2018年02月18日

女子キ




今日二月十四日は、もちろんバレンタインデーだ。
朝の通学路でも、教室の中に入ってからも、女子も男子もそわそわしていて落ち着かない。
もちろん、私も……なんてことはないか。
いつもの朝のようにとてとてと華ちゃんが私に近寄ってきて『はい、チョコレート』なんてくれるのへ、お返し。手の中のかわいいラッピングを眺めながらお互いに笑みを交わした。
近くの席の男子たちが、なんか複雑そうな顔なのが、ちょっとおもしろい。
で、その華ちゃんはというと、私とチョコレートの交換が終わると、今度は隣の席へ。
「須藤君、はい」
「お、サンキュ」
私にくれたものよりもずっと小さなチョコレート。もちろん、義理チョコだ。それは私も須藤も分かってる。だって、隣の教室の華の彼氏は須藤の友達だし、華とふたりすごくラブラブなの、私たち知ってるもの。
「よかったわね。かわいい女の子にチョコもらえて」
「ああ。義理だけどな」
「義理でもチョコはチョコでしょ」
「まあな」
そのまますまし顔で机の中にチョコをしまう。それから、私に催促するように手を差し出してくるわけで。
「んっ」
「なによ?」
「チョコ」
「はぁ? なんで私があんたにあげなきゃいけないのよ」
「彼氏の友達ってだけの関係なのに、植田はくれたよな」
「そもそも私とあんたは友達でもなんでもないでしょ」
「植田はくれたよな。知り合いってだけで。んっ」
「あつかましい」
「んっ」
結局、根負けしてしまった。というか、最初から用意はしていたのだけど。
「あるんなら、グダグダ言ってないでとっとと出しゃいいのに」
「なんか、ムカツク」


けど、なんなんだ?
女の子からチョコせしめたくせに、全然うれしそうな顔一つしないの。前から不愛想だとは思っていたけど、こんな時ぐらいもっと喜んだっていいじゃない。
藤田君を見なさいよ。ひろみからあからさまに義理チョコですってのをもらっただけなのに、まぶしいくらいに顔を輝かせているじゃない。ガッツポーズまでして。
それに引きかえ、この隣の仏頂面は……
来年は考えた方がよさそうかも。女子の査定はこの瞬間から始まっているのだ。
だけど、
「なによ、さっきから私の顔をじっと見てさ」
そうさっきから横顔に視線を感じるのだけど。向き直って睨んだら、一度、すまし顔で耳たぶを掻いて、
「小西も女子だったんだなって」
「……」
よし、歯を食いしばれっ! ぶっとばす!
「いや、前からちゃんと女だって認識してたから、そんな顔すんなよ。けど、なんだかこのラッピング、すげぇ可愛いなって思ってさ。自分でラッピングしたんだろ? 女っぽいっていうかさ。ザ・女子って感じ」
えっと、これは褒められてる? やっぱり、けなされてる? 須藤が言う通り、たしかにラッピングは自分でしたけど。自分でも自信作だけど。
「けどさ、女子だってことにキが付けばライクじゃん」
えっと…… 突然、なに言い出すかな。
ここはビシッと言っておかないといけなさそう。
「言っとくけど、それ、義理チョコだからね」
「おう。分かってる」
「そ、分かってるならいいんだけど」
そうして、結局、その日は友達たちとチョコを交換して終わった。残念ながら、私にはまだ本命チョコを渡す相手なんていない。
でも、なんだろう。今日はいつものバレンタインデーと違ってずっと頬が熱いのだけど。風邪なのかしら。それに、隣を見れないのだけど。


「はぁ」
あれから特になにごともなく何日か過ぎた。で、今日は午後から体育の授業。グラウンドでサッカー。疲れた。着替え終わって席に着いたら思わずため息がこぼれてしまった。
なんか、あれ以来ずっと須藤に話しかけられない。まっすぐ顔を見れないっていうか、なんていうか。
須藤の方も、私に何も言ってこないし。
「おつかれだな」
「えっ? ああ、うん。サッカーで走りまわってたから」
「みたいだな。体育館からグラウンド見えてた」
「そ」
ひさしぶりに会話したと思ったら、あっという間に途切れてしまった。
そのまま、沈黙が続きそう。なにか言わなきゃ。
「私の場合は、相手に他の女子が近寄らないようにキをつけるの」
「えっ? なんの話…… ああ、そうか。けど、なんだそりゃ? 重っ!」
「他の女子にキをとられたら、刺しちゃうかも」
「こえ〜よ」
二人して苦笑。自分の言葉だけど、たしかに怖いわ。
「けど、俺は一途だから、一生で女子にキを向けるのは一人だけだな」
「どうだか」
「あ、信じてないな」
肩をすくめて、そして、久しぶりに笑顔を向けた。今は同じ笑顔が仏頂面のあいつにも浮かんでいた。
「せいぜい、刺されないように女子にキをつけなさいよ」
「おうっ。絶対に女を兼ねさせたりしないさ」




本当は先週アップする予定だったけど、寝込んでたので一週遅れです。


短編・ショートショート 目次(2018)へ
↓↓↓ついでに、ポチッとしてくれると、やる気が出るかも^^b ↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログへ人気ブログランキングへ


posted by くまのすけ at 17:01| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月04日

ごりやく




去年の年末に比べて、日が暮れるのがずい分遅くなった。
俺は向かいの山並みに沈んでいく夕日を眺めながら、白い息を吐き出す。
「さむっ」
一つ震えて、気合を入れ直し、これから上る先を見上げた。
夕日に照らされているとはいえ、そんなのは気休め程度にしかならない。寒いものは寒い。
それでも、体を動かすことで少しは暖かくなることを期待しながら、二段飛ばしで長い石段を上りはじめた。


石段を登りつめた先には鳥居がある。そこはもう近所の神社の敷地だ。
玉石が敷き詰められ、深閑としたなかに厳かな空気が漂っている。そんな雰囲気を乱すような者は今はだれもいない。ただ俺一人だけがジャリッジャリッと玉石を踏みしめて、拝殿へ歩いて行く。うら寂しい。それが余計に寒さを強調するかのようだ。
ポケットから財布を取り出し、小銭を抜き取って、手に握る。そして、まっすぐに拝殿の奥を見つめた。
賽銭箱に小銭を投げ入れる。それから、鈴を鳴らして二礼、二拍手。
――明日の入試、うまくいきますように。
心の中で願い事を唱えて、深々とお辞儀をした。
「ふぅ〜」
溜めていた息を吐き出して、戻ろうと振り返ったら。
「よっ」
「おすっ」
いつのまにか聡介が背後に立っていた。そういえば、さっき願い事をしていた間に、背後で玉石を踏む音が近づいていた気がする。
「願い事か?」
「ああ、まあな」
「そっか。俺もだ」
俺と入れ替わって、聡介も参拝をすます。しかし、聡介が投げ込んだコインはずい分ピカピカに光っていたような。俺が投げた百円なんかよりもずっと大きかったし。あれって。
「五百円かよ」
驚きの声を上げた俺に、ニヤリとしやがった。
「これなら、絶対、願いがかなうだろ」
「さ、さあな」
けど、聡介がかなえたい願いってなんだ?


「なに願ってたんだ?」
「ん? ああ、内緒だな」
「そっか」
「そっちは?」
「明日、受験だからな」
「そっか、がんばれよ」「おう」
最近、聡介が望んでいたことっていったらなんだ? 思い出せ、俺。
聡介と適当な会話を交わしながら、頭の中をフル回転。ここしばらくの聡介との会話を思い出す。
「ラーメン食いてぇ」「俺も」
「寒いっ!」「冬だからな」
そういえば、昨日、聡介のヤツ、教室で新田さんのことをチラチラ眺めてたな。ってことは、もしかして?
「新田のことか?」
「ん? 新田? 新田がどうかしたか?」
どうやら違うみたいだ。
「いや、なんでもない」
「ああ、そういえば、新田、今年もチョコ配るのかな?」
「さあな」
「俺、去年、新田からもらった義理だけだったな。他の女子はそういうの全然なかったし」
「そうか・・・・・・」
「お前んとこは?」
「去年は・・・・・・」
去年は聡介や新田さんとは別のクラスだった俺。もちろん、そういう気の利いたことをしてくれる女子なんて皆無で。
「ああ。悪いことを訊いた」
「いや、いい。過ぎたことだ」
ああ、確かにとっくに過ぎたことだ。たとえ、去年、チョコなんて一つももらえなかったとしても・・・・・・
「今年はもらえるといいな」


新田のことじゃないとすると・・・・・・
「なあ、お前、ランニングの途中じゃないのか?」
なぜか俺の表情をうかがうように上目遣いに見ている気がするのだが。
とはいえ、一瞬、何のことかと思った。でも、すぐに思い出した。自分のジャージ姿の全身を見下ろし、納得する。そうだ俺、ランニングの途中だった。
明日の入試に備えて家で勉強していて、気分転換にランニングにでたのだ。
途端に、体が冷えてきた気がする。折角、さっき石段を全力で上って体があったまったというのに。
体が冷えたせいで風邪をひいたりしたら、元も子もない。
「ああ、そろそろ行くわ」
俺がそう告げた途端、気持ち悪いほどの笑みを向けてきた。
「おう。がんばれ」
「おう」
軽く手を上げて、聡介のそばを離れた。それから、さっき上った石段を下りはじめた。
途中、顔見知りの女子とすれ違った。同じクラスの古川さんだ。まだ制服姿だから学校の帰りか?
特に言葉を交わすこともなく、軽く会釈して、そばを通り過ぎる。
俺が石段の一番下にたどり着いた時には、古川さんは頂上まで上り詰めていた。そして、中にいる誰かに親しげに手を振っていた。それはまるで恋しい人と待ち合わせていたかのように。
今、神社にいるのって。
そっか。そういうことか。俺はお邪魔虫だったか。
つうか、聡介のヤツ、俺を早く追い出すために五百円もつかったのかよっ!
あらためて考えると、なんか腹が立つな。ったく!


「よっ」
入試で登校しなかった一日を挟んでの翌々日、朝、少し前を歩いている聡介を見かけた。背後から忍び寄り、抱き付きながら、脇腹をかるく小突く。
くそっ、幸せそうに笑いやがって!
そこはかとなく殺意が芽生えるのだが。
「ああ、それはそうと、試験どうだった? うまくいったか?」
心配そうな顔で俺のことを見つめてくる。
「昨日、第一志望の試験だったんだろ?」
「ああ、なんとかな」
「合格しそうか?」
「さあ、分からん」
正直な感想だ。もちろん、昨日の試験ではそれなりの手ごたえを感じてはいる。だが、だからといって合格できそうかどうかなんて俺には判断がつかない。
そんな俺の不安をよそに、隣で聡介は自分を納得させるように、ひとりうなづいていた。口の中で何事かをつぶやきながら。
「なんにせよ、ご利益が五百円分はあるはずだから、きっと大丈夫だな」


短編・ショートショート 目次(2018)へ
↓↓↓ついでに、ポチッとしてくれると、やる気が出るかも^^b ↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログへ人気ブログランキングへ


posted by くまのすけ at 17:19| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月28日

鬼の名前




朝、教室のドアを開けると、
「福は内、鬼は外!」
今年もそう叫びながら、俺に豆をぶつけてくる女子がいた。
「はぁ〜」
九鬼なんていう名字を持って生まれた人間にとっては、毎年この時期になると必ず経験することではあるけども。でも、今回、俺に豆を投げつけてきたのって・・・・・・
「お前も鬼塚じゃねぇかよっ!」
床に落ちた豆を拾って投げ返してやった。


「はぁ〜 やっぱ、もっとかわいい名字で生まれたかったな」
授業開始前の休憩時間、次の授業の準備をしていたら、そんなことをつぶやきながら隣でため息をついている。
「たとえば?」
「そうね。たとえば、綾小路とか・・・・・・」
「きみまろか」
途端に机の下で足を蹴られた。それから何事もなかったように言い直す。
「綾瀬とか」
「それはやめておいた方が・・・・・・」
「なんでよ?」
「下の名前遥だろ? 全然違うじゃん」
「・・・・・・」
無言でさらにゲシゲシ足を蹴ってきた。
「いてぇ」


「九鬼はどうなのよ」
「おれ?」
「憧れてる名字とかないの?」
「ああ、う〜ん・・・・・・」
しばらく考えて、結局なにも思い浮かばなかった。
「特にないかな」
「あら、そうなの?」
「ああ、意外と九鬼って名字気に入ってるし」
「ふ〜ん」
まあ、毎年この時期はいろいろ嫌な思いをしないでもないが、でも、なんといっても九鬼なのだ。とっても強そうじゃないか。
それに、先祖はなんといってもあの戦国時代に活躍した九鬼水軍。ということになっているが、別に家系図が我が家に伝わっているわけでもないので本当のところはどうか分からない・・・・・・
でも、九鬼を名乗るだけで、結構、歴史好きの人たちにチヤホヤされたりする。
「やっぱ、俺は九鬼でいいや」
「ふ〜ん」


「でも、九鬼なんて名字、女の子ならみんな敬遠しちゃうんじゃない? いかつい感じしてさ」
「ん? そうかもな」
今はまだ異性の友達とかその程度の関係だけど、いつか将来、結婚を考えるような相手と出会ったら。相手が九鬼をよろこんで名乗ってくれるだろうか?
考えなくても結論が出ている。かなり難しそうだ。
「まあ、まだ当分先の話だしな」
「ふふふ、そうね。当分先ね」
含み笑いしてやがる。
「そっちだって、鬼塚なんだし、だれだって嫌がるだろ」
「あら。でも私、女だもん。結婚すれば旦那様の名字に変るから関係ないわ」
えっへんと勝ち誇ったように胸を張りやがる。
「く、たしかに・・・・・・」


「九鬼でも嫌がらない女の子が現れるといいわね」
「やめて。なんかその言い方だと、名字じゃなくて俺自身が気持ち悪るがられてるみたいじゃねぇか」
「あら、ホント、ごめん遊ばせ。おほほほ」
ったく。すでに勝った気でいやがるし。なんかムカツク。
こうなったら。
「よしっ、なら、呪いをかけてやるっ!」
「なによ、それ?」
「鬼の呪いだ! すげぇ効果がるぞ! あははは。鬼塚よりももっとひどい名字のヤツを好きになれぇ〜!」
「ちょっと、やめてよね」
おっ、慌ててる。慌ててる。さらに、もうひと押し。
「鬼塚の未来に、いかつい名前の男しか現れるなぁ〜!」
「そんなことになったら、私、九鬼しか選べなくなっちゃうじゃない」
「鬼塚の・・・・・・」
ちょっと待て。それって・・・・・・
鬼塚もハッとした顔をした。だけど、すぐになにげない口調を装う。
「あら、よかったわね。九鬼なんかにも素敵な相手がいて」
言葉を失っている俺。顔を真っ赤にして、素っ気ない態度でノートを広げる女子が隣にいるわけで。案外かわいいなと思わなくもないこともない。
えっと。えっと。えっと。
「鬼塚にも素敵な名字の男子が現れろぉ〜!」
「どういう意味よ!」
思いっきり蹴り飛ばされてしまった。


短編・ショートショート 目次(2018)へ
↓↓↓ついでに、ポチッとしてくれると、やる気が出るかも^^b ↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログへ人気ブログランキングへ


posted by くまのすけ at 18:56| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする