2016年09月25日

秋だった




水道の蛇口を一気にひねって、頭を突っ込む。大量の冷たい水が首の後ろで弾け、練習でかいた汗を押し流す。
ここは校庭脇の水場。放課後の部活の合間の休憩時間、俺はいつもここで汗を洗い流すのだ。
後ろに順番の列ができているから、さっぱりして、すぐにその場所を次のやつに明け渡した。
それから、すこし歩いて部室前に転がしておいたスポーツドリンクの入った水筒を取りに行き、のどを鳴らして飲み干していく。
カラカラに乾いたのどに冷たいドリンクが気持ちいい。のどを上げ、水筒を逆さにし。
ふと、視線の先で人影が動いた。
特別棟。文科系の部室が多く集まる校舎の三階。今日もあの子が校庭を見下ろしていた。


夢中で走っているときは、周囲の様子なんて全然気にならない。だが、こうして休憩していると、余裕ができるせいか、周りがよく見えてくる。
夏のギラギラした日差しがとっくになくなり、秋の涼しい空気に入れ替わり、トンボがホコリっぽい校庭の上を飛びぬける。学校の周りの田んぼでは、稲が色づき、風がたわわに実った穂を波のように揺らしながら、吹き抜けていく。
すっかりと秋だ。
景色は季節ごとに入れ替わり、風がその温度や匂いを変えていく。
そんな中で、ずっと変わることなく、いつも開け放った窓から校庭を見下ろしている人影に気が付いたのは、春の終わりのことだった。
あのときも、今と同じようにスポーツドリンクを飲んでいた。
水筒の中身を飲み干そうとのどを上げたら、その視線の先で女子が窓辺にたち校庭を見下ろしていた。一度、気になり出したら、それ以降も、なんとなく気になったりする。そしたら、それ以来、毎日毎日、窓辺に立っているのが見えた。おそらく、俺の気が付くずっと前からそうしていたのだろう。見上げると、いつも少し後ろの室内から外を見ている隣の女子となにかおしゃべりしたり、笑いあったりしていた。
なにを見ているのか、もしくは誰かを見ているのか、分からない。
ただ、たぶん、俺たちの練習風景を眺めているのだけは確かなようだ。
放課後のグラウンドでは、大抵俺たち以外にも共同で使っている部活がある。
だけど、たまには外周を走っていたり、試合で遠征していたりして、グラウンドを使っているのが俺たちの部活だけなんて時もある。そんなときでも、あの窓辺の女子はちゃんとそこにいるのだから。
なんで俺たちをいつも見ているのだろう。
まあ、そんなの頭つかわなくてもすぐに答えなんかでる。
文化系の部活に所属していて、それでもなお俺たちのやっているスポーツに興味があるなんてまずないだろう。大体、俺たちには第二グラウンドの方で女子部が練習しているのだし、興味があるならそちらに行くだろう。ということは・・・・・・
ここで真に問題になるのは、相手は誰なのかってことだ。
俺たちの中のだれかのはず。だれだろう?
まさか・・・・・・俺? いや、そんなことはないか。自慢じゃないが、生まれてこの方、女子にモテたことなんて一度もない。ありえない。じゃあ、一体・・・・・・
部内一のモテ男の原口? それとも、キャプテンの南? 頭脳派の藤原ってことも。
う〜ん。
部内の噂話に耳をそばだたせてみても、いつも校舎から見下ろしているあの女子のことを話題にしている部員たちはいないようだ。気が付いているのは俺だけなのだろうか? それとも、練習以外の余計なことに神経がむかっているとなじられるのがいやで、みんな気が付いていないフリをしているだけなのか?
そして、そもそも、あの女子は一体、だれなのだろうか? 去年までは見かけなかったから、たぶん、この春入学した一年生なのだろうが。何組のだれなのだろう。
とても気になる。


特別棟の三階のあの部屋を使っているのは、たしか書道部のはず。とすると、書道部の一年のだれかなのだろうか?
残念ながら、俺のクラスには書道部に所属しているクラスメイトはいない。
隣のクラスに矢野がいるが、入学以来一度も話したことがない女子。声をかける勇気なんてない。しかも、矢野本人に関してのことじゃなく、まるで接点のない一年の女子のことだなんて、ハードルが数段高くなる。どうしたものか。
いつも俺が遠くから見上げる笑顔は明るく輝いているように見えるし、楽しそうだ。遠すぎて全然声なんて聞こえないけど、そんなときは、後ろの友達と俺たちの誰かのことを話題にしているんだろうなって想像してしまう。
近くで見れば、きっと魅力的な子なんだろうな。顔とか見分けはつかないけど。おそらく声とかも澄んでいて、書道をたしなむおしとやかな子で。俺の妄想には違いないが、絶対に素敵な子だ。
そう思いながら、今日もスポーツドリンクに口をつけた。
いるいる。今日もいる。あの子が窓辺に立っている。
だけど、俺たちの方を見ていない。顔は背後に向かっている。そこに立っているのは、いつもの女の子なんかじゃなくて、髪を短く切った制服姿の・・・・・・男子。
「えっ?」
「おい あれって、岡田じゃねぇか?」
不意に俺のすぐ隣で声がした。同じ部で俺と同学年の林。
林がじっと見つめる先は、俺が見ていた書道部の部室の窓で。
「今、吉川ちゃんと一緒にいるヤツ」
「吉川ちゃん?」「ああ、書道部のいつも窓の近くで俺たちのこと見ている一年の子」
「林、知ってたのか?」「ああ、たぶん、部のヤツ全員知っているぜ」
「そうなのか・・・・・・」
まあ、当然か。俺が気が付いているぐらいなんだから。
そんなことより、
「岡田って?」「俺のクラスのヤツ。なんであいつが書道部の部室に? あいつ確か卓球やってたはずだが」
俺たちが並んで見上げていると、一年の女子は岡田ってヤツと楽しそうにおしゃべりをしている様子。気安く相手の胸に手を当て、お互いを長く見つめあっている。とても親密な雰囲気に見える。
「なあ、あれって」「言うな」
なんとも微妙な空気が部室の前を覆っていた。


なんとなく、全体的にその日の部活が元気のないまま終了し、俺たちは下校した。
翌朝、一時にくらべずい分涼しくなった通学路を歩いて行く。
今までのあれはなんだったのだろう? なんで、俺たちのことをいつも見ていたのだろう?
岡田なんてヤツがいるのなら、なんで?
「はぁ」
昨日から何度目になるか分からないため息がこぼれた。
「あの」
突然、背後から声をかけられた。振り返ると、そこに立っていたのは同じ学校の女子。胸元のリボンの色からするとたぶん一年生。
「宇野先輩ですよね。えっと、あの・・・・・・」
「だれ?」
正直、知らない相手。というより、一年のしかも女子にはそもそも知り合いなんていないはず。けど、なぜかどこかで見覚えがある気がしなくもない。どこでだろうか?
その子、赤い顔を伏せるようにして震えている。
急な動作で顔を上げた。
「一年五組の木下です。書道部です。あの、その・・・・・・」
書道部?
「ああ、いつも吉川さんって子と一緒に俺たちのことを見ていた」
「あっ、ご存じだったのですか?」
「まあ、なんとなくね」
なんだか、さらに真っ赤になった気がするのだが。これって、もしかして。
いや、たしかに、吉川ってあの一年生が、俺たちを見下ろしていた時には、背後にいる友達とおしゃべりをしながらだった。そっちの女子は、すこし後ろの室内にいて、顔とかよく見えはしなかった。でも、一緒に俺たちのことを見ていたことには違いがない。
まさか? もしかして、俺たちのことを熱心に見ていたのは、あの吉川って子の方じゃなくて、こっちの・・・・・・
木下さん、さらに上気した顔で、俺のことをなかなかまっすぐには見られない様子。しかも、その恥じらう姿はとても愛らしい。思わず抱きしめて大丈夫だよとほおずりしたくなる。あの吉川って子の俺的イメージよりも何倍も可愛い。うちのクラスの女子たちなんて束になってもかなわないだろう。
そんな子が、俺の前に立って、もじもじしながら俺のことを見上げてきているわけで。
これって、俺のことを?
ついに、俺にもモテ期到来か? 春か? 今は秋だけど。俺にもとうとう春が来ちゃうのか?
天にも舞い上がる気分で、そんな可愛い木下さんが次に発する言葉を待っていた。
「あの、先輩って、林先輩と部活で仲いいんですよね? いつも見てると一緒にいますし。だから、よかったら林先輩のことをいろいろ教えてほしいんですけど」
モテ期なんか来ていなかった。全然、どこにも。
春なんて、なかった。


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2016年09月18日

嫌われ役




「洋介、ご苦労様。さっき、丸山さんから断りの連絡あったよ」
「うん、了解」
二年前に地元の高校を卒業した俺は、親元を離れ、今は自宅で結婚仲介所を開いている伯母の家に下宿する条件で都会の大学に通っている。下宿代はタダ、生活費も出さなくていい、その上、不自由がないほどのお小遣いまでもらえる。そんな好条件付きなのだ。と言っても、それだけで終わるわけ話じゃない。当然、それらの代償もあって、なにかと伯母の仕事の手伝いをさせられている毎日なのだ。まあ、アルバイトの代わりみたいなものだと考えてくれればいいか。
で、その手伝いの内容というのは・・・・・・
「ほら、次の相手の分、プロフィールファイル、隅から隅までちゃんと目を通しておいてよ」
「へぇ〜い」
そう、お見合いのさくら役。普段から年上に見られることが多い老け顔の俺、高校の演劇部で見についた演技力を発揮しつつ、スーツなどでそれなりに身なりを整えると、二十代後半に見える。
それをいいことに、この三年間、伯母がでっち上げたデタラメなプロフィールを持たされて、いい出会いを求める悩める女性たちとお見合いをくり返してきたってわけだ。
つまりは、俺は伯母の顧客の女性たちをだましてきたのだ。が、でも、これまでそれで後悔したってことはない。だって、俺の与えられた役割はただ一つだから。相手から断ってくるように仕向けることそれだけ。間違っても、気に入られたりなんかしてはならない。


伯母の仕事のやり方はこうだ。
まず、お客さんたちから恋人候補に期待する条件を聞きだし、候補になる人物を二人ほどピックアップする。だけど、最初に紹介するのはそのピックアップされた二人ではない。俺や俺と同じように身分を偽って活動する男女数人のアルバイトスタッフなのだ。
もちろん、伯母が設定するウソの肩書上では、お客さんの要望にある程度は合わせるのだが、いざお見合いの場になると、この人はダメだとお客さんに思わせるように振る舞うことが俺たちに求められる。
そうして、首尾よくお客さんの方から断ってくると、次の段階に進むことになる。
次に紹介するのが、ピックアップした二人のうち、より条件の合わない方、当て馬的な候補者を紹介することになる。
もちろん、今度は、両方とも本気で相手を探しており、提示した条件にほぼ合っているわけだから、意気投合してそのまま婚約が成立するなんてこともまれにはある。だが、最初に聞きだした条件に完全には合致していないので、大抵は失敗することになる。
それから、やっと最後に紹介するのが、条件にほぼ合った本命の候補者になる。
ここまで二度お見合いし、それでもうまくいかなかったお客さんたちは、自分は結婚には向かないのではと気落ちしているし、このままいい相手が一生見つからないのではという焦りも感じ始めている。そのタイミングで、条件にもっとも合った相手を紹介すると、これを逃したらもう次はないかもしれないと、大概の人が目の色を変えて飛びついてくることになる。
たとえ、それが最初に提示した条件からは完璧にまで合うとは言えないような相手であったとしてもだ。
結果的に、伯母に相談したお客さんたちは高い確率で交際相手を見つけられることになる。
そんな風にして、伯母の経営する結婚仲介所は、業績を伸ばし、近隣の町の同業者たちの中でも群を抜いて高い成婚率を誇っているのだ。結婚相手を探したいなら伯母の仲介所に登録すれば確実だ。そういう評判が世間では広まっているらしい。


「えっと、次は・・・・・・」
開いたファイル、そこでこちらを向いてはにかみがちな笑顔を浮かべているのは知っている相手だった。小学校時代、集団登校で俺たち下級生を毎朝引率してくれていた三つ年上の椿ネェだった。
「えっ、なんで?」
そっくりさんかと名前を確認してみると『土岐椿』。やっぱり本人だ。中学までの経歴も俺の知っているものだったし、家族構成も同じ。これって・・・・・・
慌てて、一階の事務所にいるはずの伯母に事情を問いただそうとしたのだが、あいにくお客さんの応対中だった。しかも間の悪いことにそのお客さんは丸山さん。俺が顔を合わせるわけにはいかない。
とにかく、伯母が事務所から戻ってくるのをジリジリしながら待つことにした。
けど、椿ネェ元気なんだ。勤務先は・・・・・・ああ、あそこのスポーツジムで受け付けやっているのか。たしか、中学二年のときに、お父さんが転勤になって、一家でどこかへ引っ越していったっけ。まだ今でも俺のこと覚えているのかな?
いや、そんなことないか。あのころは俺もチビだったし。今は体もずい分成長した。会っても俺のこと気が付いたりなんかしないだろうな。
懐かしい気持ちと、そして、この先、椿ネェをだますことになる後ろめたさを感じていた。
この仕事断ろうかな。でも、椿ネェには会ってみたいな。散々お世話になった相手だし。


結局、伯母にはなにも言えずに、お見合いの当日になってしまった。
俺の今回の役割は、高校の数学教師。手堅い地方公務員だ。
ホテルのラウンジを借りてのお見合いの席、地味なスーツに身を包んだ俺の前に、椿ネェが落ち着いた雰囲気のワンピース姿で現れた。さほど高価そうではないけど、こぎれいで清楚な印象。
「今日はよろしくお願いします」
「こ、こちらこそ」
緊張で心臓がバクバク言っている。のどが渇く。じっと椿ネェを見つめる。そんな俺の視線に恥ずかしそうに顔をうつむけている。
俺と目があった。だが、すぐに頬を染めて、下を見る。ういういしく、かわいらしい仕草で持っているバッグをいじっている。そんな姿を見ていられなくて、顔をそむけてしまった。今から、この人をだますのだ。胸の奥がチクリと痛んだ。
視線の先で、同席している伯母がどこか気がかりそうな視線を送ってきている。けど、それには応えられない。
俺はこの人にウソをつく。そして、この人に嫌われなくちゃいけない。あの椿ネェにこの人とは合わないって思ってもらわなくちゃいけない。
そんなのって・・・・・・


「ちょっと今日はどうしたのよ」
「えっ? ああ、ううん・・・・・・」
「体調悪かったの?」
「いや、そうじゃないけど」
その日の夜、伯母の家で晩めしのテーブルを囲んでいたら、伯母が難しい顔で俺に尋ねてきた。
俺はちゃんと仕事はした。椿ネェが思わず眉をひそめるような無遠慮なことを言い、はっきりと嫌悪に近い表情を浮かべる態度をとった。
でも、あの表情を思い浮かべるたびに、俺は、俺の心は。
あの人の前で、俺は。
正直、はじめて、この仕事がいやになっていた。でも、俺がこの役割をすることで、女性たちが相手を見つけることができ、結果的には幸せを手にできる。たぶん、椿ネェもこの先、望んでいる条件にもっとも一致する相手を伯母から紹介され、そして、結婚することになるだろう。それなりに幸せになることができるだろう。
だけど、その相手は絶対に俺ではなく、全然、知らない別の誰か。
俺のことを嫌なヤツだとおもっただろうか。二度と関わり合いになりたくない相手と思っただろうか。
それは俺の自業自得だった。俺がそう仕向けたのだから。
せめて、あの人には、本当に幸せになってほしい。条件に合っているってだけじゃなくて、心から椿ネェのことを思ってくれる人とめぐり合ってほしい。
俺みたいな男なんかじゃなくて、もっと誠実な人に。
そう心の中で祈って、いつもより塩分の濃いみそ汁をすすった。


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2016年09月11日

この世界の絶対法則




「愛、あのさぁ・・・・・・」
今日もまた、誠司が私に声をかけてくるのだけど、すぐに、
「いや、やっぱなんでもない」
なんだろう? なにが言いたいんだろう?
このところずっとだ。
誠司とは部署は違うけど同じ会社の同僚で、一昨年の社員旅行中、たまたま同じグループになり、そのまま意気投合して付き合うようになった仲だ。
もう交際をはじめて二年以上になるのだし、そろそろかなとは思うのだけど、でも、今までずっと、そんな様子はなかった。
だけど、先月の終わり、あの社員旅行で、私たち同様恋人同士になった野村くんと原田さんがゴールインの報告に来てから、なんだか誠司の様子がおかしくなったのだ。
時折、なにか思いつめたような顔で私に話かけようとするのだけど、すぐに口を閉ざして、結局なにも言ってくれない。
これって、やっぱり、そうよね? 野村くんたちに刺激されて、いよいよ自分もって思ってるのよね? 信じていいのよね?
私の方はずっと待っているのだけどな。いつでもOKの返事を出す用意ができているのだけどな。
なのに、誠司は、あともうちょっとってところで、いつも躊躇して、進展しない。
本当、なにグズグズしてるんだろう。
こうなったら、いっそうのこと、私の方から・・・・・・
ううん、結構、古風な考え方をする誠司だから、案外、こういうのは自分からするのが男の義務とか思っていたりしそうだ。逆にプライドが傷つけられたって怒っちゃいそう。
どうしたものだろう。もうジリジリする!


というわけで、一計を案じることにした。
誠司と同じ部署にいる私の友人の今井ちゃんからハッパをかけてもらおう。
「で、お願いがあるのよ。今井ちゃんから誠司にそれとなく伝えてほしいの」
「あ、うん、いいよ、なんでもする。二人、結構長いもんね。そろそろいい加減、ゴールしないと。私も正直心配してたんだ」
「ありがとう」
本当、頼りになる友人だ。同期入社の中でも一番に仕事ができて、おまけにキレイで。彼氏がいないのが不思議なくらいだ。
「えっとね。こないだ読んだ本に書いてあったのね。この世界にはどんな場合でも成立する絶対的な法則があるの」
「あ、う、うん。んん?」
なんだか、戸惑っている様子。まあ、そりゃそうだろうな。友人である私が急に妙なことを言い出したのだし。
「でね、その法則というのは、なにかを望むなら、それをはっきりと伝えなければ、望みがかなうことはありえないってことなの」
「望みがあるのなら、伝えなくちゃかなわない?」
「そそ」
「どういうこと?」
「この世界というのはね、全然親切じゃないのよ。口に出さない望みなんて、だれも気が付かないし、周囲の人もかなえようとはしてくれないの」
「・・・・・・た、たしかに」
「だから、なにか望みがあるなら、それをまず伝えなくちゃ、相手や周囲の人に私はこれを望みますって分からせなくちゃいけないの。そうしないと、その望みがかなえられるなんてことは絶対にないの」
「・・・・・・」
すこし考え込んだ様子。
「そういうことを誠司になにかの折りにそれとなく話して欲しいのだけどな」
やがて、納得はしてくれたようで、大きくうなずいてくれたのだった。
「む、むずかしいわね。うん、でも、やってみる」


それからほどなくして、私の目の前に膝をついて、指輪を捧げる誠司が現れたのだった。
なにかひねった言葉を添えてくれるのかと期待していたのだけど、誠司の口から実際に飛び出したのは、案外とても平凡な言葉だった。
「僕と結婚してください」
もちろん、即座にOKしたのは言うまでもないわね。
とにかく、今井ちゃんに感謝だ。
「ねぇ、急にプロポーズする気になったのって、だれかになにか言われたりしたの?」
「ん? いいや、前から愛にプロポーズするって決めてたけど、いい指輪が見つからなくてさ。先週やっとこれだっていうデザインのが見つかったから、それ持って、早速プロポーズしにきたんだ」
「えっ? そうなんだ」
ってことは、今井ちゃんに頼んだ言葉、効果なかったのかな。それとも、まだ、伝えてくれていないとか?
「ああ、そういえば、愛の友達の今井さんも結婚が決まったみたいだよ」
「えっ? なにそれ、聞いてないわよ、私」
「ええ? でも、彼女、愛の言葉に背中押されて、まだ付き合ってもいない相手に自分からプロポーズしに行ったって言ってたし」
「ええっ! ウソ! なんで今井ちゃんが!」
「ねぇ? 今井さんになんて言ったの? 今井さんに言ったっていう言葉、俺にも教えてよ」


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