2017年02月26日

ファンファーレ




お雛様を飾るときに、いつも不思議に思っていた。
他の女の子の家では三人官女や五人囃子を飾っているのに、我が家のお雛様は六人官女と十人囃子。お内裏様とお雛様は一体ずつなのに……
たぶん、二セット分の雛人形が交っているのだろう。なら、お囃子だとか官女だとか持ち物が同じものが二体ずつあってもおかしくない。なのに、我が家のはそれぞれに別の持ち物をもっていた。
たとえば、定番の横笛や鼓だけでなく、ギターを奏でていたり、トロンボーンを吹いていたり。他の家では見たこともないものを持っている。どうなってるんだろう?
「ねぇ? なんでうちの雛人形、他のうちと違うの?」
母に問いかけたら、教えてくれた。
「半分はお父さんのお姉さんの人形なのよ」
つまり、私から見ると、父方の伯母さん。
「東京に住んでいる?」「そそ、その人」
母の説明によると、その伯母さんマンション住まいで家が手狭なので、フルセットで雛人形が飾れないからとお雛様とお内裏様だけを飾り、他の人形は全部我が家に預けているらしい。
で、官女や囃子が二セットあっても仕方ないというので、母が小物類を手作りした結果が今の姿なのだそうだ。


今日から従姉の奈緒ちゃんが泊まりにくるという。近くの大学へ受験に来るらしい。
奈緒ちゃんとは、子供のころからお正月やお盆のたびに顔を合わせてきた。今年のお正月もそう。
お父さんのお兄さんにあたる伯父さんたちと一緒に帰省してきて、正月二日には帰っていった。
あの時も、奈緒ちゃんとは一緒にカルタ取りや福笑いとかしたけど、どこか上の空な感じだった。
たぶん、あのころから受験のことが頭を離れていなかったのだろうな。まして、こっちの大学を受けるって決めていたみたいだし。
お父さんたちも子供のころから知っている奈緒ちゃんがもう今年受験生だっていうので、ずい分感慨深そうにしていたっけ。伯父さんとお互いに薄くなったって笑っていたな。
というか、奈緒ちゃんが今年受験なら次は私の番だぞってしつこいの、うんざりだわ。ホント。
で、奈緒ちゃんがくるというので、お母さんと一緒に客間を片づけたりして、朝から準備をして、夕暮れ、駅まで迎えにいったお父さんの車に乗って奈緒ちゃんがやってきた。
子供のころから来なれているとはいえ、一人で我が家に来たのは初めての奈緒ちゃん、ちょっと緊張顔していた。
「あ、奈緒ちゃんだ」
「お、お邪魔します」
「さあさ、入って入って。よく来たね」
「は、はい」
お母さんに招き入れられて、居間の掘りゴタツにおずおずと足を入れる。
「あったかい」
「冷えたろう。お茶でも飲んであったまって」
「ありがとうございます」
今まで見たどの奈緒ちゃんとも違って、おとなしくて礼儀正しい。すごく猫かぶってる。しかも、顔がひきつっている。緊張している。
そう判断したから、
「ね、ね。奈緒ちゃん。ほら、見て、可愛いでしょ」
お母さんが作ってくれたお気に入りの髪留めを見せてあげた。
「わあ、かわいいわねぇ」
うん、全然、心がこもってないぞ。
こういう小物類って奈緒ちゃんも大好きなはずなのに…… 緊張しているのかな? 受験は明日からなのに、今からこんなので本当に大丈夫なのだろうか?
その後も、家族そろってあれこれチヤホヤしてリラックスさせようとしてみたのだけど、結局、全然ダメだった。


夕食をとり終え、家族みんなでテレビを見ながら寛いだ時間を過ごしていた。
でも、奈緒ちゃんだけは、あてがわれた部屋でひとりこもって、明日に備えて勉強中。
もちろん、これまでにもいくつもの私立大学の受験を終えてきた奈緒ちゃん。でも、その結果は全然ダメだったみたい。暗い顔してた。だから、明日からの受験に失敗すれば、浪人決定の瀬戸際に追い込まれていた。そのせいか、私が客間をのぞいたときには、悲壮感さえ漂わせながら、机に向かっていたな。
おかげで、奈緒ちゃんの勉強の邪魔にならないようにってんで、テレビの音量をいつもより下げて、笑い声を極力控えるようにして。そしたら、なんだか全然面白くない。いつもなら、居間中に家族の楽しげな笑い声が響いて、笑顔が重なり、一緒に過ごしているだけで幸せな気分になるのに。
重苦しい。まるでお通夜みたい。
はぁ〜 なんかなんかだよねぇ よくは分からないけど。
仕方なく、いつもよりも早くお風呂に入ろうと思ったのだけど、今日は奈緒ちゃんがお客さんとして我が家に泊まっているのだから、先に入ってもらうのが礼儀だよね。だから、そうしてもらった。
で、結局、私のお風呂はいつもの時間。
自室で着替えをまとめて、お風呂場へ向かう。けど、途中、だれもいないはずの座敷の電気が点いていた。
――消し忘れかな?
電気を消そうと、ふすまを開ける。正面に雛人形が飾ってあるだけで誰もいないはず。でも、今はその前に人がいた。奈緒ちゃんだった。奈緒ちゃんが、真剣な顔で雛人形を眺めている。
「奈緒ちゃん?」
「雛人形だね」
「うん」
黙って食い入るように眺めている。隣に立ってその横顔を見ていた。
「いろんな人形があるんだね」
「あ、うん」
「ふふふ、これキーボード弾いてる」
「うん。こっちは、ほら、トランペット」
「あ、本当だ」
無邪気な笑顔を浮かべ、白い歯がこぼれている。自然な笑顔だ。この家に来た時からずっと強張ったままだった表情はもはや跡形もない。
「東京の伯母さんの人形があるんだって。それと、楽器とかお母さんの手作り」
「ああ、だから、すごくよく出来ているんだ」
「でしょ」「うん」
それから、二人して人形のことを眺めて、そして、笑い合った。
気が付けば、すっかりいつもの奈緒ちゃんがそこにいた。


受験が終わった翌日には奈緒ちゃんは戻っていった。
合格発表はまだ少し先。でも、たぶん、大丈夫。
だって、あの日、あんな笑顔でいられたのだから。
とてもリラックスした柔和な笑み。
あれなら、きっと。
勝利のファンファーレを高らかに奏でているような十六体の人形たちを見上げて、私も自然と頬を綻ばせていた。


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posted by くまのすけ at 17:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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