2017年09月17日

虫の声




姪っ子の陽菜が我が家に泊まりに来ている。姉夫婦が結婚十年目の記念日を二人だけで過ごしたいからとお母さんに預けて旅行へ出かけたからだ。
両親にすれば目に入れても痛くない初孫。最近ではついぞ見たことがないような満面の笑みを浮かべて甲斐甲斐しく陽菜の面倒を見ている。きっといい敬老の日のプレゼントになっただろうな。
「涼香にも早くいい人ができて、結婚してくれないかしら。もう一人、こんな可愛い孫の顔を見てみたいわ〜」
それでも、陽菜の相手をしながら、ゴキゲンな口調でそういうことをいうのは忘れない。正直、耳にタコだわ。だから、いつものようにスルーしてと。
「はいはい。そのうちね」
「えっ? 涼香お姉ちゃん結婚するの?」
うう、純真な笑顔がまぶしい・・・・・・
「そ、そのうちね。相手が見つかったら結婚するかもしれないっていうか・・・・・・」
しだいに口ごもるしかない。陽菜にも大きくなったら分かるわよ。このプレッシャー。きっと・・・・・・


早々に退散して、自室へ逃げた。
晩ご飯は同僚と帰りに済ませて来たし、メイクは帰ってすぐに落とした。だから、今はスッピン。お肌のケアもバッチリすませ。あとは、お風呂に入って寝るだけ。
床の隅っこにホコリがうっすら積もっているような気もしないではないけど、見ないふり、気づかなかったふりでやりすごして、お風呂湧くまでネットサーフィンでもしてよっかな。
――トントン
「はい」
「涼香お姉ちゃん、入っていい?」
「ああ、陽菜か。おいで」
ドアが細く開いて陽菜が可愛い顔をのぞかせる。
「梨剥いたけど、食べない?」
「食べる。おっ、もしかして陽菜が剥いたの?」
「うん」
「そっか。おいしそうだね」
不器用なお母さんが剥く所々に皮の残ったいびつな形とはちがって、陽菜の手にしている皿の上には、綺麗に皮がつるんと向けたくし形の梨が並んでいる。
さっそく、一つとって口に放り込む。シャクシャク、ジューシー。
「おいしい」
目をむいて、頬を綻ばせて大げさな声をだしたら、陽菜もうれしそうな顔をした。
「陽菜、上手だね。将来、いいコックさんになれるね」
「ありがとう。でも、私、翔太君のお嫁さんになるつもりなんだ」
「・・・・・・翔太君?」
「うん。私の彼氏」
「・・・・・・」
明るい声で無邪気にそう言うわけで。八歳になったばかりなのに、もう彼氏がいるってどういうこと? 私なんて・・・・・・
思わず黙り込んだ私の顔を見上げてなにを見たのか、さっきまでの顔一杯の笑みから気まずそうな表情に変わった。
「あっ、ごめんなさい」
姪っ子に気を使われてしまったぁ〜!!!!
「ああ、うん。いいから。気にしなくていいから」
「でも・・・・・・」
「大・丈・夫・だからっ!」


「この部屋、虫の声聞こえるね」
「ああ。すぐ裏が公園になってるからね」
「あっ、これコオロギだ。リュリュリュって鳴いてる」
「あ、うん。そうだね」
そうなのか? 毎晩、鳴いているのは知っているけど、あまり気にしてなかったせいか、何の虫の声かなんて私知らない。
「あ、これクツワムシかな? ガチャガチャ言ってる」
「そうかもね」
急に、
「♪あれマツムシが鳴いている ちんちろちんちろちんちろりん」
虫の声にも負けない澄んだキレイな声で陽菜は歌い出した。目でつづきを歌えって促しているみたい。
えっと、たしか・・・・・・
「♪あれスズムシも鳴きだした りんりんりんりんりーんりん」
ずい分嗄れて濁った声。うう、純真だったあのころの私はどこに?
「♪あーきの夜長を鳴きとおす ああ、おもしろい虫の声ぇ」
そうして、コロコロと鈴が鳴るような笑い声をあげて、陽菜が楽しそうな笑顔を見せていた。
ま、まぶしい〜


「あ、今度は本当に鈴虫だぁ」
「えっ? ほら、リンリンって鳴いてる」
たしかに耳を澄ませばリーンリーンって聞こえる。でも、これって・・・・・・
「きれいね。ねっ、虫って恋のために鳴いているんでしょ?」
「ああ、うん。そう」
昔、学校で習った。オスがメスを呼ぶために彼らは必死に鳴いていると。
毎夜繰り広げられる虫たちの恋の歌。
でも、それを聞いている私には恋の歌なんて縁もゆかりもなく・・・・・・
「ねっ、陽菜はどの虫の声が好き?」
「うんとね。私はコオロギかな」
「最初に言ってたヤツ?」「うん」
「そっか」
「涼香お姉ちゃんは?」「私?」
「うん」
「私は・・・・・・」
それからしばらくおしゃべりしながら梨を食べ、陽菜は空の皿を下げて部屋をでていった。
陽菜の質問に私は鈴虫と答えた。リーンリーンと聞こえていたアレ。
いい加減、お母さんの部屋の窓の外、夏から出しっぱなしの風鈴、片づけるように言った方がいいのかしら?
もう秋だよって。季節は過ぎちゃってるよって。
また風が吹いた。
――リーン リーン
恋の歌とは無縁の夏から取り残された風鈴。また鳴った。


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2017年09月10日

ネコと遊ぶ




朝晩はめっきり涼しくなってきたというのに、昼間はまだまだ暑さが厳しい。
冷たいものがほしくて、自販機の前までやって来たが、いざ財布を開いてみたら小銭が足りなかった。それもたったの十円だけ。
目の前にあるのに手が届かない。のどを潤すことができない。そう考えたら、余計にのどがひりつき、口の中が乾燥する。
――クソッ、なんでこんなときに・・・・・・
そうか、昨日アイスを買ったせいだ。小腹が空いて、つい我慢できずにコンビニでアイスを買ってしまったせいだ。
無駄と知りつつ、金も入れずに自販機のボタンを押した。もちろん、飲み物が出てくるなんてことはなかった。
家に帰って水道水でもがぶ飲みしよう。
そう考えながらトボトボと歩いていたのだが、ふと顔を上げたら目の前にスーパーがある。
――もしかしたら、ここなら。
色々なものが安く売られているスーパー、以前、家族で来た時には、ペットボトルのジュースが百円を切る値段で売られていた。
俺は藁にも縋る思いで自動ドアをくぐり、涼しい店内のドリンクコーナーへ足を向けた。
すぐに見つけた。
しかも今の所持金以内で買える。
――助かったぁ〜
俺はよく冷えたペットボトルを手にするとレジへ向かった。


「あっ、野上くん、ちょうどいいところに」
レジへ向かう途中、ふいに声をかけられた。見ると、石井が俺の方を向いている。
「これ運ぶの手伝って」
石井が指さすのは猫の姿が印刷された砂袋。ネコのトイレにつかう猫砂ってヤツだ。
「一つ五キロもあるのよねぇ 重くって」
「じゃあ、カート使えよ。あっちにあるぞ」
「そんなの分かってるわよ。でも、カートだと店の中しか移動できないでしょ。店から家まで運ばなきゃいけないけど、こんな重いんじゃ無理じゃない。だから、家まで運ぶの手伝ってよ」
「はぁ? なんで俺が?」
いくら同級生だからって、なんで俺がそこまでしなきゃいけないんだ?
「あら、誰かさんが小学校のとき、家がマンションで飼えないからって、拾ってきた捨て猫をもらってあげたの誰だったかしら」
「お、おま、きたねぇぞっ!」
「うふふふ。ねぇ、だれだった?」
「今頃、そんなこと言いやがって!」
ブツブツ言いながらも手伝うことにした。口論しても女子に勝てる気がしねぇ
世の中にはあきらめるのが肝心な時だってあるのだ。
「よいしょ」
「ああ、ついでだから、もう二袋お願い」
「はぁ?」
「だって重いんだもん!」
「お前なぁ〜」
この機会に徹底的に俺を利用する気でいやがる。ったく。
っていうか、一つ五キロじゃなくて、五リットルって書いてないか? 絶対五キロ以上あるぞこれ。
文句を言いたいけど、すぐそばで期待に目を輝かせている。
どんだけ欲しかったんだよ。
「わーたよ。運べばいいんだろ。運べば」
「ありがとう。さすが男の子。たよりになるぅ」
甘えるような声でそんなことをいう。うん、別に可愛くもなんともないぞ。石井だし。
おかげで炎天下の道を十五キロ分の荷物を抱えて移動する羽目になってしまった。
汗ダラダラ。スーパーに入る前以上にのどが渇いていた。


「ありがとう。助かったわ」
「はいはい。どういたしまして。クソッ」
玄関先に三袋の猫砂を積み上げて、壁に手をつきながら肩で息をする。
「お礼にお茶ぐらいだすから、待ってて」
お茶。飲み物。のどを潤す水分。のどがカラカラの俺には、もう我慢できない。
結局、お言葉に甘えて玄関先で待っていることにした。
「お母さん。ジュースかなにかない〜?」
石井が大声を張り上げるのだが、返事はない。
「あれ、いないのかな?」
そのまま奥へ様子を見に行く。しばらくして、お盆にコップを乗せてもどってきた。
「はい。どうぞ」「おっ、サンキュー」
冷たく冷えたジュース。水滴がコップの周りについて、俺の指先を濡らす。
一気に飲み干した。
ぷはぁ〜
「ふふふ、お代わりいる?」
「ああ、頼む」
また奥へ引っ込む石井と入れ替わりに、茶色い毛玉が転がってきた。つぶらな両の瞳をもつ小さな毛玉。ふわふわの塊。
そいつは、俺の腰かける玄関先までトテトテと来ると、
『にゃぁ〜〜〜〜』
「よっ、久しぶりだな。元気だったか?」
『にゃぁ〜〜〜〜』
あれから何年も経っているのだ、まさか俺のことなんか覚えているはずはないだろう。
それでも、俺の腰に体をこすりつけて、逃げようともしない。尻尾をピンと立てて、そばをウロウロしている。
試しに手を伸ばして背中をなでてやると、うっとりと満足げな顔をして、のどを鳴らし始めた。


近くに転がっていた猫じゃらしを手にし、猫の前で揺り動かす。
獲物を見つけた様子で体を伏せ、腰をくねらせ、ジャンプ。俺が操る猫じゃらしを一生懸命追いかける。
円を描くように振り動かせば、円を描いて走り抜ける。高く掲げれば、自身の何倍もの高さまでジャンプする。
つうか、俺、同級生の女子の家の玄関先で何やってんだよ。
改めて今の状況を見直してみると、妙な話で。
女子の家に来て、その家のペットと遊ぶって。
ジュースのおかわりもらったら、さっさと引き上げた方がよさそうだ。
しかし、ここは女子の家。なんだか匂いも俺の家よりもいい気がする。
って、そんなことを考えてはいけない。無心になれ、俺。邪念を捨てろ!
無心で猫じゃらしを振る。ネコが飛びかかってくる。
――余計なことを考えるな。
猫じゃらしが踊る。ネコが舞う。自然と笑顔がこぼれる。ネコが走る。



って、なんなのよ。すっごい鬼気迫るような雰囲気で、私の家の玄関で野上がココちゃんと遊んでるんですけど。
仮にもここは初めてきた女子の家なのよ。男子ならもっとこう赤くなったりとか、挙動不審になったりとか、そういうのないの?
なんで夢中になってココちゃんと遊んでるのよ。おかしいじゃない?
さっき奥へ様子を見に来た時、家の中に母の姿がないことに気が付いて、今はこの家に野上と二人っきり。途端に緊張しちゃったのに、なんだか、私だけが意識しちゃっててバカみたいじゃない。
どういうことよ。なんで、野上はそんなの全然気にしないでココちゃんと遊んでいるのよ。
私ってそんなに魅力ない? 女子として見られてない? 可愛くない? そんなにココちゃんの方がいいの?
もう泣きそう。野上のバカ!



なんか、さっきから、俺、廊下の先から石井に睨まれているのだけど。なにか石井を怒らせるようなことしたか?
そんなことより、早くそのお盆にのったおかわりのジュースをくれよ。
耐えられない。ここは女子の家だって意識しだしたら、恥ずかしくていられない。
石井ってこんなに可愛かったっけ?
石井がいつもの二割増し三割り増しぐらいに魅力的に見える。
助けると思って、早くおかわりを。


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posted by くまのすけ at 16:51| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月03日

たこ焼き




「たこ焼き屋台をやるぞ!」
耕太郎がそう叫んだのは去年の今頃のことだった。
「はぁ? なに言ってんの?」
「だから、たこ焼き屋だ」
「・・・・・・なんの話?」
「文化祭の出し物だよ」
「文化祭・・・・・・?」
まだクラスの出し物すら決まっていないひと月も先の行事。なのに、耕太郎はたこ焼き屋台を出したいという。
「そっか。がんばれ、応援してるぞ」
「ちげーよ。お前もやるの」
「はぁ? なんでだよ。やらねぇよ。そんなめんどいの」
「いいや、やるね、お前なら」
自信満々に断言してくるのを呆れて眺めていて、言い返すのが一拍遅れてしまったじゃねぇかよ。
「やらねぇよ」
「そうかな。これを聞いてもかな」
「なんだよ」
「俺と組んでたこ焼き屋台やれば、女にもてるぜ」
「はぁ?」
まさに『はぁ?』だ。どこの世界にたこ焼き焼いたぐらいで女にもてるものか。テレビに出ているようなどこぞのアイドルならまだしも、こんな一介の高校生風情で。
「大丈夫だ。心配ない。俺に任せろ」
どこから湧いてくるのか、妙な自信をみなぎらせて、胸を叩く耕太郎だった。


「で、なにすればいいんだ? 普通にたこ焼き焼いてればいいのか?」
結局、強引に押し切られてたこ焼き屋台を手伝う羽目になってしまった。こんなときに自分の優柔不断さが情けなくなる。
でも、父親が関西出身で、子供のころからたこ焼きパーティに慣れ親しんだ俺。たこ焼きぐらいならお手の物だ。
窪みが並んだたこ焼きプレートの上に溶いた小麦粉の生地を流し込み、一口サイズに切ったタコを放り込んでいく。それから串でくるりと回転させ、球形に焼き上げていく。このとき、一気にひっくり返すんじゃなくて、四分の一ぐらいずつずらして焼くのが綺麗に球形にするコツなのだ。
「ほらよ。ソースに、あおのり、鰹節。マヨネーズはいるか?」
「おお、サンキュ、サンキュ」
さっそく、たこ焼きに挿したつまようじをつまんで口に運んでいる。
ったく、お前も焼けよ!
「あつ。ほっ、ほっ・・・・・・(ごくん)・・・・・・うまっ!」
「だろ。中の具は別にタコでなくてもいいし、たとえば、ほれ、これ」
「おっ、チーズか。こっちは・・・・・・ ワオッ! チョコかよ」
「ああ、他にもキウイとか、リンゴとかもあるぜ」
「なるほどなぁ いろいろ工夫してんだな。まあ、正直、今回は具材なんてどうでもいいが」
「・・・・・・」
って、いきなり全否定かよっ!


「で、こんなんで、本当に女にもてるのか? これじゃあただのたこ焼き屋のおっさんじぇねぇか?」
「ああ、大丈夫だ。このたこ焼きにこのソースをこうやってかけてやれば、ほれ、この通り」
そうやって、隅においてあった入れ物から耕太郎がいうところのソースとやらをたこ焼きにかけたのだが・・・・・・
「ぐぇっ! なんじゃこりゃ! 折角うまそうだったのに台無しじゃねぇかよっ!」
「大丈夫だ。これでOKだ」
「OKじゃねぇだろ。こんなの誰が食うんだよ」
「ふ・ふ・ふ。カワイイ女子たちに決まってんだろ」
「だれも食わねぇよ、こんなの」
俺が焼いたばかりのたこ焼きを盛りつけた皿。そのアツアツのたこ焼きにかかっているのは定番の黒茶色のソースではなく、赤・オレンジ・黄色・緑・水色・青・紫。七つの色が毒々しく光り輝くレインボーソース。見るからに禍々しい・・・・・・
「へへへ。こりゃ売れるぜ。女子たちからモテモテだぜ」
「どこからそんな自信が湧いてくるんだよ」
まだ文化祭が始まっていないにもかかわらず、大失敗の予感をヒシヒシと感じ取る俺だった。


「さて、そんじゃ、ちょっくら営業してくっか。お前もくるか」
「営業? なにすんだよ」
「決まってんだろ。倉田たちに見せびらかせに行ってくるんだよ」
「やめとけって、そんなヘンなん見せたらバカにされるだけだぞ」
「いいや。そうでもないさ。まあ、見てな」
耕太郎はクラスでもとても目立つギャル系の女子の倉田にひょこひょこと近づいていき、声をかけた。
ほら、言わんこっちゃない。倉田、耕太郎の手元を見た途端、大爆笑じゃねぇかよっ!
しかも、スマホ取り出して耕太郎の手にしているゲテモノを撮りまくっているし。
ああ、やめだやめ。こんなの大失敗確定じゃねぇか!
エプロンを放りだして、天を仰いでいたのだが、
「ねぇ、あの虹色のたこ焼き焼いたの今川くんたちだよね?」
「えっ? ああ」
「あれって、食べられるの?」
「ああ、耕太郎はそう言ってたな」
「へぇ〜」
たまたま近くを通りかかった池内が興味津々な様子。
「えっと、作ってやろうか?」
「えっ、いいの?」
「ああ、材料ならたっぷりあるからな」
そうして、たこ焼きを焼いたのだが。
「なぁ、池内、本当にいいのか? 普通のたこ焼きだって作れるんだぞ」
「あ、うん。いい。お願い」
「じゃ、じゃあ・・・・・・」
折角うまくできたたこ焼きを台無しにすると分かってて、震える手でレインボーソースをかける。
く、くそ! こんなのたこ焼きなんかじゃねぇ!
「うわぁ、本当に虹色だねぇ〜 すご〜い!」
でも、池内は目を輝かせ、手を叩いて喜んでいる。
「えっと写真撮ってSNSに上げてもいい?」
「ああ、構わないぞ」
早速、出来上がったそれをスマホを取り出してパチリ。つまようじの先に一つ挿してパチリ。自分の頬の横に掲げてパチリ。ついでに、俺と並べてパチリ。
つられて、俺もスマホを取り出して、池内・たこ焼き・俺と並べてパチリ。池内ポーズまでとってくれてる。
あ、あれ?
さらに別のポーズでそれぞれのスマホでパチパチリ・・・・・・
なぜか、池内がバイバイと離れていったときには、俺のスマホに池内の連絡先が入っていた。


文化祭当日。俺たちの屋台のレインボーたこ焼きは売れに売れた。
ひっきりなしに学校中の女子たちが押しかけ、さらに倉田や池内がSNSにアップした写真を見たという他校の女子たちも押し寄せて、そこらかしこで写真を撮りまくっていた。
俺は寸暇を惜しんでたこ焼きを焼きつづけ、耕太郎はあっという間に底をつく食材の調達に駆けずりまわっていた。
おかげで、俺たちは女子たちと注文以外の会話をする余裕もなく。そして、女子たちにもてることもなかった。
もっとも、それだけ働いたのだから、売り上げは俺たちの屋台が断トツ一位。あとで聞いた話では、学校の歴史始まって以来の売り上げだったもようだ。
当然、それだけの活躍をしたのだから、文化祭の最優秀賞をもらってもいいはずだったのだが、実行委員会から申し渡されたのは・・・・・・厳重注意!
そう、俺たちのたこ焼きを買った女子たちは、ほとんどだれもそれを口にせず、撮影を終えたら、さっさとゴミ箱に投げ捨てていった。おかげで、文化祭後もしばらくの間、学校中のゴミ箱は焦げたソースの匂いとカラフルな色に彩られ、腐臭を放ちつづけていた。



「去年はあまりに忙しすぎてまともに女子とお近づきになれなかったが、今年こそは女にモテモテだぜ」
耕太郎が今年もまたバカなことを叫んでいる。
「言っとくが、誰かさんのせいで、今年はたこ焼き禁止だからな」
「ちっ、ちっ、ちっ。たこ焼きがダメならイカ焼きがあるじゃないか」
懲りないヤツだ。
「誰が焼くんだよ」
「そんなの決まってんだろ」
ったく。また人任せかよ。
――ブルブルブル
スマホが震え、メッセージが来た。
「あ、わりぃカノジョからだわ。お先」
「この裏切り者めっ! 地獄におちろっ! 天罰をくらえっ!」
後ろでなにか騒いでいる耕太郎を残して、俺は荷物をまとめてカノジョの待つ昇降口へ向けて駆けだした。その背に、
「いけうっちゃんによろしくなぁ お前ら末永く爆発しろよぉ」
楽しげにうれしげに弾むように、そう叫ぶ声が追ってきていた。


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posted by くまのすけ at 16:54| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする