2018年04月22日

猫になりたい




校門脇の桜も散り、気温もだんだんと暖かくなってきて、四月も下旬に入ると、教室の中もどこか浮ついた雰囲気が漂う。もうすぐゴールデンウィークだ。


「あー、私、ネコになりたい」
「ネコ?」
隣の席で、サチが上半身を投げ出すように伸ばしながら愚痴ってる。
「だってさ、あの子たちって、連休中の真ん中にわざわざ学校来なくてもいいし、連休明けに中間試験なんてないし。いつも家の周りをウロウロしてて、屋根の上なんかで日向ぼっこしながら、昼寝してればいいだけなんだもん」
「ああ、ゴールデンウィークの真ん中に平日あるの鬱陶しいよね」
「でしょ。一日や二日、学校に来るだけなら、そのままお休みにしてくれればいいのに。そしたら九連休だよ。九連休」
『あーあ』なんてため息つきながら、けだるげに横たわっている。
「九連休かぁ いいなぁ」
「うちのお姉ちゃんなんか、有給とってヨーロッパだよ。パリだよパリ」
「いいなぁ」
うん、ホント、うらやましい。
「あ、でも、一週間以上もカオルに会えないのはさみしいかな」
急になんでもないことみたいに、そんなことをつぶやくし。ホント、サチってかわいい。
抱き寄せて、頭なでなでしたい。
「おいで」
「ゴロニャン♪」


散々、サチの頭髪の柔らかさを堪能してから、
「でも、ネコって、結構大変みたいだよ」
「ん?」
「避妊手術してないと、オス猫たちに追いかけまわされて鬱陶しいし、オス猫はギャーギャーうるさいし、ご飯食べる時間がとれないし、いつも近くで喧嘩してるし」
この時期は猫の恋の季節。ホント、夜も昼もなくうるさい。夜、寝てられやしない。
「ホント、なんとかしてほしいわ。あのオス猫ども」
「フェロモンの力だねぇ」
「フェロモンの力だね」
思わず、自分の匂いを嗅いだりして。


ふと、後ろの席でクスッと笑われた気がした。
「なに笑ってるのよ」
後ろの席のタモツめ、いたずらを思いついた猫みたいな顔してニヤニヤ笑ってるし。こいつ、いつも私のことをからかってくるんだよね。だからか、なんか顔見てるだけで腹立つんだよな。
「いや、カオルからはフェロモンなんて出てないから心配するな」
すかさず顔の真ん中狙って猫パンチ。
「おっと」
余裕の顔で避けるし。ホント、腹立つなぁ
「やたらまとわりついてくるの、オス猫って鬱陶しいわ」
そんな私のつぶやきにサチがお腹を抱えて笑っているし。
「フェロモンの力だねぇ」
「なんでよっ!」「ちげーよっ!」
「フェロモンの力だねぇ」


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posted by くまのすけ at 17:41| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月15日

きっかけ




先週婚約したばかりの叔父が我が家に遊びに来た。もちろん、婚約者と一緒。私たち家族にお披露目に来たのだ。
実の兄にあたるお父さんはすごく喜び、お母さんも終始ニコニコとうれしそう。もちろん、私も笑顔ですごしていた。
お父さんとは年が離れていて、ほとんどお兄ちゃんみたいな感覚で接してきた叔父さんがもうすぐ結婚かぁ 相手はどんな人なんだろう?
家族みんなで楚々としておとなしそうな相手の人をジロジロ眺めたりしてた。
けど、お兄ちゃん、ずっと面食いだと思っていたのだけど、そうでもなかったんだね。


で、夕食前、相手の人が台所にいるお母さんを手伝って席を離れたすきにお兄ちゃんに質問してみたら、
『顔なんて店屋の看板みたいなもんだろ。相手に興味を持つきっかけにはなるけど、選ぶ決定的な理由にはならないな』
だって。そういうものなのか。
ソファーにふんぞり返ってうまそうにビールを飲んでいるお父さんもお兄ちゃんの話に大きくうなずいているし。
『顔の良しあしで人を選ぶような人間は将来出世しないぞ。だから、俺は同期のだれよりも早く部長になれた』
なるほど、そういうものなのか・・・・・・
なんとなく、顔がいい方が出世しそうな気がするのだけど。大事なのは中身なんだね。そして、その人の本質を見抜く目を持つことが一番大事なんだ。
って、ちょっと待って。いやいや、それ、お父さん、お母さんに失礼でしょ!


みんなで『おめでとう』『おめでとう』言い合いながら、ワイワイ盛り上がって夕食は終わった。
お父さんもお兄ちゃんもしこたまビールを飲み、テレビをつけっぱなしにしたまま、リビングのソファーでいびきをかいている。
お母さん、お兄ちゃんの相手の人、私の三人は台所で汚れた食器の後片付け。
「ふたりともありがとうね」
「いえいえ」
「お小遣いアップでいいよ」
「うん、それはまた今度ね」
「ええ、ケチぃ〜」
洗剤をつけたスポンジで食器の汚れをゴシゴシ洗い、水洗いし、布巾で拭いて、食器棚へ。食洗器を使えばラクなんだろうけど、我が家にはまだないし。
「はい、これも拭いて」
「はーい」
「お兄ちゃん、叔父さんとは中学の同級生だったんでしょ?」
「ああ、はい。そうですよ」
「二人はそのころから?」
「はい」
なんでも、お互いずっと意識してて、思い続けた結果、婚約までたどり着いたらしい。
「あの人と一緒にいると、なんかホッとするというか、安心できるっていうか」
「ああ、そうね。控えめでおとなしい人だものね」
「ええ。私も結構人見知りする方なので、そういう人の方が一緒にいると気楽っていうか」
「なるほど。似た者同士ってわけね」
「ええ」
そういえば、さっきから全然、私たちと視線を合わそうとしないけど、ずっと人見知りしてたのかな。
けど、控えめ同士だなんて、どうして好きになったのだろう?
接点なんてなさそうに思える。
不意にクラスで隣の席の川口くんの顔が頭の中に浮かんだのは二人には内緒。無口で恥ずかしがり屋で。どことなくお兄ちゃんに似ている気がする。
「中一のときに、あの人が授業中に教室の床に消しゴムを落としたので、それを拾って返してあげたら、口パクで『ありがとう』って言ってくれたんです。声に出して感謝されるよりも、それがなんだか特別で秘密な二人だけの関係みたいに思えちゃって・・・・・・」
結構、たわいもないきっかけだった。
そんなものか。そんなものなのかもしれない。


そういうことが頭のどっかに残っていたのだろうな。
さっきの数学の授業、シャーペンを落としてしまって、川口くんの足元へ転がっていった。
川口くん、もちろん親切に拾ってくれて、『はい』って返してくれたんだ。
だから、気が付いたときには・・・・・・
ってか、これって結構恥ずかしいかも。
さっきからじっと私の口元を見てるんだけど。さかんにまばたきしてるんだけど。もじもじしちゃってるんですけど。
頬に赤みが差しているんですけど。


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posted by くまのすけ at 17:13| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年04月08日

桜並木




今度の学校、校門前の道路が桜の並木道だ。
今朝も四月の穏やかな陽気の中で登校していると、淡い桃色の花びらがふわりと舞って私の視界を横切って行った。
顔を上げると、道の両側の桜の木は、数日前に比べて茶色が濃くなり、ところどころに葉の緑が顔をのぞかせはじめている。桜の季節も終わりが近い。


桜が華やかで美しいとしても、それは二週間ぐらいしかつづかない。
花が咲いて、散ってしまうまでの期間。その後の葉桜はとても地味で、他の木と大差がなくなる。もう誰も見向きもしない。
でも、美人は生まれた時から死ぬまで美しく、ずっと綺麗なまま。桜みたいにほんの一瞬だけ輝くわけではなくて、ずっと人目を惹き続ける。
幼稚園からずっと一緒の吉乃がそうであるように、だれからもチョウよ花よとチヤホヤされる。
「はぁ〜」
そして、私みたいなのは葉桜だ。生まれたときから死ぬまで一生葉桜のままだ。地味で、だれからも見向きもされなくて。生まれた時からそう決まっているのだ。
「はぁ〜」
また私の視界を横切るように花びらが漂っていった。


「きれいだ」
不意に、すぐ近くでかすれた声で誰かがつぶやいた気がした。男子の声。知ってる。これって、初めて吉乃を目にした男子のだれもがそうしているような声だ。
でも、私の近くには今吉乃はいない。部活の朝練で早めに登校した。だから、ここにいるのは私だけ。その男子と二人だけ。
その男子が『きれいだ』ってつぶやく。
・・・・・・
視界の隅で桜の花びらが舞っている。私にまとわりつくようにそよ風が吹き、花びらがくるりと回る。
「きれいだ」
――トクン。
一瞬で頭の中を大好きないくつもの少女マンガのシーンが駆け巡った。並んで美しい花火を眺めている男子が隣の女子の方に顔を向けて、不意につぶやいている。
――そんな。ばかな。だって、私は葉桜。満開の桜じゃない。
けど、その声はすぐ近くから私にだけ聞こえていて。
頬が熱くなるのを自覚しつつ、ドキドキしながらこっそりと盗み見た。
すぐ近くに男子がいた。あれはたしかこの春から同じクラスになった佐伯くん。
その佐伯くん、うっとりとした表情を浮かべて、私の方を・・・・・・正確には、私の頭上を見上げていた。
花びらが一枚、またはらりと枝を離れた。
「きれいだ」


「はぁ〜 こんなことだろうと思ってた」
私なんて眼中にない。私は葉桜。
ふと佐伯くんの視線が花びらと一緒に下りてきて、私のとぶつかった。見る見る顔が赤くなっていく。
自分のつぶやきを私に聞かれていたの気が付いたかな。
顔をしかめて、横むいた。自分の鼻の頭を爪でひっかいて、不器用に照れ隠し。ぶっきらぼうな口調、
「言っとくけど、桜が散っていくのが綺麗なんだからな」
「分かってるわよ。そんなの」
うん、生まれた時からずっと知ってる。
背を向けて、校門へ向けて歩き出す。道路に散った花びらが風に吹かれて舞い上がった。
いずれは朽ちて土に還る花びらだけど。今はくやしいほど、とてもきれい。
「きれいでしょ」
「ああ、綺麗だ」
「よかったね」
「大島さんも桜好き?」
「えっ?」
名前覚えてたんだ。
「大島さんでしょ? 今度、同じクラスになった」
振り返った。まっすぐ私を見ていた。じっと真剣な目で。
「ええ、私も好きよ」
すごくうれしそうに笑っていた。
桜の並木に、すこしだけ緑が濃くなっていた。


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posted by くまのすけ at 18:28| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする