2017年03月26日

「ウルフボーイ」の提供開始について




 当社ワタヌキ総合データべースは、独自のアルゴリズムを用いたソフトウェア『ウルフボーイ』を4月1日より提供開始いたします。


 みなさますでにご存じの通り、先日、第193回通常国会において、与野党満場一致で、電子通信に関する情報配信の適正化を促進する法(通称:フェイクニュース撲滅法)が可決、成立いたしました。
 この法律ではSNSやメール、ウエブページなどネット上で根拠の伴わない虚偽の情報を発信することが禁止されます。本年10月1日より施行され、違反者には禁固1年以下または100万円以下の罰金が課されます。


 さて、このたび提供することになりました『ウルフボーイ』は当社が独自開発したアルゴリズムを用い、創業以来37年間収集しつづけてまいりました当社の各種データベースと照合し、分析・解析し、ネット上にある情報の真偽を自動で判定するソフトです。
 各社から提供されているセキュリティソフトに併用して、この『ウルフボーイ』をインストールするだけで、ネット上の情報に紛れているニセ情報を赤文字として表示します。
 また、ユーザーが発信しようとする情報の真偽も常時監視いたします。万一虚偽が疑われるような情報が発信されそうになったときにはソフトから警告が発せられ、ユーザーが間違った情報を不用意に発信してしまうことを防止し、新法の違反に問われることがないようにいたします。


 本ソフトウェアは10月からのフェイクニュース撲滅法の施行に先立ち、4月1日より当社ウエブサイトより提供を開始いたします。
 どうぞ、みなさま新しいソフトウェア『ウルフボーイ』で、ネット上にあふれているフェイクニュースに惑わされない快適なネットライフをすごしましょう!


  月間使用料800円
  ※Android iPhoneに対応したアプリ版もございます。


ワタヌキ総合データベース社代表取締役社長
わたぬき くまのすけ



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2017年03月19日

桜シャツ




終業式も終わり、春休み。オンラインゲームを夜も更けるまで楽しめるようになった。
おかげで昼までベッドに横になっていられる。それでも、だれからも怒られない。春休みバンザイだ!


昼過ぎに目が覚めたのは、家の裏手の公園で近所のじいさんたちが騒いでいたから。桜のつぼみがいよいよ膨らみ、今週中には咲き始めそうだという。
で、自治会のお花見をどうするとか、ぼんぼりなどの飾りつけはいつするとかなんかを大声で話し合っていたのだ。
公園のすぐそば、家の中から花見ができるなんて最高じゃないかと羨ましがられる我が家だが、毎年、これからの時期は、正直うんざりしてしまう。花見客が夜遅くまで騒いでいるし、いつまでも灯っているぼんぼりの明かりで寝てられやしない。本当、迷惑な季節だ。
げんなりした気分でベッドを抜け出したのだが、下に降りてみると誰もいない。台所の食卓の上には俺の朝食(昼食?)が用意してあって、その脇に書置きが残してあった。
母さんは近くの町のデパートへ出かけているらしい。
だから、食後ログインする予定のゲーム内での段取りを考えながら、用意されていた昼食を取ることにした。
先日、母さんの実家から送られてきたタケノコを炊き込んだタケノコごはん。山菜の煮つけがおかずに添えられ、インスタントのみそ汁にポットのお湯を注いで掻きこむ。
うん、旬の味だ。うまい。
まあ、みそ汁はおまけみたいなものだし、気にすることはないよな。旬を満喫したってことでいいんだよな。うん。
てなわけで、もぐもぐ咀嚼していたのだが、
「ただいま〜」
玄関から母さんの声が聞こえてきた。すぐに足音が近づき、台所に入ってくる。
「まあ、まだ食べてたの? あら、やだ。もしかして、まだ寝てたんじゃないでしょうね? 春休みだからってダラダラしてちゃダメでしょ あなた、昨日、夜中の二時ぐらいまで起きてたでしょ。早く寝るようにしなきゃだめじゃないの」
早速、小言だ。まあ、肩をすくめて聞き流すだけだが。毎度毎度のことだしな。
「はぁ〜 本当、この子は・・・・・・」
いつものように呆れてため息をこぼし、母さんは居間の方へ荷物と一緒に移動していった。
「ごちそうさま」


昼食の皿をシンクへ移し、歯を磨く。
それから居間をのぞくと、母さんが嬉々とした顔で荷物を開いていた。
「ほら、見て見て、素敵でしょ。このお茶碗。ほら、猫の顔」
母さんが掲げる茶碗の内側には愛嬌のある猫の顔が描かれている。
「へぇ〜」「かわいいでしょ」
「ああ」と気のない返事をする。特に気に留めた様子もなく、次の戦利品の品定めを続ける。
女物の春物の服。靴。小物。化粧品。全部、母さんのものばかりだ。
どこかの名物のお菓子。今晩のおかずの惣菜類。明日の朝食用のパン類。うん、どれもうまそうだ。
昼を食べたばかりだが、また腹が空いてきた気がした。
「お茶にしましょうね。あなたもこのお菓子食べるでしょ」
「ああ」
そうして、母さんは台所へ立った。


母さんがお茶の用意をして戻ってくるのを待っている間に、テレビをつけ、つまらない昼の番組をボウと眺めていたのだが、ふと横を見ると、母さんの運んできた荷物の中に、まだ披露されていないものがある。
なんだろうと覗いてみると服だった。男物の服だ。
――なんだ、自分のものばかり買ってきてたんじゃないんだ。
手に取って広げてみると、満開の桜が描かれた派手な柄のシャツだった。さらに、もう一枚、赤白青のトリコロールなチェック柄。
――なにこれ?
ちょっと胸に当ててみると、二枚とも俺のサイズにぴったり。ってことは・・・・・・
――だれがこんなダサいシャツなんか着るんだよ。
ブツブツ言いながらも袖を通してみる。やっぱり、サイズが合ってる。そのまま全身が映る鏡の前へ移動して、ちょっとポーズを決めたりなんて。
――フッ。どうだ。こっちのキメ顔は。いや、やっぱ、こっちの手で額を抑えるポーズの方がもっと中二的でカッコイイかな。ハハ。なら、こうだ。
「ふふふ」
突然、背後から笑い声が聞こえてきた。鏡越しに、母さんがケタケタ笑っているのが見える。
「あら、やだ。似合ってるじゃない。それ気に入ったの?」
――見、見られたァ〜 よりによって母さんにあんな恥ずかしいポーズ。
顔が熱い。
「だ、だれがこんな派手なシャツなんか気にいるんだよ。子供じゃあるまいし」
「あら、そう?」
含み笑いして、全部分かってるわよ的な笑顔を俺に向けてきた。
「だ、だから、そうじゃなくて」
「うんうん。そうね。そうじゃないわよね。うふふふ」


母さんにはかなわないな。服のセンスはまああれだけど。はぁ〜
ため息とともにシャツを脱ぐ。元あったようにキチンと畳んで、元の場所へ戻す。
「さあ、お茶にしましょ」
「ああ」
おとなしく座布団の上に座ってお茶をすする。うん、相変わらず母さんが入れるお茶はうまいな。
ほどよく落ち着いた気分だ。恥ずかしさも、すこしだけ和らいだ。
で、まあ、たとえ俺の好みから外れたダサいシャツだとはいえ、俺のためを思って母さんが買ってきてくれたわけだから、ここは感謝の気持ちを言葉にして伝えるのが俺ぐらい大人になると当然なわけで。
ありがとうぐらい自然に言葉にできないとな。
息を吸い込む。
「ありがとうな。シャツ買ってきてくれて」
つぶやくように湯呑みにささやいたら、向かいの母さんの顔にすごく幸せそうな笑顔が咲いた。うん。公園の桜なんかよりも、何倍も見ごたえがある景色だ。
「うふふふ。そんなに気に入ったんだ。あのシャツ。母さん。うれしいわ」
「いや、別に気に入ったってわけじゃ・・・・・・」
本心からの言葉だったのだが、
「でも、ごめんなさいね。あれ、お父さんの分なの。あなたのは今度買ってきてあげるわね」
「・・・・・・父さんのだったのかよ」
なんだよ。感謝して損した。
二人してズズズとお茶を飲む。それから、母さんはちょっと困ったような表情を浮かべながら言うのだった。
「けど、なにかしらね。体がこんなに大きくなってもいつまでも子供よね。ママにベッタリなんだから。将来、お嫁さんに来てくれる子がいたら苦労かけちゃいそうだわ。本当、甘えん坊さん」
鼻の頭をちょんとつついてきた。どこかうれしそうに。


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2017年03月12日

だれからもらったの?




「えっと、牛乳、牛乳・・・・・・」
お母さんから渡されたメモをたよりに食材の棚を物色していく。
「あった」
学校から帰って、顔を合わせた途端、お母さんにおつかいを頼まれたのだ。買い忘れていたものを買ってくるようにって。
だから、今、近所のスーパーでカートを押しながら回っているのだ。
「次は、卵っと・・・・・・」


棚をあちこちのぞき、ついでに晩ご飯のおかずになりそうな総菜をみつくろって。
一通りカートの中に頼まれた食材が揃ったのを確認して、レジへ向かおうとしたのだけど、
「あっ、五十嵐」
小麦粉なんかが並んでいる棚の前でカゴをぶら下げて、同じクラスの五十嵐が立っていた。商品を探していて私にはまだ気が付いていないみたい。だから、後ろをソーっと通ろうとしたのだけど、
「あっ、ごめんなさい」
棚の上の方の小麦粉をとろうとした五十嵐のカゴが私のカートにぶつかった。
「・・・・・・」
さっきまで同じ教室で授業を受けていた同級生。先月の席替えで隣同士になったとはいえ、今まで全然話したことなんてなかった男子だ。正直、どう反応していいものかわからない。
それは相手も同じみたいで、戸惑っている様子。
「わ、わるい。ぶつかった」
「あ、うん」
そのまま、うつむき加減で通り過ぎようとしたのだけど、五十嵐のカゴの中、ハチミツだとか、チョコチップだとか、生クリームだとかが入っている。どれも製菓用の材料だ。
家でお菓子でも作るのかな。今はもうすぐ三月の半ばって時期ではある。当然、この時期に男子がお菓子を作るってことは・・・・・・
――あれ? 五十嵐ってそんなにモテるタイプだっけ?
ひと月ほど前のことを思い出してみる。それから、友達と交換したいくつもの情報にあたってみる。五十嵐の姿を改めて念入りに観察してみた。
先月のバレンタインデーには、大半の男子がそうだったように、チョコなんて手に入れてはいなかったようだ。それに、同じクラスの女子たちのだれも五十嵐にあげるなんて言っていなかったはず。
あの華やかで爽やかなクラスの人気者の澤田くんならまだしも、地味でクラスの中でもとりわけ影の薄い五十嵐にチョコなんてだれもあげるはずがない。なのに、ホワイトデーのお返しのためのお菓子作り? ありえない。でも、カゴの中の物はそういうことだし。じゃあ、一体、だれが五十嵐になんかあげたんだろう?
不可解だ。


五十嵐みたいな子に好意を持っていそうな女子っていったら・・・・・・
図書委員の藤原さん? ふたりとも地味だし、結構お似合いなような。
あ、でも、だめか、あの子、隣のクラスの図書委員の男子といい感じなんだっけ。
じゃあ、気配り屋のひかりちゃん? 去年、クラス中の男子に義理チョコ配ってたし。
いや、でも、今年は男子へ義理チョコ配るのやめたって言ってたな。
あとは・・・・・・ 西田さん? たしか、席替え前に五十嵐の隣の席だったはず。
って、ないない。あの子、大山くんと付き合ってるし。
ほかは・・・・・・ いないよなぁ
じゃあ、一体、だれ?


頭をひねっても相手がだれか思い浮かばない。だから、直接尋ねてみることにした。
「ねぇ、五十嵐ってだれかからチョコもらったっけ?」
「えっ?」
「それ、お菓子作るんでしょ? ホワイトデーのお返しの」
「あ、うん」
「誰にもらったの? 私の知っている子?」
「い、いや。その・・・・・・」
だれだ、だれだ? 五十嵐になんかチョコ渡したの。どこの物好きだ?
「あ、わかった。三組の川島さんでしょ? こないだ廊下で二人なんかしゃべっているの見かけたし」
「えっ? ああ、あれは彼女がプリント落としたから、拾ってあげてただけで」
「あら、そうなの」
違うのか、じゃあ、一体?
「じゃ、ないとすると・・・・・・ 前田さんじゃない? 彼女、雰囲気そっくりだし」
「えっと、ま、前田さん? だれ、それ?」
「ほら、一組の」「知らない」
違ったか。えーと、だれだ、だれだ?
眉根を寄せて、脳をフル回転させて推理してみるのだけど、結局、全然思い浮かばなかった。っていうか、五十嵐、女子との接点なさすぎ。
「降参。分からないわ。だれなのよ、教えなさいよ」
「そ、それは・・・・・・」
困った顔するばかりで、結局、スーパーの前で別れるまでだれなのか教えてはくれなかった。
――別に隠さなくてもいいのに。まったく。



「あのさ。これ」
「えっと? なに?」
「お菓子」
「・・・・・・」
今日は三月十四日、ホワイトデー。学校へ着いた早々、先に来ていた五十嵐が隣の席から、私に可愛くラッピングしたお菓子の包みを押し付けてきた。
「私、バレンタインデーになにもあげてないよね?」「うん」
「じゃあ、なんで?」
「ほら、こないだスーパーで会った時に、なんかいろいろ訊いてきたでしょ? それ、ねえさんに話したら、その子にあげなさいって押し付けてきた」
「えっ? なんで?」
「あのとき、俺、ねえさんに頼まれた品物を買ってたんだ。お菓子、手作りして大学の女友達同士で交換するんだってさ」
「へぇ、そうだったんだ」
なんだ、詮索して損した。理由が分かって、もやもやが晴れた。すっきりした気分だ。だったのだけど、なんだか、五十嵐、まだ私のそばでもじもじしてる。なにか言いたそう。気になったので、
「どうしたの?」
さらに真っ赤になって、私の顔をまっすぐ見れないみたいで、
「あ、あのさぁ ねえさんが言ってたんだけど、俺がだれからチョコもらったのってしつこく訊いてきたのってさ、もしかしてお前、俺のことを・・・・・・ いや、やっぱ、いい」
ガサガサ。パリポリ。あら、これおいしい。
コソコソ。チラ。ぽっ。
「なっ、わけあるかぁ〜!」


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