2018年10月28日

トリック・オア・トリート




「トリック・オア・トリート!」
休み時間に自分の席に着いた途端、前の席にいた前田が振り返ってきた。
「な、なに?」
「だから、トリック・オア・トリート!」
なにかを要求するように私に手を差し出している。
「えっと……?」
「近藤って家庭科部の部長だろ? お菓子とか用意してんじゃねぇの? 明日はハロウィンだし」
「はぁ? なんでよ」
「え? ないの?」
すごく意外そうな顔。
「あるわけないでしょ、そんなの」
「チェッ」
残念そうな表情を見せて、前を向いた。


「つうかさ、お菓子食べたいの?」
目の前の背中をシャーペンの先でつついてから質問してみたら、
「食べたいに決まってんだろ」
「子供ね」
「まあな。でも、やっぱ、女子の手作りお菓子って、この時期限定の話だろ?」
残念だけど、そんな話、聞いたことないな。
「それに、学校で女子からお菓子をもらうのって、結構、男子の憧れのシチュエーションっていうかさ」
「へぇ〜 そうなんだ」
どうでもいいわ、そんなの。
「近藤も一応、女なんだし」
「どういう意味よ!」
ホント失礼なヤツだ!


そのあとも、休み時間になるたび、山崎だとか、今井だとか、林だとか、入れ替わり立ち替わり、
『トリック・オア・トリート!』
なんなんだ? こいつらは。ったく。
そんなに、お菓子が食べたいなら近くのコンビニで自分で好きなだけ買って食べてなさいよ。
「はぁ〜」
「今日は絵理奈、散々だったね」
「だねぇ」
「男子たちって、そんなにお菓子ほしいものかね?」
「だよね」
「大体、ホワイトデーみたいなお返しの日があるわけじゃないんだし、男子になんかあげるわけないじゃない。ね?」
「ねぇ」
向かい合ってお弁当を食べながら、理世と二人で呆れるしかないわけで。
「それはそうと、絵理奈」
「ん?」
顔を上げたら、理世、いたずらっこみたいに目を輝かせてこっちを見てた。
「トリック・オア・トリート!」
「あんたもかいっ!」


放課後、家庭科室には部員が三々五々集まってくる。
今日は全員、エプロンをつけている。
いつものように全員が席に着いたところで、私は立ち上がった。これから始まる作業に期待して目を輝かせている部員たち一人一人の顔を見回す。
「いよいよ明日はハロウィン当日です。だから、今日中には仕上げちゃいましょうね」
私の言葉に、部員たちが一斉に力強くうなずいた。
「「「は〜い」」」
それから、活気づき、作業を始めた。――仮装用の衣装づくりを。
明日はハロウィン。トリック・オア・トリート!


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posted by くまのすけ at 19:20| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年10月14日

田舎って面倒くさい




山奥の村にある実家を出て都会の大学へ進学した私、今年は正月も春休みもお盆もバイトに明け暮れて帰省してなかったら、お母さんから電話がかかって来た。今年の秋祭りに帰ってこなければ実家の私の部屋に残してある少女漫画、全部処分しちゃうわよなんて。
だから、嫌でも帰省しないといけない。
そんなことをサークルの飲み会で嘆いていたら、植田先輩が一緒についてくるなんて言い出したんだよね。
本当、お祭りって言葉に目のない、お祭り大好きお祭り男なんだから……
当然、そんなことすれば、村の人や家族が色々勘繰るんだよね。千咲が彼氏連れて来たとかなんとか。全然違うのに。はぁ〜


祭りの前日に実家についたら、家族がそろってにこやかな応対をしてくる。けど、なんだか様子がヘン。みんな、こっそり先輩のことをうかがっている様子。まさに品定めしているみたい。
それでも、夜になり、先輩を囲んで酒盛りをはじめた。
サークルでもそうだけど、先輩って結構お酒が強い。ずっと付き合ってたら、真夜中を回っちゃう。だから、私だけ早々に逃げ出したんだけど。
次の日、お母さんによると、お父さんと先輩、夜中の二時ぐらいまで酒盛りしていたみたいだ。
で、案の定っていうかなんていうか、お父さんは二日酔いで動けなくなってた。
でも、村の衆は朝の八時には近くの神社に集まってお神輿を組み立てる作業をしなくちゃいけない。各家から一人以上は出てないと……
結局、二日酔いも寝不足なのも全然関係ないみたいにけろっとした顔して起き出してきた先輩と私が神社へいってお神輿の組み立てを手伝うことになってしまった。
「すみません。お父さんが酔いつぶれちゃって」
それもこれも、先輩のせいだけど。
「ああ、いいよ。いいよ。俺自身、お神輿組み立てるところ興味あったからね」
うん、ウソでもそんなこと言ってくるのは、夜遅くまでお酒に付き合わせたことを少しは申し訳なく思ってくれているからかな。本当は、大事な祭りの前日にお父さんを深酒させたことを大いに反省してほしいところなんだけど。
お父さんもお父さんだ。朝から大事な用事があるって分かってたくせに、二日酔いになるまで飲み明かすなんて。
顔では笑顔をつくりつつ、心の中で二人に憤慨してた。


で、時間前に家から徒歩で五分ほどしか離れていない神社に向かって歩いていたら、
「あら、千咲ちゃん、ひさしぶりね」
「あ、おばさん、お久しぶりです」
ご近所さんに声をかけられて、そのまま立ち話。
先輩は、しばらく私のそばでおとなしく待っていたけど、すぐ先に神社の鳥居が見えている場所だったから、
「俺、先行ってるわ」
なんて、私を置いていってしまったんだよね。ま、別に構わないのだけど。
「素敵な旦那さんね。千咲ちゃん、いい人見つかってよかったわね」
「えっ? あ、いえ、先輩とはそんな関係じゃ……」
すっごいデジャビュー。これ、昨日から何回目の会話よ。こっち来てから、会う人、会う人、みんな先輩のことを私の恋人だとか旦那さんなんて言うの。いい加減、否定するのも面倒臭くなってきたのだけど、一々否定しておかないと、あとあとさらに面倒なことになるの目に見えているんだよね。
本当、田舎って面倒くさい。こういうのが嫌で帰省したくなかったのよね。はぁ〜


しばらく、近所のおばさんと話し込んでから、神社の鳥居をくぐって境内へ入って行ったら、
「わっしょい! わっしょい!」
あれ? もうお神輿組みあがっちゃったの?
盛り上がっている社殿脇の倉庫前へ近づいていくと、だれかが胴上げされている。村中の男の人が集まり、その中心で誰かが何度も宙を舞っている。
なんだろう?
「おっ、嫁御寮のご登場じゃ。おめでとうな、千咲ちゃん」
近所のおじいちゃんが大声あげる。その声につられて村の人たちが私の周りに集まって来て、そして、
――バンザーイ! バンザーイ!
みんな実にいい笑顔で祝福してくれるわけで……
そのあと、みんなにもみくちゃにされながら、胴上げのせいで酔いが回って来たのか、フラフラしている先輩の隣に立たされてしまった。
――ちょ、ちょっとこれどういうことよ!
――悪りい。お前どこのもんだって訊かれたから、千咲のうちに泊まってるって答えたら、なんか急にみんなに囲まれて胴上げされちまって。
先輩困った顔してささやいてきた。その間も、周りでは村の人たち口々に『お似合いじゃ』だとか、『あの幼かった千咲坊がこんないい男と添うなんて。長生きはするもんじゃ』とかなんとか適当なこと言ってるし。しまいには、『ありがたや、ありがたや』って神様に手を合わせている人も出てくる始末。
どうすんのよ、これ。


ようやくお神輿の組み立て作業が始まった。私たちは離れた場所から作業の様子を見守る。
「これじゃあ、私、こっちへもどって来にくくなっちゃうよ」
「悪りい」
「今度から、一人で戻ってきたりしたら村の人たちみんなから旦那どうしたとか訊かれちゃうんだよ。出戻りとか陰口言われちゃうよ。結婚すらまだなのに……」
「ああ、本当、悪いと思ってる」
「はぁ〜」
本当、田舎って面倒くさい。
今後のことを思ってため息を連発させてたら、先輩、なにか決めた顔で私のことを見つめてくる。もちろん、こんな状況で先輩が取りうる選択なんて大してないわけで。
「あのさ。そっちさえよければ……」
やっぱり。だけど、全部は言わせない。私と、なにより先輩のためにも言わせちゃいけない。
「私、まだ大学にいるし、向こうで就職するつもりだから。結婚なんて……」
『まだまだずっと先のこと』って続けようとして、先輩の様子に言葉を飲んでしまった。意外や意外、私の返事になぜだか気落ちした様子だ。
「俺はそれでもいい。いや、その方がいい」
不安そうな目で私の顔色をうかがってくる。こっちは意外な発見に戸惑って、直視できずにいるっていうのに。
ぐずぐず返事ができずにいたら、お神輿すぐに完成したみたい。
「そんじゃ、千咲ちゃん、今日は婿さん借りるぜ。若いんだし、たくさんお神輿さん担いでもらわんと」
振り返ったら目があった。私の頬に自然と笑みが浮かんで、うなずいていた。
「いってらっしゃい」
「お、おう……」
「よっ、お似合いの若夫婦だねぇ にくいぜ!」
「そんな。おじさん、からかわないでよ、もう」
そんな私のことを先輩、まぶしそうに見てた。
「じゃあ、行ってくる」
「うん。気をつけてね」
離れて行く大きな背中に手を振っていたら、ふと予感めいたものを感じていた。たぶん、来年もその先も、ずっとこんな風に先輩と一緒に秋祭りに参加するのだろうな。
いやいや、なに私、雰囲気にのまれてんのよ。相手は、お酒とお祭りに目がない飲んべえのお祭り大好き男なのよ。
こんなこと簡単に決めちゃったらダメに決まってる!
本当、田舎って面倒くさい!


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posted by くまのすけ at 16:05| Comment(0) | 短編・ショートショート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月23日

月と恋




来月開催される文化祭。実行委員に選ばれてから会議のある日の帰りはいつも遅くなる。今日もそう。
昇降口でローファーに履き替え、入口の外へ出ると、あたりはすでに日が暮れて暗くなっていた。そして、そこにいるのは、一緒に実行委員をしている宮崎。
宮崎、東の方の山並みを見つめてる。大きくて、少しだけ端の欠けた白い月が顔をのぞかせている。あと二、三日もすれば満月になるだろう。


月と恋って少しだけ似ている気がする。
だって、毎日すこしずつすこしずつ膨らんで、大きくなっていく。だけど、大抵は頭の上の高いところにあって、私たちが強いてそちらを見上げようとでもしない限り気が付くことはない。
視界の外で、すこしずつ膨らんでいっているのを、自分では気が付けない。
そうして、ある日突然、大きくて真ん丸なのが、地平線から上ってくるのに気が付くのだ。
いつの間にか大きく膨らんでいたのをそこで初めて知るのだ。
突然、現れたみたいでいて、本当は頭の上でずっと膨らみ続けていたって気が付くんだ。
月の光に照らされている宮崎の顔を見上げながらそんなことを思った。
いつも一緒にいた。同じ部活だし、入学以来クラスも一緒。文化祭だけでなく、体育祭や他のイベントの実行委員にも二人で選ばれるのも今回が初めてじゃない。今みたいに、帰り道が一緒だったことだって何回もある。
そんな風にして、一緒にいる時間が積み重なるたびに、私の頭の上の月は、気が付かないうちに少しずつ少しずつ……


胸の奥がすこしだけ痛い。
今日、ずっと頭の上にあった月が初めて山並みから顔を出した。丸く大きく明るい。
でも、まだ端が欠けていて、これからまだまだ膨らみ満月へ向かうだろう。
宮崎の月はどうなんだろう?
特に嫌われてはいないとは思うけど、でも、その月はだれへの月?
私への月だったらいいな。今はまだまだ頭の上にあったとしても、いつかは宮崎の目の前に上ってくるだろうから。
「ん? なに? 俺の顔になにかついてる?」
私があんまり見つめているものだから、不審そうな顔でこっちを見てきた。
「ううん。なんでもない」
「そっか」
宮崎は、私から視線を外すとまた月を眺める。それから、ポツリと言葉を漏らす。
「月が……」
思わず続く言葉に『綺麗ですね』ってのを想像して、一瞬頬が赤らむけど、宮崎が実際に口にしたのは。
「……ハンバーガーみたいだよな」
「なによそれ」
「いや、丸くてうまそうだろ?」
まだまだ宮崎の月は頭の上の高いところにあるみたい。
「はぁ〜」


「な、国道の向こうの店で一緒に食べていかないか?」
「こんな時間に食べたら、晩ご飯入んなくなっちゃうじゃない」
「そっか。なら一人で食って帰るか。って、なんでついてくるんだよ。駅あっちだろ?」
「別にいいじゃん。お月さま見てたら私もたべたくなったんだし。あ、そうそう、誘ったのはそっちだから、今日は宮崎のおごりだからね」
「なんでだよ」
もうすぐ満月になる月を一瞥してから、宮崎と並んで歩き始めた。二人とも笑顔だった。
「あー、私、月見バーガー食べたいな」
「俺はチーズバーガー一択だな」


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