2017年07月02日

誕生日、いつ?




「こないだカレシがさぁ」
くじ運なく、先月の席替えで一番前の席になった俺の真ん前で、女子たちが集まっておしゃべりの花を咲かせている。
というか、なんでわざわざ俺の前、教卓の横に集まるかなぁ 自分たちのうちの誰かの席にでも集合すりゃいいだろうに。
おかげで、昨日遅くまで期末テストに向けた勉強をしていたせいで眠たいのだが、うるさくて居眠りすらできやしない。まったく。
ふわぁあああ〜〜〜〜


「私の誕生日あったじゃない。そしたら、ほら、これ、プレゼントしてくれたのぉ いつかちゃんとした宝石のついたのを交換しあおうねって。それまではこれって言ってさ」
「わぁ、かわい〜 似合ってるぅ」
「かわいぃ」「すご〜ぃ」
女子のひとりが彼氏にもらったという指輪を見せびらかしているのだが。うん、控えめにいって、彼氏さん、センスないよね。
「いいなぁ こっちは全然、そんなの忘れてるっぽいし」
「えっ? それやばいんじゃない?」
「沙也って、誕生日、来週でしょ?」
「うん。やっぱ、そう思う?」
「思う、思う」
いや、兄貴、ちゃんと用意してるし。きれいにラッピングした包みを家族にも見つからないようにベッドの下に隠してるし。
その沙也と目が合ってしまって、思わず苦笑してしまった。


「で、どうなの。沙也の誕生日プレゼント、ちゃんと用意してるの?」
放課後になり文芸部の部室に顔をだすと、先に来ていた絵梨が発した第一声がこれだった。
「はぁ? なんで俺に訊くわけ?」
「アンタに訊くのが一番手っ取り早いでしょ。同じ家に住んでいるんだから」
「そんなの知るかよ」
「ひっどーい」
「ひどくない」
はぁ、なんで俺がそんなことこいつに話さなきゃなんねぇんだよ。俺の兄貴の問題なのに。
しかし、弟の同級生の女子と付き合っちゃう兄貴って、どうなんだよ? それに、同級生の兄貴だって知ってて付き合っちゃう女子って?
場合によっては、将来の義姉が同級生・・・・・・
いや、まだ気が早いよな。まさか、そんなことないよな。いくらなんでも。
「そんなことより、そっちはどうなんだよ? そっちは親友なんだろ? プレゼント交換とかしないのかよ」
「さて、もうすぐ期末だから、勉強でもするかな」
「話はぐらかしやがった」
「あいひあなっしんぐ」
はぁ〜 まあ、俺だっていくら親友だとしても誕生日プレゼントを贈ったりもらったりはしないけどな。


文芸部の部室。試験前で部活動は休みだから、本来は顔を出さなくてもよさそうなものだが、あいにく自習室がいっぱいだった。で、ここなら静かだし試験勉強がはかどるだろうと期待してきたのだが。必ずしも静かとは言えないようだ。
「うぇんいずいっつゆあばーすでぃ?」
真剣な顔で教科書を見つめながらつぶやいている。教科書の例文を読んでいるのか? けど、そんな英文なんかあったかな?
ざっと昨夜勉強したばかり英語の試験範囲を思い返してみても、そんな英文なんて登場した覚えはなく。
となると、もしかして、俺に質問しているとか?
でも、教科書の例文を読み上げている風に見えるわけだし。
これはどうすればいいんだ? 無視するか? そんなことすると怒り出しそうな気もするし、じゃあ、声をかける? 絶対、教科書読んでいただけよって鼻で笑ってくるだろうな。こいつはそんなヤツだ。
どうすれば・・・・・・
逡巡していたのは、一瞬で、俺は素直に自分の誕生日を口にしていた。
「あいむじゃすとりーでぃんぐいんぐりっしゅてきすとぶっく」
「うそつけ。そんな文章なんて英語の教科書にないだろうが」
俺の指摘に、してやったりとでもいうような、にんまりとした笑顔を向けてきやがった。
「ひあ.れっつりーど」
“When is it your birthday?”
あったし・・・・・・
うわぁああああ。恥ッ。


「っていうか、そこ試験範囲じゃねえぞ!」
「えっ? 何で知ってるの?」
「俺、昨日の夜、勉強したし、英語」
「うそ! ありえなーい。いつも試験前でも勉強なんてしないくせに」
「するよっ」
「礼次のくせに、なまいきぃ」
「お前なぁ」
でも、まあいいか。俺に見られないように手のひらで隠しているけど、ノートの端っこにさっきの俺が口にした日付をメモってるの見えてたし。
「えにーうぇ、うぇんいずいっつゆあばーすでぃ?」
絵梨の横顔をじっと見つめてたら、しだいに赤みが増していった。そして、一言だけつぶやくのを聞き漏らしはしなかった。
「ちょうど一か月早いのかよ」
まだまだ先だけど、しっかりその日付を俺の頭の中に焼き付ける。
「そうよ。私の方がアンタよりもお姉ちゃんなんだから」
「たった一か月だろう」
「一か月もよ」
勝ち誇ったようなその顔を見てたら、正直バカらしくなった。いや、実際にバカらしいことを言い合っているんだけど。
「分かったよ。はいはい、絵梨お姉ちゃん」
「分かればよろしい、弟の礼次くん」
そうして、即席姉弟二人して白い歯をこぼした。


「そっか、一か月早いのか」
「そうよ。誕生日のプレゼントは何でもいいわよ。かわいいアクセサリーとか、かわいいアクセサリーとか、かわいいアクセサリーとか。なんでも」
「アクセサリーばかりじゃねぇかよ」
「ふふふ」「ったく」
今度の休みにでも店のぞいてみるかな。アクセサリーならなんでもいいのだろう。指輪とか、指輪とか、指輪とか。教室で自慢してたのよりも、もっとカッコイイやつ。いざとなれば貯金があるし、多少高いものでも大丈夫かな。
あれこれ算段してたら、ふっと頭の中を一つのフレーズがよぎった。先週読んだ本の中に登場した言葉だ。
牧師が語る厳かな誓いの言葉。
「ちょうど一か月年上なのな。これから先も、永遠にずっと・・・・・・ 病めるときも、すこやかなるときも、貧しい時も、富めるときも、死が二人を分かつまで」
目が合ってしまって慌てて伏せあった。なにごともなかったように装いながら。
お互いの頬がバラ色に染まっているのを目にしないようにして。


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2017年06月25日

ドライブレコーダー




夕食を摂り終えると、夫の省吾さんはそそくさと書斎へ移動していった。
ひとりで読みたい本でもあるのかしら? それとも、パソコンで調べもの?
まさかいやらしいものでも眺めているのかしら?
ちょっと気になったので、そっとドアの陰からのぞいてみたら、パソコンの前に座ってモニターを楽しそうに眺めている。
時折うふふふと気持ち悪い笑い声を漏らして。あ、でも、見るからに楽しそうだけど、鼻の下を伸ばしてはいないみたいだから、ただの面白動画でも観ているだけかしら?
そっとドアを閉じようとしたら、
「えっ! 亜里沙、その男は一体・・・・・・ 手なんかつないで、どういう・・・・・・」
えっと、どういうことかしら? 私たちの娘の亜里沙はさっきお風呂から上がって二階の自室へあがっていったばかりなのだけど・・・・・・
省吾さんはパソコンのモニターに齧りつかんばかりの前のめりな姿勢で顔色を青ざめさせている。
「亜里沙、亜里沙、離れるんだ。そんな、そんなにくっつくんじゃない!」
えっと、これって、もしかして・・・・・・父親が娘の部屋に隠しカメラを設置して眺めているとか? 変態ッ
変な想像をして、身震い。と、とにかく、省吾さんがなにを見て興奮しているのか確かめなくっちゃ。
「亜里沙、亜里沙。ば、バカ。それ以上はダメだ。離れなさいっ! 亜里沙!」
足音を忍ばせて、気づかれないように省吾さんの背後に回って肩越しに画面をのぞいてみると、そこには娘の亜里沙が映っていた。でも、それは決して室内の様子ではなく、屋外の雰囲気。しかも、見覚えがある。そう、これは我が家の前。ガレージから見た景色。たぶん、今から三時間ほど前の夕方。亜里沙が塾から帰ってきたころだろう。
それはガレージにある車に昨日取り付けたばかりのドライブレコーダーが撮影していた映像だった。
亜里沙が同年代の男の子と手をつなぎ、寄り添い、今まさに抱き合わんと・・・・・・
「あら、あの子の相手って武藤さんのところのコウちゃんだったの」
突然、私が声を上げたものだから、省吾さん、目を真ん丸にして私のことを振り返るのだった。


「武藤? 角のか」
「ええ、そこの弟くんの方」
「・・・・・・」
画面の中、亜里沙はコウちゃんとピッタリくっついている。
「亜里沙。ああ。なんてことだ」
省吾さんは大げさに絶望的な悲鳴を上げた。
「もう、大げさね」
「し、しかし、君。亜里沙は、まだ子供なんだぞ」
「もう、あなたったら。あの子だってとっくにお年頃なんだから」
「けどなぁ」
画面の中で、二人は抱き合い、寄り添い合い、そして、お互いを見つめあう。ふと、亜里沙が目を閉じ、くいとあごを上げた。
じりじりとぎこちなく顔と顔が近づき・・・・・・
「だ、だめだ! 亜里沙、そんな。まだ早い!」
ゼロ距離になるにはまだたっぷりと時間が残っているころに、不意に二人が離れた。今のことがなかったかのように装ってさえいる。
すぐに第三の人物が画面の中を通り過ぎていく。
犬のリードをつかんだ近所の梅田さんの奥さん。
『あら、あら、あら・・・・・・』
今この場所でなにが行われようとしていたのか承知していて微笑みを二人に向けて通り過ぎていった。
「あら、あら、あら・・・・・・」
「グッジョブだ。梅田さん」


やがて、梅田さんの奥さんは画面から退場し、再び、画面の中は二人だけになった。
すぐに、さっきのように二人は抱き合い、愛おしそうにお互いを見つめあい、そして、自然と唇が相手を求めるように・・・・・・
「ダメだ。いけない! 離れなさい! そんな、離れろって言ってるだろ!」
省吾さんは必死に画面に呼びかけるのだが、もちろん、その声が画面の中の若い恋人たちに届くはずもなく。
一センチ、一ミリと二人は不器用に距離を縮め。そして、あと数ミリ。
「ぐあぁぁぁ〜〜〜〜!」
見つめている省吾さんは頭を抱えて絶叫しはじめちゃうし。もう、この人ったら、本当にバカなんだから。
私は省吾さんの頬を両手で挟んで、無理やり私の方へ向けた。画面の中では二人の距離はすでにゼロ。そして、私たちの間でも。
「な、なにするんだ」
「あら、私じゃご不満かしら?」
「い、いや、そんなことは、全然」
「そう、なら構わないわよね」
では、お言葉に甘えてもう一度。
画面の方では、顔を真っ赤にして亜里沙たちが初々しくはにかんでいた。
――ふふふ、私たちも初めてのときはああだったのかしら。
チラリと横目で眺めていたのだけど、なぜか別の方角から視線を感じるような。
そちらに目だけを動かしてみると、半開きのドアから、激しく瞬きを繰り返しながら、画面の中と同じ顔の少女が私たちを見つめていた。
「お、お邪魔しました。あとは、お二人でごゆっくり」
錆びついた機械みたいな動作でひっこんでいった。



それからも、省吾さん毎晩のように書斎にこもって発狂しちゃうし、そのたびに私が落ち着かせなきゃいけなくて・・・・・・
「あの子は大きくなったらパパのお嫁さんになるって言っていたのに、なんでこんな男なんかと・・・・・・」
「はいはい。もう、あの子は私たちの娘なのだから、そんなにヘンな男を選んだりはしないわよ」
「し、しかしね」
「それとも、省吾さんは私を選んだことを後悔してるの?」
「えっ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ちょっと、なんでそこで無言になっちゃうのよ」
「だってなぁ、俺、誰かの中から君を選んだってわけじゃないしな」
「・・・・・・?」
「ある日、突然、目の前に女の子が現れて、俺の全部を根こそぎもっていっちゃったからなぁ。誰かを選ぶ以前にその子一人しか見えなくなってた」
もう、真面目な顔してそんなこと言うんだから。バカ。
たぶん、きっと武藤さんのところのコウちゃんも同じなのかもしれないわね。だって、画面の中では、初めて会ったころの省吾さんとそっくりに瞳を輝かしているのだもの。
きっと、亜里沙も幸せになれるわね。
「ぎゃぁ〜〜〜〜! 離れろ! 離れるんだ! それ以上くっつくんじゃない!」
書斎からは今晩も省吾さんの絶叫が響いてきた。
そろそろ私の出番のようね。


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2017年06月18日

初夏の日は遅く暮れ




「お父さん、聞いてください。最近、あの子ったら・・・・・・」
ひさしぶりに我が家に現れたと思ったら、さっそく息子の嫁の珠代さんが孫のことで愚痴り始めた。
「近所の子と一緒になって毎日遅くまで外をほっつき歩いてるんですよ。それなのに、あの人ったら、全然叱ってもくれなくて・・・・・・」



六月になると、日が暮れる時間が遅くなり、七時を過ぎたというのに、まだ駅前は明るい。
車よりも人の方が大勢行き交うロータリーを足早に渡り、自宅のある住宅街へとつづく通りへ足を向ける。
コンビニの前を過ぎ、こじんまりとした商店街の中を歩き、角を曲がって左右に何かの畑を眺めながら進むと、ほどなく点々と明かりがともり始めた家々が見えてくる。私の自宅のある住宅街だ。
ホッと一息をつき、歩を進めると、小さな公園の前を通りがかった。
――パンパンパン。
公園からボールの弾む音が聞こえてくる。どこかの子供が遊んでいるのか?
そちらに目をやると、バスケットのゴールの下で向かい合った二つの影がボールを奪い合っている。不意に、その一つが動いた。ボールをもっている方。
不器用にドリブルをしながら、体の向きを反転させ、さらにもう一度反転。フェイントをかけて抜き去ろうというのだろう。だが、まだまだボールの制御はうまくはなく、ボールはその子供の手を離れ、あさっての方向へコロコロと転がっていくのだった。
ちょうどボールが私の方へ転がってきた。そのボールを追いかけて少年が一人かけてくる。
見覚えある姿。というよりも、
「こらっ、マサル! なにしてんだ、こんな遅い時間まで!」
その少年は私の息子のマサルだった。
「あ、お父さん!」
腕時計を確認する。すでに七時を回っている。子供が外で遊んでいていい時間はとっくに過ぎている。
息子は、ボールを小脇に抱えると、バツの悪そうな表情を浮かべて私の顔を見上げていた。
「帰りなさい。もう子供は家にいなきゃいけない時間だぞ!」
厳しい声でしかると、口ごもりながらも謝罪の言葉を口にした。
「ごめんなさい」


「家の人が心配しているだろう。君も帰りなさい」
息子と一緒に1on1をしていた少年に声をかけると、
「はい、わかりました」
物わかりのいい子なのか、素直に帰り支度を始める。
「じゃ、俊文くん、明日学校でね」
「ああ、学校で」
息子が手をふると、俊文くんも手を振り返してきた。
そうして、息子は私の隣に並んで家路をたどりはじめるのだった。
「だめじゃないか。こんな遅い時間まで。お母さんが心配してるだろう?」
「うん。ごめんなさい」
「友達と一緒に遊ぶのが楽しくて、ついつい時間を忘れるのは仕方ないが、この時期は日が暮れるのが遅いから、まだ明るいうちに切り上げなくちゃだめだぞ」
「分かった」
息子は素直にそう言い、首を縦に振るのだった。
だけど、その翌日。やっぱり帰り道、夕暮れの中自宅へ歩いていると、公園の方からボールをつく音が聞こえてきた。
昨日の今日でまさかとは思ったのだが、やはりそのまさかだった。


うちの息子はバカなんだろうか?
一昨日、きつく叱ったというのに昨日の夕方も妻が探しにいくまで家に帰ってこなかったという。
もっと小さいころには聞き分けがよくて、一度言い聞かせたことは、素直に従ったというのに・・・・・・
どうして、こんな子に育ってしまったのか。
「はぁ〜」
朝、列に並んで電車を待っていると、無意識のうちにため息がでていた。
「あの、もしかして大西さんですか?」
「えっ?」
知らないサラリーマンの男性が話しかけてきている。
「あ、私、川田っていいます。と言っても分かりませんよね。実は、お宅のマサルくんと友達付き合いさせていただいている俊文の父なんです」
俊文と言えば、このところ息子と遅くまで遊んでいる相手のことだ。
「いつもいつも、息子がご迷惑をおかけしているみたいで、もうしわけございません」
私が文句を言い出す前に、その川田氏、深々と頭を下げた。
「ちょ、頭を上げてください。そんな、こんなところで」
「あ、いえ、あ、そうですよね。すみません」
一緒に列に並んでいる人たちの注目の的になっていることに、今さら気が付いた川田氏だった。
はぁ〜 ここの親子はそろいもそろって・・・・・・


ようやくホームにやってきた電車に並んで乗りこみ、会社のある終点まで川田氏の話に耳を傾ける。
最近、奥さんが入院してしまったこと。だからといって自分が早く家に帰れるわけじゃないこと。そのせいで、一人っ子の俊文くんは日が暮れて遅い時間になってもずっと一人でいなきゃいけないこと。
そして、最近、川田家の事情を知ったうちの息子が遅くまで俊文くんに付き合って一緒にいてくれるみたいだってことも。
「本当に、感謝の言葉もないです。マサルくんは優しいお子さんですね。ありがとうございます」
川田氏は別れ際に、何度も振り返ってはそのたびに私に頭を下げるのだった。


その日の帰り、バケットボールのゴールのある例の公園の前を通りかかると、今日もまたボールをつく音が聞こえてきた。
ふっと息をつく。
進む針路を変え、公園の中へ足を踏み入れる。ベンチにカバンとスーツの上着を置き、ネクタイを緩め、カッターの袖のボタンを外す。
ボールをつくなんて、何十年ぶりだ? 高校のときに体育の授業でやって以来か。
息子たちは突然闖入してきた私のことを唖然とした顔で見上げている。
そんな二つの顔を眺めていたら、勝手に笑みが浮かび、楽しい笑いが口からこぼれた。
「いくぞっ! 二人で止めて見せろっ!」



珠代さんが一通り愚痴をこぼして帰ってから、一週間ほどして今度は電話があった。
孫の壮太をたいそう自慢する内容だった。
壮太が遅くまで遊んでいたのは、弟の出産でお母さんが入院した友達と一緒にいてあげるためだったという。
先日、その友達のお母さんが訪ねてきて、壮太のことをべた褒めしてくれたと、とてもうれしそうに誇らしげに弾む声が受話器の向こうから聞こえてきた。
『本当にやさしいいい子だわ』
珠代さんには見せることはできないが、私の顔にも笑みが広がっていた。
もう息子のマサルとボールを追いかけまわすなんて体力的にできやしないが、それでも、あの日に負けないぐらいのどこまでもほがらかで、楽しい笑い声があふれた。


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