2017年11月19日

決意




親父が死んだのは、俺が高校三年のときだった。
若いころから働きづめで働いて、苦労して自分の小さな町工場を持てるまでになったのだが、恩義ある先輩の頼みをどうしても断ることができず、借金の保証人になってしまったのが悪運の始まりだった。
親父の先輩が借りていたのは評判の悪い闇金業者・岩井で、折悪しく不景気と重なり、資金繰りに行き詰まり返済できなくなってしまった。その結果、あくどい取り立てにあい、ついには夜逃げしてしまったのだ。
その闇金業者は保証人となっていた親父のもとへも取り立てに押しかけるようになり、あくどい取り立てを繰り返すようになった。
だが、親父はさらに身を粉にするように働きつづけ、ついには借金をすべて返済しきったのだ。
でも、その代償は大きく、返済が終わってすぐ枯れるように死んでしまった。
悪いのは夜逃げした親父の先輩であり、それ以上に、執拗な取り立てを繰り返した闇金業者の岩井が親父の命を奪ったのだ。


親父が死んだあと、姉は大学を辞めた。そのまま、夜の町へ勤めにでるようになった。俺やお袋のことを養うためだ。
そんな中で、似た境遇の黒崎さんに出会い、一緒になったのも必然だったのだろう。
俺は親父がいない中でもなんとか高校を卒業し、大学へまで行かせてもらえた。姉たちには感謝のしようもない。
だから、この計画を黒崎さんが俺に打ち明けた時、真っ先に協力を申し出たんだ。


あの日、大学のあるD市に住んでいた俺は、自慢のバイクを飛ばして、E市の田園地帯の中を走っていた。
左手に盛り土の上を延々と続く高速道路を眺めながら、車一台分の幅しかない側道に乗り入れる。当然、こんな場所だから普段から農道代わりに使われているようで、あちこち泥で汚れていた。
晩秋の稲刈りが終わってだれもいない田園風景の中、上の道路を何台ものトラックが爆音をとどろかせて走り抜けていく。
打ち合わせの場所で停車して待っていると、まもなく上の道路でも路側帯に車が停車し、男性が下りてきた。そして、手際よくガードレールの支柱に登山用のザイルを結び付けると、ザイルを頼りに一気に斜面を滑り降りてきた。その間、ほんの一分か二分程度の早業。もちろん、路肩に止まっていた車はすぐに出発して見えなくなっている。
「お待たせ」
「一応ヘルメットかぶってよ」
「ああ」
緊張した面持ちの黒崎さんは俺の手渡すヘルメットをかぶると、早速バイクの後ろにまたがる。
俺たちはバイクに二人乗りしながら、E市の新幹線の駅へ向かった。
なんとか発車時刻には間に合い、黒崎さんが改札に駆けこむのを見送ってから、今度はE市のインターチェンジへ向かった。
高速に乗ってしばらく走るとさっき俺が下の側道で待機していた場所に近づいてきた。注意して見ていないと気が付かないが、ガードレールの支柱に何かが絡まっているのが見える。もちろん、ザイルだ。
俺はそこの路肩に一旦バイクを止めて、ザイルを回収して、再び走り出した。


E市のパーキングエリアには都合のいいことに黒崎さんの車以外止まっているものはなかった。
俺はトイレの前のスペースにキーをつけたままバイクを止めると、一目散にトイレに駆け込んだ。個室にこもって着ているライダースーツやフルフェイスのヘルメットを脱ぎ捨てると、紙袋に入れて、外へ運ぶ。
入口では姉が待っていて、無言で俺に紙袋を手渡してくるので、交換して再びトイレの中へ戻った。姉が手渡してきたのは黒崎さんが車の中で着替えた昼まで着ていた衣装だ。
それに着替え終え、一緒に入っていた車のキーを手に今度は自分のバイクではなく黒崎さんの車の方へ大股に近づいて行った。
シートベルトをして、キーを挿し、回すと、エンジンは快調な振動を発生させる。シフトレバーを『D』に入れ、サイドブレーキを解除。それから、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ。車はゆっくりと発進していった。
パーキングエリアをでるとき、バックミラーに俺のライダースーツを着込んだ姉がバイクにまたがるのが見えていた。
そうして、俺たちは別々にC市を目指した。
C市のインターチェンジをおりたころには、あたりは夕闇に包まれており、ヘッドライトの点灯が必要になっていた。
セルフのガソリンスタンドへたどり着くと、監視カメラに気をつけながら、俺は給油をした。


もし、本当にタイムマシンができたのなら、俺は過去に戻ってなんとしても親父が先輩の借金の保証人になるのを妨害するだろう。
岩井を殺そうとするんじゃなくて。
昨日、雑誌に載った黒崎さんの不敵な笑みを眺めたとき、俺はそう考えた。
だって、黒崎さんは内心では良心の呵責に苦しんでいるのだろうから。でなければ、姉や俺が共犯として逮捕されるかもしれない危険を冒してまで重要な役割をになったザイルに執拗に言及するなんてことはしないだろう。
たぶん、刑事さんたちがあの日俺たちが何をしたのか、見破ってほしいと無意識にでも願ってさえいるのかもしれない。
その暗く底知れぬ悲しみをたたえた瞳を思い出し、
『約束するよ。いつか俺のこの手でタイムマシンを作って見せるよ!』
そう心に誓いながら大学の駐輪場へバイクを止めた。


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posted by くまのすけ at 18:05| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月12日

タイムマシン殺人事件




駆け出しのころからお世話になりっぱなしだった野村のおやっさんが定年を迎えるまであとひと月というタイミングでその事件は起きた。
A市に住む悪徳闇金業者の岩井が殺されたのだ。刺殺だった。
容疑者はすぐに特定され、その身柄はただちに確保された。容疑者は黒崎といい、黒崎の両親は岩井から金を借りていたのだが、そのあくどい取り立てに耐え切れず、自ら命を絶っていた。
岩井の死体のそばに落ちていた凶器とみられる包丁にはバッチリと黒崎の指紋がついていたし、血除けのために使われたと思われるレインコートやマスクの内側に付着していた汗や唾液なども黒崎のものだった。
取り調べでは、黒崎も素直に自分の犯行を自供していた。だから、この事件は野村のおやっさんが解決した最後の事件となるはずのものだった。


だが、俺たちは黒崎の自供の内容に耳を疑うことになった。
黒崎はこう言っていたのだ。
「両親のことで長年恨み抱いていた私は、趣味の登山のためにいつも車に積んでいるザイルで岩井の首を絞め上げ殺しました」
さっきも言ったように、岩井は刺殺だった。絶対に絞殺なんかではなかったし、第一、遺体の首にロープの痕なんかなかった。
野村のおやっさんの見立てでは、やはり黒崎が犯人であり、供述でウソをついているのはあきらかだという。もちろん、俺の目にもそう映った。
だが、なぜ黒崎は自分が岩井を絞殺したと言い張るのだろうか?
わけが分からない。
そうこうするうちに、犯行当日の黒崎の行動がしだいに明らかになった。
黒崎は事件当時、A市から百キロほど離れたB市に住んでいたのだが、妻の父親の三回忌の法要に合わせてB市から五百キロほど離れたC市へ向かって高速道路を車で走っていた。でも、C市はB市からみてA市とはまったく逆方向にある町。新幹線がほぼ高速道路と並行して走っているとはいえ、どのようにしても、C市に到着するよりも前に犯行時刻がすぎてしまう。
しかも、B市から出発して最初のサービスエリアの防犯カメラの映像では黒崎の姿がバッチリ確認でき、黒崎が自分の車に乗り、走り去っていくのまで映りこんでいた。その上、黒崎の車はC市までの途中のインターチェンジで降りていないことも確認が取れていた。だから、どうやら高速道路を走っていたのは確実なようだった。
さらに、同乗していた黒崎の妻の証言によると、その日、C市へ向かうために高速道路を走っていた二人は、二回休憩をとり、一度目は高速道路に入ってすぐのサービスエリアで昼食を、二回目はD市手前のE市のパーキングエリアでD市に住む妻の弟に携帯で連絡をとるためだった。折角なので、インターチェンジを下りて迎えに行き、一緒に乗っていかないかと誘ったらしい。だが、弟の返事は自分のバイクでC市へ向かうというもので、結局、黒崎たちはD市のインターチェンジを素通りし、そのままC市までノンストップで走りつづけたという。
さらに調べていくと、C市のセルフのガソリンスタンドの防犯カメラには夕闇と帽子のせいで顔がはっきりとは映っていなかったが、黒崎と思しき男性が黒崎の車に給油している姿が映っていた。
つまり、黒崎は犯行が行われた時間には高速道路の上を走っていたのだ。


黒崎は自分が岩井を殺したと自供しつづけた。
自分のこの手で岩井の首にザイルを巻き付けて絞め殺したと。今でも恨んでいるし、後悔もしていない。岩井は死んで当然の人間だと。
そして、あらゆる証拠も黒崎が犯人であることを指し示している。犯人が別にいる可能性なんてまったく存在しなかった。
でも、その当の犯行時刻には黒崎が高速道路をC市へ向かって車を運転していた。黒崎が殺人を実行するのは不可能だ。
俺たちは頭を抱える羽目になった。
野村のおやっさんの最後の事件は未解決のまま時間だけがどんどん過ぎていくことになった。


野村のおやっさんが定年を迎える一週間ほど前の非番の日、俺は黒崎が走ったという高速道路をまったく同じ時間帯にレンタカーで走ってみることにした。
都会といっていいB市周辺では遮音壁越しにビルが林立しているのが見えていたが、しだいに田園風景がぽつりぽつりとみられるようになって、遠くに新幹線の駅が見えるE市のインターチェンジを過ぎてしばらくは盛り土の上に作られた道路から完全に稲刈りの終わった田園風景が遮音壁に遮られることのなく広々と広がって見えていた。そうして、走っていくと、やがて真っ赤に燃え上がる紅葉で彩られる山あいに突入していった。
道路はさらに山間部の奥深くに入り込み、E市のパーキングエリアは周囲を完全に山に囲まれた山深い場所だった。だれもいない駐車場に車を止め、周囲を見回すが、まったくなにもない場所だった。
周辺にも道路はなく、地図で確認すると、仮に一番近い道路まで道なき道をすすんでも犯行時刻には絶対に間に合うことはなさそうだった。
さらに、時刻表で確認した限りでは、犯行時刻に間に合うにはつぎのD市までにインターチェンジを下りて新幹線の駅にむかわなくてはならない。だが、E市でもD市でも、さらにその手前のインターチェンジでも黒崎の車が高速道路を下りたことは確認されてはいない。
とすると残る可能性はだれか共犯の車が並走していて、ここで黒崎が車を乗り換えたというものだが、あいにくと、D市のインターチェンジに設置されているカメラは新型の高性能なもので、運転者や同乗者の顔までくっきりと映る優れモノだった。もちろん、それらの中に黒崎の姿はなかった。
どうやっても不可能だ。黒崎が犯行時刻にA市へたどり着くなんて不可能だ。
これまでにも散々に悩み、頭を働かせてきたが、やっぱりこの日もなにも浮かんでくることはなかった。
俺は誰もいないトイレで用を足し、あきらめて出発することにした。
その後は、まったく順調に走り抜け、やがてC市のインターチェンジを下りた。
あたりはすっかり日が傾き、薄暮に包まれている。
そんな中、俺のレンタカーは黒崎の姿を最後に記録したセルフのガソリンスタンドにたどり着いた。すでにガソリンタンクは空で給油が必要だった。満タンに入れて、レンタカーの事業所まで車を返しに行き、そして、新幹線に乗って俺は帰ってきた。
結局、なんの得るところもない旅だった。
徒労感に包まれながら、俺は家路についた。


結局、なんの収穫もないまま拘留期限がすぎ、俺たちは黒崎を逮捕して検察に身柄を送ることができなかった。
俺たち警察は黒崎の犯行時のアリバイを崩すことができなかったからだ。
お世話になった野村のおやっさんの顔に泥を塗る羽目になってしまった。
俺は忸怩たる思いを抱え続け、おやっさんとの最後の日々を一緒にすごした。
そんなある日、週刊誌が黒崎のことを記事にした。その中のインタビューでは、あいかわらず黒崎は自分が岩井を殺したと言っている。
一方で、記事では警察は黒崎が岩井を殺すのは不可能だと結論付けたことも面白おかしく書き立てている。俺たち警察のことを無能呼ばわりさえしている。
そうして、黒崎は宣言していた。
『今の僕があいつを殺すのが不可能だと警察が言うのなら、その通りなのでしょう。でも、未来の僕が、タイムマシンが発明された時代の未来の僕なら、あいつを殺すことは可能だし、それをためらったりなんかしないんです。だから、未来の僕があいつをこの手で殺したのは間違いありません』
そうして、読者に挑戦的な印象を与える不敵な笑みを浮かべながら写真に納まっているのだった。
こうして『タイムマシン殺人事件』は世に知れ渡ることになった。


定年の日、野村のおやっさんは、こう一言だけ告げて俺たちから去っていった。
「タイムマシンが本当に発明されるのなら、俺が真っ先にもどってきてあいつを逮捕してみせるさ」
去っていくその背は小さく寂しげだった。


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posted by くまのすけ at 18:06| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月05日

もしかして日曜日だった?

ついさっき気が付いたばかりなんだけど、今日って日曜日だったよね?
てっきり月曜日だと勘違いしてた・・・・・・
いつも3連休といえば、土日に月曜日だったから、3連休の最後の日=月曜日って感覚になってた。
どうしよう、なんも用意してないや。
なので、今日はアップなしです。
↑なら、昨日は日曜日のつもりだったんじゃなんて、もっともなツッコミはなしで。←土曜日は土曜日なのだ!
posted by くまのすけ at 20:34| Comment(0) | サイト情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする