2018年09月23日

月と恋




来月開催される文化祭。実行委員に選ばれてから会議のある日の帰りはいつも遅くなる。今日もそう。
昇降口でローファーに履き替え、入口の外へ出ると、あたりはすでに日が暮れて暗くなっていた。そして、そこにいるのは、一緒に実行委員をしている宮崎。
宮崎、東の方の山並みを見つめてる。大きくて、少しだけ端の欠けた白い月が顔をのぞかせている。あと二、三日もすれば満月になるだろう。


月と恋って少しだけ似ている気がする。
だって、毎日すこしずつすこしずつ膨らんで、大きくなっていく。だけど、大抵は頭の上の高いところにあって、私たちが強いてそちらを見上げようとでもしない限り気が付くことはない。
視界の外で、すこしずつ膨らんでいっているのを、自分では気が付けない。
そうして、ある日突然、大きくて真ん丸なのが、地平線から上ってくるのに気が付くのだ。
いつの間にか大きく膨らんでいたのをそこで初めて知るのだ。
突然、現れたみたいでいて、本当は頭の上でずっと膨らみ続けていたって気が付くんだ。
月の光に照らされている宮崎の顔を見上げながらそんなことを思った。
いつも一緒にいた。同じ部活だし、入学以来クラスも一緒。文化祭だけでなく、体育祭や他のイベントの実行委員にも二人で選ばれるのも今回が初めてじゃない。今みたいに、帰り道が一緒だったことだって何回もある。
そんな風にして、一緒にいる時間が積み重なるたびに、私の頭の上の月は、気が付かないうちに少しずつ少しずつ……


胸の奥がすこしだけ痛い。
今日、ずっと頭の上にあった月が初めて山並みから顔を出した。丸く大きく明るい。
でも、まだ端が欠けていて、これからまだまだ膨らみ満月へ向かうだろう。
宮崎の月はどうなんだろう?
特に嫌われてはいないとは思うけど、でも、その月はだれへの月?
私への月だったらいいな。今はまだまだ頭の上にあったとしても、いつかは宮崎の目の前に上ってくるだろうから。
「ん? なに? 俺の顔になにかついてる?」
私があんまり見つめているものだから、不審そうな顔でこっちを見てきた。
「ううん。なんでもない」
「そっか」
宮崎は、私から視線を外すとまた月を眺める。それから、ポツリと言葉を漏らす。
「月が……」
思わず続く言葉に『綺麗ですね』ってのを想像して、一瞬頬が赤らむけど、宮崎が実際に口にしたのは。
「……ハンバーガーみたいだよな」
「なによそれ」
「いや、丸くてうまそうだろ?」
まだまだ宮崎の月は頭の上の高いところにあるみたい。
「はぁ〜」


「な、国道の向こうの店で一緒に食べていかないか?」
「こんな時間に食べたら、晩ご飯入んなくなっちゃうじゃない」
「そっか。なら一人で食って帰るか。って、なんでついてくるんだよ。駅あっちだろ?」
「別にいいじゃん。お月さま見てたら私もたべたくなったんだし。あ、そうそう、誘ったのはそっちだから、今日は宮崎のおごりだからね」
「なんでだよ」
もうすぐ満月になる月を一瞥してから、宮崎と並んで歩き始めた。二人とも笑顔だった。
「あー、私、月見バーガー食べたいな」
「俺はチーズバーガー一択だな」


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2018年09月09日

居眠り




大きな台風が日本列島を通過し、夏のじめっと蒸し暑い空気から秋のからりと爽やかな空気へ入れ替わった。
おかげで、長く続いた熱帯夜から解放され、すずしく快適な長い夜を過ごすことができるようになった。のだけど……
昨日、ベッドの中で開いた文庫本、期待はしてなかったけど、案外おもしろくて、夢中になって、気が付いたらカーテン越しの窓の外は白々とした光が照らしていた。
おかげで、今日は大学の講義中でも、バイト先でもあくび連発。ずっと一緒だった千紗に笑われてしまった。
だから、駅で千紗と別れて、帰りの電車に乗った時には、早く帰って、今日こそはゆっくり眠ろうなんて決心してたんだよねぇ


――zzz
左の頬に布目のザラザラした感触がある。首の右筋が張ってさえいるような気も……
――永森行き、お乗り換えは三番ホームへ。中富川行き、お乗り換えは五番ホームへ。次は終点上大川。上大川です。車内にお忘れ物なさいませんようお願いいたします。この電車は上大川発車後、車庫へ参ります。
減速を開始した車内にアナウンスが流れている。
「……」
――っ!
上大川? それって終点じゃない! 自宅の最寄り駅なんてとっくに過ぎちゃっているじゃない!
たちまち目が覚めた。一瞬座席から腰を浮かしかけ、まだ電車は駅に到着しておらず、立ち上がっても無駄なことに気が付いて、そのまますとんと腰を落とす。
口の中につばが溜まっているので飲み込んで、左の頬を触る。少しこすれたような感触がある。かすかにチクチクして痛いような……
これって!
慌てて、左隣の席を見ると、スーツ姿の若い男性と目が合ってしまった。ニッコリ私に笑いかけると、ささやいてくる。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
やっぱり! やっぱり私、この人の肩を枕にして眠っていたのね! 居眠りしていたのね!
急激に顔が熱くなる。恥ずかしくなる。
「ご、ごめんなさい!」


終点の上大川駅に着いた途端、私は後ろも見ずに脱兎のごとく駆け出した。
いくら寝不足だったからとはいえ、電車の中で見知らぬ男性の肩を枕にして居眠りしちゃうなんて…… 恥ずかしい〜
そのまま、改札の外へ向かおうとしたけど、大学の方向とは逆。当然、定期の範囲外。改札の外へでるには清算しなきゃいけない。それならばと、途中に見かけた駅ナカにあるコーヒーショップで気持ちが落ち着くまで休憩してから、逆方向の電車を待つ方がいいかしら。
で、そうやって、時間をつぶして、自宅方面へ向かう電車の出るホームへ移動すると、ちょうど電車が止まっている。しかも、間もなく出発時刻。
混雑し始めているけど、始発なのでまだまだ座れる電車に乗り、適当な席に腰を下ろす。
「ふぅ〜」
今度こそ、電車の中で居眠りなんて絶対しないんだからねっ!
そう心に決めて、電車が出発するのを待っていたら、なんだか、すぐ左隣の人が見つめてきているような。
ちらりと横目で確認すると、スーツ姿の若い男性。
えっと…… なんだか、すごく見覚えがあるんですけど! ごく最近至近距離で見上げたはずなんですけど! すごく心臓がバクバクしているのですけど!
「もう眠気はとれましたか?」


な、なんで引き返す方向の電車にさっきの人が!
はっ! も、もしかして、さっきの電車の中で、私に肩貸すのを優先して、自分が下りる駅を通り過ぎちゃったの? 私、この人に肩借りるだけでなく、もっともっと迷惑かけていたの!
「ご、ごめんなさい。さっきは本当にごめんなさい」
「あ、いいえ。どういたしまして」
感じのよい笑顔を向けてくれている。たのしそうに目を細めている。
そんな顔を見ていたら、なんだかさらにさらに申し訳ない気分になっちゃう。
「きっと、私のせいで乗り過ごさせちゃったんですね。重ね重ね、本当にごめんなさい」
平謝りに謝るしかない。
ううう…… 私って……
本当は、このまま立ち上がって、さっきみたいに今すぐ逃げて行きたかった。でも、さっき逃げちゃって、また逃げるなんて失礼にもほどがあるわけで。そのまま座り続けるしかない。
恥ずかしさに耐えるしかない。
うう……


――次は滝ヶ原。滝ヶ原に止まります。
えっ? あ、大学へ向かう乗り換え駅じゃない。下りなきゃ!
慌てて、背を伸ばして、車窓から外を見ると、まっくら。見慣れた朝の景色なんてどこにもなく……
えっ? なんで?
左ほおに布目のあと。こすれてかすかに痛い。首の右筋も張っていて…… 口の中によだれが溜まっている。これって。
またやっちゃった……
けど、
「zzz……」
左の耳元に寝息がかかっていた。左肩が重たい。
……
そう、スーツ姿の若い男性が肩にもたれかかりながら寝顔を見せていた。気持ちよさそうに寝息を立てていた。
はぁ〜 また行きつけの駅のコーヒーショップで帰りの電車待ちながら休憩とった方がいいかもね。今度は二人で。


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posted by くまのすけ at 16:43| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月26日

図書館にて




九月いっぱいまで大学は夏季休業中なので、実家に戻っていたら家を追い出されてしまった。
来年、受験する弟の勉強の邪魔になるとか。てか、私が受験だったときは、そんなの全然誰も気を使ってくれなかったのに……
まあ、たしかに夜遅くまでだらけてテレビを見て、自分の部屋で大きな音で音楽を聴いてた私にもちょっとぐらいは非があるような気もしないではないのだけど。
でも、弟だけずるいぞ!


というわけで、日中、居場所もなく、涼しい場所を探して、家の近所の図書館へやって来ていた。
椅子を引く音、ページを繰る音。囁き声で隣と会話する人。いろんな音がまじりあっているけど、決して不快ではなく、騒々しくもない。とても静かで居心地のいい空間だ。なによりも、クーラーが効いていて、涼しいのが最高。
なにか本でも取ってきて、読んでいるフリだけして居眠りしようかな。
なんて本棚の間を歩き回っていたら、
「あっ、こんにちは」
私を見つけてぺこりと頭を下げる男の子がいた。高校生ぐらい?
だれだっけ? どこかで見覚えがあるのだけど。
とりあえず、私もにっこりと
「こんにちは。久しぶりだね。元気してた?」
「あ、はい。沙織さん、こっち戻ってたんですか?」
「うん、そうだよ。大学夏休みだから」
「そうなんだ。うちの姉ちゃん、会社のお盆休みに顔見せに来ただけだったから」
その言葉で気が付いた。前にいる子、どこか美波に似ている。高校時代によく一緒だった友達の美波。いつも私と美波と千夏の三人でつるんでいた。今は就職して、東京で一人暮らし。そして、たしか美波にも弟がいて。名前は……
「そうなんだ。美波も元気してた、優一郎くん?」
途端に、嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
「はい。姉ちゃんも沙織さんに会いたがっていましたよ」
「そっか。私も久しぶりに会いたいな」


優一郎君、今日は夏休みの課題を片づけに来たらしい。
調べものをしてからレポートにまとめるのだとか。
「そっか、大変だね。高校生も」
「はあ。面倒くさいんですよ」
なにか期待するような目で私を見てくるわけで。そして、ちょうど私は今、ヒマを持て余していて、図書館の中をブラブラしていたわけで…… おそらく、そのことに優一郎君は気が付いているみたいで……
「はぁ〜 仕方ないわね。手伝ってあげるわよ」
「やった。本当ですか?」
「あ、はいはい。だから、この沙織お姉さんに感謝しなさい」
「はい」
目をキラキラさせて、敬礼のポーズ。
ったく。というか、最初からそのつもりで私に声をかけて来たのじゃないの?
「やっぱり、沙織さん見かけて声をかけて正解だったな」
はぁ〜


というわけで、それから一時間ほどは優一郎君の調べものを手伝ったり、レポートの書き方のアドバイスをしたりして過ごした。
無事レポートは完成。優一郎君は、素直にとても感謝してくれた。
のだけど、なんだろう? その間中、ずっと隣のテーブル席から私たちのことを見ている視線を感じていたのだけど。
どこかトゲのある鋭い視線で。かというと、すがるような悲しげな瞳。
隣のテーブル席にいるのは、女の子。高校生ぐらい。ということは、優一郎君と同世代。
優一郎君に聞いたら、知らない女の子だって言うし。
はてな? なんだろう?
学校の課題を終えて帰ることにした優一郎君を見送って、席に戻ってくると、その女の子、私に近づいてきた。
この険しい雰囲気。そして、剣呑な空気。これってあれか? 修羅場なのか?
優一郎君、ああ見えて、女子にモテそうだ。だから、知らない女の子に片想いされているなんてこともありうるだろう。
まあ、たしかに私なんかよりもずっと美形で男子からチヤホヤされていた美波の弟なんだし、その近親者なら、優一郎君だってそういうこともあるかも。
内心身構えていたら、
「沙織さんですよね?」
「え、ええ」
なんで私の名前を知っているの?
もしかして、優一郎君の近くにいる女性のことを徹底的に偏執的に調べ尽くすような危ない子なの。
やばい、このままだと私、刺されちゃう?
目の前でさっきみたいな優一郎君と仲の良さを見せつけられ、嫉妬に狂ったこの女の子に殺されちゃう?
誰か助けて! 誰か!
「私、沙織さんの高校時代の同級生だった羽田千夏の妹で、千秋って言います。今お暇でしたら、私の課題手伝ってもらえませんか? 朝から頑張ってるのだけど、全然、進まなくって……」
最近の高校生ってやつは……


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posted by くまのすけ at 16:37| Comment(2) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする