2017年05月07日

ハンカチ




息子の裕太郎と同じ中学に通っているお嬢さんを持つ友人と今日はランチだ。
でも、この味でこの金額なら、裕太郎にもっとおいしいものをお腹一杯になるほど食べさせてあげられるのにな。
ちょっと残念な気分でランチを平らげ、先日の母の日に娘さんからプレゼントされたとかいうハンカチを自慢げに見せびらかせられて、食後のコーヒーを飲んだ。
大学時代からの友人。子供たちが同じ学校に通っているママさん友達でもあるので、これまでにも定期的に会って昼食を共にしてきた。けど、毎年、この時期と誕生日になると、娘さんからプレゼントをもらったとうれしそうに報告してくるんだよね。
うちのドラ息子なんて、小学校に入って以来一度もプレゼントなんかくれたためしもないのに。これが、女の子と男の子、娘と息子の違いなのかしら?
はぁ〜
ついつい、うらやましてくてため息が出てしまう。


ちょっと鼻白み気味に食後のデザートのシフォンケーキをフォークの先でつっ突いていたのだけど、
「あら、山崎さん、こんにちは」
隣のテーブルについたばかりの女性客が私に声をかけて来た。
「あらぁ 丸山さん、こんなところで会うなんて奇遇ですわね」
我が家のお隣の奥さんだ。お隣にも我が家のドラ息子と同学年の男の子がいる。
「そうですね。お昼ですか?」
「ええ、私はもう食べ終えたところですの」
「あら、そうなんですの。私は今から。なんでもここのオススメランチが美味しいって評判みたいなので」
口元に手を当てて、内緒話でもするように小声で返事をする。
「評判ってあんまり当てになりませんものね。私の口にはちょっとねぇ」
「あら、そうなんですの」
「ええ。脂っこいっていうのかしら」
「そうなんですの。じゃあ、どうしましょう。私、別のものを頼もうかしら」
「ええ、そうされた方が賢明かもしれないですわね」
微笑みをかわして、話を終えた。


もちろん、丸山さんの奥さんもお友達と一緒で、評判のランチを楽しみにしているお友達の手前、丸山さんだけが別のものを頼むってわけにもいかなかったようだ。
「ちょっとお花を摘みに」
そうこうするうちに、私の友人が上品に席を離れた。話し相手がいなくなったので、席でぼうっとしていたら、隣のテーブルからの話し声が耳に入ってくる。
「ほら、見てよ。いいでしょ。うちの息子が母の日のプレゼントにってくれたんですのよ」
丸山さんが取り出したのは、まったくついさっき観た覚えがあるようなハンカチで。そのハンカチをうれしそうに掲げて、向かいの席の友達に見せびらかせている。
「息子が母の日にプレゼントをくれるなんて、もう何年ぶりのことかしらねぇ。なんでも、あの子、この春から同じ学校にカノジョができたらしくて、その子にいいところ見せたいからって、彼女と一緒に買ってくれたらしいのよ」
「あら、まあ。じゃあ、もしかして、そのハンカチを選んだのって?」
「ええ、そのお嬢さんらしいわ。ほんと、あの子ったら、急に色気づいちゃって」
それでも、息子さんからのプレゼントには違いないので、幸せそうにハンカチを大事にたたんでバッグにしまう。
「じゃあ、そのうち、そのお嬢さんをおうちに連れてきたりなんかして」
「うふふ。かもしれませんわね。でも、こんな素敵なプレゼントを息子のために見立ててくれるなんて、きっとすごく素敵なお嬢さんに違いないですわね。おほほほ」


うん、たしかにあの子はいい子だとは思うわよ。
同意しそうになったのだけど、考えてみたら、私が思っている相手と同一人物である保証はないわけで。
けど、まったく同じものを見立てて自分の母親にプレゼントしてるわけだしねぇ〜 十中八九・・・・・・
「お待たせ」
友人が戻ってきた。
「そろそろ行きましょうか」
「ええ、そうね」
バッグを手に立ち上がり、丸山さんと軽く手を振りあって席を立った。レジで精算し、外へ出る。
「ねぇ、もしかして、斗亜ちゃんって彼氏とか?」
「あら、よく知ってるわね。最近、同級生の男の子と付き合いはじめたらしいのよ。名前はまだ聞いてないけど」
「そうなんだぁ・・・・・・」
「本当は、裕太郎くんみたいな子がいいのだけど」
「あら、どうして?」
「だって、ほら、裕太郎くんって勉強ができるし、運動神経もいいでしょ」
「そんなことないわよ。どんくさい子よ」
「そんなことあるわよ。うふふ」
リップサービスと分かっていても、母親にとっては息子が褒められるのってうれしいもので。笑みが勝手にこぼれるのを止めることはできなかった。


けど、そっかぁ お隣の礼史くんと斗亜ちゃんって付き合ってるのか。
駅前で友人と別れて、帰り道をたどる。
それに引きかえ、うちのドラ息子ときたら。何やってるのかしらね。
あのいたずら小僧の礼史くんでさえ恋人がいるのに、裕太郎ったら、本当、いつまでもグズグズして。
母親のひいき目を差し引いても、女の子が放っておかないほどには十分に整った顔立ちをしている子なのに。まったく。
ああ、あの子が私に母の日のプレゼントをくれるのはいつのことになるのかしら。
その日を待ち遠しく感じながら、夕焼け道を歩くのだった。独り言をつぶやきながら、
「でも、本当に、センスのないパッとしないハンカチだわ。ウフフフ」


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2017年04月30日

暖かい風




なんだろう? 今日はずっと隣から視線を感じる。絶対、気のせいなんかじゃない。だって、さっき一緒にトイレに行った時、柚香だってそう言ってたもん。白石ずっと見てるねって。
生まれてこの方、男子にモテたことなんて一度もないのに、朝からこんなに見つめられるなんて・・・・・・ 自然と頬が熱くなる。
で、気になって、そっちを見るのだけど、わざとらしく視線をそらして、決して私と視線を合わせようとはしないんだよね。
なんだろうね、一体?


次の休み時間こそは話しかけてみようって決心して、ジリジリしながら先生が教室を出ていくのを待っていたら、そんな時に限って当番でプリント運ばされちゃって、機会を逃して。
その次の休み時間こそはって思ってたら、移動教室。その次は体育で。
結局、昼休みになってしまった。
お弁当をだして、いつものように柚香のところへ移動しようか迷っているうちに、隣の席には新井がきていて、おしゃべりをはじめちゃってるし。
「白石、進路希望調査、書いた?」
「ああ、書いたよ」
「へぇ、どこ目指してるん? やっぱ地元の国立?」
「まあな。そっちは?」
「近場の私立だな。俺、成績良くないし」
「そっか」
偶然、新井と目があってしまった。かすかに目元に笑みを浮かべたような気がする。
「白石はいずれおやっさんの跡つぐんだろ?」
「ああ、その予定だ」
「いいな。社長だろ?」
「いきなりは無理だよ。ちゃんと社員から入って技術とか身につけないと」
ふ〜ん。そっか、お隣さんはどこかの会社の家の子なんだ。
「じゃあ、おやっさんの後はジュンさんの旦那さんが継ぐの?」
「ん? ああ、たぶんな」
「そっか、広野の兄ちゃんも出世だよな」
「出世かどうかは知らねぇけどな。うちは今にも潰れそうな中小零細だしな」
苦笑している。
というか、広野? 一瞬、ビクンとした。私の名字も広野だし。しかも純ってのも私の名前。
えっと・・・・・・?
「ちょっと訊いていい? その、ジュンさんだとか、広野さんだとかって・・・・・・?」
思わず声をかけた私に答えたのは新井だった。
「ああ、ジュンってのはこいつの姉貴。先週こいつのところで働いている広野の兄ちゃんと結婚したんだわさ」
「そ、そうなんだ・・・・・・」
広野さんと結婚したジュンさん。広野ジュンさん。私と同姓同名。
「ああ、それで、おねえさんが同じ名前になったから朝からずっと私のこと気にしてたんだ」
ポツリとつぶやいた私の言葉にお隣さんは鼻の脇を搔きながら困ったような表情を浮かべていた。私からも新井からも視線をそらせながら。
理由が分かって、安心したというか、ちょっと落胆したというか。複雑な感じで。
「そっか。広野ジュンさんって人か」


「理由は姉ちゃんと同じ名前ってだけじゃないけどな」
五時間目の後の休み時間、六時間目のノートを準備していたら、隣から声が聞こえた。
「えっ?」
私と同じように次の授業の準備をしながら、こっちに視線をやらずにつぶやいている。
「新井のヤツ、こないだからずっと広野のことばかりベタぼめだったから、ついな」
私にだけ聞こえるような声でそんなことをつぶやいてきた。鼻の脇を搔きながら。
一瞬、脳裏に私に笑みを向けてきた顔が思い浮かんだ。
開け放った窓から吹き込む五月の風は、すっかり暖かく、私の頬を火照らせていった。


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2017年04月23日

ささやかに距離が縮まる




予報外れの急な雨の午後、祖父が住んでいる寺の庫裏を出ると、開け放った山門の陰に人の姿が見えた。
僕の学校の制服姿の女子。肩を落とすようにして空を仰いでじっと佇んでいる。雨宿りしているのだろうか?
同級生だろうか? それとも全然知らない別のクラス、学年の人? 後姿だけじゃ判断できない。
ともあれ、用事が終わって僕は自分の家へ帰らなきゃいけないから、どうしても、その女子のそばを通り抜けることになる。そのときにでもこっそり顔を確かめればいいか。
そんな風に思いながら、傘を差し、参道を歩いて行った。


雨に濡れた石畳はつややかに光を反射し、湿った空気が鼻腔をいっぱいにする。
境内に植えられた木蓮のいくつもの長い花びらから上品な香りが僕にまとわりつく。
一歩一歩山門に近づいていく間に、だれだろうという好奇心が僕の中に広がっていくのを感じていた。
そうして、僕は山門にたどり着いた。
傘を打つ雨音に気が付いたのか、その女子が振り返った。
「・・・・・・」
知っている顔だった。この春からの同じクラスの子だ。でも、まだ学校では話したことはない。だから、なんて声をかければいいのか迷った。それは相手も同じみたいだ。
しばらく、見つめ合うようにして向かい合い、それから、言葉を探してみた。
結局、この場にふさわしい言葉は思い浮かばなかった。だから、黙ったまま会釈した。
「・・・・・・」
山門をくぐり、参道の先を進む。振り返る。その子はまだ山門で立ち止まったまま、無表情に無数の雨粒の軌跡を描く灰色の空を見上げている。もちろん、手には傘を持っていないようだ。
僕が振り返ったことにも気が付いていないみたい。ただ、顔を天に向けている。雨が降り止むことを願うように。


やや湿り気を含んだ髪がさらりと揺れた。僕がまた戻っていったからだ。
すこしだけ大きく見開いた眼で僕を見つめてくる。
僕は傘を閉じ、無言でそれをその子に差し出した。
しばらく僕の手の中の傘を見つめ、それから僕に向かって首を振った。それでも、僕はその子の手に傘を押し付け、強引に柄を握らせる。そして、再び庫裏に向かって駆けていった。
後ろを振り返ることもなく、石畳の上を。


庫裏に飛び込むと、玄関のところに祖父が立っていた。
笑みを浮かべ、禿頭の頭をなでている。たぶん、一部始終を見ていたのだろう。それでも、なにも言わない。
「なに?」
「・・・・・・(にやり)」
気が付くと、静かな所作で僕に自分の傘を差し出していた。
さっき僕がそうしたように、祖父もまた僕に柄を強引に握らせた。ただし、その上で僕の手を軽くたたいた。
僕は気にしないフリをして外へ出た。


さっきの子は僕が山門まで引き返してもずっとそこにいた。
僕が新しい傘をさして、戻ってきたのを何か尋ねたそうな表情を浮かべて眺めている。
「この寺、じいちゃんの寺だから」
いいわけするようにつぶやいた僕の隣で、彼女は小さく『ああ、それでか』と返していた。
そのまま、僕は山門を通り抜け、再び参道に歩を進めた。その数歩後ろを彼女が僕の傘をさして歩いてきていた。
結局、短い参道の先、交差点で左右に別れるまで、そのままなにも話さずに歩いた。



次の日の朝、教室で彼女は僕に傘を返してくれた。
ちいさく消え入りそうな声の『ありがとう』それだけを短く添えて。
傘はしっかり乾かされていて、丁寧にたたまれていた。
何人かの友人たちが僕たちのそんなやりとりを見ていたが、だれもなにも言わなかった。
ただ、にこやかに僕のことを見守っているだけだった。
その日、何度か彼女と視線がぶつかった。でも、それだけだった。前日までと変わらず、僕たちはほとんどなにも言葉を交わさなかった。なにも変わらなかった。
ただ一つだけ変化があったのは、帰りに教室をでるとき、ドアのそばの彼女の席から『さよなら』って声が聞こえたことぐらいだろうか。
まるで僕に掛けたつもりじゃないみたいなささやきにも似た声。
僕は傘の柄を握る手に力を込めて、そして、力を抜いた。
「じゃあ、また、明日」
口の中で不鮮明につぶやいて、僕は廊下へ出る。その耳が、かすかな『うん』という返事をとらえた気がした。


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posted by くまのすけ at 18:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする