2016年08月28日

隣の彼




八月の終わりに誕生日を迎える静香の家に泊りがけでお呼ばれした帰り道、私は昼前の電車に乗った。
比較的開けた静香の家周辺から周りに田畑が広がる私の家の方面へ向かう電車は、一両につき二,三人程度しか人が乗っておらず、すぐにシートに腰かけることができた。
毎朝の登校時の混雑がまるでウソのような静けさ。車輪がレールの継ぎ目を越えるときのガタガタいう音がやたらと響いてくる。外は暑いくらいの快晴だというのに、寂しさを覚えた。
だから、スマホを取り出し、イヤフォンを差して、静香がオススメだと入れてくれた音楽ファイルを開いてみた。
インディーズ系の知らないロックバンド、知らない曲。
でも、耳の中に最初の一小節が流れ込んできた途端、引きつけられた。澄んでシャープな声の女性ボーカルが伸びやかに歌い上げ、激しいドラムと骨太なベースがそれを力強く支え、確かな腕のギターが華麗に舞い踊る。
すごくカッコイイ。だけど、これを静香が気に入っていることが少し意外だった。
私と違って見た目からだけでも育ちがいいって分かる静香が、こんな激しいロックを気に入っているなんて・・・・・・
静香の部屋で最初にそう感想を口にしたら、恥ずかしそうに説明してくれたっけ。もともとは静香の趣味なんかじゃなくて、静香が小学校のときからずっと片想いしている相手が大好きなバンドだって。
それを知り、自分で探して聴いてみたら、自分自身もはまってしまったんだそうな。
でも、教えてくれたのはそこまで、肝心のその相手がだれなのか、私には教えてくれなかったな。まあ、それを知ったからといって、どうなるものでもないだろうけど。
大体、小学校からの幼馴染みが私たちと同じ学校に通っているとは限らないわけだし。実際、私の小学校の同級生で同じ学校に通っている生徒なんて一人もいないし。


叩きつけるようなドラムの中でも、くっきりと聞きとれるボーカルの高音に胸をときめかせ、煽り立てるようなギターの音色に心臓をバクバクさせていた。
「・・・・・・」
突然、だれかが近くで話かけたような気がした。顔を上げると、顔を知っている相手。いつの間にか、私のすぐ近くに同じ年頃の男子が腰かけていた。
えっと、中川くん? いや、中村くんだったっけ?
同じクラスの男子生徒。でも、春に同じクラスになってから一度も話しかけたことも、かけられたこともない。
「ども・・・・・・」
困惑しながら挨拶をしたのだけど、ふと、さっき彼が口にした言葉が今私が聞いている曲のバンド名だったことに気が付いた。
あわてて、片方のイヤフォンを外す。
「知ってるの、このバンド?」
「ああ、俺の結構好きなバンドだから」
「へぇ、そうなんだぁ」
「曲調に特徴があるから、遠山のハミング聴いて、一発で分かったよ」
「えっ?」
「まだ、知っている人が少ないマイナーなバンドだけど、いつか絶対メジャーになると思うんだ。ほら、すげぇ実力あるだろ」
まくし立ててくる。よっぽど、思い入れがあるのかな。
けど、こんなところでこのインディーズのバンドを知っている人に出会うなんて、なんか奇跡のような気がする。
ん? まてよ。私、ハミングしてた?
たはは・・・・・・


「遠山もそのバンド好きなの? スマホに入れて持ち歩いてるぐらいだし」
「あ、ううん。昨日初めて聴いたばかりよ――」
そのまま、静香に教えてもらったって続けようとして、ふと気が付いた。
まったく有名でもないバンドをたまたま知っている人がいる? それも、私の近くに二人も?
ひとりは、片想いの相手にそのバンドを教えてもらった。小学校からずっとだから、たぶん、同年代。そして、もうひとりは私の同級生。そんなことって?
まさか?
一応、念のため確認しておくとして、
「そっち、どこの駅から乗ってきたの?」
「ん? 俺? 俺も新町から。ホームで遠山が待ってたドアの隣のドアで待ってけど気が付かなかった?」
「全然」
「新町って、俺の最寄り駅だからさ」
「へ、へぇ、そうなんだぁ」
ちょっと焦り気味にそう返事をするので精いっぱいだった。
もちろん、新町駅は静香の家からも最寄り駅。
あははは・・・・・・


静香にメッセージを送信。
余計なこと言わない方が、二人のためだよね。
でも、言いたくて、言いたくて、口がムズムズする。こんなことって。
だけど、自重、自重。
必死に自分に言い聞かせながら、隣の彼に笑顔を向けていた。
そういえば、こんな風に彼と話をするのって初めての経験。自分の好きなことを体を乗り出すようにして、目を輝かせて話す姿はキラキラしてて、ちょっといいかも。
今なら静香がときめいた気持ち、少しだけ分かる。
でも、友情の方がもっと大事。大体、私には大地なんていう素敵な恋人がいるのだし。
けど、大地が、こんな風に自分の好きなことを熱く語っているのを見たことがないな。
いつも優しく私のことを見守っていてくれて、私の話にニコニコしながら耳を傾けてくれる。だけど、自分のことはちっとも話してくれない。大地の好きな音楽すら私知らないかも。それがちょっと悔しい。もっと大地のこと知りたいのに。
はぁ〜
心の中でため息をついて、静香を少しだけうらやましく感じながら、隣の彼を眺めていた。


彼は私の下りる駅の一つ手前で降りていった。電車の窓越しに、私に手を振って改札へ歩いて行く。
「いいな」
なにに対して、そうつぶやいたのか、正直、自分でもよく分かってはいなかった。
そして、電車の中で静香から短いメッセージが届いた。
『違う。その人、あの人の友達』
あらら、違ったか。
でも・・・・・・
私は、駅についてホームに降り立ちながら、電話をかけた。無性に声が聞きたくなって。
なにが好きなのか、今なにに夢中なのか。
キラキラ瞳を輝かしてしゃべっている姿を想像しながら。
数度の呼び出し音の後、
『はい。ああ、どうしたの? 急用?』
「ううん、急に声が聞きたくなったから」


短編・ショートショート 目次(2016)へ
↓↓↓ついでに、ポチッとしてくれると、やる気が出るかも^^b ↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログへ人気ブログランキングへ


posted by くまのすけ at 17:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月22日

残暑きびしい

立秋はとっくに過ぎて、暦の上では秋なんだけど、毎日猛暑日&熱帯夜。あつい〜!

で、そんな中、先日親戚に不幸事があってバタバタ駆け回っている間に、時間が経ってしまって、ゆっくりモノを考えている余裕がなかったのです。というわけで、今週の作品うpはナシです。

皆さんも、くれぐれも水分補給をこまめにし、クーラーを適切につけて、体を温めすぎないようにしてください。


ホンマ、炒るような炎天下で自宅から何マイルも離れた場所のお寺さん参りってまいるわ・・・・・・
posted by くまのすけ at 07:05| Comment(0) | TrackBack(0) | サイト情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月14日

二人の帰省

商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。お買い物される際には、必ず商品ページの情報を確認いただきますようお願いいたします。また商品ページが削除された場合は、「最新の情報が表示できませんでした」と表示されます。


高速道路のインターを下り、祥吾さんの運転する車は国道を、そして、県道へ進んでいった。
「もうすぐだね。緊張する」
「ああ」
真剣な表情でハンドルを握る祥吾さんは道中ずっと緊張した様子だった。普段からほとんど運転することがないペーパードライバーだからだけじゃない。今日これから私を連れて向かうのは祥吾さんの実家。大学に進学するまでずっと祥吾さんが暮らしていた家なのだ。
でも、末っ子の祥吾さんが家を出た後は、今はご両親だけで暮らしている。
もちろん、私も緊張している。だって、初めて会う祥吾さんのご両親。私のこと気に入ってもらえるかしら?


車はさらに細い道に入り、道の両側に田んぼの緑が広がっているばかりになった。
遠く近くにポツリポツリと集落や林も見え、それが日本のふるさとって風情で、両親ともに生まれた時から都会で育ってきた私にとっては、すごく新鮮な光景だった。
やがて、そんな集落の一つに車は入り込み、大きな農家の前に停まった。
「ここなの?」
「ああ」
祥吾さんは、一つ大きく息を吐き出しつつ、シートベルトを外した。
「お疲れさま」
「ああ」
頭の上で伸びをして、首のコリをほぐすように回した。それから、私に運転中よりもずっとリラックスしたように見える微笑みを向けてくれる。代わりに私の方がどんどん緊張が増してきた。
「どう、心の準備はもういい?」
「う、うん」
「よし、じゃあ、突撃だ」


というわけで、二人で車を下り、トランクから荷物を引っ張り出し、玄関へ向かった。
のだけど、
――ガチャ、ガチャ
「あれ? おかしいな。カギがかかってる」
「開かないの」
「ああ、いつもカギなんてかけたことないのに」
呼び鈴を押し、祥吾さんが中へ向かって叫んでいる。けど、家の中は静まり返ったまま。人のいる気配もない。
「畑かな?」
「近くなの?」
「ああ、すぐそこ。ちょっと見てくるわ。あゆみはここで待ってて」
「あ、うん、分かった」
というわけで、荷物番しながら、祥吾さんが戻ってくるのを待つことになった。


家の横のガレージに止めてあった自転車を引っ張り出すと、祥吾さん、出かけていった。
なんでも、その自転車、高校時代に毎日通学に使っていたものらしくて、引っ張り出す時に、さかんに懐かしい懐かしいって言っていた。
祥吾さんの姿が見えなくなり、自転車のサビついたキーキー音もやがて聞こえなくなった。
あたりに響くのはどこかからのセミの声。周辺の田んぼや畑の上を吹き抜けて肌を焦がすような熱風が襲ってきて、開けて障害物も何もない場所に強い日差しが濃く大きな影を地面に縫い付ける。
・・・・・・
「どうしよう。このままだれもこなかったら」
突然、エンジン音が耳に届き、角を曲がって、軽トラックが姿を見せた。そのトラックは、そのまま直進してくる。
乗っていたのは日に焼けた顔のおじさん。一瞬、私と眼が合って怪訝そうな表情を浮かべたみたいだけど、特に気にする様子もなく、家の前の道を通り過ぎていった。
一瞬、祥吾さんのご両親が帰ってらしたのかと思って緊張していたけど、違ったみたいで、安堵のため息が出た。
それにしても、祥吾さん、遅いな。畑は近くって言っていたのに。
田舎だから、近くって言っても、案外遠いのかしら。
不安になるけど、今は待っているしかない。
太陽がジリジリと麦わら帽子を焼いていた。


「あんた、だれね」
そう声をかけられたのは、それからたっぷり十分以上経ったころだった。
農家の格好したおばさん。目元とか祥吾さんに似ている気がしないでもない。もしかして・・・・・・
「えっと、私、坂口あゆみっていいます。もしかして、祥吾さんのお母さんですか?」
「ショウゴ? あんた、ショウゴの知り合いね?」
「はい」
「なら、家が違うわ。私らの家、隣だよ」
「えっ? お隣なんですか?」
「そんだ」
でも、ここへ連れてきてくれたのは祥吾さん自身。祥吾さんが自分の住んでいた家を間違えるなんて、そんなバカなことが。
「で、でも・・・・・・」
「けど、間の悪い。ショウゴなら、今出てるさね」
そりゃそうでしょう。だって、ついさっき二人で帰ってきたところなんだから。
「それは、分かっています」
「ん? そうけぇ じゃ、あんた、なにしに来たん? ショウゴいないって分かってて」
「えっと、その・・・・・・」
なんて言えば・・・・・・ って、そんなのここに来る前から決めていたこと。今がそのことを口にするチャンス。けど、それを言う場面には、祥吾さん自身が一緒にいてくれるはずだったのに。なんで肝心なときにいないのよ!
ううん、いいわ。今は私一人だけど、前から言うって決めていたもの。
大きく息を吸って深呼吸。そして、決意を込めた言葉を一気に口にした。
「私、祥吾さんとお付き合いさせていただいていまして、つい先日、祥吾さんからプロポーズされまして、OKしたんで、本日は祥吾さんのご両親にそのご挨拶へ伺いました」
見事に硬直している。それはそうよね、だって、突然家まで押しかけてきたよその娘が、自分たちの息子の嫁になるって宣言したんだもの。驚いてしまうのも当然だわ。
祥吾さんのお母さん、最初は不自然な笑いを顔に張り付かせたままだったが、しだいに表情を険しくして私を強く睨んでくる。低く唸るようにようやっとで声を絞り出した。
「あんた、なに言っとんよ。ショウゴがあんたにプロポーズしたですって? バカも休み休み言いなさいよ。そんなはずないでしょう」
「え、でも、本当に、祥吾さんが私のことを好きになってくれて、プロポーズしてくれて、私に指輪まで買ってくれて」
「だから、それがバカなことだって言ってんのよ」
いきなり、私、祥吾さんのお母様に嫌われた? あまりに唐突すぎて、不信感が先に立ったとか? でも、だからって私が祥吾さんにプロポーズされたことをバカにされなきゃいけないのよ? たとえ、お母様でもあんまりだわ。
「どうしてですか? なんで、祥吾さんが私にプロポーズしたら、バカなんですか?」
むきになって反論しようとする私に、あからさまにため息をついて見せつけてきた。
「だって、私の旦那なのよ。私って嫁がいるのに、ショウゴがなんで他の女にプロポーズなんかしなきゃいけないのよ」
ポカンと口を開けて突っ立っているしかなかった。


結局、その女の人とのにらみ合いは祥吾さんが畑から戻ってくるまで続いた。
「あっ、倉木のおばちゃん、うちの母ちゃんたち、見かけなかった? 畑にもいないみたいなんだけど。って、二人ともどうしたの? にらみ合って」
その倉木のおばちゃん、祥吾さんの実家の隣に住んでいて、省五さんっていう旦那さん(実はさっき軽トラで前の道を通り過ぎていった人)がいたのだ。
「あはは、道理で、あの人の相手にしては若すぎると思ったんだわ。でも、男の人って若い子が好きでしょ。だから、年甲斐もなく、もしかしてなんて。はずかしい」
「ああ、いえいえ、あはは」
こんな場合なんて答えればいいんだろう。う〜ん・・・・・・
で、その倉木のおばちゃんが教えてくれたのは、祥吾さんのご両親、今、海外旅行中なんだとか。去年まで正月にしか祥吾さんたちは帰省しなかったから、今年もお盆だからといって戻ってこないだろうと出かけていったらしい。
「母ちゃん・・・・・・」
肩を落としている祥吾さんがちょっと可愛いかも。
というわけで、私、祥吾さんの実家にまで押しかけて、お嫁になりますって挨拶したのでした。しかも、肝心の祥吾さんのご両親へではなく、なぜか隣の家の人に。
はずかしい。
でも、また後日出直してきて挨拶しなおさなきゃね。今度はちゃんと祥吾さんのご両親がいるときに。


短編・ショートショート 目次(2016)へ
↓↓↓ついでに、ポチッとしてくれると、やる気が出るかも^^b ↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログへ人気ブログランキングへ


商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。お買い物される際には、必ず商品ページの情報を確認いただきますようお願いいたします。また商品ページが削除された場合は、「最新の情報が表示できませんでした」と表示されます。
posted by くまのすけ at 17:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする