2017年07月16日

体調不良です

このところ急に猛暑になったせいか、ここ数日体調が悪いです。
のどが痛いし、若干熱もあるみたい。なんかフラフラする。
なので、今週は作品をアップするのを断念して、安静にして寝てます。
うーん。でも、猛暑のせいというよりも、クーラーに当たりすぎたためのような気もしなくもないけど・・・・・・
意欲はあるから、来週こそは、なにか作ろう!
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2017年07月09日

聞こえない音楽を




「そうね。コレとコレとコレ、二つずつ」
「ショートケーキとモンブラン、フルーツケーキが二つずつですね」
ケーキサーバーで注文されたケーキをすくい上げ、手元のトレイに見栄えよく並べていく。注文が終わったのを確認してから、組み立てた箱に詰め替えるのだ。
「ねぇ、ママ、ぼく、このチョコレートのがいい」
お客さんの連れている子供がエクレアを指さした。母親の方を見ると、苦笑しながらも頷いていた。
「じゃ、それも一つお願い」
そうして、七つのケーキを丁寧に箱に詰め、レジで代金と引き換えに手渡す。
「ありがとうございました」
親子連れが店を後にした後、樹里さんが私に声をかけてくれる。
「もうだいぶ慣れたみたいね」
「あ、はい」
叔父がパティシエをやっているケーキ店でバイトするようになって、今日で三日目。人手が足りず、夏休みが始まるまででいいからと頼まれたのだけど、やはり、なかなかに忙しい。お客さんが入れ替わり立ち替わり入店するので、先輩バイトの樹里さんとふたり朝からてんてこ舞いだ。
またお客さんが店に入ってきた。
「いらっしゃいませ」


樹里さんは同じクラスの森川君のおねえさん。そのことに気が付いたのは、働き始めてすぐのことだった。
「さやかちゃんと同い年の弟がいるの。学校も同じだから、ひょっとして弟のこと知ってるかも?」
そう尋ねられて、すぐに思い出したのは、だれもいない音楽室で無心にピアノを弾いている姿だった。
あの放課後の音楽室で、教室ではいつもどこかボサッとしているのに、真っ赤な夕焼け空に影を浮かばせて、さっそうと難しい曲を弾きこなしていたのだ。無骨な大きい手だけど、細くて長くてすらりとした十本の指をひらひらと舞い踊らすようにして八十八の鍵盤を叩いていた。
まるで、心の中の声にならない言葉を音として紡ぎ出すかのような曲。胸が締め付けられる切ないメロディ。
あの音楽室の光景を目にして以来、私は森川君の指先を目で追うようになってしまった。
そうすると、教室でも廊下でもどこでも、よく鍵盤を叩くような仕草をしていることに気がついた。今までそんなことに全然気が付いてなんかいなかったのに。
それがおかしくて、バカみたいで、ちょっと胸がキュンとして・・・・・・
――あっ、また何もないところで鍵盤を叩いてる。
――今、どんな曲が森川君の頭の中に流れているんだろう。
――今日は朝から眠たそう。昨日は遅くまでピアノの練習をしていたのかしら?
いつの間にか、そんなことばかり考えている私がいた。


「いらっしゃいませ」
またお客さんだ。先に来ていたお客さんの清算を私がしていたから、樹里さんが接客してくれる。
「よっ、ねえちゃん」
「なんだ、裕一か。なに? なんか用?」
「なんか用って。ケーキ屋に来たんだから、ケーキ買いに来たに決まってんだろう」
「えっ? あんた、ケーキなんか買うの?」
「ケーキなんかって」
森川君、苦笑している。レジのところでケーキの箱を清算を終えたお客さんに手渡すことを忘れて私が立ち尽くしていることにはまだ気が付いていないみたい。
そして、その森川君のとなりには・・・・・・
「ね、美乃梨ちゃんはどれがいい?」
「ん〜 そうね。ショートケーキとチョコレートケーキは外せないわね」
ちょこんと首をかしげて、森川君に柔らかい微笑みを向けている。
見るからに二人は幸せそう。絵にかいたような恋人同士だ。注文の間もずっと手を握り合っている。
そ、そうよね。森川君だって男の子だもんね。彼女さんぐらいいるわよね。
胸が痛い。
お客さんがした咳払いのおかげで、まだケーキの箱を手にしたままだったことを思い出し、手渡した。
その間にも、森川君とカノジョは樹里さんにケーキを注文していく。
まだ、レジのところで立ち尽くしている私には気が付いていない。


注文が終わり、樹里さんは手早くケーキを箱に詰めていく。
その最中、一瞬、私と眼が合った。途端にハッとした顔で目を見開いた。でも、すぐに元の表情に戻った。
私は背を向け、森川君の視界から隠れるようにこそこそとそこらのモノの整理を始める。手の震えがとまらない。ぎゅっと目を閉じる。それでも、耳は聞こえていた。
ケーキを詰め終え、樹里さんがレジの方へ移動してきた。
「はい。しっかりと持つのよ。傾けたりしちゃダメよ」
「子供かよ」
森川君が樹里さんからケーキの箱を受け取ったようだ。
「それはそうと、その子は?」
「ん? ああ、ほら、ねえちゃんも知ってるだろ。ピアノ教室の美乃梨ちゃん」
「えっ? ああ、立花美乃梨ちゃんか。誰かと思ったわ。私が知ってたのって小学生ぐらいまでだから。私、ピアノ教室やめちゃったし」
樹里さんも知っている女の子だったみたい。
ひとしきり『おひさしぶりです』と挨拶を交わしていた。
「じゃ、行こうか」「うん」
そうして、森川君たちは店を出ていった。
「そっか、裕一ってあの小っちゃかった美乃梨ちゃんとか・・・・・・」
その背を見送りながら、樹里さんが感慨深げに口の中でそうつぶやいていた。


「大丈夫。なんなら、奥で休憩しててもいいよ」
「平気です。大丈夫です」
樹里さんが困ったように眉根を寄せている。森川君たちが見えなくなってすぐに、心配そうにそう話しかけてきてくれたのだ。
あの森川君にはすでに彼女がいたなんて・・・・・・
同級生だから、教室で毎日顔を合わせる。何度もチャンスがあったはずだ。だけど、私は一度も。
後悔ばかりが押し寄せる。あのとき、ああしてたら、今頃森川君の隣を歩いていたのは私だったのかも。
ケーキを一緒に買っていたのは私だったかも。
ショーケースのこちら側ではなく、あちら側で照れくさそうに微笑みを交わして。
「大丈夫?」「平気です」
「そう?」
その日は何度かミスをした。それでも、バイト時間の終わりまで働いた。


「おはよう」「おはよう。どうしたの?」
「えっ?」
「目のまわり赤くなってる」
「ウソ」「ほら、鏡」
教室に入った途端、智美が私を心配して手鏡を渡してくれた。
たしかに目のまわり赤くなってる。昨日の夜、一晩中ベッドの中で泣いたから仕方ないのだけど。でも、ちょっとひどい顔。
情けなくて、みっともなくて、みじめな顔。ヘンな顔。間が抜けてる。
鏡の中のぶさいくな顔を眺めていたら、つい噴き出してしまった。
「あはは。ひどい〜」
指でそっと眼尻をぬぐう。
今日もまた、鏡の隅に写り込んでいる指が細長い少年が何もないところで鍵盤を叩いていた。
だれかに聞かせる曲を。私には聞こえない音楽を。頭の中で。
にじむ視界の中で今日も無心に奏でている。


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posted by くまのすけ at 17:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月02日

誕生日、いつ?




「こないだカレシがさぁ」
くじ運なく、先月の席替えで一番前の席になった俺の真ん前で、女子たちが集まっておしゃべりの花を咲かせている。
というか、なんでわざわざ俺の前、教卓の横に集まるかなぁ 自分たちのうちの誰かの席にでも集合すりゃいいだろうに。
おかげで、昨日遅くまで期末テストに向けた勉強をしていたせいで眠たいのだが、うるさくて居眠りすらできやしない。まったく。
ふわぁあああ〜〜〜〜


「私の誕生日あったじゃない。そしたら、ほら、これ、プレゼントしてくれたのぉ いつかちゃんとした宝石のついたのを交換しあおうねって。それまではこれって言ってさ」
「わぁ、かわい〜 似合ってるぅ」
「かわいぃ」「すご〜ぃ」
女子のひとりが彼氏にもらったという指輪を見せびらかしているのだが。うん、控えめにいって、彼氏さん、センスないよね。
「いいなぁ こっちは全然、そんなの忘れてるっぽいし」
「えっ? それやばいんじゃない?」
「沙也って、誕生日、来週でしょ?」
「うん。やっぱ、そう思う?」
「思う、思う」
いや、兄貴、ちゃんと用意してるし。きれいにラッピングした包みを家族にも見つからないようにベッドの下に隠してるし。
その沙也と目が合ってしまって、思わず苦笑してしまった。


「で、どうなの。沙也の誕生日プレゼント、ちゃんと用意してるの?」
放課後になり文芸部の部室に顔をだすと、先に来ていた絵梨が発した第一声がこれだった。
「はぁ? なんで俺に訊くわけ?」
「アンタに訊くのが一番手っ取り早いでしょ。同じ家に住んでいるんだから」
「そんなの知るかよ」
「ひっどーい」
「ひどくない」
はぁ、なんで俺がそんなことこいつに話さなきゃなんねぇんだよ。俺の兄貴の問題なのに。
しかし、弟の同級生の女子と付き合っちゃう兄貴って、どうなんだよ? それに、同級生の兄貴だって知ってて付き合っちゃう女子って?
場合によっては、将来の義姉が同級生・・・・・・
いや、まだ気が早いよな。まさか、そんなことないよな。いくらなんでも。
「そんなことより、そっちはどうなんだよ? そっちは親友なんだろ? プレゼント交換とかしないのかよ」
「さて、もうすぐ期末だから、勉強でもするかな」
「話はぐらかしやがった」
「あいひあなっしんぐ」
はぁ〜 まあ、俺だっていくら親友だとしても誕生日プレゼントを贈ったりもらったりはしないけどな。


文芸部の部室。試験前で部活動は休みだから、本来は顔を出さなくてもよさそうなものだが、あいにく自習室がいっぱいだった。で、ここなら静かだし試験勉強がはかどるだろうと期待してきたのだが。必ずしも静かとは言えないようだ。
「うぇんいずいっつゆあばーすでぃ?」
真剣な顔で教科書を見つめながらつぶやいている。教科書の例文を読んでいるのか? けど、そんな英文なんかあったかな?
ざっと昨夜勉強したばかり英語の試験範囲を思い返してみても、そんな英文なんて登場した覚えはなく。
となると、もしかして、俺に質問しているとか?
でも、教科書の例文を読み上げている風に見えるわけだし。
これはどうすればいいんだ? 無視するか? そんなことすると怒り出しそうな気もするし、じゃあ、声をかける? 絶対、教科書読んでいただけよって鼻で笑ってくるだろうな。こいつはそんなヤツだ。
どうすれば・・・・・・
逡巡していたのは、一瞬で、俺は素直に自分の誕生日を口にしていた。
「あいむじゃすとりーでぃんぐいんぐりっしゅてきすとぶっく」
「うそつけ。そんな文章なんて英語の教科書にないだろうが」
俺の指摘に、してやったりとでもいうような、にんまりとした笑顔を向けてきやがった。
「ひあ.れっつりーど」
“When is it your birthday?”
あったし・・・・・・
うわぁああああ。恥ッ。


「っていうか、そこ試験範囲じゃねえぞ!」
「えっ? 何で知ってるの?」
「俺、昨日の夜、勉強したし、英語」
「うそ! ありえなーい。いつも試験前でも勉強なんてしないくせに」
「するよっ」
「礼次のくせに、なまいきぃ」
「お前なぁ」
でも、まあいいか。俺に見られないように手のひらで隠しているけど、ノートの端っこにさっきの俺が口にした日付をメモってるの見えてたし。
「えにーうぇ、うぇんいずいっつゆあばーすでぃ?」
絵梨の横顔をじっと見つめてたら、しだいに赤みが増していった。そして、一言だけつぶやくのを聞き漏らしはしなかった。
「ちょうど一か月早いのかよ」
まだまだ先だけど、しっかりその日付を俺の頭の中に焼き付ける。
「そうよ。私の方がアンタよりもお姉ちゃんなんだから」
「たった一か月だろう」
「一か月もよ」
勝ち誇ったようなその顔を見てたら、正直バカらしくなった。いや、実際にバカらしいことを言い合っているんだけど。
「分かったよ。はいはい、絵梨お姉ちゃん」
「分かればよろしい、弟の礼次くん」
そうして、即席姉弟二人して白い歯をこぼした。


「そっか、一か月早いのか」
「そうよ。誕生日のプレゼントは何でもいいわよ。かわいいアクセサリーとか、かわいいアクセサリーとか、かわいいアクセサリーとか。なんでも」
「アクセサリーばかりじゃねぇかよ」
「ふふふ」「ったく」
今度の休みにでも店のぞいてみるかな。アクセサリーならなんでもいいのだろう。指輪とか、指輪とか、指輪とか。教室で自慢してたのよりも、もっとカッコイイやつ。いざとなれば貯金があるし、多少高いものでも大丈夫かな。
あれこれ算段してたら、ふっと頭の中を一つのフレーズがよぎった。先週読んだ本の中に登場した言葉だ。
牧師が語る厳かな誓いの言葉。
「ちょうど一か月年上なのな。これから先も、永遠にずっと・・・・・・ 病めるときも、すこやかなるときも、貧しい時も、富めるときも、死が二人を分かつまで」
目が合ってしまって慌てて伏せあった。なにごともなかったように装いながら。
お互いの頬がバラ色に染まっているのを目にしないようにして。


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posted by くまのすけ at 17:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする