2017年10月08日

隠れる猫




今日は近所の神社で秋の祭礼だ。
おかげでさっきから何度も家の前を近隣の氏子町のお神輿さんが通り過ぎていった。
で、そのにぎやかな行列を通りに面した特等席から見物しようと、親戚や友達が我が家に押しかけてくるのが毎年の恒例行事だ。
今朝も早くから親戚が訪ねてきて、お祭りそっちのけでお父さんたちと酒盛りして騒いでいる。
本当、勘弁してほしい。私、これでも来週テストなんだけどな。
はぁ〜


「ねぇ、由樹奈、チロちゃん見なかった?」
のどが渇いたのでジュースを飲みに一階へ下りていったら、お母さんが心配そうな顔をしている。
「えっ? いないの?」
「そうなの。朝から全然姿見ないの。ご飯も全然手をつけていないし。まさか外へは行っていないと思うのだけど」
チロというのは、今年から飼い始めた我が家のオス猫。完全室内飼いなので、家の中のどこかにいると思うのだけど・・・・・・
突然、大勢の見知らぬ人が押しかけて、その上、家の前の通りをにぎやかなお神輿が通り過ぎたりで、怯えてどこかの隅で身を隠しているのかしら?
家の中を歩き回って、ネコが隠れられそうな場所をあちこちのぞいて回った。でも、いない。あと、あの子が隠れられそうな場所といったら。
――兄貴の部屋かな。
祭礼の手伝いに行って今はいない兄貴。留守中に部屋に入ったのばれたら、うるさいんだよねぇ〜
こないだも、ちょうど切らしたシャーペンの芯を借りようと兄貴の部屋に入ったら、ガミガミ言ってきたし。
なにか私に見られちゃ困るものでもあるのかしら?
まさか、ベッドの下の肌色全開の本のこととか?
あんなの家族全員がすでに知っているし、あれで隠しているつもりになっているなら、兄貴も相当バカね。
鼻で笑って、兄貴の部屋に足を踏み入れた。


「由樹奈ちゃん、ここって、もしかして晴樹さんの部屋?」
「えっ?」
振り返ったら親戚の智花ちゃんが入口から顔をのぞかせている。
「ああ、うん、そうだよ」
「へぇ そうなんだぁ」
物珍しそうにキョロキョロ見回して、
「男の人の部屋ってこんな感じなんだぁ」
「ああ、そうか、智花ちゃんってひとりっ子だったっけ」
智花ちゃんは小さくうなづいた。
「今、兄貴いないから、入ってきても大丈夫だよ」
「えっ いいの?」
「うん。それに、いつもこの部屋、開けっぱなしだし」
部屋に入るなっていう割に、そういうところは適当だ。
「お、おじゃまします」


「ここが晴樹さんの部屋・・・・・・」
胸の前で手を組んでキョロキョロしてるけど、壁の一角に貼ってあるポスターに視線が釘付け。すぐに、悲しそうな顔で自分の胸元を見下ろした。
「やっぱり、男の人って大きい方がいいのよね」
「あ、う、うーん・・・・・・」
少なくとも私のよりも大きいのを見下ろしてため息つかれてもなぁ〜
って、私ここへ何しに来たんだっけ?
慌てて思い出して、ネコが隠れられそうな場所をのぞいて回る。
いた。ベッドの下の暗闇で目が光ってる。
「チロ。こんなところにいたんだ。おいで。大丈夫だから」
「にゃぁ」
私の顔を見て、声を聞いて、安心したのかな。甘えるような声を出している。でも、まだ下でどんちゃん騒ぎをしている音が怖いみたいで、全然出てくる気配もない。
どうしようか、むりやり引っ張り出す? それともこのままにしておく?
迷ってたら、
「ネコちゃん?」
「うん、下で騒いでるのを怖がって立てこもっているみたい」
「そうなんだ。怖くないよ。おいで」
智花ちゃんがベッドの下をのぞいて声をかけたら、途端にのっそりとその黒い体を現した。
「にゃぁああ」
そして、甘える声をだして智花ちゃんに鼻先をこすりつけて挨拶したり・・・・・・
ってか、お前もデカい方がいいのか! いつもエサをくれるのは誰だと思ってるんだよ!
ったく!
「チッ!」
ネコにまとわりつかれながら、なぜか智花ちゃんも同時に舌打ち。
「やっぱり、晴樹さんはおっきい人の方がいいんだね」
満面の笑みを浮かべる水着姿の表紙の女の人を憎々しげに睨んで。
そんな智花ちゃんにベタベタと体をこすりつけて、見たことないほどの甘えっぷりでチロが鳴く。
「にゃぁああ〜〜〜〜」
チッ、男ってやつは!


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posted by くまのすけ at 17:04| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月01日

リレー




中学のときには全然話さなかった相手でも、同じ高校へ進学すれば自然と話をするようになるよね?
そんなことを先日駅前で偶然会った中学時代の友達に話したら不思議そうな顔をされた。
「同じとこに何人か来てるけど、中学の時話さなかった子は高校でも話さないよ」
だって。
正直、びっくりした。おまけに『それが普通じゃない』なんていわれちゃったし。
じゃあ、私のケースってレア?


春、同じ教室の中で岩永の顔を見た瞬間、ホッとしたのを覚えている。
中学の三年間、別のクラスだったし、委員会や部活で一緒になったこともない。共通の友人がいるわけでもない。その上、男子と女子。全然接点なんてなかった。もちろん話したことなんて一度もなかった。
でも、あっちから話しかけてくれたんだ。
周りに知り合いなんて全然いないクラスの中で唯一の見知った顔。あのとき、思わず顔がほころんだっけ。
で、そのまま今に至るまで、クラスでよく会話する相手の一人だ。
そんな岩永と私、今週末の体育祭のリレー選手に選ばれてしまった。完全帰宅部で全然スポーツなんてしない私。当然、足が速いわけない。
学校の方針の体育祭には全校生徒が何かの競技に参加しなくちゃいけないというルールのせいで、くじ運の悪い私たちが選ばれただけなのだ。
そんな理由だから、選ばれたみんなは全然やる気がなかったのだけど、ただ一人、岩永だけは妙に張り切っていた。
バトン練習のときも率先して練習に取り組んでいたし、いつもメンバーに自分から声をかけて盛り上げようとしていた。
でもね。だからって、運動音痴の私がやる気になるなんてこともなくて、
「あ、ごめん。私、当日風邪ひく予定だから」
なんて逃げ出そうとしてばかりだった。


で、体育祭当日の朝。
学校へ行こうかどうしようか迷って、いつまでもぐずぐず家の中でしてたら、
――ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
『あ、俺、いや、僕、岩永伸平といいます。愛美さんの同級生です。愛美さんいますか?』
インターホン越しに岩永の声が聞こえてきたわけで。
結局、家族に冷やかされながら、家を出る羽目になってしまった。
って、あれは本当に彼氏じゃないし。私のタイプでもないし。
「ちょっとなんであんたが迎えに来てるのよ!」
「ああ、昨日、西村に迎えに行くように頼まれたから」
「だからって・・・・・・」
ちなみに西村というのは、私たちのクラスの体育祭実行委員。岩永はすこし赤らんだ顔で西村の口真似をした。
「ズル休みは絶対に許さない。絶対にだ! だってさ」
「ニッシーめっ!」
仕方なく岩永と二人肩を並べて、いつもの通学路を歩くことになってしまった。
まあ、たまにだけど、行きの電車が一緒だったり、帰りの時間が同じだったりで、これまでも並んで歩くことはあったんだけどね。
今日の電車は揺れがひどくて、岩永が何度かよろけそうになっていたな。
で、学校について、更衣室で急いで体操服に着替えて、クラスの集合場所に集まって、友達とぺちゃくちゃおしゃべりをして時間を過ごした。


お昼休みが終わり、いよいよクラス対抗男女混合リレーの時間。
さっきまでおしゃべりしあっていた友達に励ましの声をかけてもらいながら見送られつつ、選手の集合場所に到着した。
各クラスから選ばれた選手たちが集まってくる。
陸上部の子、サッカー部の子、テニス部の子。スポーツやってる子たちの真黒に日焼けした顔の中に交って、生っ白く全然日に焼けていない顔を見ると、正直ホッとする。
やっぱり、彼ら彼女たちもくじ運が悪くて、こんなところへ集まってきているんだろうな。
もちろん、私たちのクラスのメンバーも一人二人と集まり、後は岩永だけ。
「よっ、お待たせ」
一番最後に登場した。ニッシーが。
「えっ? なんでニッシーが? 岩永くんは?」
「ああ、あいつ、今、保健室。熱出して倒れやがったから、俺が代走」
「えっ? どうして?」
「昨日から風邪気味だったんだってさ。だいぶ具合が悪かったらしい。そんな状態なら、別に学校来なくてもいいのに。無理しやがって」
そういえば、学校に来るとき、テレてるのかと思ったぐらい妙に顔が赤かったし、電車の中でもよくよろけてた。
そっか、具合が悪かったのか・・・・・・


出番が終わって、保健室。
リレーの結果なんて訊かないでくれるとうれしいな。
私がベッドをのぞくと、岩永、静かに眠ってた。起こさないようにソッとそばの椅子に腰かけて、岩永の寝顔を見守る。
「バカね。風邪ひいているんなら、今日はお休みにすればよかったのに」
寝顔を見守っていると、自然と口の中でそうつぶやいていた。全然、岩永に聞かせるつもりなんてなかったのだけど、
「俺、どうしても瀬川と一緒に走りたかったから」
目を閉じたまま急にそんなことを口にしてきた。
「あっ、起きてたの?」
「前から楽しみにしてたんだ。一緒にリレーの選手に選ばれたときから。いや、たぶん、違うな、同じ高校に入ったときから、ずっと一緒に何かできないかなって思ってた」
「・・・・・・」
「本当は中学のときから・・・・・・」
これって熱のせいで妙な寝言を口走っているだけよね?
朦朧とした意識の中でとりとめもないことを話しているだけよね。うん、きっと目が覚めたら今言ったこと全然覚えてないんだろうな。
これは聞かなかったことにして、忘れてあげた方がいいみたいね。
でも、あ、あれ、なんだか、私、熱が出てきたみたい。岩永に風邪うつされちゃったのかも・・・・・・
あはは、今度は私がバトンパスをうけて熱を出す番かも。


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posted by くまのすけ at 17:48| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月24日

あなたの声が聴けるから




今日も予備校の帰りは遅くなった。
少し前までこの時間でも外は明るかったのに、今は真っ暗だ。
予備校からは明るい地下街を通って地下にある駅まで行ったし、電車に乗ってからはSNSで優ちゃんとやり取りしてたから気が付かなかったけど、東口の改札を出たら外は雨だった。
『雨だ。傘持ってきてないよ』
私の送ったメッセージにすぐ優ちゃんから返事。
『どんまい』
『優ちゃん、傘持って迎えに来てよ』
もちろん、冗談のつもり。いくらなんでも、友達に駅まで迎えに来てなんて本気で頼めない。それぐらいなら、西口に回って、コンビニでビニール傘を買うつもりだった。
だけど、
『うん、いいよ。待ってて』
『って、ダメだよ。外暗いし、雨降ってるし。冗談だから。さっきの冗談のつもりだから』
慌ててそう返事をした。
っていうか、いつもの優ちゃんならこれぐらいの冗談すぐに気が付いて、声上げて笑ってくれるのに・・・・・・


「あ、えっと、もしかして、君が西川さん?」
優ちゃんとの思いがけないやり取りで慌ててたところに急に声をかけられて驚いた。実際に何センチか飛び上ったかもしれない。
チェックのシャツの裾をズボンにキッチリしまった小太りの男性。私よりもすこし年上かな。リュックを背負い、一方の手に紙袋なんかを下げて、もう一方で大きな男性用の傘をぶら下げている人。見るからに、まあ、あれな・・・・・・むさくるしい雰囲気の人だ。
もちろん、私の知り合いじゃない。
眉をしかめた。
「だれ?」
「ああ、えっと、妹の友達の西川まどかさんでいいんだよね?」
なんで、この人、私の名前を知っているんだろう? それに妹ってだれのこと?
答えは、私の手の中のスマホが知っていた。
『ちょうど兄貴が駅にいるみたいだから、うちまで送ってくるように頼んどいたよ』
「・・・・・・」
絶句するしかなかった。


生まれて初めての父親以外の男性と相合傘。少し汗臭い。
「もうすこしよってくれた方が濡れないと思うけどな」
「あ、いえ、そんな、お構いなく」
「いや、でも、ほら、肩とか傘から出てるみたいだし」
そう言いながら、私に傘を寄せるものだから、今度はお兄さんが半分傘からはみ出ている。
その姿を見ていたら、ちょっと申し訳ないような気もして、仕方なく内側によった。汗臭さが一段ときつくなる。
けど、一つ傘の下。近い。それになに話したらいいのだろう? アニメとかそんなに詳しくないし。そもそもほとんど見ないし。
「あ、キンモクセイの香りだ」
「えっ?」
「ほら、これ、キンモクセイ。匂うでしょ? たぶん、そこの家の庭に植えてあるんだね」
お兄さんが指をさすけど、暗くて見えない。甘くつよい香りだけがあたりに漂っている。
「お兄さんは、花とか詳しいんですか?」
「ん? あ、うん。植物が好きなんだ」
「へぇ 男の人で植物が好きなんて珍しいですよね」
「まあね。知り合いでは他にいないかな」
「そうなんですか」
私の周りにもいない。
「それに、俺、大学で社会学やってるだろ。それでいろいろ調べててね」
「・・・・・・?」
正直、社会学と植物好きがどう結びつくのか、ちっとも見当がつかないのだけど・・・・・・?
「美化活動を熱心にやっている町はそうでない町よりも犯罪率が低いってのは知ってる?」
「そうなんですか?」
「うん、そうなんだ。だから、一種の美化活動ともいえるガーデニングをやっている人が多い地域は、犯罪率が低いだけでなく、他にもなにか特徴があるんじゃないかって研究しててね。今日もガーデニングやっている家を探して、あちこちフィールドワークしてたんだ」
そうして、いろんなことを話してくれる。熱心に。
もう汗臭さも見るからにダサい外見も気にならなくなっていた。


優ちゃんの家までお兄さんと一緒に向かい、そして、傘を借りて二人に私の家まで送ってもらってから一週間が経った。
今日も予備校の帰り、外は真っ暗だ。
電車を降りて、改札を出て、星が瞬く空を見上げる。
「やあ、まどかちゃん、今帰り?」
振り返る。汗まみれになるフィールドワークじゃなく、大学で講義を受けた帰りでキチンと身だしなみを整えた爽やかな大学生が改札を抜けてくるところだ。
「うん。私の電車も今ついたところだから」
自然と笑顔がこぼれる。
「そっか、もう暗いし、今日もうちくる? それとも、直接、家まで送ろうか?」
考えるふりをするけど、最初から答えは決まっている。
「家まで」
だって、その方がずっと長く二人っきりになれるから。キチンと理解できてはいなくても、ガーデニングと社会学の話が聴けるから。
そして、あなたの声が聴けるから。
前を歩く大きな背中を追いかけて、私も小走りに走り出した。


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posted by くまのすけ at 17:22| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする