2016年07月24日

村おこしゲーム

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一昨年、大学を卒業した先輩から久々に連絡があり、先輩の会社が開発しているゲームのベータテストに協力するように頼まれた。
もちろん、二つ返事で即座にOKした。
先輩の勤めているゲーム会社は業界でも指折りの大手だし、そんな会社が今作っているゲームに興味があった。それよりもなによりも、来年に控えている私の就職活動には、こんな機会こそが有利に働くんじゃないかって下心があったりとかも。
とにかく、それやこれやで先輩の会社持ちの交通費をありがたくいただいて、ベータテスト会場に足を運んだのだった。


会場は近くに有名な別荘地がある高原の村。
その別荘地の町の方の表通りには、バカンス客向けのおしゃれな飲食店やお土産屋さんが所狭しと立ち並んでいるというのに、この会場の村にはまったくその手のものがない。せいぜい地元民向けの日用品だけでなく食料品も扱っているコンビニもどきの雑貨屋が一つあるぐらい。とてもさびれた活気のない村だった。
その役場の駐車場には、今日のベータテストに参加する私と同じような年格好の数十人が集まっている。先輩が声をかけたのだろう顔見知りも何人かいて、どうやら、彼らも私と同じような腹づもりだったみたい。さっそく、あちこちでさや当て的ないざこざが起こり始めていた。
ともあれ、今日は私だって絶対に負けないんだから。
しばらくお互いに火花をバチバチ飛ばしながら待機していると、時間になり役場の入口から先輩の所属するチームと役場の年配の人たちが出てきた。
参加者たちの集団から口々に『おはようございます』って声が上がる。
あんッ、出遅れた。
最後に『おはようございます』って叫んだの私だった。
その声が聞こえたみたいで、先輩が私に向かってニコリと微笑んでくれる。それに同じような笑みで返している間に、役場の年配男性が前に進み出てきていた。村長だという。
「みなさん、今日は私どもの村の村おこしゲームのベ、べえた? ベータテストにご協力いただきましてありがとうございます……」
カンペを読みながら、たどたどしく挨拶している。たぶん、村長さん自身、これからどういうことが行われるのか、ちゃんとは理解してないのだろうな。
って、そんなことより、村おこしゲーム? なにそれ?
先輩の会社といえば、今や全世界で大ヒット中で世界各国でさまざまな騒動を巻き起こしつつあるあのゲームの製作元だというのに。
ここにくるまでキチンと説明されてはいなかったけど、てっきりあのゲームの続編かなにかのベータテストだと思っていたのに。
参加者たちの間で、失望のため息がこぼれた。
村長さんの挨拶が終わると、先輩がでてきて、参加者たちにそれぞれが持っているスマホに開発中のゲームアプリをダウンロードするように指示してきた。スマホ持ってない人には最初からインストール済みのスマホを貸し出してもらえる。
指示に従って私のスマホにダウンロードしてインストールすると、『お宝発掘 ホリホリーナ(仮)』っていうゲームアプリが起動した。
なんでも、このゲームはGPSの位置情報と連動していて、バーチャルリアリティ技術を活用したものでもあるそうな。
与えられたヒントをもとに村内に設定されている特定の場所に行き、その場所をカメラで撮影しながら歩き回ると画面上に掘れる場所を表すいくつかのスコップのマークが現れる。そのマークの場所に一定程度近寄り、画面をタップすると地面が掘られ、埋まっているアイテムや新しいヒントがもらえ、経験値が稼げるというシステムだった。
「今回、我々新事業部は、例のあのゲームのヒットの経験を元に、あのゲームのシステムを活用しつつ、AIなどの先進的でユニークな研究を行ういくつかの大学の研究室と共同で、新しい事業に挑戦することになりました。そう、この村おこしゲームがその最初の試みであります。こういったゲームを開発することで、プレイするために現地に人々が直接足を運び、村おこしに少しでも役立てるのではないかと我々は期待しています。が、それはこちらの事情であって、みなさんには今は関係のないことではあります。そこで、ぜひみなさん、これをテストだなんて思わず、このゲームを楽しんでいただけると幸いです」
先輩はそう最後に締めくくって、説明を終えた。
そして、いよいよゲームが始まった。


最初に、チュートリアルを兼ねて役場の駐車場の隅にスコップが出現し、宝箱が埋まっていた。開くと次の場所に関してのいくつかのヒントの他、経験値百点、コイン数枚と昼食券、それに大型シャベル(五回分)が手に入った。
このコインは村の各地に設置されている自動販売機と連動しており、実際にコイン十枚で飲み物が買えるらしい。昼食券は村にひとつしかない食堂兼民宿で昼食がとれ、大型シャベルは掘る時間が大幅に短縮されるアイテムなんだとか。ただし、使用回数に制限があって、制限回数に達すると壊れてなくなってしまう。
というわけで、早速、新しいヒントを元に次の場所へ向かうことにした。
そうして、着実にゲームを進め、昼前には十回ほど地面を掘り返すことができた。
ただ、『はずれ』もありで、なかなかアイテムやコインがたまらない。それでも、経験値だけは順調に溜まり、もうLv4までレベルアップしている。
特設サイトのランキングで確認すると、先頭グループはすでにLv7を越えているようだ。
でも、まあ、こんなのんびりした田舎をスマホ片手にぶらぶら歩きまわるなんてそう滅多にない経験。それだけでも十分気持ちいい体験だ。今度はプライベートで遊びに来てもいいかもね。でも、なにもない場所だけど。
やがて、次の場所が近づいたのか、ポケットの中でスマホが震える。
取り出して、地図で確認すると、すぐそばのかやぶき屋根の農家を越えたあたりの林の中みたい。道沿いに行くと遠回りになってしまうけど、農家の庭先を突っ切れば、一直線。そして、幸い、敷地には住民の姿はなく。
「お邪魔します」
口の中で小さくつぶやいて、庭に足を踏み入れた。
だが、
「誰だい、あんた? うちになにか用かい?」
家の中に住民がいた。網戸を通しておばあちゃんがこちらを見ている。
「あ、そ、その。ちょっと庭を通らせてもらおうと」
「おや、もしかして、アンタ、智恵かい? しばらく見ないうちにずいぶん大きくなって」
「え? あ、いいえ、違います。私、福田珠希っていいます」
「いつぶり以来かね。もうずいぶん前になるね。洋子……お母さん元気かい? あの子にもたまには母親に顔を見せるように言っとくれじゃないかい」
どうやら、私、おばあちゃんの孫かなにかと勘違いされたみたいだ。
「あ、あの。私、今、先輩の会社が開発しているゲームのテスト中で」
「なに庭でぼうっと突っ立ってるんだい。さあ、上がっておいで。おばあちゃんにその顔を見せておくれ」
えっと。耳が遠いのかしら? それとも思い込みが激しい?
「あ、あの。だから、私、おばあちゃんのお孫さんじゃなくて……」
「さあさ、お菓子もあるよ。アンタおまんじゅうとか好きだっただろ」
「え、えっと……」
そうして、なぜかそのおばあちゃんちにお呼ばれする羽目になってしまった。
散々、私、孫じゃないって主張してたのに……


テーブルに乗っていた手作りのおまんじゅうは素朴な味だけど意外と美味しくて、なんでもこの町にただ一軒だけある雑貨屋で手に入るのだそうな。帰りに買って帰ろ。
急須で淹れてくれたお茶もちょうどよい湯加減でおいしい。
けど、この家にいた間、ずっと私のことをお孫さんと勘違いしっぱなしで、最後までそれを訂正できなかった。
「ほら、こないだ地震があっただろう。神戸の」
「ああ、えっと、たしか阪神大震災」
「たしか、あれは一昨年だったかね。あのあと、敏雄も都会へ引っ越してしまって」
「あ、一昨年じゃなく、二十年ほど前ですよね」
「花子もどこがよかったんだろうね。あんなトウヘンボク」
全然、私の話聞いてくれないし。
そうかと思うと、
「ほら、この町もおじいさんが生きていたころには、ダムで沈んじゃうって計画が持ち上がって、村の人みんなで反対運動を起こしたもんだね。磐舩神社に何度も集まって、役場と直談判して。あのころにはあんなに人がいたのに、この村も今じゃこんなに寂れてしまって」
などという昔話を聞かせてくれたりとか。
最終的に私がおばあちゃんから解放されたのは、それから三十分ほど後になっていた。
三十分のロス。
その間に、おばあちゃんちの庭先をさっきの私と同じようにテスト参加者たちが通り抜け、そのたびにおばあちゃんが声をかけるのだけど、私がいる間には、だれも家に上がるものはいなかった。つうか、この家の家主の老人が声をかけているのに、しかも彼ら彼女らは明らかに不法侵入なのに、挨拶一つ返さないってどうなの?
我ながら、なんか腹立たしいな。
ともあれ、去り際にご馳走になったことを丁寧にお礼を言って、私は次のポイントへ向かって歩き始めるのだった。


その後もゲームのテストは続き、日没寸前にゴールすることができた。
ゴール順では最後尾争いだったけど、得られた得点やコインの多さでは全体の五番目だった。
途中で、次のポイントのヒントとして『この村の住民が何かを決めるときに集まった鎮守の社』なんてものがあって、他の参加者たちはいくつかの神社を回らなくちゃいけなかったのに、私だけは磐舩神社に直行できたのが大きかった。あのおばあちゃんさまさまだね。
今度、お礼に行かなくちゃ。


その日は、隣の別荘地にたくさんある民宿の一つに泊まって、翌日、私はまたこの村に戻ってきた。ベータテストは一日だけで、今日は完全にプライベート。
まあ、実際には現地でまだ作業をしている先輩に顔を見せて、来年の就職活動のつながりを確保しておこうという魂胆も無きにしも非ずで。
あとは、ついでに、あのおばあちゃんにまた会いたいなって思ったりも。私のおばあちゃんは二人ともすでにこの世にはいない。あんな風におばあちゃんと話すのって、実は久々で、とても懐かしい気分だったのだ。
タクシーで村に入り、役場に顔を見せると、先輩の姿はなかった。その代り、役場の人が先輩が今作業している場所を教えてくれた。
都合のいいことにあのおばあちゃんちの近くだという。
早速、現地へ向かう。
昨日と同じように農家の裏手に出たから、庭越しに覗いてみると、
――いたっ! 先輩が。
「先輩、なにしてるんですか、こんなところで?」
近づきながら先輩の手元を覗き込んでみると、しわしわの生首を抱えていた。胴体にはつながっていない生気のない生首。ただ、まるで首から垂れ下がる血管のように電気コードが伸び、庭中を縦横に走りまわっていた。
殺人現場? いや、でも、全然そんな感じじゃない。むしろ、これは……
不意に生首の目と口が開いた。
「おや、もしかして、アンタ、智恵かい? しばらく見ないうちにずいぶん大きくなって」


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posted by くまのすけ at 17:55| Comment(2) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
読ませていただきました。

意外なオチで面白かったです。
Posted by 火消茶腕 at 2016年07月25日 08:26
日本で登場する前から話題になっていた例のゲームにヒントを得て、早速作品にしてみました。
なんでも、いつも利用している最寄り駅の駅前広場がレアモンスターの出現場所らしくて、朝から結構な人だかりが……
人を避けて進むのも大変でした。
明日は家を出る時間を一〜二分早めないと。でも、朝の時間は貴重なんだよなぁ う〜む
Posted by くまのすけ at 2016年07月25日 17:14
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