2017年03月19日

桜シャツ




終業式も終わり、春休み。オンラインゲームを夜も更けるまで楽しめるようになった。
おかげで昼までベッドに横になっていられる。それでも、だれからも怒られない。春休みバンザイだ!


昼過ぎに目が覚めたのは、家の裏手の公園で近所のじいさんたちが騒いでいたから。桜のつぼみがいよいよ膨らみ、今週中には咲き始めそうだという。
で、自治会のお花見をどうするとか、ぼんぼりなどの飾りつけはいつするとかなんかを大声で話し合っていたのだ。
公園のすぐそば、家の中から花見ができるなんて最高じゃないかと羨ましがられる我が家だが、毎年、これからの時期は、正直うんざりしてしまう。花見客が夜遅くまで騒いでいるし、いつまでも灯っているぼんぼりの明かりで寝てられやしない。本当、迷惑な季節だ。
げんなりした気分でベッドを抜け出したのだが、下に降りてみると誰もいない。台所の食卓の上には俺の朝食(昼食?)が用意してあって、その脇に書置きが残してあった。
母さんは近くの町のデパートへ出かけているらしい。
だから、食後ログインする予定のゲーム内での段取りを考えながら、用意されていた昼食を取ることにした。
先日、母さんの実家から送られてきたタケノコを炊き込んだタケノコごはん。山菜の煮つけがおかずに添えられ、インスタントのみそ汁にポットのお湯を注いで掻きこむ。
うん、旬の味だ。うまい。
まあ、みそ汁はおまけみたいなものだし、気にすることはないよな。旬を満喫したってことでいいんだよな。うん。
てなわけで、もぐもぐ咀嚼していたのだが、
「ただいま〜」
玄関から母さんの声が聞こえてきた。すぐに足音が近づき、台所に入ってくる。
「まあ、まだ食べてたの? あら、やだ。もしかして、まだ寝てたんじゃないでしょうね? 春休みだからってダラダラしてちゃダメでしょ あなた、昨日、夜中の二時ぐらいまで起きてたでしょ。早く寝るようにしなきゃだめじゃないの」
早速、小言だ。まあ、肩をすくめて聞き流すだけだが。毎度毎度のことだしな。
「はぁ〜 本当、この子は・・・・・・」
いつものように呆れてため息をこぼし、母さんは居間の方へ荷物と一緒に移動していった。
「ごちそうさま」


昼食の皿をシンクへ移し、歯を磨く。
それから居間をのぞくと、母さんが嬉々とした顔で荷物を開いていた。
「ほら、見て見て、素敵でしょ。このお茶碗。ほら、猫の顔」
母さんが掲げる茶碗の内側には愛嬌のある猫の顔が描かれている。
「へぇ〜」「かわいいでしょ」
「ああ」と気のない返事をする。特に気に留めた様子もなく、次の戦利品の品定めを続ける。
女物の春物の服。靴。小物。化粧品。全部、母さんのものばかりだ。
どこかの名物のお菓子。今晩のおかずの惣菜類。明日の朝食用のパン類。うん、どれもうまそうだ。
昼を食べたばかりだが、また腹が空いてきた気がした。
「お茶にしましょうね。あなたもこのお菓子食べるでしょ」
「ああ」
そうして、母さんは台所へ立った。


母さんがお茶の用意をして戻ってくるのを待っている間に、テレビをつけ、つまらない昼の番組をボウと眺めていたのだが、ふと横を見ると、母さんの運んできた荷物の中に、まだ披露されていないものがある。
なんだろうと覗いてみると服だった。男物の服だ。
――なんだ、自分のものばかり買ってきてたんじゃないんだ。
手に取って広げてみると、満開の桜が描かれた派手な柄のシャツだった。さらに、もう一枚、赤白青のトリコロールなチェック柄。
――なにこれ?
ちょっと胸に当ててみると、二枚とも俺のサイズにぴったり。ってことは・・・・・・
――だれがこんなダサいシャツなんか着るんだよ。
ブツブツ言いながらも袖を通してみる。やっぱり、サイズが合ってる。そのまま全身が映る鏡の前へ移動して、ちょっとポーズを決めたりなんて。
――フッ。どうだ。こっちのキメ顔は。いや、やっぱ、こっちの手で額を抑えるポーズの方がもっと中二的でカッコイイかな。ハハ。なら、こうだ。
「ふふふ」
突然、背後から笑い声が聞こえてきた。鏡越しに、母さんがケタケタ笑っているのが見える。
「あら、やだ。似合ってるじゃない。それ気に入ったの?」
――見、見られたァ〜 よりによって母さんにあんな恥ずかしいポーズ。
顔が熱い。
「だ、だれがこんな派手なシャツなんか気にいるんだよ。子供じゃあるまいし」
「あら、そう?」
含み笑いして、全部分かってるわよ的な笑顔を俺に向けてきた。
「だ、だから、そうじゃなくて」
「うんうん。そうね。そうじゃないわよね。うふふふ」


母さんにはかなわないな。服のセンスはまああれだけど。はぁ〜
ため息とともにシャツを脱ぐ。元あったようにキチンと畳んで、元の場所へ戻す。
「さあ、お茶にしましょ」
「ああ」
おとなしく座布団の上に座ってお茶をすする。うん、相変わらず母さんが入れるお茶はうまいな。
ほどよく落ち着いた気分だ。恥ずかしさも、すこしだけ和らいだ。
で、まあ、たとえ俺の好みから外れたダサいシャツだとはいえ、俺のためを思って母さんが買ってきてくれたわけだから、ここは感謝の気持ちを言葉にして伝えるのが俺ぐらい大人になると当然なわけで。
ありがとうぐらい自然に言葉にできないとな。
息を吸い込む。
「ありがとうな。シャツ買ってきてくれて」
つぶやくように湯呑みにささやいたら、向かいの母さんの顔にすごく幸せそうな笑顔が咲いた。うん。公園の桜なんかよりも、何倍も見ごたえがある景色だ。
「うふふふ。そんなに気に入ったんだ。あのシャツ。母さん。うれしいわ」
「いや、別に気に入ったってわけじゃ・・・・・・」
本心からの言葉だったのだが、
「でも、ごめんなさいね。あれ、お父さんの分なの。あなたのは今度買ってきてあげるわね」
「・・・・・・父さんのだったのかよ」
なんだよ。感謝して損した。
二人してズズズとお茶を飲む。それから、母さんはちょっと困ったような表情を浮かべながら言うのだった。
「けど、なにかしらね。体がこんなに大きくなってもいつまでも子供よね。ママにベッタリなんだから。将来、お嫁さんに来てくれる子がいたら苦労かけちゃいそうだわ。本当、甘えん坊さん」
鼻の頭をちょんとつついてきた。どこかうれしそうに。


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posted by くまのすけ at 17:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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