2018年03月11日

ホワイトデーのプレゼント




朝、自分の席についてすぐに、先に来ていた隣の河野が声をかけてきた。
「こないだはありがとうな」
そう言って手渡してきたのはクッキーの包み。そう、今日は三月十四日、ホワイトデーだ。


河野はニコニコしながら自分の席へ戻っていく。
私も同じようにニコニコし、手を振りながら見送っていたら、なんだか強い視線を頬に感じるのだけど。
反対側の席のしーちゃんが私のことをジッと見つめてる。それも真っ青な顔して。
「なんて顔してるのよ。真っ青だよ」
「えっ、あ、え、あ」
まともに言葉も出ないみたい。まあ分からなくもないけど。だって、河野のことを去年から一途に好きだったのはしーちゃんだし。
でも、しーちゃんは今年のバレンタインデーに河野にチョコを渡さなかった。本当はちゃんと用意して学校まで持ってきていたのだけど、寸前になっておじけづいちゃって、結局渡せずじまい。帰りの落胆した様子もひどかったな。今もそのときと似たり寄ったりの顔してる。
「あやち、河野くんにチョコ渡してたんだ」
今度は涙目で睨んできた。今にも『友達だと思っていたのにっ!』とか叫び出しそう。それはそれでドラマみたいで面白そうだけど、でも、その前に正直に答えることにした。こんなことで友情にヒビが入るのもバカバカしいよね。
「ううん。私、河野にはチョコあげてないよ」
「・・・・・・えっ?」
「これバレンタインのお返しじゃなくて、こないだ河野の相談に乗ってあげたお礼だよ」
「相談・・・・・・」
「そう、相談」
「・・・・・・」
しーちゃん、目をぱちぱちさせて戸惑っている。大体、いくら席が隣だからって、私が河野にチョコなんてあげるわけがない。教室の中のどうでもいい男どもに自分のお小遣いつかってまで義理チョコ配る義理も気持ちもさらさらない。バレンタインデーで私がチョコを渡しのは三人だけ。お父さんと弟と・・・・・・
って、なんでさっきから勇樹が自分の席から私のことを涙目で見つめてるのよ。さっきのしーちゃんと同じ顔しちゃってさ。
はぁ〜 あっちもあっちで誤解してるようね。


というわけで、席を移動。勇樹の隣へちょこんと腰かけて。
「おはよう」
「・・・・・・」
「ちょっと、おはようぐらい言いなさいよ」
「お、おはよう・・・・・・」
すごく頼りなさげに微笑んでる。叱られた子犬みたいな目。いつ見ても胸がキュンってなっちゃう。
「河野にチョコ渡してたんだな」
気弱な口調でそんなことをポツリと言ってくる。それがまた胸を締め付けるようで。早口でつよく否定した。
「まさか。そんなわけないじゃない」
「けど、さっき・・・・・・」
「あれは、そんなんじゃないわよ」
「・・・・・・でも」
というわけで、しーちゃんと同じことを繰り返し説明した。
「相談? なんで河野が?」
「それはね」
答えようとしてたら、視界の隅で河野が『よしっ』と気合を入れて立ち上がる。目が合って励ますようにうなずいてあげたら、うなずき返してくれる。それから、河野は大股でしーちゃんのそばへ歩いて行った。そして、二人して教室を出ていった。
それを見送って、まっすぐに勇樹に向き直る。思わず笑顔がこぼれた。
「バレンタインにチョコもらってなくてもホワイトデーにプレゼント渡しても大丈夫かって相談。私、しーちゃんの友達だから」


勇樹はとてもホッとした様子で笑顔になっている。それに向き合う私も同じような満面の笑み。
ニコニコ。
ニコニコ。
精一杯の可愛い笑みを顔に張り付けて。好き好きオーラを全身からあふれさせて。
ニコニコ。
私たち、教室の隅でお互いに見つめあって笑みを交わし合って。近くの席の女子に縁遠そうな男子がチッって舌打ちしてるけど、無視無視。
「ああ、もうすぐ予鈴だな。筆箱出さなきゃな」
勇樹は唐突に前を向き直った。
えっ? なんで? なんで?
その前にすることがあるでしょ!
「ちょっと待てぇ〜!」
思わず低い声が出てしまうじゃないっ! バレンタインに私がチョコを渡したのって勇樹だけなのに! そして、今日はホワイトデーなのに! 朝、目が覚めた時からずっと楽しみにしてたのに!
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「ほい。バレンタインのお返し」
素早く振り返った勇樹が目の前に差し出してきたのは、可愛くラッピングされたプレゼントだった。
「チョコありがとな。それと、これからもよろしくな」
かすかに震える声を出して、私にプレゼントをささげている。探るような視線で私の表情をうかがってくる。
私の方はただただ何度も視線がそのプレゼントの箱と勇樹の顔を往復する。しだいに頬が熱くなっていく。周囲の雑音はすべて耳から遠ざかる。私の小さな小さな声だけが大きく響いた。
「うん」
二人だけの空間に、真っ赤に熟れたりんごみたいに赤くなって、はにかむ笑顔が二つ並んだ。


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posted by くまのすけ at 18:52| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月04日

卒業式の日




三年生が卒業する日。俺たち在校生は全員卒業式に出席し、送辞を贈る。それから、式が終わると、一度教室に戻り、そこで解散になる。
後は、各自自由。そのまままっすぐ帰宅する人間もいるし、部活へ顔を出す人も。もちろん、それぞれに仲の良かった先輩たちを見つけては、個別にお別れの挨拶を交わす生徒たちもいる。そして、中には、ずっと想いを寄せていた先輩を呼び出して告白する者も。
そう、今、俺の隣で思いつめたような顔をして帰りのホームルームに出ている溝口のように。


担任が教室を後にして、教室の中が一気にざわつきだす。
廊下ごしに他のクラスも同じように騒がしくなっているのが伝わってくる。
「そろそろ行かなくちゃ。先輩帰っちゃう」
溝口は気弱な声を漏らして立ち上がった。緊張で頬がひきつっている。
「大丈夫か、そんなんで?」
「うん。大丈夫」
たぶん、無理にでも笑顔を作ろうとしていたのだろうが、もともと愛嬌がある顔立ちだったが、今は凄惨な印象になっていた。
本当にこんな状態でうまく告白なんてできるのだろうか?
「頑張れ、ミッチー」
後ろの席から天野の声援をうけて、ぎくしゃくとそちらにも会釈を送るだけだった。


溝口の背中が教室を出ていくのを見送りながら、俺はカバンを手にした。
ふと見ると、天野がまだ自分の席でじっとしている。
「天野、帰らないの?」
「え? ああ、うん。この後、部活の先輩の送別会があるから」
「そっか・・・・・・」
天野も、さっきの溝口みたいな緊張感を漂わせているのだが。
その様子を目にして、ふと口をついてでた。
「やっぱ、あれだな。こんな日に告白されても、先輩たち迷惑だよな」
「えっ?」
「今さら好きだって言われても、明日から学校に来ないし、会えないし。仮に、春休み中に何度かデートとかしたとしても、四月からもう別々の場所じゃん」
天野が険しい目を俺に向けてきた。
「告白されても付き合えないし、迷惑なだけだよな」
「なんで、そんなこというのよ!」
鋭い声をぶつけてきた。震えている。
必死に抑えているが、今にも泣きそうな表情だ。
「いや、ふとそう思ったからさ。今日、告白しても、相手を困らすだけだよなって」
俺の言葉を最後まで聞くのを拒絶するように、顔をそむけた。
その様子を見とどけて、俺はカバンを肩に背負い、むっつりと押し黙ったまま、出口へ大股に向かった。


天野が同じ部活の川村先輩にずっと憧れていたのを俺は知っている。
この一年間、同じ教室でずっと天野のことを眺めていたから。
すらりと背が高く、スポーツマンで爽やかな印象の川村先輩。正直、俺なんかが太刀打ちできるような相手ではない。なにをとってもかなわない。
でも、そんな先輩も明日からは学校に来ない。天野の近くから消える。そして、そばにいるのはこの俺だ。
俺はずるいことをしたのだろうか? 天野にずるいことを言ったのだろうか?
わからない。
ただ、嫌だった。天野と川村先輩がうまくいってほしくはなかった。だから、牽制するようにあんなことを。
――俺って、最低なヤツだな。
ひとり苦笑を漏らして、廊下をすすんだ。
何気なく窓の下を見ると、春には満開になる桜の木の下で溝口が名前を知らない三年の先輩と向かい合っていた。
まだ桜のつぼみは硬く、外の風はつめたい。
溝口は、さっきの緊張した顔のまま、口ごもっているようだ。これからこれまでの想いを告げるのだろう。
俺はカバンを持ち直して、そして、視線をそちらから外した。
「がんばれ」
俺は今、誰につぶやいた? 溝口に? 天野に? それとも、俺自身に? その答えは俺にもわからなかった。


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posted by くまのすけ at 17:56| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月25日

いつまでもひな祭り




あれは去年の今頃だった。東京の叔母が我が家にいた。ちょうど翌日に中学の同窓会があるとかでこっちに戻って来ていたのだ。
叔母が生まれ育ったこの家は父が継ぎ、そのときは三年前に亡くなった祖母の嫁入り道具の立派な雛人形を私と叔母で居間に飾っていた。
「無駄に豪華よね。ただの農家だったのに」
叔母は自分の背丈と変わらないほどの大きさの雛壇を見回して、ため息をついていた。
「おばあちゃんのお父さんが頑張ったんだって」
「私が小さなころは、この家もっと狭くて、この時期、こんな大きな雛飾りを置いたら、寝る場所も困るぐらいだったのよね」
「そうなんだ」
「それでも、かあさんは飾るの絶対やめなかったな」
「へぇ〜」
「一応、口では私のためだって言ってたけど、一番喜んでたの、かあさんだったわ」
「ふふふ。おばあちゃんらしい」
なんて話しながらお内裏様を飾った。


「お雛様って、結婚式の様子を表しているのよねぇ」
「うん、そうだよ」
叔母はお雛様をじっと見つめて、そっと溜めていた息を吐き出した。
「私も、子供のころは、これ見上げて『いつかは』とか思っていたな」
「ええ? でも、叔母さんはまだまだこれからでしょ。十分若いわよ」
「ふふふ。ありがとう。お世辞でもうれしいわ」
お世辞を言ったつもりはなく、実際に叔母はとてもきれいだと思う。なんといっても、田舎者の私には東京のデキる女って感じが格好イイ!
「ひな祭りって、結婚式のリハーサルみたいなものだけど、でもあれって、リハーサルはリハーサルでも、式にお呼ばれしたときのリハーサルよね。だって、主役はお内裏様とお雛様だもの」
そういえばそうかも。式を挙げているお雛様を囲んでお呼ばれするわけだし。
「初めのうちは『私もいつか』でも、やがて『もうすぐ私の番』になって、しだいに『次こそは』になって。でも、いつまでも・・・・・・」
静かに、そして、どこかあきらめの気配が漂う微笑をお雛様に向けている。かすかに羨望のこもった眼差しを投げかけながら。
「お呼ばれの経験値ばかり溜まったわ」
そして、寂しげにつぶやいた。
「私だけ、いつまでもひな祭りね」



今年もひな祭りの時期が来た。今年は一人で祖母の立派な雛人形を飾る。
私の背丈とほとんど同じ大きさの豪華な雛飾り。
幸せそうに微笑むお雛様と目が合って、つい口元がほころぶ。
「おめでとう」
先月の同窓会で再会した昔の恋人との結婚式で見た叔母の幸せそうな微笑みを重ね合わせながら。


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posted by くまのすけ at 16:51| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする