2018年04月15日

きっかけ




先週婚約したばかりの叔父が我が家に遊びに来た。もちろん、婚約者と一緒。私たち家族にお披露目に来たのだ。
実の兄にあたるお父さんはすごく喜び、お母さんも終始ニコニコとうれしそう。もちろん、私も笑顔ですごしていた。
お父さんとは年が離れていて、ほとんどお兄ちゃんみたいな感覚で接してきた叔父さんがもうすぐ結婚かぁ 相手はどんな人なんだろう?
家族みんなで楚々としておとなしそうな相手の人をジロジロ眺めたりしてた。
けど、お兄ちゃん、ずっと面食いだと思っていたのだけど、そうでもなかったんだね。


で、夕食前、相手の人が台所にいるお母さんを手伝って席を離れたすきにお兄ちゃんに質問してみたら、
『顔なんて店屋の看板みたいなもんだろ。相手に興味を持つきっかけにはなるけど、選ぶ決定的な理由にはならないな』
だって。そういうものなのか。
ソファーにふんぞり返ってうまそうにビールを飲んでいるお父さんもお兄ちゃんの話に大きくうなずいているし。
『顔の良しあしで人を選ぶような人間は将来出世しないぞ。だから、俺は同期のだれよりも早く部長になれた』
なるほど、そういうものなのか・・・・・・
なんとなく、顔がいい方が出世しそうな気がするのだけど。大事なのは中身なんだね。そして、その人の本質を見抜く目を持つことが一番大事なんだ。
って、ちょっと待って。いやいや、それ、お父さん、お母さんに失礼でしょ!


みんなで『おめでとう』『おめでとう』言い合いながら、ワイワイ盛り上がって夕食は終わった。
お父さんもお兄ちゃんもしこたまビールを飲み、テレビをつけっぱなしにしたまま、リビングのソファーでいびきをかいている。
お母さん、お兄ちゃんの相手の人、私の三人は台所で汚れた食器の後片付け。
「ふたりともありがとうね」
「いえいえ」
「お小遣いアップでいいよ」
「うん、それはまた今度ね」
「ええ、ケチぃ〜」
洗剤をつけたスポンジで食器の汚れをゴシゴシ洗い、水洗いし、布巾で拭いて、食器棚へ。食洗器を使えばラクなんだろうけど、我が家にはまだないし。
「はい、これも拭いて」
「はーい」
「お兄ちゃん、叔父さんとは中学の同級生だったんでしょ?」
「ああ、はい。そうですよ」
「二人はそのころから?」
「はい」
なんでも、お互いずっと意識してて、思い続けた結果、婚約までたどり着いたらしい。
「あの人と一緒にいると、なんかホッとするというか、安心できるっていうか」
「ああ、そうね。控えめでおとなしい人だものね」
「ええ。私も結構人見知りする方なので、そういう人の方が一緒にいると気楽っていうか」
「なるほど。似た者同士ってわけね」
「ええ」
そういえば、さっきから全然、私たちと視線を合わそうとしないけど、ずっと人見知りしてたのかな。
けど、控えめ同士だなんて、どうして好きになったのだろう?
接点なんてなさそうに思える。
不意にクラスで隣の席の川口くんの顔が頭の中に浮かんだのは二人には内緒。無口で恥ずかしがり屋で。どことなくお兄ちゃんに似ている気がする。
「中一のときに、あの人が授業中に教室の床に消しゴムを落としたので、それを拾って返してあげたら、口パクで『ありがとう』って言ってくれたんです。声に出して感謝されるよりも、それがなんだか特別で秘密な二人だけの関係みたいに思えちゃって・・・・・・」
結構、たわいもないきっかけだった。
そんなものか。そんなものなのかもしれない。


そういうことが頭のどっかに残っていたのだろうな。
さっきの数学の授業、シャーペンを落としてしまって、川口くんの足元へ転がっていった。
川口くん、もちろん親切に拾ってくれて、『はい』って返してくれたんだ。
だから、気が付いたときには・・・・・・
ってか、これって結構恥ずかしいかも。
さっきからじっと私の口元を見てるんだけど。さかんにまばたきしてるんだけど。もじもじしちゃってるんですけど。
頬に赤みが差しているんですけど。


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posted by くまのすけ at 17:13| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月08日

桜並木




今度の学校、校門前の道路が桜の並木道だ。
今朝も四月の穏やかな陽気の中で登校していると、淡い桃色の花びらがふわりと舞って私の視界を横切って行った。
顔を上げると、道の両側の桜の木は、数日前に比べて茶色が濃くなり、ところどころに葉の緑が顔をのぞかせはじめている。桜の季節も終わりが近い。


桜が華やかで美しいとしても、それは二週間ぐらいしかつづかない。
花が咲いて、散ってしまうまでの期間。その後の葉桜はとても地味で、他の木と大差がなくなる。もう誰も見向きもしない。
でも、美人は生まれた時から死ぬまで美しく、ずっと綺麗なまま。桜みたいにほんの一瞬だけ輝くわけではなくて、ずっと人目を惹き続ける。
幼稚園からずっと一緒の吉乃がそうであるように、だれからもチョウよ花よとチヤホヤされる。
「はぁ〜」
そして、私みたいなのは葉桜だ。生まれたときから死ぬまで一生葉桜のままだ。地味で、だれからも見向きもされなくて。生まれた時からそう決まっているのだ。
「はぁ〜」
また私の視界を横切るように花びらが漂っていった。


「きれいだ」
不意に、すぐ近くでかすれた声で誰かがつぶやいた気がした。男子の声。知ってる。これって、初めて吉乃を目にした男子のだれもがそうしているような声だ。
でも、私の近くには今吉乃はいない。部活の朝練で早めに登校した。だから、ここにいるのは私だけ。その男子と二人だけ。
その男子が『きれいだ』ってつぶやく。
・・・・・・
視界の隅で桜の花びらが舞っている。私にまとわりつくようにそよ風が吹き、花びらがくるりと回る。
「きれいだ」
――トクン。
一瞬で頭の中を大好きないくつもの少女マンガのシーンが駆け巡った。並んで美しい花火を眺めている男子が隣の女子の方に顔を向けて、不意につぶやいている。
――そんな。ばかな。だって、私は葉桜。満開の桜じゃない。
けど、その声はすぐ近くから私にだけ聞こえていて。
頬が熱くなるのを自覚しつつ、ドキドキしながらこっそりと盗み見た。
すぐ近くに男子がいた。あれはたしかこの春から同じクラスになった佐伯くん。
その佐伯くん、うっとりとした表情を浮かべて、私の方を・・・・・・正確には、私の頭上を見上げていた。
花びらが一枚、またはらりと枝を離れた。
「きれいだ」


「はぁ〜 こんなことだろうと思ってた」
私なんて眼中にない。私は葉桜。
ふと佐伯くんの視線が花びらと一緒に下りてきて、私のとぶつかった。見る見る顔が赤くなっていく。
自分のつぶやきを私に聞かれていたの気が付いたかな。
顔をしかめて、横むいた。自分の鼻の頭を爪でひっかいて、不器用に照れ隠し。ぶっきらぼうな口調、
「言っとくけど、桜が散っていくのが綺麗なんだからな」
「分かってるわよ。そんなの」
うん、生まれた時からずっと知ってる。
背を向けて、校門へ向けて歩き出す。道路に散った花びらが風に吹かれて舞い上がった。
いずれは朽ちて土に還る花びらだけど。今はくやしいほど、とてもきれい。
「きれいでしょ」
「ああ、綺麗だ」
「よかったね」
「大島さんも桜好き?」
「えっ?」
名前覚えてたんだ。
「大島さんでしょ? 今度、同じクラスになった」
振り返った。まっすぐ私を見ていた。じっと真剣な目で。
「ええ、私も好きよ」
すごくうれしそうに笑っていた。
桜の並木に、すこしだけ緑が濃くなっていた。


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posted by くまのすけ at 18:28| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月01日

TOKYOオリンピアン募集!




 すでに桜が満開となった四月一日ですが、いまだに二月に開催されたピョンチャン冬季五輪、先月の冬季パラリンピックでの日本人選手の活躍や、世界のトップアスリートたちの目をみはるパフォーマンスに興奮冷めやりません。また、六月に始まるサッカーワールドカップ・ロシア大会、いよいよ来年に迫った日本で開催されるラグビーワールドカップなど、今後とも目を離せない注目のスポーツ大会が目白押しにあり、再来年の東京オリンピック・パラリンピックへ向けて期待感が一層高まっていく一方といえるでしょう。


 そこで、弊社・データRAME研究所では、新プロジェクトの立ち上げをここに発表いたします。
『TOKYOオリンピアン、発掘・育成プロジェクト』
 弊社がこれまで培ってきたノウハウや蓄積してきたデータを活用し、東京オリンピックやその先の北京・パリ・ロサンジェルスを目指すアスリートの発掘・育成プロジェクトを開始いたします。
 現在、すでに弊社のデータベースには、全世界から選ばれた全三十五種目のオリンピック競技トップアスリートたち約一万人分の遺伝子情報や身体的特徴、性格分析データが蓄積されており、それらを解析することにより、どのような性格や遺伝子因子がどの競技に適しているかを統計学的に明らかにしております。
 そういった解析結果を弊社が開発した人工知能AIに読み込ませ、運用することで、みなさんのお子さん一人一人にあった競技の提案や練習メニューの提示、あるいは指導プログラムの提供を行います。


◎方法について
 ご応募いただければ、後日、弊社から検査用の専用キットを送付いたします。ご家庭に到着ししだい、キット内の説明書に沿って、お子さんの内頬を綿棒でこすって、細胞片を採取し、また、同封の心理テストや学校等での体力測定結果を一緒にご返送していただくだけです。
 返送から約二週間〜三週間ほどでお子さんにあった競技を記した分析結果がお手元へ届くことになります。
 その後、弊社とご契約いただければ、お子さんにあった指導メニューや練習方法の提案、クラウドファンディングを活用した強化費の調達等のバックアップも行わせていただきます。


 ぜひ、みなさんのお子さんにもTOKYOオリンピアンになるチャンスを!
 次の金メダリストはあなたのお子さんかもしれません!



2018年4月1日 データRAME研究所



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posted by くまのすけ at 16:51| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする