2014年11月23日

お姉ちゃんがほしい




「あ、あの。これ、私の気持ちです。受け取ってください!」
放課後、掃除当番で遅れて部活へ急ごうとしている私の耳に、そんな声が聞こえてきた。
慌てて物陰に隠れて、目だけ出して声の方を見てみる。
――ウソっ。
あいつだ。あいつが校舎の陰で一年生の女子に手紙のようなものを差し出されている。
思わず、息をつめて見つめていたのだけど、
「悪い。気持ちはうれしいけど、俺、今、好きなヤツいるし」
あいつはそう言って、手紙をつき返していた。


十一月も後すこし、聖夜までひと月を切った。
早いところでは、今月初めのハロウィーン明けから準備を始めているけど、私たちの地区では、この十一月の終わりごろからクリスマス用のイルミネーションの準備を始める。
今日も地区の公民館に子供たちが集められ、玄関脇のモミの木にイルミネーションが飾られていった。
「そっち、もうちょっと下の方が見栄えがすると思う」
「そのソリは、もっと上の方。でないと、サンタさんが空を飛んでいるように見えないでしょ」
「ああ、そのスティックは上下逆ね」
いつのまにか、地区の子供たちの中で最年長になっていた私。今年の監督役を仰せつかっており、ツリーから離れた場所から、年下の小中学生たちにあれこれと指示を飛ばしている。
あのモミの木の飾りつけを手伝っている中に、私と同じ年のあいつもいるはずだけど、今は姿が見えない。反対側で何かの飾りつけをしているのかな?
「お姉ちゃん、この星は?」
「ああ、う〜ん。それは、右の、ほら、ブーツの飾りの近くかな」
「えっ? ああ、うん。分かった」
私の指示を受けて、男の子は手に持っている星のオブジェをモミの木につりさげにいこうとした。だけど、まさに、そのつりさげようとしていたちょうどその場所に、他の女の子が別の星のオブジェを吊るし始める。
「ああ、先越された」
男の子は残念そうにそうこぼし、私のさらなる指示を仰ぐように見上げてくる。
正直、モミの木には、十分すぎるほどの星が飾られているし、これ以上は必要なさそうに思うのだけど・・・・・・
しばらく考えているのだけど、その星を飾るのにふさわしい場所が思いつかない。
男の子は、瞳をキラキラさせて私を見つめてきている。早く指示を上げなくちゃ。でもどこがいいかしら・・・・・・
結局、時間稼ぎのつもりで、こんなことをその男の子に質問するのだった。
「ねぇ? 真二郎くんは、クリスマスのプレゼント、なにお願いするの?」
「えっ? あ、うん。僕ね。お姉ちゃんがいいなって」
「お姉ちゃん?」
「そう。お姉ちゃん」
「ん? でも、真二郎くんって、お兄ちゃんがいたでしょ?」
「うん。でも、僕、お姉ちゃんがいい。お姉ちゃんがほしい」
男の子は無邪気な笑顔で笑った。兄弟だけあって、あいつそっくりの笑顔。人懐っこくて、屈託がなくて、明るくって・・・・・・
「お姉ちゃんかぁ〜」


いくらサンタさんでも真二郎くんにお姉ちゃんをプレゼントするなんて不可能な話だ。
真二郎くんは、それでも本気だったみたいで、両親に同じ質問を尋ねられたときも、同じ答えをしていたらしい。
どうしてもお姉ちゃんがほしいらしかった。
別に実の兄であるあいつのことを嫌って、姉が欲しいとか言っているわけではない。ただ純粋に、異性の年上の兄弟というものにあこがれ、自分にもそんな存在が欲しいと心から願っているだけのようだった。
けど、お姉ちゃん。姉。姉貴。姉上・・・・・・
いくら、あいつやその家族ががんばっても・・・・・・
その日、学校の帰り、声をかけてきたのは、あいつの方からだった。
家に帰ったら、私の家に行ってもいいかと尋ねてきた。真剣な顔で私のことを見つめてきて、そして、見つめあっているのに耐えられなくなったのか、先に視線をそらせた。
――悪い。気持ちはうれしいけど、俺、今、好きなヤツいるし。
瞬間、前に偶然耳にしたあいつの言葉を思い出す。
好きなヤツって・・・・・・ ま、まさか?
頬が熱くなる。それを悟られたくなくて、気が付いたらぶっきらぼうな声であいつが私の家に来ることをウンと了承していた。
お姉ちゃん。
たしかに、どうやったってお姉ちゃんをクリスマスプレゼントに用意するなんて、あいつにも、他のだれにもできはしないこと。でも、でも・・・・・・
も、もし、私があいつと・・・・・・
そしたら、私、真二郎くんの義理とはいえお姉ちゃんに。
キャァー! でも、まだ、そんなの早いっ。
って、いうか、私、あいつから、そんな。
散々、混乱しているうちに部活が終わって家に帰り着き、あいつが訪ねてくるっていう時間になっていた。


――ピンポーン
まさか、玄関で十数分前から待機していたなんて悟らせたくないので、わざと返事を遅らせる。
「は〜い」
玄関のドアを開けると、あいつが立っていた。真剣な表情で、これからすごく大事な話をするつもりだっていうのが、ビシビシ私に伝わってくる。
それにつられて、私の方も緊張がさらに高まって。
「ど、どうぞ」「お邪魔します」
私の案内で、部屋へ連れていった。
あいつは部屋の真ん中で正座し、その向かいに私も座る。思わず、正座。
座ってから気が付いたけど、台所にお茶の用意をしてそのまんまだった。行って、もってこなくっちゃ。けど、あいつは、私の目の前ですごく緊張した様子で、かしこまっていて。
今は軽々しく席を立てそうにもない雰囲気で。
どうしよう。も、もし、本当に、このまま、こ、告白なんてことになったら・・・・・・
自分の膝の上の手を見つめる。もじもじと指を動かす。それは、あいつも一緒で。
「「あ、あのー」」
ハモってしまった。
「お、お先にどうぞ」「あ、そちらこそ」
「えっと」「あ、うん」
思わず、頭を下げたら、あいつも頭を下げてきて、ゴツン。
「痛った」「痛いっ」
でこを打ってしまった。
あまりのばかばかしさに、思わず、力が抜けて苦笑をこぼしてしまったのだけど、その途端、あいつが・・・・・・
「あのさ」
「は、はいっ!」
体をすくめて、あいつの言葉を全身で受け止める準備をして。そして、すでにその私なりの答えは準備されていて・・・・・・
浅く息を吸って、吐く。あいつの続きの言葉を待つ。
もちろん、私の答えは『ノー』なんかじゃない。『ノー』なんて考えられない。
だって、小学校のころから、私、ずっと・・・・・・



「悪いけど、服貸してくんない? 俺、女物ってもってないからさ。今度のクリスマス、真二郎のために女装して、お姉ちゃんになってやろうかなって」
「・・・・・・」


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posted by くまのすけ at 17:34| Comment(2) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
読ませていただきました。
笑いました。傑作だと思います。

一説には”好きな人がいるから”という断りの文句は、相手が気に食わない時に使う常套句だそうでして、本当に好きな人がいるかは怪しいそうです。

この主人公の少女、この後どう思ったんでしょう?
女装?キモい!
女装までして弟を喜ばそうなんて偉い!
こいつは馬鹿だ!アホだ!何も分かってない!

この中にありますか?
Posted by 火消茶腕 at 2014年11月24日 16:05
この後、どう思ったんだろうねぇ
正直、想像もつかないですね。

ま、もし、この設定を活かして、中長編に仕立て直すなら、少女は呆れながらも、なんとか自分の考えを伝えようとするのだけど、彼は鈍感で分かり合えず、双方とも散々に空回った挙句、決定的な破局をむかえる。
で、クリスマスに真二郎くんの何気ない一言をきっかけに、聖夜の奇跡って展開かな。

ん? なんか、割と面白そうなドタバタコメディになりそうな。
Posted by くまのすけ at 2014年11月26日 20:02
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