2017年03月05日

最後のメッセージ




去年の中学の卒業式、式があった体育館を退出した直後に朋絵が話しかけてきた。
「喜美ちゃん、ありがとうね。私のわがままにつきあわせちゃって」
一瞬、なんのことか分からなかったけど、
「私と同じ学校の試験一緒に受けさせちゃって、ゴメンね」
「ああ、そんなこと。別にいいんだよ」
「でも・・・・・・ 喜美ちゃんなら、もっと上の学校行けたはずなのに」
「ううん。そんなことないよ」
「そんなことあるよ」
そうして、涙を流さんばかりにして私に抱き付いてきたのだった。
「私のために、一緒の学校へ来ようとしてくれてありがとう。お兄ちゃんと一緒の学校へ行きたいなんて私のわがままに付き合ってくれてありがとう」


近所に住んでいて幼稚園からの幼馴染みだった朋絵。小学校のときは、毎朝一緒に登校していたし、中学に入ってからも私が朋絵の家へ迎えに行って登校していた。
ずっとそうだったし、実のところ、同じ高校に入った今でもそうだ。
朋絵の家の玄関先から学校の昇降口のそばの階段まで、毎朝肩を並べて通学してきた。
「じゃ、バイバイ」「バイバイ」
手を振り合って別れ、階段を上る。朋絵は一階の普通科の教室へ向かい、私は三階の英数コース。放課後の部活も違うし、帰宅時間も違うから、朋絵とはこれから一日もう顔を合わすことはない。
思い出したようにメッセージのやりとりをするぐらいだ。
そんな状態だから、朋絵にも私にも、高校に入ってからそれぞれに別の友達ができたし、朋絵に至っては、同じクラスに彼氏までできたらしい。
だから、今からホワイトデーのプレゼントを楽しみにして浮かれ気味みたいだ。
それに対して、私の方はというと・・・・・・


「おはよう、喜美ぃ、数学の宿題やってきた?」
「えっ? ああ、うん」
「ホント。じゃあ、見せて」
「いいよ」「ありがとう。今度、なにかおごるね」
「はーい」
隣の席の涼香ちゃんが私のノートを写してる。今は部活で忙しいみたいだ。うちのバスケ部の期待の星だから。しばらくして、写し終わった。
「ホント、喜美の字って読みやすくて綺麗だよね」
「えへ、そう?」
「うん。書道とかやってたの?」
「あ、うん。小学校のとき、すこし」
「そうなんだぁ」
小学校のとき、私は朋絵たちと一緒に近所の書道教室へ通っていたのだ。
「ねっ、喜美って部活入ってないんでしょ。書道部とか入んないの?」
「ううん。私、ああいう書道パフォーマンスとか興味ないから」
「そっかぁ」
実際、この学校に入学した直後に見学へいったことがあったけど、肌が合わないような気がして、結局、入部することはなかった。
それに、私が書道を習っていた本当の理由は・・・・・・


その後も、あれこれ話していたのだけど、
――ブ、ブ、ブ
涼香ちゃんのスマホが震えた。
「あ、ごめん。彼氏から」
「あ、うん。いいよ」
「ごめんね」
相手は同じバスケ部の先輩らしい。話にはよく登場してくるけど、会ったことはまだない。
涼香ちゃん、スマホの画面とにらめっこして、メッセージのやり取りを始めた。
柔和な表情で、やわらかく微笑んでいる。
本当に、心から相手のことが好きなんだなぁ
正直、うらやましくなる。
もしかすれば、朋絵の方も彼氏と話しているときにはいつもこんな顔しているのかも。


――ブ、ブ、ブ
今度は私のスマホが震えた。画面をのぞいたら智則さんから。
『キター! 第一志望合格!』
『おめでとー』
『サンキュー』
こないだ受けた国立大学の入試結果が郵送されてきたみたい。
「ねぇ? 大丈夫?」
「えっ?」
声をかけられて顔を上げたら、涼香ちゃんが私のことを心配そうにのぞき込んでいた。
「泣いてるけど、なんかあったの?」
「えっ? ウソ」
慌てて、手で目元をぬぐったら、温かいものが指先を濡らした。
「大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫、平気。平気」
「そう?」
ハンカチを取り出して目元をぬぐい、これ以上心配かけないように笑う。
改めて、スマホの画面をのぞきこんだら、にじんだ文字が私に伝えていた。
『妹のこと、これからもよろしくな』
ずっと背中を追いかけていた二つ年上の朋絵のお兄さん。先月卒業式もすみ、たった一年だけだけど、同じ高校へ通えた。そして、これからは離れ離れで。
『妹を心配して一緒にうちへ進学してきてくれたとき、正直とてもうれしかったよ。ありがとうな』
――ちがう。
本当のことを伝えれば、どれだけ良かったろう。本当は・・・・・・
それでも、なにも伝えることができなくて、じっと長くその智則さんからのメッセージを見つめ続け、最後のメッセージを送った。
『智則さんもお元気で』
液晶の画面で水滴が小さくはじけた。


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posted by くまのすけ at 17:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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