2017年12月17日

鍋パ




「あれ? 姉ちゃん、どうしたの? 足、怪我でもした?」
鍋パーティーでもしようと誘われてやって来た先輩の部屋、コタツからはみ出した我が不肖の姉の足首にでっかい絆創膏がついていた。
「ああこれ? さっき家を出るときに、虎吉にざっくりひっかかれちゃって」
虎吉というのは我が家の猫だ。俺もしょっちゅう手のひらをひっかかれる。
「ああ、きっと姉ちゃんの足が臭かったからだな」
「なんですって!」
「ふげっ」
瞬時に顔に足が伸びてきた。
で、まさにそのタイミングでコンビニへビールの調達に行っていた先輩が帰ってきたわけで。
「ただい・・・・・・」
姉ちゃん、慌てて取り繕って正座し直したりして。
うん、すでにばっちり目撃されて、手遅れだと思うんだけどな。
先輩、玄関先で困ったように頬を掻いていた。


コタツの上では 鍋がグツグツ煮えている。
ついぞ、家では見かけたことがないけど、姉ちゃんは甲斐甲斐しく俺たちの皿に野菜や肉をとり分けてくれている。
「ちょっと、なんで俺にばっかり野菜入れんだよ。肉食いてぇよ」
「ほら、じゃあ、お肉」
「切れっ端じゃねぇか!」
「お肉でしょ」「ちゃんとした肉寄こせよ」
ったく、先輩の皿にばっかり肉入れやがって!
先輩は姉ちゃんがとり分けるものをうれしそうににやけながらパクついている。
「おいしい?」
「ああ、すごくうまいよ」
「よかった」
「俺、幸せだよ」
「私の方こそ幸せよ」
「いや、俺の方こそ」
とろっとろの笑顔を二人してさらしながら、そんなバカバカしい会話をすぐそばで聞かせてくれるわけで・・・・・・
「コホン。ああ、この部屋暑いね。暖房が効き過ぎてるんじゃないかな」
「そう? ちょうどいいわよ」
「ああ、俺にはまだ寒いくらいだけどな」
熱源の二人は不思議そうに俺の顔を見やがるんだ。そして、さらに熱く視線を交わして微笑んで。
ったく、いい加減にしろよ!


四人しかメンバーがいない俺たちのサークル。バイトがあるとかで最後に遅れてやってきたのは俺と同学年の藤島さん、手土産に焼き菓子を持ってきた。
「純ちゃん、気が利くぅ それに引きかえ、うちの愚弟は」
「自分だって、なにも手土産持ってきてないくせに」
「その代り、ちゃんとお給仕してあげているでしょ あんただけじゃない、食べてばかりなの」
「俺だって具材を鍋に補充したりしてるだろ」
「あんたの前にあるんだから当然じゃない。いばるようなことじゃないわ」
そんなことを言い合いながら、相変わらず俺の前に肉の入っていない皿を置いてくる。
「だから、肉食わせろよ。ったく」
でも、藤島さんの前に置いた取り皿には、肉やら魚やらがたっぷり盛られているし。
「あ、私のでよければ」
「ああ、いいよ。遅れてきたんだから、遠慮なく全部食べて」
ほんと、気立てのいい子だ。どこかのだれかさんとは大違いだ。
「おっと、ごめんあそばせ。お汁はねちゃったわ。おほほ」
俺の方へしずく飛ばしてくるし。
本当、こんなのでいいんですか、先輩?


最後のしめにうどんを入れた。
「うん、満腹、満腹」
「私もお腹一杯」
「野菜しか食べてないけど、うまかった」
「私もお鍋おいしかったです」
口々に感想をのべて、思い思いにコタツでくつろぐ。だけど、実はさっきからずっと膀胱がパンパンなんだよな、そろそろ限界。目立たないように座を抜ける。
で、用を足し、再びコタツに足をいれて、くつろいでいると、
ピトッ
俺の頬に触れるものが。さらに、
グイグイ
押し付けてくるし。
視線を向けると、真っ赤に顔を染めた藤島さんが、靴下に包まれた足を遠慮がちに俺に頬に押し当てている。
「えっと、藤島さん?」
「北野くんって、こうされると喜ぶって・・・・・・」
「だれがそんなことを」「会長が」
「先輩!」
ニヤニヤしながら、俺たちのことを眺めていた先輩、『どうぞどうぞ俺このことは気にせず、続けていいよ』みたいに手を揺らしているし。
「俺、そんな性癖なんかないですからね」
「え〜? そうぉ?」
「ないですって!」
「でも、さっき・・・・・・」
「あれは、姉ちゃんの足が・・・・・・」
コタツの中で俺の足を蹴ってくる。睨みながら声をださずに『それ以上言ったら殺す』なんて口を動かしているし。
はいはい。ったく。この姉は。
「あれは、そんな意味じゃないですよ。ってか、藤島さん、そろそろ足どけてくれないかな」
「あ、ごめんなさい」
真っ赤になりながら座り直している。うん、ちょっと上目遣いで恥ずかしがっている様子が、なんとも言えない雰囲気を醸し出していて。
さっきまで藤島さんの足が触れていた頬のあたりがポカポカするような・・・・・・
「ちっ、もっと踏んでいてほしかったな」
「って、俺の心の声にへんなアテレコしないでくださいよ。俺、そんなこと全然思ってないですねからね」
ほんのちょっとしか。
ったく、ほんと、この先輩は。


「むしろ、先輩の方が姉ちゃんに踏んでほしいんじゃないですか?」
ちょっと反撃するつもりで言ったら、途端に二人して黙り込んで、お互いの顔を探り合うようにして見つめあっている。さらに顔を紅潮させて。
「えっと・・・・・・冗談だったんだけど・・・・・・」
一体、二人っきりのときになにしてるんだよ? あんたたちは。


というわけで、今日の鍋パーティーはお開きになり、俺は藤島さんを駅まで送りがてら、並んで歩いているってわけだ。
「お鍋おいしかったね」
「俺のは野菜ばかっりだったけどな」
「まだ言ってる。ふふふ」
「でも、うまかった。また、鍋パしたいな」
「そうだね」
そして、ふたりして黙り込んで、しばらく歩いた。
夜空は晴れていて、星が降るように輝いている。吐き出す息も街灯に照らされて白い。
「先輩たち、素敵だよね」
「まあ、ラブラブだよな。うっとうしいぐらい」
「ふふふ」
そうして、どちらからともなく、手袋に包まれた手を伸ばして握りあった。
再び口を閉ざして歩く。
やがて、駅に着いた。
上りと下りで別々になる改札口。俺たちは言葉少なに見つめあい、そして、離れた。小さく手を振りあう。
「じゃね」「じゃあ」
後ろずさりに離れていく姿がせつない。もっと一緒に過ごしたい。
「今度、いっぱい踏んであげるね」
「だから、そんな趣味ないっての!」


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2017年12月03日

ボタン付け




昨日、朝から隣の席の関川のブレザーの袖のボタンが取れかかってるなって見てたんだけど、それを指摘したのは放課後になってからだった。
「ボタン取れかかってるよ」
「ん? あっ、本当だ」
「朝からそのボタン気になってたんだ」
ちょっと胸のつっかえが取れた気分。
けど、関川、私の顔をじっと見てくるわけで。
「なに?」
「いや、その・・・・・・」
なにかを期待する目。というか、これって・・・・・・
「私のソーイングセット貸してあげるから、自分で付け直せば」
「分かってないなぁ こういうのは自分でつけるんじゃ意味ないんだよな」
「はぁ?」
「女子につけてもらうからこそ価値があるんだよ」
「なによそれ?」
「女子が自分のためにちくちく針を動かしているのを眺めながら、ああ、気立てのいい子だなとか、やさしい子だなとか考えて萌えるんじゃん」
「・・・・・・」
思いっきり白い目をむけてしまった。


けど、なぜか私が関川のボタン付けをする羽目になってしまっていて。
「やっぱ、いいよな。女子が男子のボタン付けしているのってさ。なんか眺めているだけですごくキュンキュンするっていうかさ」
すぐそばで関川め、どうでもいことをひとりでペラペラしゃべってる。
「いつもはそんなことないのに、むちゃくちゃ可愛く見えるよな」
「おいっ!」
すごく失礼なヤツだ。まったく。私はいつだって可愛いっていうのっ!
というか、人が針仕事しているときに話かけんじゃないわよ。気が散るじゃない。
おかげで、不格好にボタンがついてしまった。
「やっぱ、どんなに不器用でも上手でなくても、こういうのっていいよな」
「悪かったわね。不器用でへたくそで」
ったく、全然フォローになってない。
お裁縫、上手じゃないのは、私だってとっくに自覚してるんだから。
けど、こうもうまくできなかったことは、正直、悔しいな。
もっとちゃんと家庭科の授業をがんばっとけばよかった。


「っていうか、織田のも、ボタンとれかかってるよ」
「えっ? 私?」
「ほら、袖のところ」
見てみると確かにそう。
おかしいな。昨日の夜、家で自分でつけ直したばかりなのに・・・・・・
「ちょっと貸してみ」
そういいながら、関川め、私の手から針と糸を取り上げ、ボタンをつけ始める。しかも、すごく手慣れた様子。あっという間につけ終わった。その出来栄えは丁寧で綺麗。その上、ちょっと引っ張ってもびくともしないぐらいしっかりついている。屈辱。
「なんで、できるのよ」
「ああ、両親が共働きで、弟とかもいるから、いつも家でやってるんだ」
「なによそれ。できるんなら関川のも自分でやればよかったじゃない」
「分かってないな。さっきも言ったろ。こういうのは女子がやってくれるから価値があるんだって」
「なによ。バカにして」
「別にバカになんかしてないよ」
「ふんっ」
今に見てなさい。針仕事、関川よりも上手になって見返してやんだから!
決意を新たにして、関川の手から針と糸を取り戻して、カバンにしまった。
「バイバイ」
荒い声でさよならを告げて、教室から出ていく。
「ああ、じゃあな」
関川の声を背中に聞き流しながら廊下を歩き始めたのだけど、思い直してすぐに引き返した。戸口に立って、つけたばかりのボタンが見えるように袖を振る。
「ボタン、ありがとう」
「ああ、どういたしまして」
本当、すかして、ヤな感じ。
ベーだ。


今日も一日中、自分の袖を見てた。
昨日、関川がつけてくれたボタンがそこにある。
丁寧に綺麗にそれでいて、手早くつけてくれたボタン。私にはできない鮮やかな手際。負けた気分。でも、同時にちょっと胸の奥でほっこりもしている。そんな複雑な心境だ。
「はぁ〜」
「ん? なに? ため息なんてついて、恋の悩み?」
友達にからかわれた。それもこれも関川のせいだ。だから、隣の席を睨んだんだけど、
「はぁ〜」
さっきの私とまったく同じように、袖のボタンを眺めながら、ため息ついているし。不格好についたボタン。昨日私が付けたそのままだ。それを眺め、撫でながらため息。
「はぁ〜」
えっと。友達じゃないけど、これって・・・・・・ まさか?
女子が自分のために頑張ってつけてくれたボタン。改めて昨日の会話を思い出せば、針仕事をしている女子の姿を見てたら萌えるだとか、キュンキュンするだとか。そういえば、私が“いつも”すごく可愛いなんて言っていた気がする。
改めて思い出したら、頬が熱くなってしまうわね。うふ。ちょっとはずかしい。
関川、袖のボタンを眺めながら、唐突に言った。
「よしっ、決めた。こんなへたくそなのほどいて、ボタンちゃんと付け直そう」
直後、強烈な蹴りが炸裂したのは言うまでもない。


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2017年11月26日

放課後の作業




放課後、俺は野口と向かい合ってスキー合宿のしおりを作っていた。俺の隣に椎名さん。野口の隣には今村さんもいる。
「各ページをこんな風に順番に重ねていって、真ん中で半分に折って、で、ホッチキスで留めるんだ」
というわけで、それぞれに作業を分担して、クラス全員分のしおりの作成を始めた。


「そういや、どうよ。お前らって結局付き合い始めたの?」
なんの脈絡もなく唐突に野口が紙の束の端を慎重にそろえながら口にしてきた。
「ぶっ」
おかげで、手元が狂って、折り目がずれたじゃねぇかっ!
「なんだよ、急に」
「いや、こないだ、だれかに告白するとか宣言してたからさ。あれからどうなったのかなって」
「ま、まだだよ」
「へぇ〜 安藤くん、告白するんだぁ〜」
「えぇ? だれに、だれに? クラスの子?」
女子たちは目を輝かせながら、身を乗り出すようにして口を挟んでくるわけで。
「あ、えっと。その」
「あ、わかった。千世だ。いっつも安藤くん、千世のこと眺めてるよね?」
「堀内? なんで? 俺、そんなに堀内のこと見てる?」
「うん、見てる見てる。いっつも見てる」
「そうかなぁ そんなに見てるつもりはないんだけど」
実際、明るくにぎやかな声で話す堀内はクラスの中でも目を惹く存在だけど、でもそんなに見ている自覚なんてないんだけどな。大体、俺がよく眺めているのって、堀内の席の向こう側の。
隣の席の椎名さんと目が合って、慌ててそらせた。
――パチッ パチッ パチッ
ホッチキスで留めて、ひとつ完成。


「野口の方はどうよ。今村さんと仲良くやってんの?」
「ああ、まあな。順調だな。今のところ」
二人してすました顔でページを揃えている。でも、チラリと視線を合わせて、口元をほころばせ合ったりして。
「蹴ってもいいか?」
「なんでだよ!」
「いや、なんか無性に蹴りたくなったっていうか。この幸せ者めっ!」
机の下で足を飛ばしてみるけど、器用に避けられる。
「そっか、ふたりとも順調なんだ」
「おかげさまで」
「なんのおかげさまだよっ!」
結局、こちらの二人は苦笑いするしかなかったわけで。
「もしかして、俺たちってお邪魔だったかな?」
「そうみたいね。帰ろっか?」
「ああ、そうしよう」
荷物を持ち上げるふりをしたら、向かいの二人して揃ってちょっと嬉しそうな顔したように見えて、途端にバカらしくなってきた。
「「はぁ〜」」


「で、椎名さんは彼氏とかいないの?」
「私?」「うん」
「えっと・・・・・・」
すこしもじもじしながら、より目気味にズレを確認している。
「とくに付き合っている人はいないかな」
「へぇ そうなんだ」
ちょっと返事がはやくて、食いつきぎみだったかな。これじゃあ、俺の気持ちバレバレかも・・・・・・
案の定、今村さん、俺のことをじっと見ながら、盛んにまばたきしている。野口も、にんまり笑顔だ。
だけど、当の椎名さんときたら、相変わらず、真剣な表情でズレを修正しようとしているばかりで。
ちょっとホッとした気分だ。でも、残念な気もしないでも。
「彼氏とかつくらないの?」
「うーん。今は、あんまり興味ないかな」
「でも、あとひと月もしたらクリスマスだよ」
「うん、そうだね」
「一人じゃ寂しくない」
「毎年、家族と一緒だから」
「そ、そうなんだ・・・・・・」
って、なんで野口、俺の足を蹴ってくるっ!
無言で『行け!』ってなんの合図だよ。


最後の冊子が椎名さんの手でホッチキス止めがされ、スキー合宿のしおりが完成した。
「おつかれ」「おつかれさま」
「じゃ、安藤と椎名で、これ職員室まで運んできて」
「なんでだよ」
「お前らで運んでこいよ」
「お前も手伝え」
「やだよ。お前らで運んでこいっ! 俺たちは二人で帰るんだからな」
つよくそう言って、野口と今村さんはさっさと教室を出ていった。
残されたのは、俺と椎名さん。ため息を二人同時に吐き出した。
「えっと・・・・・・」
「職員室まで運ぼっか?」「ああ、うん」
「あのさ」「うん」
「千世っていい子だと思うよ。明るくて華やかだし」
椎名さんは、しおりの入った箱に軽く手を置いて、ニコリと笑った。無邪気で、なんの底意も感じさせない笑顔。いつも俺の視線を惹きつけて離さない爽やかな笑みで。それをまぶしく眺めながら、苦労して表情筋を動かして微笑を生み出す。
――違う。そんなんじゃないんだ。俺が、俺が告げたいのは・・・・・・
でも、口から出たのは、
「行こうか、椎名さん、職員室」
今日も、伝えられない――


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posted by くまのすけ at 17:38| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする