2018年06月17日

録り溜めたドラマ




折角のバイトが入ってない日曜日なのに、雨に降られた。
晴れていれば街に遊びに行くつもりだったけど、こんな日は家で録り溜めたドラマでもみることにするわ。
だって、わざわざ外に出て濡れたくもないものね。


というわけで、テーブルの上に紅茶を用意して、部屋のテレビの前に陣取って、クッションを抱えて画面に見入る。
正直、今年の春ドラマ、放送前から全然期待してなかったし、実際さほど面白くもない。だから、リアルタイムの放送のときも見たり見なかったり。
そのせいで、前回主役のカップルが大げんかして口汚くののしり合っていたはずなのに、次にリアルタイムで見た今週分では甘々の雰囲気を醸していてビックリしたっけ。よく考えてみたら、先週の分、見てなかった。
そりゃ、一週分とばしてれば、二人の関係大きく変わっていても仕方ないよね。ん? 仕方ないのかな? 変化が速すぎるような……
というわけで、その先週分の録画を今から見るつもり。
なのに、いざ再生が始まった画面に映っていたのは……どっかのユニフォーム姿のおじさんがバットを持って構えている姿。ドラマの前の野球中継が延長されて放送時間がずれてたみたい。
「なにこれ」
バカバカしくなって、テレビ画面を消した。
はぁ〜 結局、なんであの二人仲直りしたのだろう? どういう展開で?
大体、あれだけ激しくやりあっていた二人なのに、たった一話分でこんなにベタベタに仲良くなっているなんてヘンな話よね。
だれかこのドラマを見ていそうな友達に電話して教えてもらう? それとも、ネットであらすじを探す?
けど、そこまでして知りたいかっていうと、実はそれほどでもないし……
う〜ん、どうしようか。
迷って、結局、紅茶を飲み干して、別のことをすることにした。


机に向かってルーズリーフを広げる。
大学のレポートの課題が出ていたことを思い出したからやることにしたのだけど、なかなか進まない。
ふとさっきのドラマを思い出して、考え込んでしまう。
破局寸前の大喧嘩していたカップルが一週分のドラマのあと、あんな風にイチャイチャするほど仲直りするには、どんなことがあったのだろう?
たとえば、ヒロインが大事件に巻き込まれて、男性の主人公が超人的な大活躍の末にその事件を解決し、ヒロインを救い出したとか?
それとも、ヒロインに実家からお見合い話が持ちかけられて、あわてた恋人がお見合い会場まで追いかけてきて、強引にヒロインを取り戻したとか?
もし、私がなにかの大事件に巻き込まれたら、ツネハルは助けに来てくれるのかな?
もし、私に縁談が持ち上がったら、ツネハルが追いかけてきてくれて『行かないでくれ』って止めてくれるかしら?
もしそうなら、どんな顔してそんなこと言ってくれるだろう?
いろいろと今交際中のツネハルとのことを頭の中で考えていたら、つい自分でも笑ってしまった。
――私って、そんなにツネハルのこと好きだったっけ?
先月、サークルの友達の紹介で付き合い出したばかりで、まだまだお互いに相手のことをよく知らない。
きっと私の身になにかあっても、一生懸命には助けてはくれないだろうな。
妙に納得した気分だった。
まあ、いいや、課題しよ。


てか、仮にも交際中なんだから、私になにかあったら一番に駆けつけてくれるぐらいのことしてもいいのじゃないかな?
なにもできないとしても、私を心配して無事を祈ってくれてもさ。
本当は今日だって、デートに誘ってくれてもよかったはず。バイトのシフト入ってないって教えておいたのに。
雨が降っていたとしても、デートなら一生懸命おしゃれして出かけるのに。
なのに、全然誘ってはくれなかった。
そもそも交際しているって自覚あるのかしら? いつも男友達とつるんでばかりで。
なんか考えていたら、どんどん腹が立ってきたのですけど。
八つ当たりだって分かってはいるけど、でも、なんか落ち着かない。ざわざわする。
机の隅で充電中のスマホを睨んで、画面をかるく小突く。
――黙ってないで、なんとか言いなさいよ。
けど、さっきからペンは止まったままだ。
机に向こうに見える窓の外はどんよりと曇っていて、無数の雨粒の線が地面へとのびている。
はぁ〜 こんな天気だけど、傘さしてコンビニへでも行ってこようかしら?


気分転換にコンビニでファッション誌なんかを読みふけって時間をつぶし、部屋に戻って来た。
雨は相変わらずシトシト降り続いているけど。短い距離でも足を動かしたからか、すこしだけ気分が晴れた気がする。
さて、レポート、さっき中断したところから進めなくちゃ。今度こそ集中して、さっさと終わらせよう。
そう決心して机の前に座った。
けど、その前に、コンビニに持っていかずに充電のままにしてたスマホの確認しておかなくちゃね。
途端にSNSのメッセージがたくさん現れた。全部、ツネハルから。
これからデートのお誘いのメッセージから始まって、いくつかジョークを並べて、今日撮影したばかりの楽しそうな画像が送られてきて、でも、いくら待っても既読にならないのでしだいに心配するような内容になって。
――私、そんなに長い間コンビニへ行っていたかしら? そうね、雑誌を隅から隅まで読んだりしてたから、案外長い時間だったかも。
で、最後のちょうど十分前のは、どこか慌てた様子になっていて、心配だから今からこっちへ様子を見に来るって内容だった。
どんなに急いで来てもツネハルの家から私の部屋まで三十分以上かかる。だとすると、今、私の部屋へむかって雨の中バイクを走らせている途中なのかしら?
焦った顔で運転しているツネハルを想像して、小さく笑い声をこぼしてしまった。ちょっと胸の奥があたたかくなった。
気が付いて、返事を送る。
『スマホ充電したまま、コンビニ行ってたの。ごめんなさい。事故を起こさないように気をつけて運転してね』
その文面を打ちながら、リズムをとって、歌詞を口ずさんでいる自分に気が付いた。でも、音程は無茶苦茶。
でも、これってなんの歌だっけと思ったら、さっきのドラマの主題歌なのを思い出した。


ニ十分ぐらい経ってから、本当にツネハルが訪ねてきた。私の返事受け取って、引き返すかなって思ってたのだけど。
私の無事な顔を見て心の底からホッとしているみたい。
それから、私の部屋で並んで録画していた今週のドラマを見る。
「ああ、先週の冒頭で、男の方が『ごめん、言いすぎた』って謝ってあっさり仲直りしたんだよ」
ツネハルが答えを知っていた。


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posted by くまのすけ at 17:30| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月03日

雨に降られて




夏の大会に向けた部活のミーティングが終わるころには、外は雨が降っていた。
「やべ、俺、今日は傘持ってきてないよ」
「俺も。朝晴れてたし」
俺も俺もと大半の部員が傘を持ってきていない。
「コンビニまで走るか?」
そう大石が提案した途端、
ピカッ、ゴロゴロ――
稲光がきらめき、雨脚が強くなる。
「大会前に風邪ひくわけにはいかねぇな」
結局、部員たち全員、雨が弱くなるまで部室で待機することに決めたみたい。


「そういえば、俺らの代、二年連続で東中ベスト4だったよな」
「まあな」
東中出身の二宮がすこし得意げに返事をした。
「「「すげぇ〜」」」
何人かの選手たちがうめくように感嘆の声を上げている。
「俺らと何度か練習試合したけど勝ったり負けたりだったくせによ」
「そういや、俺のとこも東中と練習試合したな。勝ったけど」
「俺のところも勝ったことあるな。そういえば」
何人かの選手が中学時代を思い出している。その大半が東中に勝ったことがあるみたい。
「手抜いていたってわけじゃないよな?」
「ん? ああ、当然だろ」
「じゃあ、なんで大会のときだけ好成績だったんだよ?」
大石の疑問に二宮がニヤリと笑った。それから隅で日報を書いている私の方を見てきた。
「それがよ……」


二宮の説明はこうだった。
東中では各代に引き継がれる伝統のようなものがあるらしい。それが、『夏の大会前、女子マネージャーたちが試合に出る出ないに関わらず三年生全員に一対一で好きだと告げる』というもの。
「本当には俺たちのことを好きなわけじゃないのを知っていてもよ、やっぱいつも一緒にいる女子マネに告白されたら燃えるだろ? 特に、俺たちの代、むっちゃ可愛い子がいたし」
正直『はぁ?』な伝統だ。何人かの部員たちも私と同じような反応をしている。その一方で、同意するように深くうなずいているのもチラホラいて。
それから多くの部員が私の方をこそこそ盗み見てきた。
――はぁ〜
「女子に告白されるなんて力になるよな。俺なら普段以上の力がでるよ。うん」チラッ
「俺たち部活が恋人で女子に縁ないもんな」チラッ
「ああ、ホント灰色の学生生活だよ。彩りと潤いがほしい」チラッ
なんなのよ、まったく!
「私、そんなこと絶対しないからね」
全員があからさまに落胆の表情を浮かべていた。っていうか、普段、私のことをかわいいとか綺麗だなんて言ったこともないくせに、こんなときだけ。
「言っとくけど、それってセクハラなんだからね」
みんな気まずげにそそくさと視線をそらして、部室から退出していった。
――やっぱ冷てぇ〜 風邪ひいちまうよ。


日報を書き上げて、帰り支度を終えるころには、雨脚は弱まっていた。
部室の中を一通り見回してから、外から鍵をかける。
カチャ。
「よっ、おつかれ」
突然、横から声をかけられたらビックリするじゃない。
壁に背を預けて立っていたのは、大石で。
「どうしたの? 忘れ物?」
大石、私の方を見ないで、足元に視線を下ろしている。
「ああ、そんなところ」
「じゃあ、今、カギ開けるね」
「いや、いい」
「えっ?」
カギを挿そうとした姿勢のまま固まってしまう。そんな私の横顔にさっきから視線を感じている。たしかめると、真剣な表情の大石が見つめてきていた。
「あのさ」
「う、うん」
気押されてうなずいてしまう。
「俺、次の大会、絶対、大活躍してお前を惚れさせてやるからな」
「……」
「じゃ、そう言うことで」
言葉を消化できずに戸惑っていると、大石は言いたいことだけを言って背を向けてその場を離れて行く。
「えっと……」
言葉が見つからないんだけど。こんなときなんて言ったら……
途端に弱くなっていた雨がまた強く降り出した。
「もしかして雨に当たって、風邪ひいちゃったの? 私、折りたたみ持ってるから駅まで一緒に入っていかない?」
「うるせぇ こっちはマジだっての!」
「……」
雨に煙って遠くなる背中に叫んでいた。
「次の大会がんばって」
雨の向こうからかすかに『オウ』って返事が聞こえた。


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posted by くまのすけ at 16:23| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年05月27日

ムカデ競走




今年の体育祭、私のクラスは断トツのビリ。おかしいな。みんな頑張ってたんだけどな。
「ま、優勝の可能性もないわけだし、プレッシャーなんて感じずに気楽に楽しもう!」
「「「おおー!」」」
というわけで、私が出場することになっているムカデ競走が始まった。


各クラスから八人ずつ選ばれた選手たちが両足をヒモでつなぎ、隊列を組む。
スタート地点に並んだ。そして、スタートの合図のピストルの音。パン。
「せーのっ!」
「「「イチ、ニ、イチ、ニ」」」
全員で声を合わせて交互に足を出す。
「「「イチ、ニ、イチ、ニ」」」
あ、隣のクラスで違う足を出そうとして先頭がこけた。右端のクラスは後ろの方の選手がバランスを崩して倒れちゃってる。
半分ほどのチームがスタートしてすぐに止まってる。
そんな中、私たちのチームは、
「「「イチ、ニ、イチ、ニ」」」
十メートル通過時点で二位。
「おおっ」
私たちを応援しているクラスの席の方でも大いに盛り上がっているみたい。
「がんばれー」「ファイトー!」
精一杯声援を送ってくれる友達の声も耳に届いていた。


「「「イチ、ニ、イチ、ニ」」」
私たちは順調に呼吸を合わせて進んでいく。
先頭を走るクラスにはなかなか追いつけない。
というか、先頭のクラス、八人中六人がサッカー部の部員じゃん。普段から一緒にボールを追いかけている仲。そりゃ、息があっているはずだ。しかも足早いし。
後ろから猛烈に追いかけて来ているのは、陸上部のエースが入っているクラス。スタート直後にバランスを崩して大きく出遅れていたはずなのに、もう私たちの最後尾に追いつこうとしている。
「「「イチ、ニ、イチ、ニ」」」
おっと危ない。あやうく前の子の脚を蹴っちゃうところだった。
他のチームのことなんか気にしている場合じゃなかったよね。今は集中、集中。
「「「イチ、ニ、イチ、ニ」」」


折り返し地点を回り、他のチームとはげしく二位争いをしながら、私たちは声をかけ合い、走る。
「「「イチ、ニ、イチ、ニ」」」
私たちのクラスでは、他の競技に運動部所属のクラスメイトたちはエントリーし、このムカデ競走には文化部系の部活の生徒たちが集められた。
だから、普段から走りまわることだけでなく、体を動かすこと自体にあまり慣れていない。なので、せいぜい息を合わせることぐらいしかできない。
声を合わせることに全力集中。
「「「イチ、ニ、イチ、ニ」」」
かえってそれがこの競技では有効だったみたい。
あっ、こけた。
私たちのチームじゃない。前を行くサッカー部中心のチーム。
折り重なるように倒れ、なかなか起き上がれない。
その間に、二位争いをしていた私たちと陸上部のエースがいるチームが追い抜いて行く。
って、これって、もしかして、一位をとるチャンス?
これまでの運動会でいつもいつもビリだった私。もしかして、今日初めて一位とれちゃう?
生まれて初めての一位になれちゃう?
俄然やる気がわいてきた。それはチームメイトたちも同じみたい。
「「「イチ、ニ、イチ、ニ」」」
かけ合う声にも力がこもる。
「「「イチ!、ニ!、イチ!、ニ!」」」


あと五メートルでゴール。し烈なデッドヒート。
「「「イチ、ニ、イチ、ニ」」」
声も嗄れてきた。
みんなスタートからずっと声を張り上げてきたのだから当然か。
クラス席からの応援にも熱が帯び、響いてくる。
心臓が破裂しそう。息が苦しい。足が重い。
それでも声は途切れさせずに、
「「「イチ、ニ、イチ、ニ」」」
あと三メートル。陸上部のエースがいるチームが少し前に出た。
最後の力を振り絞って、私たちも懸命に進む。
残り一メートル。並ぶ。あ、相手のチームで二番手の選手がバランスを崩した。前の選手の肩に置いていた手が離れ、前のめりになってる。あぶない!
見る見る体が傾き、その選手の動きに引っ張られるように全体の動きが崩れる。
次の瞬間、ゴールライン手前で折り重なるように八人の選手が倒れ込んだ。
「「「イチ、ニ、イチ、ニ」」」
もうライバルはいない。後はこのまま、ゴールに飛び込むだけ。
私たちの先頭がゴールラインを真っ先に切る。ゴールが認められるのは最後尾の選手がゴールラインを越えた瞬間。
続いて、私もラインを越えた。
生まれて初めての一番でゴールライン越え。うれしくて泣いちゃいそう。
思わず膝から力が抜けてしまう。慌てて立て直そうとするのだけど、ここまで声をかけ合いながら全力疾走し続けてきた体にはそんな余力なんて残ってなんかいなくて……
直後にチーム全体が崩壊していた。


結局、私たちの最後尾がゴールラインを越えたのは三番目だった。
一位はサッカー部主体のチーム。二位は陸上部のエースがいるチーム。
もし、あのとき、私の力が抜けなければ……
「ごめん。私のせいで」
深々とチームメイトに頭を下げる。
そんな私の肩をポンと叩いて、七人のチームメイトたちは笑顔を向けてくれるのだった。
「俺、小学校から初めて運動会で三位に入ったよ」
「あ、私も。結局三位になったけど、でもゴールに一番で入れたのは一生の宝物だよ」
「実は俺、今までビリ以外とったことなかったんだ。みんなありがとう!」
みんな嬉しそうで、満足そうだった。だれも私のことを責めなかった。みんな笑顔だった。
そして、リーダーがしゃがれた声で締めた。
「来年こそは、このメンバーで一位とろうな」
「「「おーっ!」」」
みんなでハイタッチを交わしながら、本当に来年こそは一位をとれそうな気がしていた。


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