2017年08月06日

オリオンを見に行こう!




「大野って、たしか前に学生時代天文部だったって言ってたよな?」
トイレから戻ってくると、キーボードを打つ手を休め、隣の席の坂本がそんなこと尋ねて来た。
「ん? ああ、高校のときな」
そう、俺の高校三年間は天文部の部室の中に青春の思い出の大半が詰まっていた。
部室の窓から初恋の子がグラウンドを駆け回っているのを眺め、思い切って告白し、そして、失恋した。その後、窓からその子とサッカー部のキャプテンとが交際を深めていっていくのを目撃し続ける羽目になったし。
どんな罰ゲームだよ。
結局、星に関してよりも、そっちの思い出の方が多い気もするが。それなりに充実した三年間だったと言っていいだろう。三年間、彼女なんてできなかったが。
「じゃあさ、やっぱ、星座とか詳しいよな?」
「ああ、まあ、大体なら」
「じゃさ、じゃさ・・・・・・」
ゴソゴソとポケットからスマホを取り出して、暗い画面を見せてくる。街の明かりに照らされて、画面の端の方の木々が白くぼうっと浮かんでいる。夜空の画像のようだ。
「ほら、これ、なんていう星座?」
よく見ると、空は真っ暗ではなく、ところどころ小さな点がポツンポツンと並んでいる。
特徴的な三ツ星が縦に並び、それらを囲むように3つの明るい星が光っている。たぶん最後の4つ目は画面の下。遠くの山並みの陰にあるのだろう。
「オリオンだな」
即答したら、坂本のヤツ、顔を綻ばせた。
「だろ。やっぱそうだよな。うんうん。そうだと思ってたんだ」
「どうしたんだ? 急に、星の写真なんか?」
「いや、昨日、中田ちゃんと飲みにいっててさ。星見上げたらこれが見えてたから、あれオリオン座だぜって教えてやたのよ」
「・・・・・・」
「そしたら、中田ちゃん、オリオン座って冬の星座だから、今は見えないはずって言ってきかなくてさ。で、しばらく『オリオン座だ』『ありえないわよ』って言い合ってたんだけど、そしたら、大野が天文部だったってこと思い出して、訊いてみることにしたんだ」
「・・・・・・」
「ん? どうした? 聞いてる?」
急に黙り込んだせいか、怪訝そうに坂本が俺の顔を覗いてくる。
「あ、いや、なんでもない」
「そっか。いや、でも、これですっきりした。ありがとうな」
「あ、ああ・・・・・・」


「先輩、星に詳しいんですか?」
今度は反対側の隣の席から後輩の池永さん。今の坂本との会話を聞いていたのだろう。
「ああ、高校時代天文部だったからな」
「そうなんですかぁ 私も星大好きですよ。あ、でも、全然、星の名前とか知らないけど。何も考えずに、ぼうっと眺めてると落ち着きますよね。綺麗だし」
「あ、ああ・・・・・・」
「それに織姫さまとか彦星さまの話とかロマンチックだし」
「ベガとアルタイルな。あと白鳥座のデネブで夏の大三角」
「あ、それ知ってます。歌の歌詞でありましたよね?」
「ああ、あったな」
すぐにハミングしはじめた。かなり音程が外れていて、最初に言われていなければ、たぶんだれもあの曲だなんて気が付かないだろう。
「そうだ、先輩、さっきの話だけど、夏でもオリオン座って見えるんですか?」
「ああ。というか、基本的にその時に太陽がある方角以外の星なら晴れてればどの季節のものでも年中見ることができるんだぞ」
「えっ? そうなんですか?」
「ああ、星が見えないのは日光がまぶしすぎて、星の光を消してしまうから。だから、太陽のある方向以外なら太陽の光が届かない夜の間のどこかで見ることができるんだ」
「へぇ そうなんだぁ〜」
その後、手元のメモ帳に太陽と地球の簡単な模式図を描いて、星が見える理由と範囲を教えてあげた。
池永さんは俺のその混み入って長々とした説明にずっとニコニコしながら耳を傾けていてくれたけど、本当は退屈だったんじゃないだろうか?
付き合いよく黙って聞いているフリをしてくれたのだろう。
高校時代のあの子のように・・・・・・
気を使わせて、ちょっと申し訳ないことをしたな。
「先輩、本当に天文学が好きなんですね。尊敬しちゃいますね」
「ああ、まあな」
たぶん、本当は、俺の説明の半分も理解していないだろうに、すごく感心したような様子で、池永さんは俺をたたえてくれるのだった。
うん、本当にいい子だ。


「そっか、オリオン座って夏でも見れるんだぁ」
「ああ、まあな」
「じゃ、今度、オリオン座を見に私を連れていってくださいよ」
「へっ?」
マヌケな返事が出てしまった。
「私もオリオン座見たいです」
「えっと・・・・・・」
「いいな。中田先輩。オリオン座見れて」
「あ、えっと・・・・・・」
隣でキーボード打ちながら俺たちの会話を聞いていた坂本が口をはさむ。
「いいじゃん、池永ちゃん、連れていってあげなよ」
「あ、あのなぁ」「いきたいですぅ」
「ほら、本人もこう言ってんだし」
小動物のような目をして俺のことを見上げてくる。
うん、本当、可愛いな、この後輩。


その後も、しつこくオリオン座見に行きたいって主張する池永ちゃんの相手をしていたら、大して仕事にならなかった。まあ、夏枯れの時期だから、仕事量自体はさほどのモノじゃなかったので、なんとか終業時間までに終わらせたのだが。
「じゃ、おつかれー」
「今度、オリオン座見に連れていってくださいよ」
「まだ言ってる」
呆れつつも、ちょっと小声で話しかけた。
「あのさ、坂本と中田って実は付き合ってんだぜ」
「えっ? そうなんですか?」
キョトンとしてる。やっぱり、理解していなかったようだ。
「だってさ、あいつら一緒にオリオンを見たって言ってんだし」
「えっ?」
俺の言っていることがまだ理解できないのか首をひねっている。
「今の時期、オリオンが見えるのは、朝の日の出直前なんだ。つまり、あいつら一晩一緒に過ごしたってこと」
「っ・・・・・・」
見る見る池永ちゃんが赤くなっていく。本当にマンガのように蒸気があがりそう。
「どうする、それでも俺と一緒にオリオン見に行く?」
そんなこと言われたら、首をブンブン振りまわすだろうな、なんて半ば予想していたのだけど。
チラリと上目づかいして、慌ててそらせた。そして、心もちうつむき、ギュッと眼を閉じ、思い切った様子で、
「わ、私。先輩と一緒にオリオン見たいです」
消え入りそうな声で答える後輩がそこにいた。
「先輩となら」
たぶん、今、俺の方が頭から蒸気を噴き出していただろう。天にも昇る想いで。信じられない気分で。
さあ、今晩晴れたらオリオンを見に行こう!


短編・ショートショート 目次(2017)へ
↓↓↓ついでに、ポチッとしてくれると、やる気が出るかも^^b ↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログへ人気ブログランキングへ


posted by くまのすけ at 21:40| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月30日

内緒のこと




理沙の家の居間に案内されて部屋に入っていったら、ソファーでお兄さんのノボルさんが姿勢を正すところだった。
「やあ、いらっしゃい」
「お邪魔します」
ちょっと緊張しちゃう。子供のころから知っている相手だけど、でも年上でスラリとしていて、手足が長くて・・・・・・ カッコよくて。
「あれ? 今日はなに? 夏休みの宿題?」
「あ、はい。ネットとかで調べてレポート書かなくちゃなので」
「そっか。がんばってね」「はい」
なんて笑顔で言葉を交わしてから、ノボルさん居間を出ていった。気を利かせてくれたのだろう。
でも、ちょっと残念な気分。もうちょっと話していたかったな。
ともかく、台所へ飲み物の用意をしにいっている理沙からあらかじめ教えられていた通りにタブレットの電源を入れて・・・・・・
「あれ? スリープモード?」
――さっきまでノボルさんがここにいたから使っていたのかしら?
早速、ロックを解除して、ブラウザアプリを立ち上げて、理沙が戻ってくるよりも先に調べものを始めた。


ドタドタドタ。
部屋の外の廊下、とても慌てている足音が近づいてくる。
理沙かしら? どうかしたのかしら?
「理沙? なにかあった?」
声をかけている間に入口から姿を現したのは、理沙ではなく、ノボルさんだった。
えっ?
そのまま焦り顔で、私のそばへズンズン近づいてくる。
「あ、ごめん。ちょっと貸して」
冷や汗を浮かべながら、私の手からタブレットを取り上げた。
「あ、どうぞ」
それからノボルさん、神妙な顔で何かの操作をしている。やがて、操作がおわり、気が抜けたように息を吐きだした。
「ありがとう。はい」
打って変わって、にこやかに私へタブレットを渡してくれる。でも、なんの操作をしたんだろう?
じっとノボルさんの顔を見上げて、首をひねっていたら、
「ああ、なんでもないから。なんでもないから」
なんて、後ずさるように出口へ向かおうとしてるし。
なんか怪しいな。こういう姿って見たことある。うちでもお兄ちゃんが、私になにか隠し事をしているときに、こんな態度をとるんだよね。
なんだろう? ノボルさん、私から何を隠したんだろう?
そしたら、ピンとひらめいた。ためしにブラウザの履歴を確かめてみると真っ白。
「ああ、履歴消したんですね」
「さ、さあ、何のことかな」
「ふふふ」
作り笑顔をしつつ、ジトっと見つめたりして。私っていじわる。
「・・・・・・」
「大丈夫です。理沙には内緒にしておいてあげますから」
途端にしおしおになっちゃった。そして、観念してぺこりと頭をさげてきた。
「お、お願いします」
「はい。うふふふ」


「そうだ、今度ケーキでもおごるよ」
「えっ? いいんですか?」
「ああ、もうすぐバイト代入るし。あそこのケーキバイキングでいいよね?」
「わー。ありがとうございます」
「ああ。だから、その」
「はい。分かってます。理沙には内緒で」
「じゃあ、よろしくたのむね」
「はい」
そう元気よく返事をしたのだけど、よく考えてみたら、これって・・・・・・
わ、私、あのノボルさんとデートの約束しちゃった。ど、どうしよう。成り行きとはいえ、親友のお兄さんとだなんて・・・・・・
理沙の怒る顔が頭の中にチラついたのだけど、でも、それでも素直にうれしい。
だって、子供のころからずっとだもん。本当に、本当にずっと。
理沙には、どう言おうかな。
そんなことを考えていたら、スマホにメッセージが届いていた。
『お兄ぃと話ついた? もうそっち行ってもいい?』
『えっ?』
『ホント、変態どスケベなんだから』
結局、最初から全部バレていた。
『それと、ふつつかな兄ですが、これからも末永くよろしくお願いいたします』
だって。
ホント、理沙ってなんでも気づいているのね。


短編・ショートショート 目次(2017)へ
↓↓↓ついでに、ポチッとしてくれると、やる気が出るかも^^b ↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログへ人気ブログランキングへ


posted by くまのすけ at 17:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月23日

カムフラージュ




部活帰り、校門を出たところで、先を歩いているおさげ姿を見つけた。
「よっ、今帰り?」
千秋が振り返って、眼鏡の奥の目元をほころばせた。
「うん、昇ちゃんも帰り? 一人?」
「ああ、広美ちゃん、バイトがあるって、先帰った」
「そうなんだぁ 二人順調?」
「ああ。おかげさまでな」
先月、千秋たちの協力もあって、俺はずっと想っていた広美ちゃんと交際を始めることができたのだ。
「そっちは? 今日は一人?」
「あ、うん。圭ちゃんまた体育館裏に呼び出されてる」
「はぁ、またかよ」
「今月三回目」
二人して苦笑をもらすしかなかった。


圭一郎と千秋と俺は幼稚園からの幼馴染みで、圭一郎と千秋は中学の時からずっと恋人同士だ。
だが、舞台俳優をやっている両親の血を受け継ぎ、圭一郎は俺からも見てもほれぼれするような二枚目だった。だからか、子供のころから、毎週のように女子たちから人目につかないところへ呼び出されて、告白されていた。
「千秋と付き合ってんだし、呼び出されても行かなきゃいいのに?」
「そういうわけにもいかないわよ。圭ちゃんって優しいもの」
「へいへい、そうですか」
「そうよ」
口元はウフフと微笑んでいるが、目が笑ってないんだよねぇ これが。
「じゃあ、これからいつものファミレスで待ち合わせ?」
「うん、そう。昇ちゃんも来る? 昇ちゃんだったら圭ちゃんもよろこぶと思うし」
「ああ、じゃあ、お邪魔虫だけど」
というわけで、千秋と二人、すこし回り道していつものファミレスで圭一郎が来るのを待つことにした。


「千秋もコンタクトとかにしてみたらどうなの?」
「うん。私もそうしてみたいの・・・・・・」
俺の前の席に座りながら、ストローを口にくわえ、ジュースを一口飲む。
言葉を濁しているが、圭一郎が反対しているのだろうな。あいつの初恋の相手は小学校五年生の時の女の先生だった。その先生、いつも眼鏡をかけて、おさげだった。今の千秋そっくりに。
「やっぱ、そういう地味な格好だから、あいつの恋人だって言っても誰も信じないんだろう?」
「うん。私もそう思う」
圭一郎と千秋、学校でも恋人宣言し、手をつないだり、教室の中で抱き合ったりと、ラブラブな様子を見せつけているというのに、今日のように一向に他の女子たちは告白を止めようとはしない。どうやら、他の女子たちを牽制するために圭一郎が千秋と付き合っているフリをしているだけだと認識されているようだった。
「いっそのこと、教室の中でキスとかしてみれば?」
「ああ、それ前に試したことある」
「あるのかよっ!」
「でも、圭ちゃん、先週だって廊下で三年の先輩とか突然唇奪われたりしてるし」
「ああ、あったな、そんなこと」
「もうキスぐらいじゃ、全然効果なんてないの」
そう言って深く深くため息をつくのだった。
「た、大変だな」


その日は、そんなことなどを話したりしてファミレスで時間をつぶし、その後、圭一郎と合流して三人で帰ったのだが、二日後、登校すると掲示板に人だかりがあった。
『カムフラージュ女、ゴリラと密会!?』
なんて見出しの壁新聞が貼られている。
添えられた写真は、こないだのファミレス内での俺たちで。
だれがゴリラだってんだよっ!
それに、千秋と密会って。あの時、窓のすぐそばで外から丸見えの場所だったのに・・・・・・
記事の内容は、学園のアイドル圭一郎と地味女千秋が付き合っているというのは真っ赤な嘘で、本当は千秋は俺と付き合っており、千秋と付き合っているフリをしているのは圭一郎が女子からの告白を断るための方便だという噂を肯定するものだった。
つうか、じゃあ、そもそもなんで圭一郎は女子からの告白を断ってんだよってな当然の疑問がわくのだが? それに対する答えらしきものは特になかった。
一緒に登校したはずの圭一郎はというと、さっそく学校中の女子たちに囲まれて、身動き取れない状況になっているし。
――はぁ しゃーない、助けてやるか。
朝一から女子の群れを掻き分けて、圭一郎を救出しなくちゃいけない羽目になってしまった。
「まいったな」
「どうすんだよ。千秋、悲しむぞ」
「分かってる」
どうにかこうにか、しつこい女子たちを振り切って空き教室へ逃げ込むと、圭一郎はほとほと困っている様子で、眉を八の字に寄せていた。
「どうしたものか」
二人して首をいくらひねっても名案が浮かぶことはなかった。


というわけで、放課後。
俺たちは、千秋がカムフラージュ・カノジョに認定されてしまった今、圭一郎には女子たちからの告白や呼び出しが殺到するものだと、半ば覚悟していたのだが、
「帰るぞ」
「ああ、ちょっと待って、千秋から先にファミレス行って待ってるってメッセージ来てる」
「ん? 俺の方も着信。広美ちゃんからか。広美ちゃんもファミレスで待ってるって」
静かなものだった。結局、その日、だれも圭一郎を呼び出したり、告白しようとする女子は現れなかった。
その代り、その日は圭一郎ではなく、何度も女子たちが俺を呼び留めてきた。
「頑張ってね。私、応援してます」
どの女子も妖しく眼の奥を光らせながら。
なんなんだろう? なにをがんばれっていうのだろう? わけがわからない。
そんな風に女子たちの雰囲気が変わったのって、思い出してみると昼休みからか。いつもよりも妙に女子たちがスマホを熱心にいじっていたように思う。
とすると、なにか女子たちの間だけで情報のやり取りがあったのかな。千秋以上に効果的なカムフラージュななにかの。


なぜか遠巻きに見守る女子たちに見送られて、俺たちは校門を後にした。
しばらくして、並んでファミレスの自動扉をくぐる。いつもの窓際の席に見慣れたおさげとえくぼの浮かぶ愛らしい笑顔が見えた。
「やっぱり、昇×圭が鉄板でしょ?」
「ええっ? 絶対、圭×昇一択よ」
「それ、ないわぁ」「圭×昇のリバースなんて邪道よ!」
そこでは、スマホ片手に白熱したバトルが交わされていた。不毛で明確な結論なんて存在しない彼女たちの秘められた世界の。


短編・ショートショート 目次(2017)へ
↓↓↓ついでに、ポチッとしてくれると、やる気が出るかも^^b ↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログへ人気ブログランキングへ


posted by くまのすけ at 16:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする