2017年03月12日

だれからもらったの?




「えっと、牛乳、牛乳・・・・・・」
お母さんから渡されたメモをたよりに食材の棚を物色していく。
「あった」
学校から帰って、顔を合わせた途端、お母さんにおつかいを頼まれたのだ。買い忘れていたものを買ってくるようにって。
だから、今、近所のスーパーでカートを押しながら回っているのだ。
「次は、卵っと・・・・・・」


棚をあちこちのぞき、ついでに晩ご飯のおかずになりそうな総菜をみつくろって。
一通りカートの中に頼まれた食材が揃ったのを確認して、レジへ向かおうとしたのだけど、
「あっ、五十嵐」
小麦粉なんかが並んでいる棚の前でカゴをぶら下げて、同じクラスの五十嵐が立っていた。商品を探していて私にはまだ気が付いていないみたい。だから、後ろをソーっと通ろうとしたのだけど、
「あっ、ごめんなさい」
棚の上の方の小麦粉をとろうとした五十嵐のカゴが私のカートにぶつかった。
「・・・・・・」
さっきまで同じ教室で授業を受けていた同級生。先月の席替えで隣同士になったとはいえ、今まで全然話したことなんてなかった男子だ。正直、どう反応していいものかわからない。
それは相手も同じみたいで、戸惑っている様子。
「わ、わるい。ぶつかった」
「あ、うん」
そのまま、うつむき加減で通り過ぎようとしたのだけど、五十嵐のカゴの中、ハチミツだとか、チョコチップだとか、生クリームだとかが入っている。どれも製菓用の材料だ。
家でお菓子でも作るのかな。今はもうすぐ三月の半ばって時期ではある。当然、この時期に男子がお菓子を作るってことは・・・・・・
――あれ? 五十嵐ってそんなにモテるタイプだっけ?
ひと月ほど前のことを思い出してみる。それから、友達と交換したいくつもの情報にあたってみる。五十嵐の姿を改めて念入りに観察してみた。
先月のバレンタインデーには、大半の男子がそうだったように、チョコなんて手に入れてはいなかったようだ。それに、同じクラスの女子たちのだれも五十嵐にあげるなんて言っていなかったはず。
あの華やかで爽やかなクラスの人気者の澤田くんならまだしも、地味でクラスの中でもとりわけ影の薄い五十嵐にチョコなんてだれもあげるはずがない。なのに、ホワイトデーのお返しのためのお菓子作り? ありえない。でも、カゴの中の物はそういうことだし。じゃあ、一体、だれが五十嵐になんかあげたんだろう?
不可解だ。


五十嵐みたいな子に好意を持っていそうな女子っていったら・・・・・・
図書委員の藤原さん? ふたりとも地味だし、結構お似合いなような。
あ、でも、だめか、あの子、隣のクラスの図書委員の男子といい感じなんだっけ。
じゃあ、気配り屋のひかりちゃん? 去年、クラス中の男子に義理チョコ配ってたし。
いや、でも、今年は男子へ義理チョコ配るのやめたって言ってたな。
あとは・・・・・・ 西田さん? たしか、席替え前に五十嵐の隣の席だったはず。
って、ないない。あの子、大山くんと付き合ってるし。
ほかは・・・・・・ いないよなぁ
じゃあ、一体、だれ?


頭をひねっても相手がだれか思い浮かばない。だから、直接尋ねてみることにした。
「ねぇ、五十嵐ってだれかからチョコもらったっけ?」
「えっ?」
「それ、お菓子作るんでしょ? ホワイトデーのお返しの」
「あ、うん」
「誰にもらったの? 私の知っている子?」
「い、いや。その・・・・・・」
だれだ、だれだ? 五十嵐になんかチョコ渡したの。どこの物好きだ?
「あ、わかった。三組の川島さんでしょ? こないだ廊下で二人なんかしゃべっているの見かけたし」
「えっ? ああ、あれは彼女がプリント落としたから、拾ってあげてただけで」
「あら、そうなの」
違うのか、じゃあ、一体?
「じゃ、ないとすると・・・・・・ 前田さんじゃない? 彼女、雰囲気そっくりだし」
「えっと、ま、前田さん? だれ、それ?」
「ほら、一組の」「知らない」
違ったか。えーと、だれだ、だれだ?
眉根を寄せて、脳をフル回転させて推理してみるのだけど、結局、全然思い浮かばなかった。っていうか、五十嵐、女子との接点なさすぎ。
「降参。分からないわ。だれなのよ、教えなさいよ」
「そ、それは・・・・・・」
困った顔するばかりで、結局、スーパーの前で別れるまでだれなのか教えてはくれなかった。
――別に隠さなくてもいいのに。まったく。



「あのさ。これ」
「えっと? なに?」
「お菓子」
「・・・・・・」
今日は三月十四日、ホワイトデー。学校へ着いた早々、先に来ていた五十嵐が隣の席から、私に可愛くラッピングしたお菓子の包みを押し付けてきた。
「私、バレンタインデーになにもあげてないよね?」「うん」
「じゃあ、なんで?」
「ほら、こないだスーパーで会った時に、なんかいろいろ訊いてきたでしょ? それ、ねえさんに話したら、その子にあげなさいって押し付けてきた」
「えっ? なんで?」
「あのとき、俺、ねえさんに頼まれた品物を買ってたんだ。お菓子、手作りして大学の女友達同士で交換するんだってさ」
「へぇ、そうだったんだ」
なんだ、詮索して損した。理由が分かって、もやもやが晴れた。すっきりした気分だ。だったのだけど、なんだか、五十嵐、まだ私のそばでもじもじしてる。なにか言いたそう。気になったので、
「どうしたの?」
さらに真っ赤になって、私の顔をまっすぐ見れないみたいで、
「あ、あのさぁ ねえさんが言ってたんだけど、俺がだれからチョコもらったのってしつこく訊いてきたのってさ、もしかしてお前、俺のことを・・・・・・ いや、やっぱ、いい」
ガサガサ。パリポリ。あら、これおいしい。
コソコソ。チラ。ぽっ。
「なっ、わけあるかぁ〜!」


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2017年03月05日

最後のメッセージ




去年の中学の卒業式、式があった体育館を退出した直後に朋絵が話しかけてきた。
「喜美ちゃん、ありがとうね。私のわがままにつきあわせちゃって」
一瞬、なんのことか分からなかったけど、
「私と同じ学校の試験一緒に受けさせちゃって、ゴメンね」
「ああ、そんなこと。別にいいんだよ」
「でも・・・・・・ 喜美ちゃんなら、もっと上の学校行けたはずなのに」
「ううん。そんなことないよ」
「そんなことあるよ」
そうして、涙を流さんばかりにして私に抱き付いてきたのだった。
「私のために、一緒の学校へ来ようとしてくれてありがとう。お兄ちゃんと一緒の学校へ行きたいなんて私のわがままに付き合ってくれてありがとう」


近所に住んでいて幼稚園からの幼馴染みだった朋絵。小学校のときは、毎朝一緒に登校していたし、中学に入ってからも私が朋絵の家へ迎えに行って登校していた。
ずっとそうだったし、実のところ、同じ高校に入った今でもそうだ。
朋絵の家の玄関先から学校の昇降口のそばの階段まで、毎朝肩を並べて通学してきた。
「じゃ、バイバイ」「バイバイ」
手を振り合って別れ、階段を上る。朋絵は一階の普通科の教室へ向かい、私は三階の英数コース。放課後の部活も違うし、帰宅時間も違うから、朋絵とはこれから一日もう顔を合わすことはない。
思い出したようにメッセージのやりとりをするぐらいだ。
そんな状態だから、朋絵にも私にも、高校に入ってからそれぞれに別の友達ができたし、朋絵に至っては、同じクラスに彼氏までできたらしい。
だから、今からホワイトデーのプレゼントを楽しみにして浮かれ気味みたいだ。
それに対して、私の方はというと・・・・・・


「おはよう、喜美ぃ、数学の宿題やってきた?」
「えっ? ああ、うん」
「ホント。じゃあ、見せて」
「いいよ」「ありがとう。今度、なにかおごるね」
「はーい」
隣の席の涼香ちゃんが私のノートを写してる。今は部活で忙しいみたいだ。うちのバスケ部の期待の星だから。しばらくして、写し終わった。
「ホント、喜美の字って読みやすくて綺麗だよね」
「えへ、そう?」
「うん。書道とかやってたの?」
「あ、うん。小学校のとき、すこし」
「そうなんだぁ」
小学校のとき、私は朋絵たちと一緒に近所の書道教室へ通っていたのだ。
「ねっ、喜美って部活入ってないんでしょ。書道部とか入んないの?」
「ううん。私、ああいう書道パフォーマンスとか興味ないから」
「そっかぁ」
実際、この学校に入学した直後に見学へいったことがあったけど、肌が合わないような気がして、結局、入部することはなかった。
それに、私が書道を習っていた本当の理由は・・・・・・


その後も、あれこれ話していたのだけど、
――ブ、ブ、ブ
涼香ちゃんのスマホが震えた。
「あ、ごめん。彼氏から」
「あ、うん。いいよ」
「ごめんね」
相手は同じバスケ部の先輩らしい。話にはよく登場してくるけど、会ったことはまだない。
涼香ちゃん、スマホの画面とにらめっこして、メッセージのやり取りを始めた。
柔和な表情で、やわらかく微笑んでいる。
本当に、心から相手のことが好きなんだなぁ
正直、うらやましくなる。
もしかすれば、朋絵の方も彼氏と話しているときにはいつもこんな顔しているのかも。


――ブ、ブ、ブ
今度は私のスマホが震えた。画面をのぞいたら智則さんから。
『キター! 第一志望合格!』
『おめでとー』
『サンキュー』
こないだ受けた国立大学の入試結果が郵送されてきたみたい。
「ねぇ? 大丈夫?」
「えっ?」
声をかけられて顔を上げたら、涼香ちゃんが私のことを心配そうにのぞき込んでいた。
「泣いてるけど、なんかあったの?」
「えっ? ウソ」
慌てて、手で目元をぬぐったら、温かいものが指先を濡らした。
「大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫、平気。平気」
「そう?」
ハンカチを取り出して目元をぬぐい、これ以上心配かけないように笑う。
改めて、スマホの画面をのぞきこんだら、にじんだ文字が私に伝えていた。
『妹のこと、これからもよろしくな』
ずっと背中を追いかけていた二つ年上の朋絵のお兄さん。先月卒業式もすみ、たった一年だけだけど、同じ高校へ通えた。そして、これからは離れ離れで。
『妹を心配して一緒にうちへ進学してきてくれたとき、正直とてもうれしかったよ。ありがとうな』
――ちがう。
本当のことを伝えれば、どれだけ良かったろう。本当は・・・・・・
それでも、なにも伝えることができなくて、じっと長くその智則さんからのメッセージを見つめ続け、最後のメッセージを送った。
『智則さんもお元気で』
液晶の画面で水滴が小さくはじけた。


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2017年02月26日

ファンファーレ




お雛様を飾るときに、いつも不思議に思っていた。
他の女の子の家では三人官女や五人囃子を飾っているのに、我が家のお雛様は六人官女と十人囃子。お内裏様とお雛様は一体ずつなのに……
たぶん、二セット分の雛人形が交っているのだろう。なら、お囃子だとか官女だとか持ち物が同じものが二体ずつあってもおかしくない。なのに、我が家のはそれぞれに別の持ち物をもっていた。
たとえば、定番の横笛や鼓だけでなく、ギターを奏でていたり、トロンボーンを吹いていたり。他の家では見たこともないものを持っている。どうなってるんだろう?
「ねぇ? なんでうちの雛人形、他のうちと違うの?」
母に問いかけたら、教えてくれた。
「半分はお父さんのお姉さんの人形なのよ」
つまり、私から見ると、父方の伯母さん。
「東京に住んでいる?」「そそ、その人」
母の説明によると、その伯母さんマンション住まいで家が手狭なので、フルセットで雛人形が飾れないからとお雛様とお内裏様だけを飾り、他の人形は全部我が家に預けているらしい。
で、官女や囃子が二セットあっても仕方ないというので、母が小物類を手作りした結果が今の姿なのだそうだ。


今日から従姉の奈緒ちゃんが泊まりにくるという。近くの大学へ受験に来るらしい。
奈緒ちゃんとは、子供のころからお正月やお盆のたびに顔を合わせてきた。今年のお正月もそう。
お父さんのお兄さんにあたる伯父さんたちと一緒に帰省してきて、正月二日には帰っていった。
あの時も、奈緒ちゃんとは一緒にカルタ取りや福笑いとかしたけど、どこか上の空な感じだった。
たぶん、あのころから受験のことが頭を離れていなかったのだろうな。まして、こっちの大学を受けるって決めていたみたいだし。
お父さんたちも子供のころから知っている奈緒ちゃんがもう今年受験生だっていうので、ずい分感慨深そうにしていたっけ。伯父さんとお互いに薄くなったって笑っていたな。
というか、奈緒ちゃんが今年受験なら次は私の番だぞってしつこいの、うんざりだわ。ホント。
で、奈緒ちゃんがくるというので、お母さんと一緒に客間を片づけたりして、朝から準備をして、夕暮れ、駅まで迎えにいったお父さんの車に乗って奈緒ちゃんがやってきた。
子供のころから来なれているとはいえ、一人で我が家に来たのは初めての奈緒ちゃん、ちょっと緊張顔していた。
「あ、奈緒ちゃんだ」
「お、お邪魔します」
「さあさ、入って入って。よく来たね」
「は、はい」
お母さんに招き入れられて、居間の掘りゴタツにおずおずと足を入れる。
「あったかい」
「冷えたろう。お茶でも飲んであったまって」
「ありがとうございます」
今まで見たどの奈緒ちゃんとも違って、おとなしくて礼儀正しい。すごく猫かぶってる。しかも、顔がひきつっている。緊張している。
そう判断したから、
「ね、ね。奈緒ちゃん。ほら、見て、可愛いでしょ」
お母さんが作ってくれたお気に入りの髪留めを見せてあげた。
「わあ、かわいいわねぇ」
うん、全然、心がこもってないぞ。
こういう小物類って奈緒ちゃんも大好きなはずなのに…… 緊張しているのかな? 受験は明日からなのに、今からこんなので本当に大丈夫なのだろうか?
その後も、家族そろってあれこれチヤホヤしてリラックスさせようとしてみたのだけど、結局、全然ダメだった。


夕食をとり終え、家族みんなでテレビを見ながら寛いだ時間を過ごしていた。
でも、奈緒ちゃんだけは、あてがわれた部屋でひとりこもって、明日に備えて勉強中。
もちろん、これまでにもいくつもの私立大学の受験を終えてきた奈緒ちゃん。でも、その結果は全然ダメだったみたい。暗い顔してた。だから、明日からの受験に失敗すれば、浪人決定の瀬戸際に追い込まれていた。そのせいか、私が客間をのぞいたときには、悲壮感さえ漂わせながら、机に向かっていたな。
おかげで、奈緒ちゃんの勉強の邪魔にならないようにってんで、テレビの音量をいつもより下げて、笑い声を極力控えるようにして。そしたら、なんだか全然面白くない。いつもなら、居間中に家族の楽しげな笑い声が響いて、笑顔が重なり、一緒に過ごしているだけで幸せな気分になるのに。
重苦しい。まるでお通夜みたい。
はぁ〜 なんかなんかだよねぇ よくは分からないけど。
仕方なく、いつもよりも早くお風呂に入ろうと思ったのだけど、今日は奈緒ちゃんがお客さんとして我が家に泊まっているのだから、先に入ってもらうのが礼儀だよね。だから、そうしてもらった。
で、結局、私のお風呂はいつもの時間。
自室で着替えをまとめて、お風呂場へ向かう。けど、途中、だれもいないはずの座敷の電気が点いていた。
――消し忘れかな?
電気を消そうと、ふすまを開ける。正面に雛人形が飾ってあるだけで誰もいないはず。でも、今はその前に人がいた。奈緒ちゃんだった。奈緒ちゃんが、真剣な顔で雛人形を眺めている。
「奈緒ちゃん?」
「雛人形だね」
「うん」
黙って食い入るように眺めている。隣に立ってその横顔を見ていた。
「いろんな人形があるんだね」
「あ、うん」
「ふふふ、これキーボード弾いてる」
「うん。こっちは、ほら、トランペット」
「あ、本当だ」
無邪気な笑顔を浮かべ、白い歯がこぼれている。自然な笑顔だ。この家に来た時からずっと強張ったままだった表情はもはや跡形もない。
「東京の伯母さんの人形があるんだって。それと、楽器とかお母さんの手作り」
「ああ、だから、すごくよく出来ているんだ」
「でしょ」「うん」
それから、二人して人形のことを眺めて、そして、笑い合った。
気が付けば、すっかりいつもの奈緒ちゃんがそこにいた。


受験が終わった翌日には奈緒ちゃんは戻っていった。
合格発表はまだ少し先。でも、たぶん、大丈夫。
だって、あの日、あんな笑顔でいられたのだから。
とてもリラックスした柔和な笑み。
あれなら、きっと。
勝利のファンファーレを高らかに奏でているような十六体の人形たちを見上げて、私も自然と頬を綻ばせていた。


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posted by くまのすけ at 17:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする