2016年06月26日

行ったり来たりの男の子




今朝もこの前みたいに妹が二階の自室に戻ったきり出てこない。また、忘れてて泣きそうになりながら慌てて算数の宿題をしているのかな? でも、昨日は夕方、宿題全部終わったからって遊びに出かけていたはずなのに。
確かめに妹の部屋を覗いてみたら、勉強机にはその姿はなかった。その代り妹がいたのは窓のそば。ガラスに鼻をくっつけるようにして、表の通りを熱心に見つめている。
「どうしたの?」
「なんか、さっきから家の前を行ったり来たりしている人がいる」
えっ? 不審者?
驚きながら、妹の隣から外を眺めてみると、
「ほら、今、向こうの角からこっちへ歩いてきた」
妹が指さす先に目をやると、ブレザー姿の男子高校生。でも、私の学校の男子の制服じゃない。見覚えはある。あれはたしか・・・・・・
思い出そうとしている間に、その男子生徒は家の前に差し掛かって、玄関の方へ顔を向けて通り過ぎようとした。だから、だれか分かった。
中学時代の私の同級生で、今は同じ沿線にある私とは別の学校に通っている佐藤だ。行き帰り、たまに同じ電車に乗っているのを見かけることがある。だけど、中学時代もそうだけど、今でも全然話をしたりすることはない。
えっと・・・・・・?
佐藤は、私の家の前を通り過ぎると、そのまま通りの反対の角まで歩いて行き、角を曲がって姿が見えなくなるんだけど、しばらくすると、また戻ってきて家の前を通り過ぎるのだった。
なんだろう? 私に用事?
「もしかして、おネェの彼氏?」
「えっ?」
ませた表情を浮かべ、隣で妹がニヤニヤしているんだけど、悲しいかな、私には生まれてこの方、彼氏様なんていう上等な存在はいたためしはないわけで。
「ちがうわよ」
「そう? じゃあ、うん、きっとそうだ。プロポーズしにきたんだぁ ヒューヒュー」
「なんでよっ!」


妹の注進を受けて、一緒にニヤニヤしているお母さんに見送られて家を出た。
『パパが先に出勤しててよかったね』なんて声を背中に受けて、玄関のドアをくぐると、ちょうど目の前を佐藤が通り抜けようとしてて、
「「あっ・・・・・・」」
歩いている途中の不自然な姿勢のままで立ち止っている。まるで、パントマイムみたい。
「ひ、ひさしぶり」「ひさしぶり・・・・・・」
急に耳の奥で妹のさっきの言葉が蘇った。なにがプロポーズよ。
心臓がドキドキしてる。頬が熱い。
「な、なに、私の家の前で?」
「あ、あ、うん」
それから、緊張しているのかひきつった笑みを浮かべて、私に向き直ってきた。
「あ、あの、あのさ、あのさぁ」
「う、うん」
「こ、これ」
震える手でポケットから取り出して私の前に突き付けてきたのは、真っ白く四角いもの。一瞬、封筒かと思った。そして、この状況で封筒といえば・・・・・・ラブレター! 告白! プロポーズ!
って、違う!
頭を振って、よくよく見ると、佐藤が手にしているのは封筒ではなくハンカチだった。真っ白な女物のハンカチだった。
「落とした」
「あ、ありがとう・・・・・・」
一応、受け取りはしたけど、でも、全然見覚えがないハンカチだ。
「でも、これ、私のじゃ」
「あ、う、うん。違う。分かってる。中崎のじゃない」
「ん? じゃあ?」
「ほら、いつも中崎と一緒に帰る子いるだろう?」
「早希のこと?」
「うん。たぶんその子。昨日は一人で乗ってて、電車下りるときに落としてった」
早希は私が下りる駅の一つ隣が自宅の最寄り駅。昨日は、私、委員会の仕事で学校に残ってたんだっけ。
なんか急にガクッときた。目の前で男の子がまるで告白するかのように顔を真っ赤にして告げている内容は、私の友達が落としたハンカチを本人に返してあげてってことで。
私、なに期待してんだか。バカみたい。
「分かった。学校で早希に渡しといてあげる」
「頼む」「まかせといて」


「ええ? なんで、綾音が私のハンカチを?」
登校すると早希はすで教室の中にいたから、さっそく佐藤から預かったハンカチを渡したら、すごく驚かれてしまった。
「昨日、落としたんでしょ? 帰りの電車の中で」
「うん、落としたよ。近くに、ほら、いつも私のことこそこそ見てるなんか奥手そうだけど割とイイ感じの男の子が座ってたから、拾ってもらおうと思ってわざと落としてきたのに・・・・・・」
「早希のこと見てる?」
「うん、三つ先の駅の近くの高校の子。たまに帰りの電車が一緒になって、そしたらいつも私のことじっと見てくるの。綾音も気が付いていたんでしょ? いつも一緒なんだし」
三つ先の駅の近くにあるのは佐藤が通っている学校だ。その佐藤が早希のことをいつも見ていた? 全然気が付かなかった。そして、昨日はたまたま私だけ違う電車だったけど、いつも早希と一緒に電車に乗って、そのそばにいるのは・・・・・・
そもそも、なんで朝から私のこと待ち伏せしてたんだろう? 早希にハンカチ渡すなら、帰りの電車を待てば直接渡せるのに。大抵、いつも同じ電車に乗るのだ。
これって・・・・・・
「おかしいなぁ 昨日はドア閉まる寸前にその子が中から慌てて呼び止めようとしてくれてたのに」
早希って、結構策士だったのね。
「ハンカチ拾ってもらってお近づきになるチャンスだったのに、なんで綾音がもってくるのよ、あの人が拾ってくれたはずなのに」


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2016年06月19日

エンディング・ゲーム




「全盛期はとっくに過ぎ去り、今や人類は滅亡へ向けてのその長くけだるい午後の時代を過ごしていた」
文芸部の部室の真ん中、向かい合わせでテーブルについている私に、目の前の木村はそんな風に自作の物語の冒頭を語り始めた。
「かつて星々の世界を自在に羽ばたいていた高度な文明も衰退し、この時代を生きている人類の間ではもはや遠い記憶の名残だけをとどめる神話の中の出来事でしかなかった」
木村の話はさらに続くが、長いので端折ると、
そんな衰退期の世界には人類の偉大な先祖たちの遺産があちこちに眠り、それを発見・発掘して生計を立てている主人公『トーリ』少年がいる。
昼なのに、天高くひときわ明るく輝く星が見えるある日、トーリは自分が住む『落日の町』の郊外にある『人食い遺跡』を探検すると、その最下層で女の子を見つける。その女の子には記憶がないようで、なぜそんな場所に一人でいたのか、いつからいたのか分からない様子。ただ、『リナ』という名前だけを口にした。
リナをそのまま遺跡の地下に放っておくわけにもいかず、トーリはリナを連れて出口を目指すことになる。
だが、来るときには遺跡建設からのそれまでの長い時間経過のせいで機能を停止していたはずの数々の罠が、リナをつれて引き返すときには一斉に作動するようになっており、いつまでもトーリたちは出口にたどり着くことができなかった。
という話だった。
「さて、長村なら、どういう結末にするよ?」
「そうね。私だったら・・・・・・」


今日は文芸部恒例の月に一回のエンディング・ゲームの日。文芸部員があつまって(と言っても、私と木村の他には三年生の部長がいるだけだけど)、自作の物語を途中まで語り、その結末を他の部員が好きなようにつけるブレイン・トレーニングを行うのだ。そうして、作者の部員の結末と他の部員が即興でつけるエンディングとで、その出来の優劣を競い、負けた方は勝った方にアイスをおごらなきゃいけないというルールなのだ。
もっとも、事前に時間をかけて物語を準備できる作者側の方が圧倒的に有利だから、滅多に負けることはないはずなのだ。が、それでも、私はこれまでに何度か木村が作者の月にアイスをおごらせた経験がある。えっへん。すごいでしょ。
「まず、私は、リナが実は古代文明時代のある王国のお姫様で、敵に攻め込まれて国が滅亡しそうになった時にタイムマシーンで未来へ逃されたってことにするわね」
「ほう、それで」
ホワイトボードの前に立ち、木村の話の要点をまとめ終わった部長が、私の話に相槌をうちながら『古代の亡国のお姫様』『タイムマシーンで未来へ逃亡』なんて書き記していく。
一方、木村はうすい笑みを浮かべてる。
「なによ。文句でもあるの?」
「いや、別に。でも、ああ長村らしいなって」
「私らしい?」
「そう、すぐにお姫様とかの話にもっていっちゃうとか」
「悪い?」「いいや、別に」
――私、ちょっとバカにされてるのかしら? でも、まあ見てらっしゃい。アンタの話よりも、ずっと素敵なエンディングにしちゃうんだから。
「その遺跡は王国の滅亡を生き延びた姫の恋人であった騎士が建設したもので、その騎士の魂が込められていて、その時代に現れたリナ姫を守るために侵入者でしかないトーリを攻撃したいのだけど、ずっとトーリがつないだ手を離そうとしないから、リナを巻き添えにしないように二人の行く手を遮ることしかできないの。そうして、遺跡の中を二人で助け合いながらあちこち巡っている間に、偶然、トーリとリナの手が離れてしまうことがあって、ついに騎士の魂のこもった遺跡がトーリを傷つけてしまうの」
私の話の要点を部長がホワイトボードへ書きだしているわずかな間に、その先の展開を考える。そして、
「まさに命がつきようとしているトーリの体にとりすがり、涙を流すリナの姿を目にした遺跡の騎士の魂は、自分がリナを悲しませていることを知り、自分の間違いにようやく気が付いたの。そして、それを償うように、自分の魂を犠牲にしてトーリを蘇らせ、リナたちを遺跡から解放したの。死んだはずの自分がなぜか生き返っていることに驚いているトーリは愛の言葉をつぶやきながら抱き付いてくるリナを抱き止めながら、その背後で自分たちをさっきまで閉じ込めていた遺跡が静かに崩壊していくのを眺めるのだったっていう終わり方は、どう?」


部長が拍手してくれている。一方、木村は不満げな様子。
――うん、そうでしょ、そうでしょ。だって、即興だけど、今の話、とても素敵だもの。胸がキュンとなるハッピーエンドだわ。
自分の話の出来に満足して、私は木村の方を見つめた。
「で、そっちの結末は?」
「ん? ああ、ほら」
木村は用意してあった自分の作品のコピーの束を私たちに配ってきた。読んでみると、
トーリたちが遺跡に閉じ込められていた間にその星は隕石の落下に見舞われており、すでに滅亡していた。
その遺跡の正体とは、古代の人類が未来のその出来事を予測して建設したシェルターで、リナはそのシェルターの管理ロボットだった。遺跡に迷い込んできた人間たちを捕まえて冷凍睡眠させ、隕石が落下したときには、彼らを乗せたまま宇宙へ飛び出し、新しい星へ移住して人類の滅亡を防ぐのが使命だった。遺跡が離陸し、ようやく記憶をとりもどしたリナがそれを説明しても、トーリはそれを受け入れることができず、それからも出口を探そうとするのだが、もちろん出口なんて見つけ出すことはできず、ついには発狂して死んでしまうのだった。
「はあ? なにこれ?」
「どうよ。これぞバッドエンドの傑作SFって感じだろう」
「どこがよ。大体、なんで突然隕石が降ってきてその星が滅亡しているのよ」
「ん? ほら、冒頭にちゃんとヒントは書いてあっただろう?」
「はあ?」
「『昼なのに、天高くひときわ明るく輝く星が見えるある日』ってさ。つまり、隕石の落下が迫っているから昼間なのに明るい星が見えるわけ」
「・・・・・・」
「やっぱ、俺って才能あるわ。天才だわ」
「どこがよ。全然ダメじゃない。駄作よ!」
「なに言ってんの。傑作だろう」「駄作に決まってんでしょ」
「どこがだよ」「全部よ、全部」


そのまま、私たちは『傑作だ』『駄作だ』って言いあっていたんだけど、最後まで結論なんてでなかった。
この結末はどちらが正しいのでしょうか? みなさんはどう思いますか?


「って、部長、ヘンな結末つけないでよ」「そうだ、そうだ。大体、リドルストーリーなんてズルいですよ」
「そうかなぁ?」
「「そうです」」
木村と私が声を揃えて抗議したら、さらに、部長は新しい結末をつけてきた。
「じゃあ、今度はリドルじゃなくて、ちゃんとハッピーエンドなやつね」


『傑作だ』『駄作だ』と言い合う私たちは、しだいに疲れてきました。
疲れた脳で改めて読み直し、考え直すと、なぜかお互い相手の作品がとてもよいもののような気がしてきました。
段々、互いに口数が少なくなり、そして、見つめあったまま微笑みを交わしている自分たち自身に気が付きました。
その瞬間、私たちは気が付いたのです。それぞれの胸の中で今まで見ないフリをしてきたなにかがあることに。それは、とてもあたたかくて、やさしくて、とっても素敵で。
そう、私たちは恋をしていたのでした。


「って、それ、バッドエンドじゃん」「バッドエンドすぎるわ」
「え〜 でも、ほら、ふたり、今でも同じ反応するぐらいウマが合ってるし」
ちょうど、生徒の最終下校時間を知らせるチャイムが校舎中に流れる中、それを圧するような音量で叫び声が二つの口から同時に放たれるのだった。
「「絶対、バッドエンドですっ!」」
「ほら、やっぱり・・・・・・」


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2016年06月12日

付きまとい男




「ねぇ、ユウくん、手をつないでもいい?」
学校からの帰り道、先月の告白以来毎日一緒に帰っている南美が尋ねてきた。もちろん、嫌なんてことはない。いや、むしろ、俺の方がそう言いたかったぐらいだ。
満面の笑みで『いいよ』と返事をしながら伸ばした手を、そっとつかんでくる。そのまま、大胆に指と指とを絡めてきて、
「うふ。ちょっと恥ずかしいかな。みんなに見られてるみたい」
「なら、離す?」
「ううん。このままがいい」
上目遣いに照れながら笑みを浮かべる様子が、たまらなく愛らしい。人通りがなければ、そのまま抱きしめていたかもしれない。
チッ、残念だ。


そのまま、二人で南美の自宅の方向へ歩いていると、
「あっ、りっちゃんだ」
「えっ? どこ?」
「今、そこの横道からでてきて、通り過ぎてったよ」
「そっか」「そうだよ」
と言われても、南美にとってはりっちゃんこと藤井は友人かもしれないけど、俺にとっては、ただの同級生程度でしかないわけで。
「追いかけなくていいのか?」
「う〜ん。うん、いい。今はユウくんと一緒にいたい」
「そっか」
友情よりも俺の方を大切にしてくれる彼女がたまらなく愛しかった。
そのすぐあとに、俺たちに気が付くことなく藤井が通り過ぎていった交差点に差し掛かる。
藤井が通り過ぎていったという方角を眺めてみると、確かに見覚えのある小さな背中が歩いている。
「いこか」「うん」
それでも今から声をかけようかと悩んで立ち止ってしまった南美の手を引っ張っていると、
「うおっと」
つないだ手の間に飛び込んできた男がいた。中年男性。つまり、俺たちが男性の前で通せん坊してる格好だ。
「あ、ごめんなさい」
「邪魔だ、どけ!」
「すみません」
カチンときたが、ここは抑えつつ、それでも、つないだ手を解こうなんてつゆほども考えもせず。
「おいで」
強引に南美の体を引き寄せる俺がいた。
うん、なんか俺、格好イイかも。
その証拠に、南美もかすかに頬を赤らめて、目を潤ませて俺を見上げてくる。今なら、このまま唇を。
なんて思ったら、さっきのおっさんが俺たちのことをすぐそばで睨んでいた。
「ごほん。失礼」
「ふん。これだから、最近の若いもんは」


「なんなんだよ、あのおっさん!」
「なんだろうねぇ。本当、頭きちゃう!」
その後、南美と一緒にさっきの無礼なおっさんに腹を立てながら帰った。まあ、それでも、別れ際にはひとけのないころ合いを見計らって・・・・・・
てな昨日の出来事を思い出しながら、にやけつつ親父のサイクルショップの店番をしていたら、ちょうど店の前の通りを見知った人影が通り過ぎていく。
同じクラスの藤井。いわゆる、南美の友人のりっちゃんだ。
まあ、やっぱり、わざわざ呼び止めて挨拶を交わすほどの友人関係にはないから、店の中から姿を眺めてただけだが、今度は、その藤井が通り過ぎた直後に、店の前を通り過ぎていった人間がいた。
中年男性。そう、昨日のあの態度の悪いおっさんだ。
そういえば、昨日も、藤井が通り過ぎていった後に、俺たちあのおっさんと。
――えっと。これって、まさか?
頭の中にここ数年世間をにぎわせた付きまとい事件のニュース映像が浮かぶ。週刊誌の見出しがあふれる。新聞の記事が踊る。
でも、単なる偶然ってこともあるだろうし。うん。
――まさかなぁ


そして、次の日。
我が家の飼い犬のチロを散歩に連れ出していると、目の前に昨日のおっさんの姿があった。
なぜか電柱の裏に隠れ、通りの先を覗いている。『張り込み』ってやつだ。
でも、こんな住宅街の中で見るからにむさくるしいおっさんがそんなことをしてたら、逆に目立つもので。
ご近所の奥さんたちが不審者を見るような目で通り過ぎていた。
とりあえずは、そのおっさんを追い抜いて、通りの先に何があるのか、確かめことにする。
チロとしては、いつもおしっこをひっかける電柱に不審げなおっさんがいて不満そうだったのだが。
そうして、おっさんの傍らをすぎて通りを歩いて行くと、やっぱりいました藤井のりっちゃん。
――これは確定だな。はぁ。まあ、南美の友達のことだし。ここは忠告だけでもしておいた方がいいかな。
藤井は通りの端の家の前で立ち止っていた。そして、その家の女の子で隣のクラスの森川さんと立ち話をしている。俺は藤井に近づいていって二人に声をかけることにした。
「よお、藤井と森川さん」
「えっ? あ、えっ? 岩崎くん?」「えっと、こんにちは?」
さほど親しくもない俺が突然声をかけたものだから、二人ともすごく驚いている様子だ。
早速、本題だ。
「あのさ、藤井って、もしかしてストーカーに狙われてる?」
「えっ? なんで?」
「ほら、あそこの電柱の影。さっきからヘンなおっさんがお前のこと見てたから」
そう言いながら、さっきの電柱の方を指さしたのだが、すでに、そこにはさっきのおっさんの姿はなかった。
「あれ? いない。さっきはいたのに」
「そ、そうなんだ」
「昨日も、一昨日も、藤井をつけてたんだけど」
「「・・・・・・」」
なんか、藤井と森川さんが、俺のことをヘンな目で見てるし。
って、そりゃそうか。今の説明だと、昨日も一昨日も、俺、藤井のことを見てたってことになるもんな。まるで俺こそがストーカーじゃねぇか。
「本当だって。あ、そうだ、南美も一昨日一緒に目撃してたから、後で確かめてみればいいよ」
それでようやく俺の話を信じる気になったようだった。
そうして、もし今度、あのおっさんを見かけたら、写真撮って藤井に見せるって約束をして別れた。


いつもの散歩コースを回り、チロが道端でした大の方を拾って袋に詰めて、来た道を戻る。
もちろん、さっきの場所には藤井や森川さんの姿はない。森川さんちにでも上がり込んでいるのだろうか。森川さんちの二階から楽しげな笑い声が通りにまで聞こえてきている。
だが、その姿のない藤井の代わりに。
「ちょっといいですか?」
できるだけ硬質な声を出すように意識しながら、また電柱の影に潜んでいる例の中年男に声をかけた。
「ん? なにかね?」
「藤井さん、りっちゃんは俺の彼女なんで、付きまとうのやめていただけませんか?」
「な、なにっ!」
「あいつも迷惑してるんです」
俺のウソに騙されてあきらめてくれるといいのだが。
「君はあの子のなんなんだね」「だから、彼氏ですよ。あいつ、俺と付き合ってるんです。俺たちラブラブなんですよ」
「そ、そんな、バカな」
おっさん、すごくショックを受けている。これなら、うまくいくかも。真っ青な顔して頭抱えてる。
ほくそ笑んでいたら、急に顔を上げてきた。
「そっか、君があの子の・・・・・・」
気落ちしたような顔をしている。目の端に涙までたたえている。
「そっか、やっぱりあの子には付き合っている相手がいたのか」
「ええ。それが俺です。お互いにとっても愛しあっているんです。だから、もう二度とあいつの周りをウロチョロしないでもらえます?」
そうキツく言った直後だった。おっさんが急に眉をひそめて俺を見つめてきた。
「そういえば、君には見覚えが。一昨日たしか――」
ヤバッ! 余計なことを思い出しやがった。
「あのとき、別の女の子と手を・・・・・・」
「な、なんのことですか? わ、分からないなぁ」
「貴様、あの子の彼氏とかいいながら、裏では他の女の子と」
おっさん、俺の肩をすごい力で掴み、今にもかみつきそうな顔して睨んできた。
「そ、そんなことは今は別にいいでしょ」「いいわけあるか! 君は、君は、純真なあの子をだましているのか?」
ガクガク揺すぶってくる。おかげで、視界が二重にブレる。チロが足元でワンワン吠える。
そして、おっさんが俺の目の前で怒鳴るのだった。
「お前のようやヤツだけは絶対に許せんっ! よくも、よくも、うちの娘を!」


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posted by くまのすけ at 18:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする