2016年12月25日

アイ・ハブ・ア・ペン




今年最後の取引先との打ち合わせから帰ってきたら、机の上にメモが置いてあった。
『みんな会議室Bにいます』
たしかにいつもの席には同僚たちの姿は見えない。だから、私も会議室の方へ顔を出してみることにした。


――コン、コン
ノックする。すぐに野太い声が返ってきた。係長の声だ。
『どうぞ』
「失礼します」
だが、開けたドアの真向かいに立っていたのは、パンチパーマのかつら、ピカピカひかる金色の派手な服、悪趣味なヒョウ柄マフラー、そして、パッとしない口髭の男だった。
この秋から急に人気が出てきたあの芸人さんにそっくりな格好をしていたのは後輩の高田くんだ。
高田くん、ペンを取り上げると、
――ピピピピピピ・・・・・・
例の音階を次第に下げていくオープニングのメロディーが流れだした。
いつまでも頭にこびりつくような単純なメロディ。一度、耳にすれば即座に覚えてしまえる歌詞。
「あい はぶ あ ぺ〜ん。あい はぶ あん あぽー。うっ。あぽーぺん」
本当にそっくりだ。しかも、すごくノリノリ。そのまま、最後まで歌い切り、満足げな胸の前のポーズまで再現していた。でも、なんで会社でこんなことを?
首をひねって、即座に答えが出た。
「ああ、今晩の一発芸」
「そそ、高田がどうしてもこれやりたいっていうからさ」
ドアのそばにいた係長が満面の笑みで説明してくれる。今日は夕方から会社の忘年会。近くのホテルのホールを借り切り、全社員が集まってパーティをするのだ。そのときに、社長の意向で各部署がそれぞれに隠し芸を披露することになっている。高田くんのこの格好はそのためだ。
で、今は、会議室を借り切っての練習中。
「すごく似てる。似てるぅ」
部屋の奥、オーディオを操作していたみなみちゃんが無邪気に手を叩いて喜んでいる。高田くんもみなみちゃんに褒められて嬉しそうだ。お互いにとろけそうな顔で笑みを交換しあっている。お似合いというかなんというか。
まあ、ぶっちゃけこの二人、付き合っているんだけどね。
「じゃあ、みなみちゃん、もっかい頭から」「はい」
みなみちゃんがオーディオを操作すると、またさっきと同じ出だしのメロディーが流れ始めた。
「あい はぶ あ ぺ〜ん」
けど、その後が違った。
突然、高田くん、自分を指さす。
「あい あむ 高田」
そして、自分の頬にペンをあて、
「うっ。高田ペン」
一瞬、なにが起きたのかって呆気にとられていたのだけど、見ていると、すぐにみなみちゃんに近寄り、ペンを渡す。
「ゆう はぶ あ ぺ〜ん。ゆう あー ・・・・・・」
私同様、あっけに取られていたみなみちゃん、すぐにその意図に気が付いたみたいで、
「み、みなみ」
うんと一つうなずくと、
「みなみペン」
そして、高田くんは自分の指差し「高田ペ〜ン」、隣のみなみちゃんを指さし「みなみペン」
ニヤリと笑うと、頬を寄せた。
「ペン高田みなみペン」
たのしそうに二人で笑い声を上げるのだった。


「これ、忘年会で披露したら、絶対、社長よろこびそう」
「だろ?」
目を輝かせて喜んでいるみなみちゃんの言葉に高田くん得意げだ。
まあ、たしかに社長は喜ぶだろうな。喜んで、自分でもやってみるんだろうな。若い女子社員を捕まえて、無理やり頬を寄せて。あのセクハラおやじなら、絶対やるだろうな。
パンドラの箱を・・・・・・ 心の中でため息を一つついていた。
と、急に高田くん、真剣な顔をして、もう一度音楽をかけるようにみなみちゃんに頼む。
一つ深呼吸。じっとみなみちゃんのことを見つめる。
今までの浮ついた雰囲気ががらりと変わったような。それを合図にしたかのように、係長が私の腕をとって会議室の外へ連れ出した。
「えっ? えっ?」
驚いている間に高田くんとみなみちゃんだけを残して、会議室の扉はしまったのだった。
ドアの向こうから、かすかに音楽が聞こえてきている。そして、高田くんが歌う声も。
――あい あむ 高田。あい らぶ みなみ。
「えっと、係長、これは?」
「ああ、高田に頼まれてたからな。頃合いを見計らって、二人っきりにしてくれって」
「・・・・・・」
パッと見、パーなアホづらペテン師風の男性に告白され、プロポーズされるってどうなんだろう? しかも会社の会議室で。
私だったら、そんなの絶対嫌だな。もっと雰囲気のいい、素敵なレストランで、格好イイ彼氏から。
はぁ〜 でも、私にはそもそもそんな相手いないんだよなぁ
「あいつら、うまくいくといいな」
隣で係長が能天気にそんなことを言っている。
「うん、絶対に無理ね」
「はぁ? そんなことないだろう。あいつらもともと好き合っているんだし」
「だって、あんな格好なんだよ。しかもこんな場所で」「・・・・・・た、たしかに」
二人して、玉砕して出てくるであろう高田くんをどう慰めようかあれこれ思案していたら、しばらくしてドアが開いた。
そこでは、高田くんとみなみちゃん手をつないで幸せそうに寄り添っていた。そして、一歩進み出てきた高田くん、たからかに宣言する。
「俺たち、結婚します!」
そ、そんなバカなっ!
驚いている私の隣で最初からうまくいくと信じていたみたいな顔でウンウンうなずきながら、係長が満足げにしている。
そんな中で再び例の音楽が流れてきた。
高田くん、みなみちゃんの手を取ると、
「あい はぶ あ リ〜ング。ゆー あー みなみ。うっ。みなみリング」
・・・・・・
はぁ〜 なにこれ?


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2016年12月18日

世界がぐるぐる

二,三日前から、なんだか体がだるくて、熱っぽく、これはやばいかもって注意して温かくして過ごしていたのだけど、寒気がひどくなって、頭が痛く、めまいが・・・・・・
絶対、これ風邪だな。
というわけで、あとで病院に行って、今日は一日布団にくるまって寝て過ごします。って、あ、今日は日曜日か。
仕方ないので風邪薬飲んで安静にしてます。

なんか、天井が回転しているような・・・・・・

おやすみなさい。
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2016年12月11日

再会




今日の昼過ぎ、祖母の七回忌で久々に生まれ故郷のこの町に戻ってきた。
甘いものに目がなかった祖母。だから、お供え物にお菓子でも買おうかと実家の近くのデパートに来ている。
広いデパート。昔からあまり変わっていない。あちこち見て回り、祖母が好きそうなお菓子をいくつかみつくろい、歩き疲れたのでエレベーター近くの観葉植物に挟まれたベンチの一つに腰かけることにした。


――ばあちゃんが大好きだったあそこの大福は絶対、兄貴たちが買ってくるだろうから、俺のは羊かんで間違いないはず。ばあちゃん、コタツで羊かん食べるのすげぇ気に入ってたし。
横の大きな紙袋を眺め、満足してうなずく。
――あとは果物でも。
あれこれ段取りを考えていると、女性が隣のベンチに座った。俺と同年代のようだ。座りこんで、バッグから取り出したスマホになにやら熱心に打ち込んでいる。
不意に顔を上げた。
――おっと、目が合っちまった。
キョトンとした表情。不審げに小首をひねる。けど、なんかその仕草、見覚えがあるような。
・・・・・・
思わず、見つめあっていたんだが、
「「あっ」」
驚きの声を上げたのは同時だった。
「大橋くん」「小坂麻衣子」
小坂麻衣子は、俺の中学時代の同級生だった。容姿は十人並みだったけど、とても愛嬌があって、だれにでも気さくに話しかけてくるような少女だった。
「久しぶり」「ひさしぶり、元気?」
「うん。そっちは」「ああ、俺も」
当時よりもすこしふっくらとした印象。でも、あまり変わっていないようなほがらかな声が耳に心地いい。
「こっち戻って来てたんだぁ」
「ああ、今度ばあちゃんの七回忌あるから」「そうなんだ。あの素敵なおばあ様亡くなってらしたんだ」
「ああ。大往生だった。そっちは、ずっとこっち?」「うん。ずっとこっち」
そんなとりとめのない会話をしながら、さっきから俺の手元をじっと覗いてきている。やがて、何かを見つけた様子で、
「結婚したんだね」「ああ、五年ぐらい前に。それと、兄貴も三年前に結婚したよ」
「そうなんだぁ」「そっちは?」
俺の質問に左手をひらひら。薬指にキラリと光るものが見えた。


中学時代の三年間、ずっと同じクラスだったのは、小坂だけだった。そのせいもあって、俺たちはよく言葉を交わしあっていた。
普段からたわいもないことを話し、からかいあい、冗談を飛ばしあい、お互いの恋の相談をし、そして・・・・・・
よく夕焼けに染まった堤防の上の道を二人で並んで帰ったし、うちに遊びに来たことだって数えきれないほどあった。
でも、俺たちが中学を卒業したあと、それぞれ別々の高校に進み、まったく話すどころか、顔を合わすことすらもなくなっていた。
だから、小坂とここで出会ったのは、十年以上前中学卒業以来の久しぶりのことだった。


「子供は?」
「上の子が今度の春に小学校上がるんだ。下の子は幼稚園」「うちはこないだ三歳の誕生日迎えたところ」
「そうなんだぁ。じゃあ、今が一番可愛い盛りよね」「だな」
なんてことをベンチ越しに話していたら、まさにその我が家の息子が近くのおもちゃ売り場から飛び出して来た。
「パパー」
満面の笑みを浮かべ、俺の足にしがみついてくる。
「お子さん?」「ああ、そう」
「こんにちは。ボク、お名前は?」
突然、知らない女の人から声をかけられたものだから、びっくりしたみたいで、慌てて、俺の陰に隠れた。それから、顔を伸ばして小坂のことを確認している。
「おばちゃん、だれ?」
「こら、宗太、おねえさんだろ」
「そう、宗太くんっていうの。私、パパのともだちよ。よろしく」
宗太、俺と小坂の顔を見比べて、それからぺこりと頭を下げた。すぐに、茜が俺たちの方へ歩いてくるのを見つけて、そっちへ離れていった。
「ふふふ。可愛いわね。目元が大橋くんたちと似てるのかしら。きっと大きくなったら男前になるわね。さて、十分休憩したし、じゃあ、そろそろ私、行くわね」
「ああ、久々に会えて話せてよかったよ」「うん。私も。じゃあね」「じゃあ」
小坂は、茜に軽く会釈すると、俺たちに背を向けて去っていくのだった。


帰りの車の中、デパートの駐車場を出てからずっと運転席の俺を助手席から茜がひたと睨みつけている。
「だれ、さっきの人? キレイな人だったわよね」
「ん? ああ、昔の知り合い」
「そう、昔の知り合い・・・・・・」
茜がにっこり微笑んだ。けど、目が笑っていない。
「なに話してたの?」「宗太のこととか、いろいろな」
「そう、いろいろなの」
ちょっと怖いんですけど。とにかく、ここはキチンと話さないと。
「あいつ、小坂麻衣子っていってさ。昔、よく俺たちとつるんでたやつなんだ」
「・・・・・・」
なんか、額に血管が浮かんでそうな顔してる。
「しょっちゅう一緒に帰ってたし、家にもよく遊びに来てたんだぜ」「そう、つまり昔の彼女ってことね」
今にも俺、絞め殺されてしまいそう。うう・・・・・・
「い、いや、そういうんじゃなくて」「じゃあ、どういうのよ」
「えっと、その。だから」
「だから、なによ」
ちょっと一呼吸。とにかく、ここは落ち着いて告げなければ。妙な誤解のせいで女房に殺されてしまっては死に切れん!
赤信号で止まった車の中、俺は茜に向き直った。
そして、胸にこみ上げる苦い思い出を飲み込んで、吐き出すのだった。
「だから、あいつは、俺じゃなくて、兄貴の彼女だったんだよっ」


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posted by くまのすけ at 18:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする