2016年03月27日

重大告知




 昨今、世情はますます春めき、日本各地より桜の便りが届く季節になってまいりました。いよいよ春本番です。
 さて、当ブログでは、2009年9月開始以来、6年半にわたり、毎週のように作品を発表し、ついには300作品を超え、とうとう600記事に到達する運びとなりました。これもひとえに温かく応援していただいた読者の方々のおかげだと感謝しております。ありがとうございます。


 ですが、これらの作品群に関しては、皆様には重要な事実が伏せられていました。
 実は、これらの作品は、すべて、当社(加木穴工業株式会社)が開発しております、自動小説執筆AI(人工知能)ユーエスオーシリーズが執筆したものでございます。
 近来の人工知能の発達は目覚ましく、自動運転技術が実用試験段階に入ったり、チェス、将棋だけでなく、囲碁の人間の世界王者相手に圧倒的勝利を収めるようにまでなりました。そのことは、改めて言及するまでもなく、皆さんご承知のことと思います。
 当社では、2007年春より人工知能による小説執筆を目指して開発チームを立ち上げ、足掛け10年に渡って地道に研究を重ねてまいりました。
 開発当初には、ブログの設定などからの様々な苦労・困難に直面し、またユーエスオーの性能面でも、深刻な誤字脱字などの不具合が発生いたしましたが、その都度、改良を重ねてまいりました。そして、今ではユーエスオーシリーズは800型を数えるまでになっております。
 それでも、まだ道半ば。まだまだ改良の余地があり、当社では、これからも開発を継続していく予定であります。どうぞ、皆様、ご期待ください。


 その上で、そのユーエスオーの執筆能力に関して、当社の基準に照らし合わせても、すでに一定の水準に達していると評価できるものになってまいりましたので、最新AIユーエスオー800をベースに、執筆能力はそのまま、システムの簡略化と操作性の向上を両立させたコンピューターソフトを開発することになりまして、この春より新しいコンピューターソフトとしてユーエスオーシリーズを全国リリースいたすことをここにご報告申し上げます。
 現在、当社工場では、全国各地の販売店へ向けての出荷作業で大忙しでございます。各地の店頭でパッケージを皆様がご覧になられるのももうすぐのこと。すでに、その日が待ちかねるほどでございます。
 当ソフトは、簡略版とはいえ、最新AIをベースにしたとても高い性能をもつコンピューターソフトだと開発者一同自負しております。どうか皆様、発売日にはお手におとりになって、その性能を体感していただければ、開発チームならびに当社社員一同、幸いに存じます。


製品の詳細は、下記の通りです。

 発売予定日:2016年4月1日。もうすぐです!
 発売希望小売価格は、
   夏目漱石や川端康成などの文体を模す『ユーエスオー 文豪Ver』:29,800円(税別)
   村上春樹や東野圭吾などの文体を模す『ユーエスオー 現代作家Ver』:19,800円(税別)
   ライトノベルやショートショートなどの執筆に特化した『ユーエスオー ネクスト』:6,800円(税別)

  などと大変リーズナブルでお求め安い価格となっております。
  (Windowsの各バージョン、および、各Mac OSでの動作も問題がないことは確認済みです。)
 なお、初回限定特典といたしまして、推理小説執筆支援用論理演算ソフト『データramE』も同梱されておりますので、どんでん返しの連続で終盤まで息をつかせぬ展開が特徴の人工知能が描く推理小説の世界を是非ご堪能ください。

 また、パッケージのデザインは、赤で統一されており、店頭では大変目立つパッケージになっております。ですので、どうぞ『真っ赤なUSO』とお探しいただけると見つけやすいかと思われます。
 それでは、皆様、新しい人工知能ソフト・ユーエスオーシリーズが開く、新しい文学の世界の扉を開きましょう!

 再度告知します。発売日は、2016年4月1日です。



加木穴工業株式会社 CEO
わたぬきくまのすけ







余談ながら、旧暦のこの日に綿を収穫しはじめたことから、ワタを抜き取る日『わたぬき』なんだそうな。


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2016年03月20日

ある陰陽師の出来事




我が祖先は、かの有名な安倍晴明のいとこにして、晴明以上の才能を持つと称された安倍曇暗(どんあん)である。それゆえに、我が一族は代々高い陰陽師の能力を受け継いできた。当然、かく言う我自身も、京ではよく知られた名高い陰陽師なのである。


さて、我は一昨年、さらなる見聞を広め、陰陽道の修業をしつつ、その技をもって世に役立たんと欲し、生まれ育った京をはなれ、諸国をめぐる旅に出た。
旅先では、様々な妖(あやかし)のたぐいと出会い、それらをことごとく退治して参ったのだが、先日、その旅の道中で、気になる噂を耳にした。
なんでも、近隣の村の農家で、その飼い犬が『ココホレワンワン』と鳴くという。その鳴き声が気になった農家の主が、その場所を掘ると、あら不思議、大判小判がザクザクと出てきたという。
我はその話を耳にしてピンときた。その犬は普通の犬ではなく、必ずや妖怪変化のたぐいに違いないと。
早速、その噂の集落を探り当てて乗りこみ、その農家の隣家に一人住む後家に金をつかませて、投宿することができた。
我が到着したとき、たしかに、この集落には妖気が満ち溢れている。しかも、その中心は隣家の農家のようだ。
それからしばらくの間、それとなく隣家の様子を観察してみれば、犬が庭の隅で『ココホレワンワン』と鳴いている。早速、隣家の主がその場所を鍬で掘り返してみると、金銀財宝がザックザック。いや、おそらく、陰陽師の霊力を持たないものには、そう見えているのであろう。高い霊力を持つ我の眼にはそうは映っていないのだが。
隣家の庭に集まってその様子を見守っていた村人たちも目を輝かせ、隣家の主が気前よく分け与える掘り出したばかりの財宝をそれぞれに持ち帰っていった。
だが、待て。それは、本物の金銀財宝なんかではない。妖の妖術で目くらましをかけられているのだ。それはただのゴミあくたでしかない。なんの価値もないものだ。
我は村人全員にそう教えたのだが、隣家の主を含め誰一人、我の話に耳を傾けようとはしなかった。
どうやら、隣家の主だけでなく、この集落の村人みなが、この妖の犬に騙されている様子だった。これは早くこやつを退治しなければ、やがては、この集落全体が妖気に飲み込まれ、人々が生きながら朽ちていくことになるだろう。
ひしひしとした危機を感じた我は、一刻の猶予もなく行動に移すことにした。
まずは、隣家の主に言葉巧みにとりいり、犬を借り受けることに成功した。
隣家より借りてきた犬め、まさか、我が高い霊力をもつ陰陽師とは気が付かないようで、借りてきたその日に、もう庭先で『ココホレワンワン』と鳴きだす。
――臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前
だが、もちろん、九字を切り、刀印を結んで、霊力を高めた我の眼をごまかすなど到底できるものではない。必然、掘り出したものは、ただのゴミやあくたばかり。我が投宿しているこの家の後家は掘り出したものに目を輝かせていたが、我が霊力を込めた護符を施せば、たちまちその目くらましも消え去り、本来の姿が露わになる。
「悪霊退散、ノーマク、サンマンダーバーザラダン――」
霊力のこもった錫杖で、妖の犬の頭を打ちすえると、たちまち、その犬の妖は悶絶し、妖が取り憑く前の犬の屍骸にもどったのだった。そして、この瞬間、村のあちこちの家では、今まで掘り出した金銀財宝の数々が、本来のあるべき姿にもどり、村人たちを驚かせたはずなのだ。
おそらく、早馬にでも蹴られて死に、供養されることなく路傍に打ち捨てられたままだった犬の無念が、この低級な妖を呼び、その屍骸に取り憑かせたものであろうか。
ともあれ、これで村人たちも目が覚めたことであろう。
うむ、我はこのたびも善き行いをしたものだ。


だが、妖の気は、どうやらまだこの集落から去りはしていないようだ。
我が肌は、まだあたりに漂う妖気を感じ取りて、鳥肌を立てている。
そうこうするうちに、ねんごろに弔ってやった犬の屍骸を埋めた墓のそばに、風よけのために植えた木がぐんぐん育ち始めた。
ある日、隣家の主がその木を切り倒して臼を作れば幸運が訪れると夢見し、そのお告げ通りに臼をこさえた。
早速、その臼でモチをついてみると・・・・・・
あら不思議、今度は、そのモチが金銀財宝に変化した。
もちろん、それはあの妖の仕業。今度は、その臼に取り憑いているのだ。このままでは、前回の犬同様、村中に妖の被害が拡大するのも時間の問題だろう。
それをいち早く察知した我は、すかさず、その臼を借り受け、九字を切り、刀印を結んで、モチをつく。
そして、高い霊力をもつ我の眼が見破ったのは、臼の中から湧き出すゴミあくた。
「悪霊退散、センダー、マカロシャダ、ソワタヤ――」
我が振り下ろす斧が臼から妖を追い払い、臼を割る。
そうやって、我は、再び村人たちを妖怪変化のたぐいから守ったのだった。
だが、それでも、まだ妖気はこの村から完全には去っていなかった。


すべてを清めるご神火の力を借りて、臼を燃やし、灰にした。
だが、こう何度も妖に取り憑かれ、とうとう正気を失った隣家の主。なにを思ったのか、その灰を搔き集めるや、近くの桜の枯れ木に撒き始めた。
たちまち、枯れ木に花が鈴なりに開き、桃色の雲を幾重にもまとう風情に変わった。
――枯れ木に花を咲かせませう。
隣家の主は、今までの妖気に触れ枯れ果てていた村中の木々に灰をふりかけ、あたり一面その桃色の花だらけにしてしまった。
もちろん、あの妖の仕業に違いない。
このままでは、村中が妖の花が漂わす妖気に当てられ、村人たちは、生きたまま朽ち果てることだろう。
我は霊験あらたかな護符をご神火で焼いて聖灰を作り、村中の妖花に打ちかけて回るのだった。
「悪霊退散、ウンタラタ、カンマン」
聖灰をかぶった花は、すぐさまその妖力を失い、散っていく。
ようやく村のはずれで隣家の主に追いついた我は、ついにその妖の灰を奪い、京から肌身離さず持ち歩いていた下賀茂神社のありがたき井戸のご神水で清めるのだった。
そうして、ようやく、あたりからは妖の気配が消えていった。
――とうとう、我はあの妖を完全に退治しつくしたぞ!
言いしれない満足感とともに、我は額の汗をぬぐうのだった。


「貴様か? この近辺で木々に灰をまき散らしていたうつけ者は? さらに村人にきけば、金銀財宝を掘り出す村の大事な犬を殺し、臼を壊した極悪人と言うではないか」
突然、背後から声をかけられた。気が付くと、大柄な武士が数人、我を取り囲んでいた。その向こうには目を怒らせた村人たちが手に手に鍬を握って、ギラギラと目を光らせ睨んできている。
「このエセ拝み坊主め。ついに年貢の納め時がきたぞ。覚悟しろ!」
「オラのお宝をすり替えやがって、今日こそ目にもの見せてやるだ!」
村人たちは、口々に我をののしる。武士たちは、その声を背に受け、
「しかも、貴様が撒いた灰が我が殿に降りかかったではないか。無礼であるぞ」
腰の刀を抜き放ち、まさに我に振り下ろそうと。それをすんでのところで避け、這う這うの体で身一つでその村を逃げ出すしかなかった。
なんということだ。村のために妖を退散させたというに、我は人々の罵りを浴び、危うく命さえ落としそうになる羽目に。
げに、扱いにくきは、妖よりも人でこそあろうとぞ。


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2016年03月13日

チョコのお返し




「いらっしゃいませ」
来客を知らせるベルが鳴ったので、チーズケーキをショーケースに並べる手を休め、規定通りにお辞儀をした。目線を上げると、
「あっ、木山」
「よ、よお」
同じクラスの木山。
駅前の商店街でケーキ屋をやっているうちの両親。春休み前でやることもなく、家でゴロゴロしていたら、手伝うように言われたから家に隣接した店に出て働いていたのだけど、そんなところに同級生の男子がお客さんとしてくるなんて・・・・・・
いつもの制服姿や町の中をブラブラしているときの私服姿を見られるより、今のお店のエプロン姿を見られる方が、ちょっとだけ恥ずかしいかな。まさか『どう、似合ってる?』なんて訊けないし。
それに、近所に住んでいるっていっても、たぶん木山一人でお店にくるなんて初めてのことだ。
木山の方も、入口に突っ立ったまま戸惑っているみたい。こういうお店でどう行動すればいいのか分からないみたい。
だから、あらためてひきつった笑顔をこさえて、
「いらっしゃい」
「お、おう」
「えっと、家のお遣いかな? だったら、木山んちのおばさん、このいちごのショートケーキがお気に入りみたいだよ。いつもたくさん買っていくし」
そう、木山のお母さんはこのお店のご贔屓さん。いつもなにかれとなくうちの商品を買っていってくれる。けど、ただ買っていくってだけでなく、いつも売り子の私たちと長々とおしゃべりをしていくのだ。
こないだも店の手伝いをしているときに来てくれて、私のことを可愛いとか、気立てがいいとか、働き者だとか、器量よしとか、気が利くだとか、可愛いとか、可愛いとか、ほめてくれたのだ。うん。いい人。とてもいい人。なんだけど、いつも最後には『うちの息子のお嫁に欲しいくらいだわ』なんて言っちゃって、私の反応を確かめるようにチラ見しながら、これ見よがしにため息をついたりするんだよね。
もちろん、木山のおばさんには息子さんって一人しかいないわけで。今、目の前でボサっと突っ立っている頼りない男の子しか。
そんなことを思い出したら、ちょっと顔がほてっちゃう。いけない、いけない。もっとしゃんとしなきゃ。


「あ、いや、そうじゃなくて・・・・・・」
伏し目がちにどこかで見覚えのある仕草でチラリとショーケースの脇のカゴの方へ視線を動かしている。その視線の先にあるのは・・・・・・
「えっ? ラスク? でも、これ、ホワイトデー用だよ?」
意外すぎて、思わずお客様に失礼なことを口走ってしまった。
いや、まあ、相手はあの木山だ。まさか、自分のお母さんへのお返しに立派なケースに入ったラスクの詰め合わせを贈ろうなんて、普通考えないよね?
「えっと、木山って、すごいマザコン?」
「・・・・・・ん? なんで?」
キョトンとしてる。本心から分からないみたいだ。
「だって、お母さんからのバレンタインチョコのお返しなんでしょう?」
説明しようとして、ますます失礼なことを口走ってしまった。どうやら、それにも気が付いてないみたいで、
「ち、違うよ。全然、別」
「え、ウソ! 木山のうちって、お姉ちゃんも妹さんもいないでしょ? 女の人はお母さんしか」
「そうだけど・・・・・・?」
「じゃあ、チョコもらえる相手なんて、お母さんしかいないじゃん」
ますます慌てちゃって、言わなくてもいいことまでも。だって、それぐらい、予想外の出来事なんだもん。
「ハッ、あ、ううん、な、なんでもない。今の忘れて。うん。今のナシ!」
でも、もちろん、すでに口から出てしまった本音は取り消せるはずもなく。
「ちょっと待て。お前、俺のこと、モテないとか思ってないか?」
「あ、い、いや、そ、そんなことは、ないよ?」
「なら、視線を泳がせるな。俺の方を見て言え」
「あ、う、う」
この場合、全面的に悪いのは私の方なので、もうこうなったら謝るしかない。
「ゴメン!」
「ったく」
「でも、モテないのは事実でしょ?」
「お前なぁ」


「えっ? じゃあ、なになに? 本当にもらったの? だれにもらったの? えっ? クラスの子? でも、そんな子いたかなぁ? ヘンだなぁ」
「あ、あのなぁ〜」
「あ、もしかして、他のクラスの子? 年下? あ、分かった。遠い親戚のおばあさんとかだ」
すごく呆れたような顔をしてる。とすると、どれも外れか。じゃ、一体、誰が木山になんか。
「年上の人だよ、一応」
「へぇ〜 そんな人いたんだぁ〜」
けど、なんだろう? すごく違和感ある雰囲気。
今日は朝からお店を手伝っていて、何人か男の人がお菓子を買っていったのだけど、みんなうれしそうに顔を綻ばせていた。なのに、木山、どこか釈然としない顔だ。全然、うれしがっていないみたい。おかあさん以外にから初めてもらったチョコなんだから、もっと嬉しそうにすればいいのに?
微妙な顔をしたまま、私の顔を見つめてくる。それからなにか吹っ切ったみたいに告げてきた。
「くれた相手、男だ」
「・・・・・・!」
「なあ、どう思う? やっぱり、相手が男でも、チョコのお返しした方がいいのかな?」
「えっと。そ、その・・・・・・」
「でも、大学でレスリングとかやっている人だから、お返ししないと、俺、なにされるか分からないし」
本気で怯えている。そんなに怖い人なのか。そ、それはそれでご愁傷さまなんだけど。
「けど、お返しなんかしたら、ますますなにか誤解されちゃうかもしれないし。俺、そんな気、全然ないし」
「あ、えっと・・・・・・」
「なあ、俺、どうしたらいいと思う?」


判断を丸投げされてしまった。
う〜ん。お店的には、商品を買ってもらうチャンスなんだけど。でも、本人は、心底嫌がっているみたいだし。どうすれば・・・・・・
「えっと、ちなみに、その人ってどんな人? 近所の人?」
「ああ、ほら、大村のとこのアキラさん」
「大村くん?」「そう。ノブアキの兄さんの」
「「・・・・・・」」
見つめあってしまった。心底おびえた目をして縋り付くように見てくる。本当に困っているみたいだ。
けど、なんだろう。正直、笑いをこらえるのに必死なんだけど。たしかに、あのアキラさんなら怒ったら本当に怖いかも。前に大村くんが道でふざけてたら、アキラさんに地面に投げつけられて、そのまま気を失っていたのを見たことあるし。
「アキラさんって、あのアキラさんよね?」
「ああ」
「いつも大学名の入ったジャージ着ていて、髪が短くて、背の高い、ごっつい体している」
「ああ、その人だ」
「だったら・・・・・・」
とうとう我慢できずに噴き出してしまった。そんな私を憮然とした顔で見ている。
――ウフフフ
ちょっとお腹痛いかも。
とにかく、必死に笑いをこらえて、眼尻をぬぐって、
「だ、だって、アキラさんって、ああ見えて、女の人だよ。しかも、うちの常連さんだし」


結局、あのあと、木山、真っ赤な顔して、私が勧める一番高価なラスクを買っていった。
ちょっと渋った顔してただれかさんだったけど、『今度、アキラさんがモンブランとか買いに来た時に、木山がずっと男の人だと思っていたなんて告げ口しようかな』なんて囁いたりなんかしてないもんね。うん。だれも。
でも、あのアキラさんのことをずっと男だと思っていたなんて。ククク。
大村くんと子供のころからの親友で、いつも約束もなしにお互いの家に遊びにいくような間柄なのに。本当、木山って・・・・・・ フフフ。
その後も、店番をしていて、勝手に顔がにやけてしまうので困っていたのだけど、
――カラコロン
「いらっしゃいませ」
ベルが鳴ったので、顔を上げたら、ちょっと思いつめたような顔の木山が現れた。
「あら、どうしたの? 忘れ物?」
首をひねる私に、ずんずん迫ってきて、何かを手に押し付けてきた。
「それ、やる。さっきのこと、俺とお前だけの二人っきりの秘密な」
そんな風に言われると、ちょっとドキッとしてしまう。『二人っきりの秘密』って。
で、今、手の中にあるのは、商店街の中の和菓子屋さんの大福。実は、私のお気に入り。
「えっ?」
「前に、店先でうまそうに食ってたから」
あちゃ〜 見られてたか。
「それと、さっきはありがとうな、相談に乗ってくれて。うれしかった。お袋も・・・・・・いや、なんでもない。とにかく、チョコもらってないけど、ホワイトデーのお返しだ。じゃな」
というわけで、あげてないチョコのお返しされてしまった。
えっと・・・・・・ これって、どういう?
た、ただの感謝のしるしよね? 相談に乗ってあげたことへの。うん。そうだよね。特に深い意味なんてないよね? でも、前におばさんがあんなことを言っていたような。えっと・・・・・・
あっ、それと、もしかして、私、今度の十四日、お返し用意しなくちゃいけないのかな? ホワイトデーの。それとも、ひと月遅れのバレンタインの? どっちなんだろう? ううん、そうじゃなくて、これって、ど、どういうことなんだろう? 私、どうすればいいんだろう?


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posted by くまのすけ at 17:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする