2018年01月21日

南岸低気圧




先週から天気予報が予想していた通りに、今朝目が覚めて寝室のカーテンを開いたら、外は一面真っ白だった。
滅多に雪なんて積もらない太平洋側。東北に住んでいるいとこたちに言ったら笑われそうだけど、たった数センチ積もっただけだというのに、交通機関は乱れに乱れて大混乱。いつもよりも早めに出なくちゃ。
はぁ〜


というわけで、いつもよりも三十分早めに家を出て、定刻よりも一時間遅れらしい電車に乗り、学校の最寄り駅へ。
着いたら、いつもよりも二十分早めだった。
家を出た時には止んでいた雪も、電車に乗っている間にまた降り出し、地面がどんどん白くなっていく。
そろそろと慎重に足元をたしかめたしかめ歩くのだけど、傘を差しカバンを持ってだとどうしてもローファーの底が滑る。
今日は男子みたいにスニーカーはいてくればよかったかな。
スタスタ追い抜いて行く男子たちの後姿を恨みがましく眺めながら、いまさら後悔しても遅いわけで。
「よっ、稲本、今日は早いな」
「えっ? ああ、おはよう」
「おう」
今まで気が付かなかったけど、今後ろを歩いていたのは同じクラスの森田だった。でも、その足元はスニーカーなんかじゃなくて。
「うわっ、長靴」
「へへっ、いいだろ。これならこんな日でも安心」
「学校に長靴はいてくる人見るのって小学校以来かも」
その上に、黄色いカッパまで羽織っていて、なんというか・・・・・・ 周りの視線が痛い。ここは他人のフリしとこう。
「なあなあ、長靴いいだろ。うらやましいだろ」
「いや、全然。それより話かけないでよ」
「なんで?」
「恥ずかしいでしょ」
「恥ずかしい? なんで?」
それから立ち止って不思議そうに首をひねっていたのだけど、ポンと手を打った。
「そ、そうか。そうか。恥ずかしいか。俺と話をしているのを見られると恥ずかしいのか。あははは。そうかそうか」
「なによ?」
「そうだよな。仲良く話しているのを見られたら、俺たち恋人に間違われちゃうもんな」
「はぁ?」
なんか幸せそうな笑顔を浮かべて頭を掻いているのが、無駄に腹立つ。


ともあれ、こんな勘違いゴム長男なんて相手にせず、さっさと歩き出す。できるだけ早く離れてしまおうと早足で歩こうとしたのだけど、やっぱり雪道ではローファーは歩きにくくて。
「きゃっ!」
悲鳴を上げて体勢をくずしそうになったところを何とか踏みとどまった。
「ふぅ〜 危なかった」
慎重に歩かないと。でも、すぐ後ろをにやけ顔の長靴男が歩いてくる。
ってか、目の前の女の子が滑ってこけそうになっているのだから、駆け寄って支えようとしてくれてもいいんじゃないの?
「だってさ、稲本助けようとしたら、俺の方が吹っ飛ばされるじゃん」
「はぁ?」
「稲本の方が・・・・・・」
「悪かったわね。ふくよかで。フン」
全部は言わせない。特にデが頭につく単語なんか。フンだ!
さっきのスリップを気にして慎重に歩く。もう後ろを歩く薄情な長靴男なんか無視、無視。


いつもよりも時間がかかって校門が見えてきた。
駅からここまでの間だけでも、三回も足を滑らせた。幸い、なんとか踏みとどまることができて、一度も転ぶことはなかったんだけど。ローファーの中に雪が入って、靴下びしょびしょ。冷たいし、気持ち悪い。
一方、後ろの長靴男は長靴の威力か、一度も滑ってさえいない。むむむ。
「やっぱ、長靴サイコー!」
なんか一人テンションが高いバカがいる。はぁ〜
無視、無視。私、こんなヤツとは知り合いでもなんでもないんです。赤の他人です。いや、まあ、実際、他人なんだけど。
「稲本も、こんど長靴はいて来いよ」
「・・・・・・」
「滑らないし、濡れないし、快適だぞ」
「・・・・・・絶対、ヤダ」
「なんでだよ。最高だぞ」
「はぁ〜」
どこの小学生だよ。まったく。
ため息をついていたら、ローファーの底がツルっと・・・・・・
「キャッ!」
今度は、踏みとどまれなかった。体が重力にひかれて地面へまっしぐら。
どん。
「痛ってぇ〜」
声を上げたのは私じゃなかった。地面に尻モチをつきながら背後を振り返ったら、積もった雪にうずもれるようにして大の字に伸びていたのは森田で。こけそうになった私を助けようとして、逆に私に弾き飛ばされちゃったみたい。
「ご、ごめん」
大丈夫だというように、雪まみれになりながら、白い歯を見せて、親指を上げてきた。
「やっぱ、今度から稲本も長靴な」
「嫌よ!」


教室に入ると、すでにヒーターの前は、濡れた制服を乾かそうとする生徒たちでいっぱいだった。
なんとか、仲のよい友達の間に割り込んで、濡れたスカートを温める。
「ふぅ〜 あったかい」
教室の中を見回すとミカが高山くんに柔らかい笑顔を向けて話しかけていた。すごくいい雰囲気。たしか昨日まで、剣道部の加藤君がカッコイイとかなんかと言っていたはずなのに・・・・・・
「学校へ来る途中でミカが滑りそうになって、たまたま後ろを歩いていた高山くんが支えてくれたんだってさ」
「ああ、そういうこと」
私の場合とは大違いだわ。
あのバカがもっと頼りがいがあったらな。
――くしゅん
って、なんでまだ濡れたままでいんのよ。ヒーターに当たりなさいよ。カッパ着てたっていったって、さっき雪まみれになってたじゃないの。
心配そうに私が見てたの気が付いたみたい。笑顔を返してきた。
「稲本も、やっぱ長靴がいいって思ったんだろ?」
「なんでよ」
ホント、バカなんだから。


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2018年01月14日

白い塊




先日の成人式で中学時代の友人と再会し、また一緒に遊びに出かけるようになった妹が、我が家にその子を連れてきた。
子供のときにも何度か我が家に来たことがある子だけど、正直、おとなしめで純朴な感じの地味な印象でしかなかった。
でも、今日来たその子は、すっかり垢抜けておしゃれになっていて、昔から活発で生意気な妹の方がすっかりくすんでしまっている。
時の流れというのは、恐ろしいものだ。


「お兄さん、またお邪魔しています」
「あ、はい。ご、ごゆっくり」
形ばかりとはいえ、こんな美人さんに、にっこり笑顔を向けてこられると、すごく居心地の悪いものだ。おもわず、どぎまぎする。
早々にキッチンのポットでインスタントのコーヒーを淹れて自分の部屋に戻ろう。
そう考えながら、妹たちがぺちゃくちゃおしゃべりの花を咲かせているリビングの脇を抜けてキッチンへ向かった。
戸棚から自分専用のマグカップを取り出し、インスタントの瓶に手を伸ばす。スプーンに山盛りにして、マグカップに投入。それから、ポットの前にマグカップを設置。だけど、ポットからお湯が出てくることはなかった。ポットの中は空だった。
――そういや、昼、カップラーメン作ったときに残ってた分、使い切ったんだっけ。
仕方なく、ポットに水を補充して、湧くまでしばしキッチンで待機することにした。
「それでね。羽田くんと純ちゃん、結婚してたじゃない。あの二人、中学の時から仲が良かったけど、ほら、やっぱりあのおまじないが効いたのかな」
「ああ、あったあった。あれだっけ、消しゴムに名前を書いて・・・・・・」
「そそ、たしかひかりっちは宮原くんの名前書いてたよね」
「あれ、そうだっけ?」「そうだよ。私、覚えてるもん」
「そうだったかな。覚えてないや。でも、宮原くんっていったら、成人式のとき・・・・・・」
キッチンまで妹たちの話し声が響いてくる。
たのしそうに元同級生たちのことをしゃべっている。
でも、俺はポットのお湯が沸くのを待ちながら、昔のことを思い出していた。
「おまじないか」
俺のときも恋のおまじないってのが流行っていた。
たとえば、手の甲の絆創膏の下に好きな相手の名前を書いて、三日間そのままで過ごせば恋がかなうだとか、そんなたわいのないものだ。
俺もその当時好きだった相手の名前を書いて絆創膏をはっていたのだが、結局二日目にその子が隣のクラスの山下と手をつないで下校していくのを目撃しただけだったな。
今でも苦笑をもらすしかない。


「あ、ほら、覚えてる。冬、学校へ行くときに、前を歩いている男子の背中に白い息の塊をぶつけて、綺麗に壊れたらその子との恋がかなうってやつ」
「ああ、うん」
「でもさ、あれって、男子の方が歩くの早いから、背中に息なんか当たんないよね」
「あ、ひかりっち、やってたんだ」
「ええ? さえちゃんはそういうのしなかったの?」
「私? 私は・・・・・・ 内緒」
「ええ。なんで。教えてよ」
「うふふふ」
そういえば、妹のヤツ、冬になると、やたら俺の後ろ歩きたがってたよな。しょっちゅう、俺の後ろを付いて回ってた。
学校へ行くときも、どこか遊びにいくときも・・・・・・
俺の背中をいつもあいつは追いかけていた。ちょうど息がかかりそうな距離を開けて。
・・・・・・
いや、待て、妹だぞ。ないないない。いつも俺のことをバカにして、ののしってくるあいつが、俺のことを。絶対にないな。
でも、幼稚園のころは、俺にずい分懐いていて、大きくなったら俺のお嫁さんになるとか言っていたしな。
たぶん、今はそんなこと全然覚えてなんかいないだろうが。
言ったら、確実に鉄拳制裁だろう。


ポットからお湯が沸く音が聞こえてきたので、マグカップにお湯を注ぐ。
ほかほかの湯気が立ち上り、こうばしい匂いがキッチンに広がる。
砂糖を入れて、カラカラ澄んだ音を立てながらティースプーンでかき混ぜる。
「あ、お兄ちゃん、コーヒー淹れてるの?」
「ああ」
「私にも頂戴」
「自分で淹れろよ」
俺のつぶやきなんかは、聞こえていても無視。きゃつはあくまでも自分の意思を押し通す。
「私にも頂戴」
「ったく・・・・・・」
兄というものは妹には絶対かなわないわけで。
「インスタントでもいいか?」
「うん。いいわよ。ありがとう」
しかたなく、二人分のカップを新たに用意してコーヒーを淹れる。それから、トレイに砂糖を用意して、二人のもとに運んだ。
「はいよ」
「ありがとう」「あ、私にも。ありがとうございます(にっこり)」
正直、どぎまぎする。すっかり美人さんになって・・・・・・
こんなに綺麗になるって分かってたなら、あのときもっと仲良くなるんだったかな。
かすかな後悔を感じながらキッチンへ戻った。


「相変わらず、お兄さん背中大きいね」
「図体がでかいのだけが取り柄だから」
「そんなことないよ」「ううん。体が大きいのしか取り柄ないわよ」
子供のころに俺の後ろをついて歩いていた姿を思い出してしまうと、そんな憎まれ口もどこか可愛く感じてしまうものだ。
やっぱそうなんだろうな。あんなことを言っていても、本心は俺のことが大好きで。
「掃除してても邪魔なだけだし」「平気で人前でおならするし」「最近、ますますお父さんに似て来たし」
そんなことを言っていても、心の内では・・・・・・
「親父臭いし」「おっさんだし」
・・・・・・そろそろ俺、泣いてもいいですか?
いや、でも、あいつはいつも俺の背中を追いかけて・・・・・・
「子供のころから唯一役に立ったのって、体大きいから風よけなったぐらいだし。後ろ歩いてると風が来ないから寒くないんだよね」
そ、そんな理由だったのか・・・・・・しくしく。
冷めかけのコーヒーの味はひどく苦かった。


夕方、近所のコンビニへ買い物に出ようとしたとき、リビングから妹たちも出てきた。どうやら、妹の友達が帰るタイミングと重なったようだ。
ツッカケをひっかけて、冬の寒さの中に一足早くでる。またたき始めた星の光を白い息の塊がやさしく包み込む。
鉄の門扉を開き、道路へ出た。それから、コンビニの方へ背中を丸めながら、とぼとぼと歩き始める。
――肉まんでも買って帰るか。
そんなことを考えながら歩いていたのだが、ふとすぐ背後に俺のじゃない足音が続いているような気がした。振り返ると、妹の友達がそこにいた。
「えっと?」
「あ、本当だ。お兄さんの後ろって風こないですね」
「ああ、大きいのだけが取り柄だからね」
肩をすくめて前を向く。そして黙って歩き出した。ゆっくりと、のんびりと。
その後ろをとことこと足音が付いてくる。ときどき大きく息を吐きかけてくる音をともなって。
ちゃんと俺の背で白い塊が綺麗に壊れたのだろうか。確認はできない。


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posted by くまのすけ at 20:52| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月07日

しょうもない




「ケンくん、これおかあさんから」
教室の入口から細くて澄んだ声が聞こえてきた。さほど大きな声というわけでもないのに、ざわざわした教室の中でさえよく通る。だからだろうか、教室中が一瞬で静まりかえり、一度その声の主に視線が集まり、それから、呼びかけられた側の私の前の席の黒田を往復して、そして、また元の話題に戻っていく。
その黒田はのっそりと立ち上がり、そそくさと戸口へ移動していった。
「ああ、わざわざ届けに来てくれたんだ」
「うん。出かけるときにケンくんの家の前でおかあさんに頼まれたから」
「ありがとう」
「いいえ、どういたしまして。あ、ネクタイ曲がってる。ジッとしてて」
戸口で4組の宮崎さんが黒田のネクタイを結び直している。
「はい、できたわよ」
「お、サンキュー」
それはまるで新婚夫婦のようで・・・・・・


「ホント、あんたたち仲いいわね。喧嘩とかしないんじゃない?」
「ん? ミチルと?」
「うん」
「まあ、そうかもな。中学に入って以降は一度もないかな」
当たり前のようにそんな返事がくるわけで。なんかバカバカしくなってくるわ。
「ふーん」
「なんだよ」「べつにぃ」
はぁ〜 ホント、目の前で幸せそうにしやがって!
こっちは、矢島の顔がずっと頭の中にチラついて困っているっていうのに・・・・・・
今まで矢島の前に立ってもなんともなかったのに、さっきの時間、声をかけられただけで緊張して、うまく答えることできなかった。
「はぁ〜」


「なんだよ。心配ごとか?」
「えっ?」
突然声をかけられたら驚くじゃない。
「ため息こぼしてたからさ」
「ホント?」「ああ」
「・・・・・・」
私を見つめるその眼は心底心配しているようで。でも、こんなこと今幸せの絶頂にいるこいつに相談なんかしたら、それこそバカにされてしまいそう。
しかも、ため息の原因は矢島。絶対、バカにするに決まってる。
「恋の悩みか?」
「って、なんでわかんのよ!」
「そんな顔してたからさ」
「・・・・・・」
どんな顔だか。ともあれ、恋の悩みだと分かった途端、すぐに体を乗り出すようにしてくる。
「で、相手はだれ? あ、そうか、そういうことか。いや、参ったな。俺、もしかして、今モテ期」
わざとらしくにやけ顔をなでてる。ったく、なわけないじゃない!
「なんでよ! そんなわけないでしょ。誰がアンタなんか」
って、なんでしょんぼりしてんのよ。アンタには宮崎さんがいるじゃない。わけわかんない。
でも、そんな態度は一瞬のことで、すぐに身を乗り出してきた。
「じゃあ、誰だよ、相手」
「いいじゃない、別に誰でも」
「教えろよ。北村? 上田? そういえば、こないだ帰りにサッカー部の堀内と話してたよな」
「ん? 堀内くん? それは絶対にない。ない。涼香の彼氏じゃん」
「じゃあ、だれなんだよ」
「って、なんでそんなに必死なのよ。私の好きな人なんて、アンタには関係ないでしょ」
「・・・・・・」
なんで泣きそうな顔になってるのよ。ホントの本当に、わけわかんない。
ったく、もう、分かったわよ。教えればいいんでしょ。別に減るもんじゃないし。
「分かったわよ。その代わり、笑わないでよ」
「あ、ああ」
真剣な顔で大きくうなずいてるのが、正直、とても信用できないのだけど。
まあ、いいわ。
「矢島よ」
案に相違して、黒田は笑うこともなく、目を大きく見開いて絶句していただけだった。


矢島というのは現国の教師だ。小太りの体形で去年三十代になったばかり。
まだ独身で恋人もいないらしい。当然、私たち年代のうら若き乙女たちにしてみれば、まったくの恋愛対象外のおじさんなはずなんだけど・・・・・・
「なんで・・・・・・」
「ほら、おとといの放課後、私呼び出されたじゃない」
「ああ、なんか呼ばれてたな」
「そのとき、矢島、私に本をくれたの」
「ん?」
「私の進路希望なら絶対に役に立つから読んでおけって」
で、家に帰って矢島がくれた本に目を通したのだけど、たしかに私の希望している進路にとっては有益な情報が満載の内容だった。
「ああ見えて、矢島って私たちのことちゃんと気に掛けているんだなって気が付いたっていうか、案外、頼りになる人なんだって分かったっていうか」
「ああ、それでそんなことばっかり考えていたら、いつの間にか気が付いたらってやつか」
「そう」
深くうなずいた。まさにその通りだから。
「なるほどな」
なにか言いたそうな顔で私のことを見つめてくるわけで。
うん、言いたいことは分かるわ。だから、先回りして言ってしまう。
「ごめんね。しょうもない話で」
自嘲気味につぶやいた私の目の前で、黒田め、大きくうなずいてみせてくる。
「たしかにしょうもない話だな」
そんなの自分が一番よく分かっているわよ。でも、仕方ないじゃない。それに、本当に他人からそう言われると余計腹が立つんですけど!
「でも、まあ、恋愛ってそんなもんだよな。きっかけは大抵しょうもないものだし」
「・・・・・・」
「大体、高尚な恋愛なんてもの俺今までに一度も聞いたことないし」
私もないけど。
「そんなものだよな」
一人でうんうん何度も首を振っていた。


「家で一人の時、相手のことばかり考えてたら、だんだんと相手のこと好きになるよな」
なぜか、そんなことをつぶやきながら深く深くうなずいている。
「わかるよ。それがたまたま矢島だったってことだろ」
「ええ・・・・・・」
「ふっ、本当、しょうもないよな」
「悪かったわね」
「でもさ、それって実は矢島でなくてもいいんだよなぁ まったく別のヤツでもいいんだよな」
「・・・・・・何が言いたいのよ」
「きっかけなんて実にしょうもないもので十分なんだって話」
不意にまっすぐ私の目を見つめてきた。
「たとえば、俺とかさ」「・・・・・・」
「今晩、寝る前とかにさ、俺のこと考えてみてよ。そしたら、きっと気持ち変ってるからさ」
真剣な目で、真剣な声で、冗談ともつかない本気の口調で語ってくるわけで。
思わず、うん、って首を縦に振ってしまっていたり・・・・・・
って、だめっ!
「黒田には付き合っている人いるじゃない!」
危ういところだった。雰囲気にのまれるところだった。危ない危ない。
なのに・・・・・・
「えっ? 俺、カノジョいないよ」
「はぁ? 宮崎さんと付き合ってるんでしょ?」
「ミチル? いやいやいや。あいつとは幼馴染なだけで、そういうのは全然」
「どこがよ」
じゃあ、さっきのあの新婚夫婦ぶりはなんなのよ!
ふざけんじゃないわよっ!
「そもそもミチルってちゃんと恋人いるし。それは俺じゃないし。俺じゃなくて俺の兄貴だし。兄貴の恋人だし」
えっと・・・・・・
黒田の話がよく呑み込めなくて混乱してたんだけど、えっと、それって・・・・・・どういうこと?
「大体、俺ずっと・・・・・・」
なんで、そこで私のことを黙ってじっと見つめるのよ。
顔を赤らめながら、まっすぐに熱く。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
キンコーンカーンコーン――


頭の中がぐちゃぐちゃのまま、数学の教科書に載っている数式をぼうっと眺めていた。
さっきの黒田の話って。でも、でも・・・・・・
そんなことって。
なんにも考えられない。ただ、黒板の前の先生の解説が耳を素通りしてどこかへ消えていくだけ。
だけど、これだけは分かるわ。
今晩、私、一人でいるときに考えるのは矢島ではなく、目の前の席の背中の大きな男子のことなんだろうな。


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posted by くまのすけ at 17:38| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする