2017年10月29日

仮装パーティー




森川菜月には双子の妹の葉月がいる。
朝、学校へ向かうとき、いつものポニーテールが前を歩いているのを見かけて、声をかけたら怪訝そうな顔をされたことがあった。
「あ、たぶん、菜月かな? よく間違えられるんだ。双子の妹だから」
「そ、そうなの?」
「うん、私、菜月の妹の葉月。三組なんだ」
森川そっくりの顔でそんな説明をしてくれた。まあ、双子だからそっくりなのは当然か。
で、そのあと首に小さなほくろがある方が葉月でない方が菜月だって教えてくれたんだよな。


「森川は、今日は魔女?」
「うん。マジカル、ミラクル、ルルルルルン」
尖がり帽子をかぶり、制服の上に羽織った黒マントをひらひらさせながら、奇妙な呪文を唱え、箒を振り回している。
「それ違うと思うぞ」
「そうかな?」「そうだよ。どこの魔法少女だよ」
「ふふふ。おそろなんだ。それで、滝の方は海賊なんだね」
「ああ、海賊王に俺はなるっ!」
キメポーズをつけて宣言してみせたのだが、
「いや、それは麦わら帽子かぶってるから。滝の三角帽子じゃないから」
「えっ? そうだっけ?」
「そうだよ」
なんて隣の席で言い合いながら笑い声をあげた。


今日の放課後は先週の生徒会選挙で選ばれた新生徒会主催のハロウィンパーティーが開かれる。旧生徒会メンバーの慰労会も兼ねていて、新旧生徒会メンバーだけでなく一般生徒も参加可能。ただし、一般生徒の参加者は仮装するのが条件となっている。
もちろん、参加自由の強制ではないので参加しない生徒も多い。だが、何代か前の先輩が冗談半分に、同じくパーティーに参加していた先生たちに『トリック オア トリート。中間テストの答え教えてくれなきゃ暴れるぞ』と声をかけたらしい。
で、この学校の先生たちも結構ノリのいい方で中間テストの問題のヒントを教えてもらえたのだとか。その話が代々伝わり、今こうして、生徒会とは接点のあまりない俺たちさえも仮装してパーティーに参加しようとしているのだ。
「そっか、森川は魔女か」


そうして、体育館で開かれたハロウィンパーティー。全校生徒の半数が集まり、押すな押すなの大盛況だった。そして、俺たちもそれなりに満足のいく成果を収めたってわけだ。
先々週習ったあの公式をしっかり覚え、使いこなせるようになっておかなくては。
なんだけど、パーティーがお開きになった。
教室に置いた荷物を取りに廊下を引き返していると、人波の中にとんがり帽子の先端が見える。
「森川、ちょっといい?」
その魔女は一緒に歩いていた友達に一声断って、立ち止ってくれる。
「なぁに? なにか用?」
「ああ、ちょっと今時間ある?」
「うん。あるけど・・・・・・?」
「じゃ、ちょっとそこまで一緒に来てくれないか?」
いつもと違う真剣な口調だからか、怪訝そうな表情を浮かべいる。
「・・・・・・私でいいの?」
「ああ、森川でないといけない」
「そ、わかった」
そういうわけで、俺はひとけのないところへ森川を連れて移動した。
いや、先週からずっと決めていたんだ。何があっても今日決行するって。朝のテレビの星占いは一位だったし、メールの占いも今日の運勢は最高。それに、今日は俺の誕生日。絶対に今日言う。今日告白する。絶対にだ。
「森川。俺、ずっとお前のこと好きだった。だから、俺と付き合ってください」
一気に言って、勢いよく頭を下げる。
俺の頭上で息をのむ雰囲気。けど、返事はない。
しばらく待っても返事は帰ってこない。おそるおそる頭を上げてみると、困惑顔で頭を掻いている。えっと、これって。
「ごめん。私、付き合えない」
そんな!
「えっ? なんで?」
「私、あなたのことよく知らないし」
そんなはずない。毎日隣の席で言葉を交わしているのだから。笑い合ったりふざけ合ったりしてるのだから。
「それに、たぶん、君が告白してるのって菜月だよね?」
「・・・・・・」
「私、葉月だから」
そう言って横を向いた赤く染まった首元にはほくろがあった。



そんなことがあったのも去年の話。
今年も俺の誕生日で、そして、生徒会主催のハロウィンパーティーの日。
俺の隣の席では森川そっくりの看護師さんが俺を励ましてくれている。
「今年こそがんばれ。菜月のナース服は白だから。ピンクじゃないからな、間違えるなよ!」
「ああ、分かった。眷属を増やしてくる」
「がんばれ、吸血鬼!」
そうして、マントを翻し、吸血鬼は颯爽と動き出した。でも、本当はマントの下でビクビクおびえていた。口にはめた牙がカチカチ鳴りつづけていた。それを俺は止められはしなかった。
さあ、ハロウィンパーティーがはじまる。


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2017年10月22日

投票へ行こう!




高二の秋、僕たちは生徒会長選挙を戦った。
でも、僕は学校に多額の支援をしている地域の有力者の孫。学校側の意向は明らかだった。
当然のように、僕は会長選挙で圧勝し、彼女は次点で生徒会長にはなれなかった。
でも、もしあのとき、僕じゃなく彼女が生徒会長になっていたら、あの学校はもっとマシになっていたかもしれない。
今でもそんなことを思ってしまう。
女子バレー部の副キャプテンで明るく誰にでもやさしく、気さくな性格。男女を問わず多くの生徒が彼女を慕っていた。
それは今でも変らない。
彼女が選挙カーの上の演壇にのぼると、歩いている人の足がとまり、彼女の少し嗄れた声に耳を傾ける。
聴衆のあちこちから彼女に声援が送られ、そして、スマホのカメラが彼女の姿を追いかける。


「おつかれ」
「はい」
手伝ってくれている運動員の人たちの拍手に包まれながら彼女は壇を下りた。
僕の手渡すペットボトルを受け取ると、のどを上げてそれを半分飲み干す。
「いい演説だったよ」
「うん。当然」
「お客さんの反応も良かったし、これなら相当票の上積みが期待できそうだな」
「そうね。まあまあだったわね」
「ああ、このまま接戦にまで持ち込めるといいな」
「なに言ってのよ。私が圧勝するに決まってるでしょ!」
強気な目で僕を睨む表情はあの時のままだ。
相手は、三代続く世襲議員。しかも、その配偶者は名の知られた元女優。対してこちらは無名の新人。
勝負は最初から目に見えていた。あの生徒会長選挙と同じように。
それでも、彼女は街頭で声をからして訴え続けている。道行くすべての人に自分の声を届けようと。
「それじゃ、そろそろ次の場所へ移動しようか」
「そうね。行くわよ。永田町!」
強気な発言とは裏腹に、選挙カーに乗り込む前に手をつないだ僕の手には妻の震えが伝わっていた。
「大丈夫さ。きっと、今回がだめでもいつかは必ず」
「いつか、なんかじゃないわ。これが終わったら行くのよ、東京へ」
ようやく、僕に微笑みを返してくれた。そして、いつしか彼女の手の震えは治まっていた。






今日は衆議院選の投票日。残り時間も2時間を切り、その上台風が接近中だけど、まだの人は投票所へ足を運ぼう!


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2017年10月15日

予防接種を受けよう!




――チリンチリン
「よっ、田中」
すぐ後ろで自転車のベルの音がしたと思ったら、私のすぐ横を自転車が追い越していった。
「えっ? ああ、横山くんか」
「よっ」
私のお父さんが経営している工場裏の駐輪場に自転車を止めて、軽く私に手を上げてくる。
「母さんまだいる?」
「秋絵さん? うん、たぶん、まだいると思うよ」
「そっか。今、中入っても怒られないかな?」
「うーん。どうだろう。なんなら呼んでこようか? なにか用事なんでしょ?」
「ああ、頼む」
横山君のお母さん・秋絵さんは、お父さんの工場にパートで働にきているのだ。
早速、薄暗い工場の中へ足を踏み入れた。


工場の中、様々な方向からたくさんの機械音が聞こえ、作業をしている人たちがせわしなく動き回っている。
「梨紗ちゃん、あぶないよ。こんなとこで遊んでたら」
「ああ、うん。気をつけます。それより、秋絵さんいます?」
「秋絵さん? ああ、横山さんか。たぶん事務所」
「そうですか。じゃ、事務所の方、探してきます」
「気をつけてな」「はーい」
なんて主任の東さんと言葉を交わしつつ、事務所へつづく奥のドアを目指す。
用途もなにもわからないヘンな形の機械の横をすり抜け、ガシャンガシャンと大きな音を立てている機械の角を曲がって。
――トントン
「はい」
女の人の声。これは秋絵さんだ。
「秋絵さん、今いい?」
「あら、梨紗ちゃん、いらっしゃい。珍しいわね」
秋絵さんは、私の来訪が予想外だったのか、驚いた顔をしていた。まあ、それはそうだろうな。お父さんの言いつけもあって、普段は滅多に工場の中へ足を踏み入れないもの。
「どうしたの、急に? 社長?」
「あ、いいえ。えっと」
そういえば、横山くんの下の名前ってなんだっけ?
えっと・・・・・・
とっさに思い出せない。まあ、いっか。
「秋絵さんの息子さんが外に来てますよ」
「修斗? 何の用かしら?」
ああ、修斗っていうんだ。でも、サッカー部じゃなく、バスケやってるけど。
「どんな用事があるか、聞いてないです」
「そう。じゃあ、ちょっと見に行ってくるわね」
そうして、奥にいる同僚に声をかけて、私の横をすり抜けて出ていった。


しばらくして戻ってくると、デスクにかがむようにして、なにかの書類にサインをしている。
「あの子、来年、受験じゃない。それでインフルエンザの予防接種受けたいからって私のサインとりに来たみたい」
「そうなんですか」
「ほら、小野寺さんの病院、未成年は接種受けるのに保護者の同意が必要だから」
そうか、もうそんな季節なんだ。私も来年受験だし。打っておいた方がいいかしら?
「もうほんと、こんな大事なこと当日になって言い出すなんて。肝心なところで抜けてるのはだれに似たのかしら。まったく」
秋絵さんはブツブツいいながらも、保護者の欄に自分のサインを書き終え、ハンコを押していた。
「秋絵さん、今ちょっといい? こないだの見積もりの件なんだけど」
近づいてきたうちのお父さんが、私の姿を見つけてすこし微笑んでる。だから、かるく愛想笑いを浮かべながら、かわいく手を振ってみたりして。
うん、これで来月のお小遣いアップ間違いなし。
で、その隣で秋絵さんが保護者同意書を手にちょっと困った顔していて。
「あ、それ、渡してきましょうか?」
「じゃあ、お願いね」
ホッとした表情を浮かべて、仕事へもどっていった。


工場をでると、さっきの場所にぼうっと立ち尽くしている姿がある。
「横山くん、はい、お母さんから」
お母さんが戻ってくるのを待っていたのに、私が書類を持ってきたから驚いているようだ。
「えっ? なんで?」
「頼まれたから」
「あ、ありがとう・・・・・・」
私からひったくるようにして書類を取っていった。
ちょっと私の顔をうかがうようにしている様子が不快。だけど、
「予防接種するんだね」
「ああ、そこの小野寺医院で」
「そうなんだぁ」
「田中もすれば?」
「どうしようかなぁ」
「レイジも一緒にするし」
「村川くんも!」
「ああ」
村川君もするのか。あの村川君が。テレビのアイドルなんて目じゃない、学校の王子様。なら、さっそく小野寺医院へ出かける仕度をしなくちゃ。
「あ、ちょっと待って、私も一緒に行くから」
王子様とお会いするのだから、今から化粧とかするべきかしら。ドレスアップも。


というわけで、横山くんと自転車に二人乗りで小野寺医院へ。
早く村川君のあの整ったご尊顔を拝みたいな。四六時中眺めていても飽きない美しい顔。早く見たい。
「遅いぞ、修斗。あれ? 田中さん」
「えへへ。ついて来ちゃった」
「修斗大丈夫か? 風邪ひいたんじゃないんか? 顔赤いぞ?」
「大丈夫だ。大丈夫」
「そっか」
村川君、私と横山くんの顔を何度も見比べていた。
「ほら、中に行くぞ」
「お、おお」
何度も私のことを振り返りながら、病院の中へ入っていった。
こんなに注目されちゃうなんて。うふふ。うれしい。
学校じゃ、クラスに十何人も女の子がいるし、競争率が高いからこんな風に視線を独占するなんてできないんだよねぇ それに、こんなに近くで話しかけることも。
なにを話題にしようかしら?
絶好のチャンスに胸が高鳴っちゃう。
「横山さん、村川さん」
病院の受付で二人の名前を呼んでいる。二人について行ったら、
「今日はお二人ですよね?」
「あ、はい。こいつ、ついてきただけなんで」
横山くんに『こいつ』呼ばわりされちゃったけど、今はさほど悪い気がしないわけで。だって、すぐそばで村川君が私に笑いかけてきてくれているし。
「田中さんも、予防接種受けたら?」
もちろん、即答。
「うん、受けます! 二本でも三本でも受けたいです」
「あらあら、二本打つのは小学生までなんだけど」
早速、予約入れたりなんかして。私だけでなく、家族全員の分まで。問診票までもらっちゃった。それから、待合室で村川君の接種が終わるのを待つことにした。
やがて、二人が出てくる。
「お待たせ」「待たせたな」
「ううん。大丈夫だよ。全然平気。いくらでも待っているから」
「うん、ありがとう」「お、おう」
村川君の爽やかな笑顔に目はハート。うふ、眼福眼福♪


病院の外へでると、すでに日は暮れていて、薄暗い。
「じゃ、俺、こっちだから。修斗、しっかり田中さんを送って行ってあげるんだぞ」
「お、おう」
「えっ? もう帰っちゃうの?」
「田中さん、また学校で」
「あ、はい。学校で」
私たちに背を向けて夕闇の中を去っていく姿は、とても絵になってまるで一幅の絵画のようで。素敵♪
でも、もうちょっと話していたかったな。もっと近くであの笑顔を眺めていたかった。
「ほら、田中、俺たちも行くぞ」
こっちは、さっさと自転車にまたがって私が後ろに乗るのを待っている。
「うん」
なんだか、後ろ髪ひかれる思い。
けど、自転車の荷台から見る景色はいつもより輝いていて、うつくしく感じるな。やっぱり最高に幸せな時間を過ごした余韻のせいかしら。
あ、もちろん、村川君とどうこうなりたいってわけじゃない。ただ眺めているだけで幸せってだけ。だって、相手は学校の王子様だもん。どんなにがんばったって私だけの王子様になんてなるわけないもん!
そんなの最初から期待してない。それでも、
「「はぁ〜」」
あれ? なんかため息が二つ重なったみたい。
私のだけじゃなく、私の前からも。
「あのさ」
前から横山くんの声が聞こえてくる。どこか震えているような緊張しているような。
「俺、今まで女子と付き合ったことないから分かんねぇんだわ」
ん? そうだろうね。うん。全然、もてなさそうだし。大体、なんで村川君みたいなモテモテの人がこんな横山くんと友達なのか、不思議なくらい。
「だから、その、俺、免疫ってないんだわ」
「えっと?」
何が言いたいんだろう? インフルエンザに対しての免疫をつけるために今さっき予防接種受けたばかりなのでは?
「その、女子に対して」
「・・・・・・」
「こんなに近くに、すぐ背中に女子がいるってシチュエーションは完全に初めてでさ」
「・・・・・・」
そんなこと言われて、思い出してしまった。私だって、こんなにすぐそばに、まるで体を密着させるみたいに男子と接するなんて初めての経験で。
ギーコギーコ、ペダルが漕がれる音だけがあたりに響いていた。
長い沈黙がつづいた。
そして、夕闇の中、つぶやきがポツリとこぼれた。
「免疫が、ないんだ」


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posted by くまのすけ at 17:30| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする