2015年12月27日

コンビニを出たら




コンビニの中にいたわずかな時間ですらも、今日の天候は大きく変化して、いま俺が見上げる空は、どっしりと重たそうな雲が一面に広がっている。
「雪、降りそうだな」
独り言のつもりでそうつぶやいたのだが、
「そうね。降りそうだよね」
返事があった。たぶん、今日のツレが返事してくれたのだろう。だから、その声にあった違和感をあまり気にもしなかった。その代り、声の方を見ることなく、手を差し出しながら、
「寒いな。どうする。また来るときみたいに手をつなぐか?」
「えっ・・・・・・」
なぜ驚いている? さっき家を出た途端、手をつなげとせがんできたのはそっちだろうに?
今にも泣きだしそうな上空から視線を下げたら、隣で真っ赤になってうろたえている女子がいた。
「あ、西原・・・・・・」
「・・・・・・」


「コホン、ゆうくん、もしかして私お邪魔だった?」
反対側から不機嫌そうな声がしたので振り返ると、どこか不貞腐れたような顔で三歳下の美咲が立っていた。
「あ、いや、これは、その・・・・・・」
「そうだ、私、先に行ってるね。お二人ともごゆっくり」
トゲのある声。そうとうご機嫌斜めのようだ。それは感じとれるんだけど、でも、今は急いで西原にさっきのこと、ちゃんと説明しないとまずいわけで。絶対、なにか勘違いしているだろうし。ともあれ、まずはこっちはこっちで、
「あ、いや、ちょ、ちょっと待てって。すぐ行くから」
「フンだ」
これ見よがしに、なにもない場所で見えない小石を蹴っている。苦笑するしかない。
「ねぇ、すごく可愛い子ね」
すぐに聞こえてきた西原の声にも、まだ焦っているかのような気配が交り込んでいる。そういえば、たしか西原の家ってこのコンビニの近くだっけ。もしかすると、俺たちが来た時には、すでに中にいたのだろうか。俺たちがベタベタくっつきあっていたのを見られていたのだろうか。
探るように普段は見慣れない普段着姿の西原の全身を眺めたのだが。
うん、こっちも・・・・・・
それでも、やっぱり美咲を可愛いと言って褒められたのは、とてもうれしい。
「だろ。あいつ、すげ〜可愛いんだ。本当、めちゃくちゃいいんだよなぁ」
なんて目を細めて条件反射的に喜んでしまう俺がいる。そのまま止まらなくなって、
「さっきも、こっち来る前に、寒いから俺に手をつなげってさぁ、駄々をこねやがんの。むっちゃ可愛いだろう、な?」
「え、ええ、そうね・・・・・・」
なんとなく西原の笑顔がひきつっているような。
「俺、生まれて初めて恋人つなぎってやつ経験したよ。あれって、めちゃくちゃいいもんだな。手や指全体で相手を身近に感じられて」
「・・・・・・」
のろけ話に呆れたのか、それとも、こんな話聞きたくなかったのか、今の空と同じような色の目を伏せた。
でも、これって・・・・・・ もしかして?


「幸せなんだね」
ポツリとなぜか辛そうな声。ちょっと胸が締め付けられる。と同時に、胸の中に確信にも似た温かいものが。
「ああ、もちろん」
晴れやかな気分できっぱりと答えた。
「そっか・・・・・・」
「もし、結婚して子供ができたら、俺も、あんな女の子がほしいなって」
「そう・・・・・・」
「ちっちゃいころから、いつも俺の後を付いて回って、俺のことを大好きって言ってくれてたんだぜ。可愛いよな。しかも、あいつ、つい去年まで、大きくなったら俺のお嫁さんになるって言ってたし」
「そ、そうなんだ・・・・・・」
「そしたら、一番上の兄貴のヤツ、『絶対に、それは許さん! 娘はお前なんかには渡さん!』ってさ、本気で怒りやがっててさ。な、本当、親バカだろ。うちの兄貴」
「・・・・・・」
「まあ、あんな可愛い子、娘にもったらそうなるよな。だれだって。うんうん」


「ゆうくん、もう行くよ」
駐車場の端でチラチラ俺たちのことを見ながらすねた様子だった美咲が、いらだったように声をかけてくる。
「あ、じゃあ、そろそろ行かなくちゃ」
「う、うん。じゃ、じゃあ、じゃあね、また」
かすかに震える声で返事がきた。それまで息を止めていたのか、胸に手を当てて、大きく呼吸している。
そんな西原に笑顔で手を振って、二歩進んで、立ち止り、深呼吸。思い切って振り返った。
バクバクいっている心臓なんて無視だ。
「あのさ、西原、大みそかの夜、外、出れる? あ、無理そうなら別にいいんだけど」
「・・・・・・えっ?」
「よかったら、一緒に・・・・・・えっと、その・・・・・・初詣でっていうか、その・・・・・・」
とうとう舞い出した白いものの向こうに、急速につぼみがほころんでいくのが見えた。思わず、見とれてしまうぐらい華やかな。
――うん、きっと、西原の親父さんも絶対うちの兄貴に負けない親バカなんだろうな。




年内最後の作品です。たぶん。
本年2015年もたくさんの拙作を発表でき、それにお付き合いいただきありがとうございました。明年2016年がみなさまにとって、よい年でありますように。
どうぞ、良いお年を!


短編・ショートショート 目次(2015)へ
↓↓↓ついでに、ポチッとしてくれると、やる気が出るかも^^b ↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログへ人気ブログランキングへ


posted by くまのすけ at 17:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月20日

クリスマス・ソング




十年以上昔、俺は音楽業界でヒットを連発していた。
あのころは、曲を書けば書くほどヒットが続き、歌えば歌うほどだれもがチヤホヤしてくれた。
それに気を良くして、結婚して、子供ができたばかりだというのに、俺は夜な夜な遊びまわり、家に帰ることもまれになっていた。
そうして、当然のように、女房は俺に愛想を尽かした。俺の元から去っていった。離婚届けを突き付けてくる女房には、まだ未練もあったが、俺は追わなかった。それ以上に楽しい日々が毎日続くものだと思っていた。そうして、大して悩むことなく俺たちは別れた。
そう、今思えば、それがケチのつき初めだった。
女房と別れた途端、俺の出す曲はさっぱり売れなくなった。あれほど熱狂的に受け入れてくれたファンたちも、ほどなく俺の歌には見向きもしなくなった。
だれも、俺の歌なんか聴かなくなったし、俺の曲を求めたりもしなくなった。
あっという間に、俺は過去の人間になってしまった。いつまでも過去の栄光にのみすがりつく、亡霊のようなものになり下がった。
そうして、俺の手元には、なにも残らなかった。過去の栄光以外のなにも。


気が付いたら、十年が経っていた。ファンに見放され、忘れられた十年間。
屈辱の中で、抗いもがき続け、それでも、全然結果がついてこない十年間だった。
ヒットを連発していたころには、汲めども尽きない泉のように、次から次へと新しい発想があふれ出してきたのに、今やその泉は枯れ果て、なにものも噴き出さない。俺の才能なんてとっくの昔に枯れ果てている。それは俺自身がよく分かっている。だというのに、それでも、昔の栄光が忘れられなくて絞り出そうとするのだが、結局、なにものも生み出すことはできなかった。
それでも、なんとか食いつなぐために、細々と夜の町で昔の歌を歌い、小金を稼ぐ日々を過ごしてきた。
そんな貧しさの中でも、たまに会いに来てくれる娘だけが心の支えだった。
十年前には一時の栄光に有頂天になって顧みることもなかったのに、この娘だけはいつまでも俺のことを『パパ』『パパ』と慕ってくれているのだ。こんなダメな人間でしかない俺に愛想をつかすこともなく、いつまでも俺のことを気に掛けてくれているのだ。
いつしか、俺の中では、この娘の幸せだけが俺の望みになり、願望になっていた。
そして、その年のクリスマスの夜、俺の前にサンタが現れたのだった。


イブの夜。いつものように、遅くまでクラブで歌い、へとへとに疲れて寝床のボロアパートに帰ってきた。そのまま、泥のように眠っていた。
「おい、貴様、起きろ」
だれかが、近くで誰かを起こそうとしている。体を揺さぶられた。俺を起こそうとしているのか?
「だれだよ。俺は眠いんだよ」
「バカ者。もう、日が上っているぞ。寝ぼけてないで、起きろ!」
そこで、ハッと気が付いた。ここは俺の部屋のはず。仕事から帰って、そのまま着替えることなく万年床のせんべい布団に飛び込んだとはいえ、その前に玄関のドアはちゃんとかけたのを覚えている。だから、俺以外のだれもこの部屋にいるはずはないのだ。
目を開けた。そして、見上げた。
白いあごひげ。白いフェルトで縁取られた真っ赤な衣装。赤ら顔の大男。
「だ・・・・・・だれだ?」
すごく見覚えがあり、誰もが知っていて、それでも、俺の知らない男。
「誰だとは、ずい分だな。まあいい。これは本来はあの娘へのプレゼントじゃが、お主が受け取るがいい」
そうして、リボンで飾られた箱を俺に押し付けて、その男は煙のように消えていったのだった。
そこで、目が覚めた。
そこはいつものボロアパートの中だった。
俺はせんべい布団にくるまり、寒さに震えていた。もちろん、部屋の中には俺以外のだれもいなかった。


異変に気が付いたのは、朝食のパンを焼いているときだった。
ほとんど昼といっていい時間。朝飯を用意していると、どこからか耳慣れないメロディーが聞こえてきていた。家の外からではない。中からだ。聞いたこともないメロディー。心浮きたつ、琴線が震える。耳を澄ませているだけで、様々な思いがこみ上げ、あふれ出し、すべてを押し流す。クリスマスソングだった。
――どこだ? どこからだ?
俺は音源を探した。だが見つからない。部屋の中には音源になりそうなものなんて何もない。見つからない。
古ぼけた柱にはめくり忘れた数か月前のカレンダーがかかっている。隅の机にはまだ目を通してもいない本がホコリを被って積みあがっている。ふと、部屋の隅の姿見に視線を向けると、冬だというのに、下着姿の中年男が不景気な面でキョロキョロしているばかり。
いや、そうじゃない。その鏡の中の中年男は、さっきから一生懸命ハミングしている。ずっと耳にこだましているクリスマスソングのメロディーをつぶやいている。
そう、謎の音源は俺自身だった。俺の頭の中に流れているメロディーを口が勝手に紡いでいるのだ。
すでに枯れてしまっていた俺の音楽。ずっと平穏で無残な沈黙が支配していた頭の中の泉が今や大きな音を立てて噴きあがっていた。
俺はその泉が消えてしまうのを恐れて、その場ですべてを投げ出し、五線譜の上に、そのメロディーを書き写した。安物のボイスレコーダーでハミングを録音した。
すべてを終えた時、ボロボロと涙をこぼした。
これで娘にも、自慢できる父親になれると確信していた。


その日のうちに、俺は昔親しく付き合っていた音楽会社の人間に連絡をとった。
翌日の面会の約束を取りつけ、それまでに、そのメロディーしかない曲に他のパートを付け加えることにした。
そうして、当日、準備万端整った俺は意気揚々と音楽会社に乗りこんだ。
かなりの時間待たされたが、ようやく面会がはじまり、俺は自分が作った曲のデモを渡した。
俺の曲を聴いた面会相手は、一瞬驚いたような顔をしていた。だが、次の瞬間には、顔をくしゃくしゃに歪め、両目から大量の涙を流し出した。嗚咽さえ漏らしている。
――これは・・・・・・勝ったな。
俺はそう確信して、長い雌伏からの復活の予感を胸に噛みしめるのだった。
十年、本当に長かった。いろいろなことがあった。屈辱と後悔と挫折と。
面会相手は、ようやく俺の曲を聴き終えた。ゆっくりと静かに顔を上げた。
俺にはその唇が『おかえり』と震えたように見えた。だが、
「いい曲だ。だが、これはダメだな」
きっぱりと宣言されてしまった。呆然としていて、その意味することが分からない。
その泣きはらした顔はなんなんだ? 俺の眼の前にある涙で汚れたくしゃくしゃの顔が意味することは一体?
「これはクリスマスソングだよな」
確認するように俺の眼を覗き込んでくる。当然だ。クリスマスに着想を得て生まれた曲だ。俺はひとつうなずく。そんな俺に言い含めるように、
「だがな、クリスマスは昨日までだ。せめて、もうワンシーズン早ければな」
そうして、部屋の隅に用意されている玄関前に飾る予定の門松を指さすのだった。
全身から力が抜けた。新しいレクイエムが頭の中を流れていた。



ということがあったのが、去年の話。
今年のクリスマスには、街中に去年俺の頭の中に浮かんだクリスマスソングがあふれている。
あの後も、次から次へと新しい曲想が浮かび、曲が生まれた。この一年は昔ヒットを連発していたころの俺が蘇った一年だった。
俺の書いた曲は売れに売れた。歌った歌にみなが聴き惚れた。
俺はもう貧しさにあえぐこともなく、金にも困らない。十一年前と同じ、いや、それ以上に売れている。
だが、もうあのころの俺のように家族を顧みないなんてことはしない。もう絶対に家族を悲しませるようなことはないしない。娘が悲しむようなことはしない。
そう誓って、今日も俺は歌い始める。新しい歌を。娘のために。娘がくれたクリスマスソングを。
そして、すべての人によいクリスマスをと願いながら。
メリークリスマス。





最後の部分は明らかに蛇足だけど、もうすぐクリスマスということで。
メリークリスマス!


短編・ショートショート 目次(2015)へ
↓↓↓ついでに、ポチッとしてくれると、やる気が出るかも^^b ↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログへ人気ブログランキングへ


posted by くまのすけ at 17:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月13日

君の住所を教えて




今日は朝からずっと年賀状を書いている。
「『あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします』と。あ、でも、これだと、由実にあげるにはちょっと硬いかな。よし、書き直し!」
新しい年賀状を取り出して、真っ白な方を裏返して、
「『A HAPPY NEW YEAR!』って、しまったぁ〜 筆ペンで書いちゃった。マーカーで一文字ずつ色を変えて書かなきゃ。ちぇ、やり直し!」


表に由実と千夏の住所と名前をそれぞれに書き終え、他の年賀状にも小学校以来の付き合いがある幼馴染みたちの住所と名前を書いた。それらをクラスで親しくしている友達の分の上に置き、背伸びをする。
「う〜ん・・・・・・」
ずっと座って年賀状を書いていたから、疲労がたまって、肩や腰の筋肉がこっている。普段、勉強でこるのとは違う感じ。同じように、椅子に座って文字なんかを書いていたんだけど。全然違う疲労感だ。
肩をモミながら、首をコキコキ鳴らせてみた。
たはは。なんか頭に響く音が大きい。
「さて、それじゃ、これを明日にでもポストに投函して・・・・・・」
ふと見ると、まとめて置いてある年賀状の脇に、何枚かの書き損じの年賀状が。
「これどうしよう?」
何度も裏表を確認して、なにか使い道がないか考えてみるんだけど、とくに出す宛もなく・・・・・・ って、あった!
あ、でも・・・・・・


私と由実と千夏。学校でもいつも一緒の仲良しトリオだ。休み時間はいつも一緒だし、いつも一緒にご飯を食べる。
けれど、最近、由実に彼氏ができた。去年からずっと想っていた由実の方から思いっ切って告白したらしい。
で、その相手の木下くんと由実がいい感じだし、親友としては、できるだけ二人っきりにしてあげようと気を利かそうとしたのだけど、なぜか由実の方はそれが不満みたいで。結局、気が付いたら、私たちのグループに木下くんも交るようになっていた。しかも、木下くんは木下くんで、元の仲良し男子たちから離れたくないみたいで・・・・・・
それで、いつのまにか、由実と木下くんのカップルを中心に、私と千夏、古賀くんと関くんの六人がいつも一緒に過ごすようになってしまっていた。
だけど、由実や千夏の気心の知れた女子たちならともかく、男子の古賀くんや関くんになんて簡単になじめるはずもないわけで・・・・・・


まあ、千夏は鈍いから気が付いてはいないだろうけど、古賀くん、最近、千夏のこと見てること多いよねぇ〜 話かけるときは、いつも千夏にだし。下校のとき、六人で歩くと、いつも千夏の車道側を歩いてるしね。こないだなんて、千夏が委員会の仕事かなんかで、大量の資料を運んでいた時、いち早くそれを見つけて、半分以上をもってあげたりしてたし。
ホント、千夏って鈍いから、きっと、全然気が付いてないんだろうなぁ。古賀くんの気持ち、私にも由実にもバレバレなのにね。
「うん、決まった、木下くんと、それと、古賀くんにも出そうっと」
そう口にして、古賀くん宛の方にボールペンで『ファイト!』なんて一言添えて。短い言葉だけど、どういう意味かぐらい分かるよね?
ちょっと満足して、ボールペンを置いた。
となると、もう一枚・・・・・・
「でも、なんで、関くんになんか・・・・・・」
昨日の下校時、木下くんも古賀くんも車道側を歩いているっていうのに、私の隣を歩いていた関くんは、歩道の奥、用水路側を歩いていた。ガードレールもない用水路沿い。首を伸ばして用水路の中を覗き込んで『フナだ』だとか『カメがいる』なんてはしゃいだ声を上げていたっけ。
『子供かよっ!』何度もつっこんでしまった。つうか、この道、この学校に入ってから毎日通っているんだから、今さらそんなことぐらいではしゃぐなよ。はぁ〜
まあ、用水路は道の北側に沿ってあって、昨日は北風が強かったから、関くんの大きな体のおかげで、風よけにはなっていたけど。でも、男子が女子に車道側を歩かせるなんて。入学以来、こんな農道同然の通学路を車とすれ違ったなんて経験はないんだけど。それでも・・・・・・
その前には、私が重い荷物をもってヨタヨタ階段を上っていたら、追い抜きざまに『おつかれ』って声をかけただけで一人でさっさと行っちゃったし。たしかに、関くんも大荷物を持っていたみたいだから、仕方はないんだろうけど・・・・・・ で、先に教室に入った関くんは、ドアを開けっぱなしにしてたし。暖房ついているんだから、ドアぐらい閉めろよな。
なんか釈然としないなぁ〜


ともあれ、木下くんと古賀くんにだして、関くんに出さないってわけにはいかないし。
「はぁ〜 なんだかなぁ〜」
あきらめにも似たため息をついて、ペンをとった。
『今年も仲良くしてね』
なんか気持ち悪い。舌を出して、顔をしかめて、表返す。
――えっと、たしかあの三人の住所って、スマホに登録してあるわよね。
正直、そんな覚えはないのだけど・・・・・・
確認してみると、やっぱりあるわけもなく。仕方なくメールすると、すぐにそれぞれから返信がきた。
自分たちの住所が書かれたメールと年賀状への感謝の言葉。そして、丁寧に私の住所を尋ねる言葉。
うん、木下くんも古賀くんもとても紳士的な文面。それに、あっちからも年賀状をくれるつもりのようだ。すごく好感を覚えてしまう。
――由実って案外男を見抜く眼って持っているのね。
だというのに、かなり遅れて最後に私のスマホに届いたメールは。自分の住所だけが書かれていて。
「って、なんなのよ、これ? クラスの女子がわざわざ年賀状をくれるっていうのよ?」
そのそっけない文面に言いようのない憤りを感じてしまって、気が付いたら、電話をかけていた。
「ちょっと、なによ、この返事?」
『ん? ああ、なにか変か?』
「変じゃないでしょ。住所だけって。ありえないでしょ?」
『そっか?』
本当に分かってないみたいだ。正直、木下くんたちの返信をみせてやりたい。紳士的で丁寧で。それから、それから・・・・・・
って、なんで私、こんなことで腹を立ててるんだろう? 別に、私が住所を尋ねたからそれを返してくれたってだけなのに。理不尽なのは私の方。それでも、
「もっと書きようがあるでしょって話」
『ん?』
「仮にも、クラスの可愛い女子が男子に年賀状をくれるっていうのよ。もっとほら、文面からにじみ出る喜びとか、飛び上るようなうれしさとか感じさせるっていうか。ウソでもいいから、テンション上がっちゃう的な。そういうの、ないの?」
『ああ、もちろん、俺もすげぇ喜んでいるよ。生まれて初めてだし。女子から年賀状もらうのって』
いたって平板な声でそんなことを伝えてくるわけで。う〜ん、本当かなぁ
「それに、そっちはどうなのよ」
『ん? 俺の方?』
「さっきのには、私の住所とか尋ねてなかったじゃない。木下くんも古賀くんも尋ねてきたのに」
『ああ、それなら大丈夫だ。俺、元々そっちの住所とか知ってるし』
「えっ? なんで?」
素でびっくりした。
『前に由実ちゃんと千夏ちゃんがこっそり教えてくれてた』
「な、なんで・・・・・・?」
さらに二度目のびっくり。なんで、あの二人が私の個人情報を?
それから長い沈黙があった。私も黙っていたし、関くんも。お互いに、なにか言葉を選んで、選んで。なにかの決意をかためて。でも結局、いざとなったらなにも言い出せなくて。
たっぷり、時間が経ったあとで、私たちはどちらからともなく、さよならを言って電話を切った。


電話をかけてから十分以上経っていた。そして、気が付いた。
私、生まれて初めて、同世代の男の子と長電話したかも・・・・・・
急に頬が熱くなった。電話越しに聞こえた息遣いが再び耳に蘇った。
ため息にも似たためらいの息遣い。どう表現しようか迷った末の沈黙。
ふと気が付くと、ちょうど家の玄関の方からバイクの音が聞こえてきた。なにかをポストに投函した音も。郵便屋さんかな?
その音を耳にした途端、胸の動悸が早くなった。突然、なにかを言いたそうにしていた沈黙の中に意味を見出した。
ありえない。ありえない。でも・・・・・・ やっぱり、ありえない。
それでも、ほとんど転び出るように玄関をでる。
でも、まさか・・・・・・ねっ?
家のポストの中には見慣れない封筒があった。私宛。胸に抱くようにして、自分の部屋へ駆け戻る。そして、震える手に持つはさみで丁寧に封を・・・・・・


短編・ショートショート 目次(2015)へ
↓↓↓ついでに、ポチッとしてくれると、やる気が出るかも^^b ↓↓↓
にほんブログ村 小説ブログへ人気ブログランキングへ


posted by くまのすけ at 17:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする