一人忘れてない? このクラスでナンバーワン美少女って言ったら一人しかいないじゃないの!
――実は、俺も遠山さん、いいなって思ってたんだよな。
はぁ? あんたらバカなの? 目は節穴なの? 確かにさくらはいい子だけど、いい子なんだけど・・・・・・
もっと可愛い子がこのクラスにはいるじゃない!
って、さくら、ちょっとなに私の方見て頬をひきつらせているのよ!
「すみれちゃん、顔こわい・・・・・・」


というわけで、そのあともドア越しに聞き耳を立てていたけど、肝心の名前が最後まででることはなく。
はぁ〜 本当、バカなんじゃないの。全員、一度、目医者さんに診てもらった方がいいわよ。
――あ、そろそろ俺帰るわ。じゃ、またな。
――じゃあ、俺も。
――俺も。
中の男子たちが椅子を引く音が響いてきたので、慌てて逃げだす。
本当は、そのままドアの前で仁王立ちしててもよかったのだけど。っていうか、仁王立ちしてバカ男どもを睨んでてもいいよね。この場合。絶対。
でも、さくらに引っ張られて廊下の角まで移動した。
で、そのあと、教室を後にした男子たちは、ぞろぞろと連れだって私たちが避難したのとは反対方向、昇降口の方へ歩いていった。
――まったく、つかえない連中ね。
口の中で文句を言いつつ、教室に戻ると空っぽ。
「はぁ〜」
ため息しかこぼれないや。


私たちも荷物をまとめて、教室をあとにする。
さくらはすごく恥ずかしそうで、そして嬉しそうに口元をほころばせているのだけど、私はむっつり引き結んで。
さくらはそんな私の気を紛らわすように、いろいろ話かけてくれるのだけど、気乗りのしない返事しかできなかった。
なんで、私の名前がでなかったのよ。このクラスで一番かわいいの私じゃない! だれだってそう思うじゃない。
恨み言ばかり頭の中をリフレインする。
昇降口で靴を履き替えていて、気が付いた。
えっと、もしかして、私が一番かわいいって思っているのは私だけ?
いや、そんなはずは・・・・・・
実際、クラスでは一番顔が整っているし、おしゃれだし、スタイルだって抜群。
誰がどう見たって、私が一番・・・・・・
でも、男子たちはさっき私の名前をあげなかった。さくらの名前なら何人か上げていたのに。
これって・・・・・・
なんか気を抜いたら目から汁がこぼれそう。


「大丈夫だよ。すみれちゃんのいいところ、みんな分かってるから」
正直、今さくらに慰められるのは、なんかムカツクんですけど。
私の気のせいかもしれないけど、なんか勝ち誇ったような態度がチラホラしているような。
き、気のせいだよね?
「大丈夫。すみれちゃん、十分可愛いから」
なんだかなぁ〜
どこか軽やかな足取りに見えるさくらといつもの交差点で別れて自宅へ向かう道をたどる。
私の方は重い足取り。ヘタしたら次の角のコンビニの前にでも座り込んじゃいそう。
「はぁ〜」
何回目が知らないけど、ため息まで出た。
そうして、コンビニの前を通りかかったら、制服姿の男子がのどをあげてペットボトルのジュースを飲み干していた。私に背を向けて、ゴクゴクゴクと。宇佐美だ。
その背中を睨んでいたら、足音荒く背後に近づいて、全身の力を足に込めてその背中を蹴飛ばしたくなる。
「悪かったわね。さくらみたいに気が利かない女で!」
そう思いっきり罵れたら、気分が晴れるだろうな。
冷たいもので満足した宇佐美は、ペットボトルを捨てる場所を探すように周囲を見回す。そして、目が合った。
ニッコリ笑いかけてきたし。
さくらだったら、きっとどんなに怒っていたって、相手が笑いかけてきたら、同じように笑い返していたんだろうな。でも、私にはそんなことできない。そんな気の利いた器用なことなんてできない。
ただ、ぶすりと黙って、顔をそむけた。


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2018年03月18日

春の陽気に誘われて




たった半月前までは、休みの日にはコタツにこもって一歩も外へ出なかったものだ。
たった半月前なのに・・・・・・
今、俺は玄関でスニーカーに足を通し、ドアをあけた。
まだすこし冷たいが、それでもずっと暖かくなった空気が俺を包み込む。
もうすっかり春だ。


朝から部屋でずっといじっていたスマホを充電している間に、散歩に出ることにした。
窓の外には、まぶしいぐらいの青空が広がっている。ポカポカと暖かい陽気。
家の前の通りを猫たちがのどかな足取りで横切り、裏の児童公園で遊ぶ子供たちの歓声が伝わってくる。
何もかもが俺を誘っている。俺を呼んでいる。
家の中に引きこもっていて感じていたムズムズした気分を晴らすために、俺は思い切って外へでたのだ。
日陰はまだひんやりとしているが、一歩足を踏み出し、ひなたへ出ると、じんわりと暖かくなってくる。
やさしくほどけていくような感覚を感じて、俺は歩き出す。
近所の家の梅の花、木蓮、用水路脇の菜の花。いろんな春の花がすでに咲いていて、穏やかな風に揺れている。
――少し足を伸ばして、コンビニまで行くか?
そう考えながら適当に道を選んでいったら、公園にでた。
家の裏の公園とは違って、狭く遊具もすくない。だからか、子供たちの姿はなかった。代わりに、公園を囲うように桜の木が植えられている。
まだ一輪も咲いていない桜。それでもつぼみは膨らみ、先端が淡く色づき始めている。
俺はその公園の中へ入り、隅にある日が照らすベンチに腰かけた。
背もたれに体を預けながら見上げる。寒々とした枝の先にもうすぐ花開きそうなつぼみが見える。
暖かいベンチ。公園を吹き抜ける風も心地よい。体から自然と力が抜けていくようだ。


――クスクス
近くで誰かが忍び笑いをしていた。
目を開けた。
「あ、起きた」
目に飛び込んできたのは、この一年、クラスが同じだった佐倉だ。学校で見慣れている制服姿ではなく、見慣れない私服姿の佐倉が俺のそばに立っていた。
「寝てねぇし」
「いびきかいてたよ」
「鼻づまりだ」
「口元よだれ」
慌てて袖で口元をぬぐった。
学校ではほとんど話したことのない女子。席が隣同士になったこともなければ、なにかのグループ分けで一緒になったこともない。接点のない相手だ。それに、教室の中では地味でおとなしい印象しかない。
「このベンチ気持ちいいよね」
「今、桜見てただけだから、分かんねぇよ」
「フフフ」
佐倉も頭上に視線を向けた。一つにまとめた髪が首の後ろで揺れる。
「あっ、そうだ。松井、課題終わった? 提出、明日だよね?」
「・・・・・・課題?」
「そう、課題。英語の」
なんのことだ? 課題、出てたのか? 俺が忘れてるのか? そんなのやってないはずだ。
「ほら、終業式の日にもらったプリントあるでしょ。あれに書いてあったでしょ」
「えっ?」
そんなの見てないぞ!
提出期限が明日って。早く帰ってやらないと、絶対に間に合わない。いそいで帰らなくちゃ。
思わず立ち上がって、公園の出口に向かって二三歩進んだ。
――クスクスクス
さっきと同じ楽しげな笑い声が聞こえてきた。すぐに冷静になる。
ちょっと待て、今は春休みじゃねぇか。課題なんかでるはずない。
「ほら、やっぱり寝ぼけてる」
俺が立ち上がったスキに、佐倉は空いたベンチに腰かけていた。
「寝ぼけてねぇし」


「やっぱり気持ちいい〜 私、このベンチ、お気に入りなんだ」
「そ、そうか」
さっきと位置が入れ替わっている。
「風が気持ちいいよね。思わず寝ちゃうの、分かる」
「寝てねぇし」
「グ〜グ〜」
「寝るな」
ったく。楽しそうだな。俺も。
「フフフ 隣、いいわよ。今日は特別に許可してあげる」
「それはどうも」
って、だからって女子の隣に気軽に腰かけるってわけにもいかない。たとえ、すごく座り心地がいいと知っているベンチだとしても。
そんな葛藤をする俺を微笑んで見てやがるし。こいつ本当に楽しんでるなぁ
「松井、意識しすぎ」
「気にするだろ、フツー」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
「でも、そこに立ってられると、ベンチ陰になっちゃうんだけどな」
「おっ、悪い」
「それに、桜の木も見れないし」
「・・・・・・」
「はい、座って」


なぜかベンチに女子と並んで腰かけることになってしまった。
なんだこれ?
「えっと・・・・・・」
「もうすぐ、この公園すごく綺麗になるんだよね。公園中ピンク色に染まって」
「へ、へぇ〜」
体の横が熱い。俺よりも高い体温が伝わってくる。それを意識したら、余計緊張してしまう。
「ねぇ? 顔、真っ赤だよ」
「あ、赤くねぇし」
「フフフ」
「赤くなってねぇし」
目を細めて笑ってやがる。
「今、私たちって周りからどう見られてるのかな? 恋人とか思われてたりして」
「と、友達だろ。みんな友達だって思ってるよ」
「え〜 そうかな?」
「そうだよ。つうか、嫌じゃないのか? 俺なんかと恋人みたく思われて」
「ん? さあ、どうでしょう。ウフフフ」
佐倉はニッコリ笑顔で俺のことを見つめてきた。
「松井は嫌?」
「お、俺は・・・・・・」
もちろん、生まれてこの方、親しく付き合った女子なんてまったくいない。だから、嫌なんてことは全然なくて。いや、むしろ、これってまるで、夢みたいで・・・・・・
桜の木の下のベンチで、女子と二人っきり。
暖かい日差しに包まれ、心地よい風が頬をなでる。思わずウトウトしてしまいそうな穏やかな時間が流れる。
居眠りしてしまいそうな・・・・・・
・・・・・・
なんだ、これは? すごくできすぎじゃないか!
はっ、これは夢なんじゃ。俺は今、本当に夢を見ているだけなんじゃないのか?
実際にはさっきの公園のベンチに腰かけたまま、居眠りしてしまっているのでは。
夢の中で女子と、いや、もしかしたら桜の木の精霊かなにかと会話しているだけじゃ。
足が勝手に立ち上がっていた。
「寝てねぇし!」
隣からクスクス笑う声が聞こえていた。


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posted by くまのすけ at 18:36| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月11日

ホワイトデーのプレゼント




朝、自分の席についてすぐに、先に来ていた隣の河野が声をかけてきた。
「こないだはありがとうな」
そう言って手渡してきたのはクッキーの包み。そう、今日は三月十四日、ホワイトデーだ。


河野はニコニコしながら自分の席へ戻っていく。
私も同じようにニコニコし、手を振りながら見送っていたら、なんだか強い視線を頬に感じるのだけど。
反対側の席のしーちゃんが私のことをジッと見つめてる。それも真っ青な顔して。
「なんて顔してるのよ。真っ青だよ」
「えっ、あ、え、あ」
まともに言葉も出ないみたい。まあ分からなくもないけど。だって、河野のことを去年から一途に好きだったのはしーちゃんだし。
でも、しーちゃんは今年のバレンタインデーに河野にチョコを渡さなかった。本当はちゃんと用意して学校まで持ってきていたのだけど、寸前になっておじけづいちゃって、結局渡せずじまい。帰りの落胆した様子もひどかったな。今もそのときと似たり寄ったりの顔してる。
「あやち、河野くんにチョコ渡してたんだ」
今度は涙目で睨んできた。今にも『友達だと思っていたのにっ!』とか叫び出しそう。それはそれでドラマみたいで面白そうだけど、でも、その前に正直に答えることにした。こんなことで友情にヒビが入るのもバカバカしいよね。
「ううん。私、河野にはチョコあげてないよ」
「・・・・・・えっ?」
「これバレンタインのお返しじゃなくて、こないだ河野の相談に乗ってあげたお礼だよ」
「相談・・・・・・」
「そう、相談」
「・・・・・・」
しーちゃん、目をぱちぱちさせて戸惑っている。大体、いくら席が隣だからって、私が河野にチョコなんてあげるわけがない。教室の中のどうでもいい男どもに自分のお小遣いつかってまで義理チョコ配る義理も気持ちもさらさらない。バレンタインデーで私がチョコを渡しのは三人だけ。お父さんと弟と・・・・・・
って、なんでさっきから勇樹が自分の席から私のことを涙目で見つめてるのよ。さっきのしーちゃんと同じ顔しちゃってさ。
はぁ〜 あっちもあっちで誤解してるようね。


というわけで、席を移動。勇樹の隣へちょこんと腰かけて。
「おはよう」
「・・・・・・」
「ちょっと、おはようぐらい言いなさいよ」
「お、おはよう・・・・・・」
すごく頼りなさげに微笑んでる。叱られた子犬みたいな目。いつ見ても胸がキュンってなっちゃう。
「河野にチョコ渡してたんだな」
気弱な口調でそんなことをポツリと言ってくる。それがまた胸を締め付けるようで。早口でつよく否定した。
「まさか。そんなわけないじゃない」
「けど、さっき・・・・・・」
「あれは、そんなんじゃないわよ」
「・・・・・・でも」
というわけで、しーちゃんと同じことを繰り返し説明した。
「相談? なんで河野が?」
「それはね」
答えようとしてたら、視界の隅で河野が『よしっ』と気合を入れて立ち上がる。目が合って励ますようにうなずいてあげたら、うなずき返してくれる。それから、河野は大股でしーちゃんのそばへ歩いて行った。そして、二人して教室を出ていった。
それを見送って、まっすぐに勇樹に向き直る。思わず笑顔がこぼれた。
「バレンタインにチョコもらってなくてもホワイトデーにプレゼント渡しても大丈夫かって相談。私、しーちゃんの友達だから」


勇樹はとてもホッとした様子で笑顔になっている。それに向き合う私も同じような満面の笑み。
ニコニコ。
ニコニコ。
精一杯の可愛い笑みを顔に張り付けて。好き好きオーラを全身からあふれさせて。
ニコニコ。
私たち、教室の隅でお互いに見つめあって笑みを交わし合って。近くの席の女子に縁遠そうな男子がチッって舌打ちしてるけど、無視無視。
「ああ、もうすぐ予鈴だな。筆箱出さなきゃな」
勇樹は唐突に前を向き直った。
えっ? なんで? なんで?
その前にすることがあるでしょ!
「ちょっと待てぇ〜!」
思わず低い声が出てしまうじゃないっ! バレンタインに私がチョコを渡したのって勇樹だけなのに! そして、今日はホワイトデーなのに! 朝、目が覚めた時からずっと楽しみにしてたのに!
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「ほい。バレンタインのお返し」
素早く振り返った勇樹が目の前に差し出してきたのは、可愛くラッピングされたプレゼントだった。
「チョコありがとな。それと、これからもよろしくな」
かすかに震える声を出して、私にプレゼントをささげている。探るような視線で私の表情をうかがってくる。
私の方はただただ何度も視線がそのプレゼントの箱と勇樹の顔を往復する。しだいに頬が熱くなっていく。周囲の雑音はすべて耳から遠ざかる。私の小さな小さな声だけが大きく響いた。
「うん」
二人だけの空間に、真っ赤に熟れたりんごみたいに赤くなって、はにかむ笑顔が二つ並んだ。


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posted by くまのすけ at 18:52| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする